待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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悪党の気配。そのさん

 

 

 

 

 

 日に数度も説教をされるのは、気分が良いものではない。全面的に儂が悪かったのは分かっているんじゃけど、それでも気が萎えてしまうのが人の性じゃ。送迎車(たくしい)の中で叱られながら市役所に赴き、改めて個性登録をする為の手続きを進められるところまで進め、そしてまた送迎車(たくしい)に乗る。お陰ですっかり気疲れしてしまった。今は帰りの車に乗って、宿泊施設に向けて帰っている真っ最中じゃ。外はすっかり夕方で、合宿先に戻る頃には夜になっているじゃろう。

 今日はもう、夕飯と風呂を済ませたら寝てしまいたいのが本音じゃ。しかし残念ながら、そんな希望通りに事は進まぬ。合宿初日を無駄にしてしまった儂はその分の遅れを夜に取り戻さなければならないし、被身子の機嫌を直さなければならない。全てが終わって寝れるのは、多分日付を越えた辺りじゃ。何より、くらすめえと達が居る寝室でどのように被身子を宥めれば良いのか、まったく分からん。

 

 で。いつになったら儂等は合宿先に戻れるんじゃ? 助手席に座った相澤は腕を組んだまま一言も喋らぬし、後部座席に座った被身子は儂に体を預けて離れようとしない。運転手は無口じゃし、車内は妙に静かじゃ。儂は気疲れしてるから静かな方が良いが、たまには誰かが喋っても良いんじゃぞ?

 こうも全員黙っているのは、何と言うか気まずい。空気が重い。あと、さっきから被身子が儂の右肩に頭を乗せて頬擦りしてくるのがくすぐったいんじゃ。このまま放っておいても良いが、無言が続くのは居心地が悪いのぅ。

 

 ……。ひとつ、話題を振ってみるとするか。実は被身子に聞いておきたいことが有るんじゃ。

 

「被身子」

「はい?」

「誕生日ぷれぜんと、何が良い?」

「それ、聞いちゃいます?」

「……聞いた方が早い気がしてのぅ……」

 

 もう八月じゃ。あと数日もすれば被身子の誕生日がやって来る。じゃから贈り物のひとつやふたつは用意したいんじゃけど、何を贈ったら良いのか分からん。揃いの洋服でも贈れば喜んでくれるとは思うが、服はこの間贈ったばっかりじゃし。

 かと言って、装飾品の類いを贈るのも違う。まうお互いに揃いの指輪をしてるからのぅ。首飾りは邪魔になるだけじゃろうし、耳飾りは何か違う気がする。勉強道具を贈るのも、違う気がしてならん。

 何を贈ってもこやつは喜んでくれると思うが、じゃからっていい加減に選んで良いわけでもないからのぅ。いつぞやのように「贈り物は儂」等と宣うのは流石に止めておきたい。まぁ被身子は大喜びしてくれるとは思うんじゃけど、せっかくの誕生日を布団の中で過ごすことになってしまうのは……。

 

 ううむ。やはり良い案が思い浮かばぬのぅ。

 

「円花ちゃんからのプレゼントなら、何でも嬉しいのです」

「もう少し考えておく。誕生日までには、間に合わせるから」

「はい、楽しみにしてますね。私も、今年はすっごいのを用意してあるので」

「お、お手柔らかに頼む……」

「ヤです。妥協なんてしないですから」

 

 いや、そこは妥協してくれても良いんじゃぞ?? 過去の誕生日を思い返すに、大抵ろくな目に遭っておらん。主に儂が。まぁ、嫌とは思わんけど。ただ少し、少しだけ手加減して欲しいと思うのも事実じゃ。儂の誕生日を祝おうとする被身子は、色々と凄まじいからのぅ。自重が無いと言うか、理性が無いと言うか。

 

 ……それが毎年の楽しみになってしまっている、儂も儂じゃけど。

 

「楽しみにしとるよ」

「はい。楽しみにしててください」

 

 誕生日まで、あと数日。何を贈ったら良いか分からんから、常闇にでも相談するか。何なら買い物に付き合って貰うとしよう。儂はどうも、贈り物に疎い。毎年考えるのも大変とも思ってしまう。

 

 何て考えながら窓の外を眺めると、森の中に妙なものが見えた。あれは……呪霊じゃ。明らかに儂等を見ている。その上、あの呪霊は……。

 

 あれは、いかん。放っておくことが出来ぬ類いの呪霊じゃ。姿が見えたのは一瞬じゃけど、間違いなく一級以上はある。実力が備わってそうな気配じゃった。この時代の呪霊は殆どが雑魚じゃけど、あれは頭ひとつ抜けている。と、思う。

 

「運転手。止めてくれ」

「え? はい」

「廻道、どうした?」

「お主等は先に戻れ。相澤、被身子を頼む」

「えっ、ちょっ……円花ちゃんっ」

 

 すまんの被身子。危ないから先に戻っててくれ。このまま戦闘になるかはどうかは分からぬが、何も起きないとも思えぬ。呪霊が儂等を見てきたと言うことは、悪党(う゛ぃらん)連合からの刺客と考えても良いじゃろう。

 送迎車(たくしい)から降り、直ぐに扉を閉じると助手席の扉が開かれた。ので、これ直ぐに閉めた。相澤を睨むと、睨み返された。良いから、さっさとこの場から立ち去ってくれ。幾ら英雄(ひいろお)でも、呪霊が相手となると邪魔にしかならん。そんな事、こやつ自身が一番理解しているじゃろうに。

 

「良いから行け。ここには、しばらく戻ってくるな」

 

 どうも、きな臭い感じがするのぅ。あの呪霊、もしかして儂を誘っているのか? そこらの雑魚呪霊じゃったら無視しても良いんじゃが、あやつは強そうな感じがするんじゃ。となると……。

 

 ……ひひっ。招かれたくなってきた……!

 

 いや、落ち着け。落ち着け。まだじゃ、まだ。喜んでいる場合ではない。被身子の安全と、くらすめえと達の安全を考えると危機感を持たなければ。場合によっては子供達の内の、誰かが巻き込まれてしまうかも。それはいかん。阻止しなければ。

 うむ、阻止しなければ。じゃからこれから儂がすることは、断じて儂が楽しみたいからではない。くらすめえと達や、何より被身子を守る為じゃ。決して、わくわくなどしとらん。もしかしたら猛者と呪い合う好機かもしれんなどとは、思っておらんっ!

 

 ……。…………。………………!

 

 

「けひっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい待て! 廻道!!」

「円花ちゃんっ!?」

 

 相澤の制止を振り切り、道路から森の中へと跳び降りる。被身子の声も聞こえて、つい振り向きたくなったが気にせず着地。

 

 目の前に広がるのは、森じゃ。どこまで続いてるか知らんし、何処に呪霊が居るかは分からん。取り敢えず、車からもっと離れるとしよう。なに、儂は呪霊の居場所が分からんが、呪霊は儂の居場所を直ぐにでも察知してくるじゃろう。もしかすると、突然襲いかかって来るかもしれん。

 

 大歓迎じゃ。良いぞ、いつでも来いっ。ただし、儂を退屈させたら許さんからなっ!

 

「さて、何処におるかのぅ……!」

 

 いかんと分かっていても、つい楽しくなってしまう。或いは猛者かも知れぬ呪霊に誘われたという事実だけで、どうにもわくわくが止まらん。出来れば相澤が追い付いてくる前に始めてしまいたいところじゃ。始まる前に追い付かれてしまったら、楽しめなくなってしまうからの。

 

「ん?」

 

 視界の端に、呪霊が見えた。ただの雑魚じゃ。さっき、儂が車の中から見た奴とは違う。これから楽しくなるかも知れないのに、雑魚に構いたくはない。が、放っておくのも良くないのぅ。

 ……仕方ない。儂を誘った呪霊の下に辿り着くまでは、雑魚でもしっかり祓っておくとしよう。ここは宿泊施設から相当離れているが、まぁ念の為じゃ。念の為。

 

 首から血を少量だけ飛ばし、呪霊を祓う。すると、また視界の端に雑魚が現れた。ほう? さては道標のつもりか?

 良い。許す。そのまま儂を先導しろ。今なら何処へなりとも付いて行ってやるぞ。

 

 ああ、そうじゃ。どうせなら邪魔が入らないようにしてしまおう。後で相澤に追い付かれたり、わいるど何とか……とか言う英雄(ひいろお)に探されるのも面倒じゃ。

 

「闇より出でて闇より黒く

 その穢れを禊ぎ祓え」

 

 帳を降ろす。これで、相澤も英雄(ひいろお)も儂の下へは辿り着けぬ。唯一緑谷だけが帳を認識してしまうが、まぁ下手に突っ込んでくる可能性は無いと思いたい。緑谷だけ通行禁止になるようにしておけば良かったかのぅ。いや、別に良いか。帳に細かい条件を付けるのは苦手じゃし。

 

 

「ひひっ。さて、楽しい時間の始まりじゃっ!」

 

 

 

 

 

 









今の円花は不審者の「美味しいお菓子あるからお家に来ない?」に「行く行く!」状態のお子さまです。ポンコツだから誘われたらほいほい付いて行っちゃうんだ。仕方ないね。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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