待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
午前中は、くらすめえと達にひたすら赤縛を避けさせた。結果として、一番避けれたのは舎弟じゃ。あやつは目が良く、体はしっかり動かせる。何せ準備さえ整ってれば穿血を避けれる程じゃからのぅ、くらすの中でもっとも回避能力が高くなければむしろ儂が困る。
そんな爆豪に次いで避け続けたのは緑谷じゃったが、こやつは他の連中とは条件が違う。眼鏡をしとらんから視界は広いままじゃし、そもそも呪力すら認知出来る。そのうえ予測から来る先読みもあって、中々悪くなかった。ただ少し、詰めが甘い部分がある。しかも思考が乱されると、途端に動きが悪くなるしの。この辺りは矯正してやらねばな。
二人を除いた他の連中で中で、悪くなかったのは飯田と常闇か。飯田は単純に足が早いから、かなり手加減した赤縛では捉えにくい。常闇は、意外にも頑張っておったの。だあくしゃどうを足場にして空を飛び回った時は、多少驚かされた。何でも、体育祭の騎馬戦で儂がだあくしゃどうを足場にしていたことから着想を得たらしい。中々に頑張ってるようじゃから、つい頭を撫でてしまった。二人で被身子に睨まれてしまった時は、肝が冷えたが。
今日の被身子は、どうにも機嫌が悪い。後でしっかり宥めなければ。さもないと夜が大変じゃ……。
で、じゃ。現在、儂は相澤先生と共に森の中を散策中。呪霊を探して、祓う為に。そういう訳じゃから被身子は宿泊施設に置いてきたんじゃけど、連れてくるべきじゃったかのぅ……?
いやしかし、呪霊の前に被身子を連れていく理由が無い。
「しっかし、雑魚ばかりじゃのぅ……」
ううむ。つまらん。まっこと、つまらん。遭遇した呪霊は雑魚ばかりで、そのくせ数だけは立派じゃ。わざわざ探し回らなくても良いのは助かるが、どうせならもう少し歯応えのある奴を祓いたい。しかしこればっかりは、相手がどれだけ弱かろうと手抜きするわけにもいかん。子供達の安全が最優先じゃ。下手をすればこの林間合宿中に呪霊に襲われるかもしれんし。
それに……
「廻道。何で呪具の説明をしなかった」
隣を歩く眼鏡な相澤に、何故か睨まれた。どうやら、儂が呪具について説明しなかったことが気に入らないらしい。……何でじゃ? そんな事、お主が分からん筈は無いじゃろ。
「必要無いからじゃ。呪具の存在を知ったら戦えると知ってしまう」
戦えると知ってしまえば、あやつ等は呪霊と遭遇した際に戦うことを視野に入れてしまう。だけならばまだ良いが、実際に戦ってしまったら間違いなくろくな事にならん。うっかり等級の高い呪霊と相対し戦おうものなら、間違いなく殺される。
そうならないように、対抗手段は無いから逃げろと教えたんじゃ。それに、呪力を持たぬ者が呪具だけで戦うことは推奨出来ぬ。緑谷だけは別じゃけど、それでも呪霊と戦わせるつもりは無いのぅ。
「つまりお前は、クラスメートに呪霊と戦わせるつもりはないと?」
「その通り。呪霊と戦うのは、儂だけで良い」
っと……。分かりきった事を話しながら歩いていたら、また呪霊じゃ。何じゃこの百足みたいな奴は。百足の体に人間の手足が生えているのは、中々に気色悪い。殴るか。殴った。消えたわ。
……はぁ。呪力を流し込まれただけで消え失せるな。根性が無いのぅ。せめて術式のひとつぐらい使って見せんか。儂がつまらんじゃろ、儂が。
「この眼鏡を貰って、街を歩くようになって分かった。呪霊はとにかく数が多い」
「うむ。そこら中に幾らでも居る」
「それを一人でどうにかするつもりか?」
「うむ。儂一人で十分じゃからの」
少なくとも、学校に居る子供達じゃったり被身子や両親の安全を確保する分にはじゃけど。儂の手の届く範囲に居る者は、呪霊から守ると決めている。ただそれ以外の者達については、儂は見捨てるしかない。あくまで守るのは、手の届く範囲だけじゃ。この国に居る全ての子供を呪霊から守りたいとは思えん。それに出来ぬことは出来ぬから、今の儂にやれる事をやるだけじゃ。
結果、見知らぬ誰かが呪霊に襲われてしまっても仕方がない。例え子供だとしても。その点は前世で割り切っている。無理なものは無理。幾ら儂でも、時間や空間を飛び越えて動くことは出来ないからの。そういう術式があれば話は変わってくるが、そんな術式は……。……まぁ、ひとつだけ心当たりがあるにはある。が、それは儂が持ってるわけじゃないしの。
「……オールマイトにでもなるつもりか?」
「たわけ。あんな阿呆になりたいとは思わんよ」
おおるまいとなら、或いは可能じゃろう。しかしあやつとて、どこかで取り零した命がある筈じゃ。平和の象徴だろうが、全ての命を救うなんて真似は出来ぬ。筈。あやつならやりかねん気もするのも事実じゃけど。
「全ての命を守ろうなんて、儂は思わぬ。これでも身の程は弁えてるつもりじゃ」
儂は
まっこと、あんな女を好きになってしまったのは今生での不覚じゃ。一生の不覚じゃ。あやつに振り回される日々を嬉しく思ってしまう辺り、我ながらどうにかしておる。
「さて。無駄話なんぞしとらんで、さっさと呪霊を祓い尽くすとするか。子供達が心配じゃからなっ」
「おい、一人で動こうとするな。遭難するつもりか」
んぐっ。おいこら貴様、捕縛布を首に巻き付けるなっ。一人で動いても、遭難なんてせんわっ!
◆
森の中の呪霊を祓うのは、大変じゃ。何せこの林間合宿の為に選ばれた誰かの私有地は、やけに広大じゃからの。確か何とか言う
とにかく、じゃ。ひとまず宿泊施設周辺の呪霊は祓っておいたが、森の中にはまだまだ呪霊が居るじゃろう。聞いた話によると、そんな森を子供達だけで横断させたらしい。教師陣の正気を疑いたくなる。くらすめえとが呪霊に襲われなかったのは、運が良かったとしか言えぬ。襲われても何らおかしくはなかった。一応相澤が呪具を片手に陰ながら見守っていたらしいが……。
そんなこんなで、儂は森の中から戻って来た。呪霊を祓うことに苦労はないが、真夏の気温の中で動き回るのは大変じゃ。日差しを遮る森の中じゃとしても、それなりに汗をかいてしまった。額の汗を手の甲で拭うと、宿泊施設から少し離れたところにある訓練場が騒々しいことに気付く。
「うぉおおおおおおおっっ!!」
「ぎゃあああああああっっ!!」
「ひぃいいいいいいいっっ!!」
……、何じゃこの地獄絵図。森に囲まれた広い敷地にて、くらすめえと達が個性を使い続けながら悲鳴を上げている。相澤との呪霊掃討から戻って来てみれば、この有り様。無茶苦茶やっとるようにしか見えぬの、この訓練。
まぁ、個性を伸ばすのは大事な事じゃ。呪術師じゃって、術式を鍛えるからの。呪霊や呪詛師と戦う為に。なら悪党と戦う
「あ、円花ちゃん。おかえりなさい」
「うむ。今戻った。お主は何をしとるんじゃ?」
「見ての通り、勉強なのです」
「……この光景を前に……?」
訓練場の隅では、木陰で折り畳み式の椅子に腰掛けた被身子が勉強中じゃ。膝上に広げた分厚い本には、何が書いてあるのかさっぱり分からん。被身子の学力は学年で一番じゃからの。下から数えた方が早い儂からすれば、今こやつがしている勉強はまるで理解が及ばない。二年生になれば少しは分かるようになるんじゃろうか?
「まぁ室内でひとり勉強してるのも寂しいですから。あと、直ぐ円花ちゃんに会えますし」
「……お主、そんな寂しがりじゃったか?」
「私をほったらかして相澤先生とデートしてた円花ちゃんが悪いのです」
いや、
……仕方ないのぅ。少し構ってやるとしよう。儂、今はやる事が無いからの。どれ、頭でも撫でてやるとするか。
「熱中症には気を付けるんじゃぞ?」
「気を付けてますよぉ。円花ちゃんは大丈夫ですか?」
「倒れる程ではない」
汗は出てしまうし、気怠いのも事実じゃけど。それでも熱中症になることも、倒れることも無い。そもそも儂は病気とは縁がないからの。怪我も直ぐに治せるし、産まれ直してからはずっと健康優良児じゃ。
尚、生理については考慮しないものとするが。
「ところで、円花ちゃんは個性を伸ばさないんですか?」
「何じゃ急に」
「ふと思っただけなのです。まぁ円花ちゃんの場合、呪力と術式だけで事足りるんでしょうけど」
「……まぁ、そうじゃけど」
実際、被身子の言う通りではある。大抵の事は呪力や術式でどうとでも出来るし、そもそも個性として術式を登録してしまっている。それ故に、儂は個性を使わん。使う必要が無さ過ぎるのもそうじゃけど、回転を使えば個性を二つ持っていることになってしまう。その場合、色々と面倒な事になりそうな気がしてならない。
第一、使えば目が回る個性など使いたくない。
けどまぁ、気になることはある。個性を呪力強化した場合、回転がどのような力に変貌するのか一度は見てみたい。
手で触れた物が文字通り回転するだけの力。それが儂の個性。そんなものが強くなったところで、特に何も変わらないとは思うんじゃけど。
ううむ……。まぁ、このまま被身子の隣で地獄絵図を眺めてるのも暇じゃし……試してみるか。
そうと決まれば、何を回転させようかの。手で触った物をぐるぐる回す事が出来るんじゃから、割りと何だって良いような気がする。ただ久しぶりに個性を使うんじゃから、何か回し甲斐が有る物が良いな。せっかくじゃし。土や石を手に持って回しても、つまらんからのぅ。
触れるもの、触れるもの。ふむ……。空気って、回したらどうなるんじゃ? そもそも回せるのか?
「……やってみるか」
儂の個性の事は、何も知らん。手で触れた物を回転させることしか知らんのじゃ。念の為、被身子から五歩以上は離れて手のひらを……森に向ける。手を伸ばしたまま、少し意識を体内に向ける。個性の発動は、術式の発動はまったく感覚が違う。呪力を流し込まずに、術式を使う感じじゃ。どうも、変な感じがするのぅ……。
せっかくじゃから、呪力も使おう。個性をどのように呪力強化すれば良いのかは分からんが、個性は身体機能じゃ。なら肉体強化の延長線上みたいなものと考えて良いじゃろう。多分。赫鱗躍動と呪力強化を併用する感覚を……個性使用に当て嵌めて……。
お、何か行けそうな気がするの。そんな感覚が有る。このままやってみるとするか。
「回れ」
個性を、使う。と、その時。目に見えぬ何かが手の先で回った気がする。どうやら、空気も回せるらしいの。せっかく呪力強化した個性を使ったのに、回したのが空気では目に見えぬからつまらん。石か何かにするべきじゃった。
目には見えぬが、間違いなく空気は回転しておる。そよ風が吹き始めたのは、多分空気が回転してるところに集まっているからじゃろう。現にそこらに落ちていた葉っぱが数枚、回転する空気に巻き込まれてぐるぐるしておるのぅ。
「……ん?」
風が、強くなってきた。近くの木々から、次々と葉っぱが集まって巻き込まれていく。だけではない。足元から土なんかも巻き込まれ始めて……。おぉ、良く回っておるのぅ。そんなに回っても仕方ないと思うんじゃけど。
「ま、円花ちゃんっ!?」
「ん? どうした被身子」
「ちょっ、それは駄目だと思うのですっ」
「何でじゃ?」
ぐるぐる葉っぱや土が、空気と一緒に回ってるだけではないか。徐々に大きくなってる気がするが、回ってるだけなんじゃから特に問題は無いじゃろ。しかしまぁ、回り過ぎではないか? これが呪力強化した結果じゃとするなら……。
うむ、やはり使えぬ個性じゃの。ぐるぐる物を回したところで、役に立つのは螺を締めるとか緩めるとかする時ぐらいで。そんな力が戦闘で何の役に立つんじゃ。
しかしまぁ、いつまで回るんじゃこれ。そろそろ髪が乱れるぐらいの強風になってきたし、何でか知らぬが被身子が慌てておる。
「それっ、多分竜巻になるから止めてくださいっ! て言うか、もうなってるのですっ!!」
「いやいや、何を言うとるんじゃ被身子。空気が回ってるだけで何を大袈裟……な……」
……うむ。回り過ぎじゃの。いかん、目が回る。気持ち悪くなってきた。うぇっ、気持ち悪い……。吐きそうじゃこれ。
「あっ」
うっかり個性の使用を止めてしまった。やはり空気を回転させたところで何にもならん。まぁ風を意図的に作れると考えたら、夏は少しばかり涼しく過ごせるかもしれん。が、その為に目を回して気持ち悪くなるのは……。おぇっ。いかん、これは吐いてしまう。流石に被身子の前で吐くような真似は……。うっぷ。
「おぇええ……っ」
駄目じゃ。吐いた。被身子、駆け寄ってくるのは良いが手を引くな。この場から儂を動かそうとするな。気持ち悪いんじゃ。
「た、竜巻!?」
「ま、まずい!! 総員退避ーーっ!!」
「何でこんなところで竜巻が起きるんだよ!!? 逃げろ! みんな逃げろーー!!」
何か、騒がしくなってきたのぅ。取り敢えずこの気持ち悪さを何とかしなければ。また吐くのは勘弁じゃ。
誰か、個性で何かしたのか? いや、くらすめえと達は大慌てで訓練場から離れている。
「ぷはっ。ああ、気持ち悪かった……!」
個性を使うと、直ぐこうなる。気持ち悪くて仕方がない。やはり個性は使わぬ方が良いな。個性を使う度に吐くなんて真似はしたくないからの。
しっかし、まだとんでもない音がしておる。何じゃもう、喧しい。顔を上げて音がする方を見てみると……。おぉ、竜巻じゃ竜巻。今生では
こうも凄まじい自然現象を遠目から眺めるのは、案外楽しい。あんなものに巻き込まれたら流石に儂でも死ぬとは思うが。で、被身子。何でそんなに青ざめた顔をしてるんじゃ?
大丈夫じゃ、竜巻はこっちに向かっては来ないみたいじゃからな。
その後。竜巻は森の中を突き進み……徐々に勢いを失って最後は消えてしまった。後で聞いた話によると、三
で。何でか知らぬが、儂は滅茶苦茶怒られた。教師からもくらすめえとからも、被身子からも怒られた。解せぬ。何で全員でそんな風に怒るんじゃ。
……何? 儂の個性で竜巻が起きたから……?
そ、そうか。それは……悪いことをしたのぅ……。
ようやく出番の回転くん。呪力くんと合わさって、ハッスルした模様。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ