待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
いちいち視界の端に見える雑魚呪霊を祓い続けながら森を歩くこと、……何分じゃ? まぁ、それなりに歩かされた気がするの。全然まだまだ歩けるんじゃけど、そろそろ儂を誘う輩に会いたい。なんて思っていた儂の前に現れた風景は、湖じゃった。いや、湖と言うには水が浅い。水溜まりじゃ水溜まり。周囲は木ではなく、岩肌。森の中にこんな場所が在るとはのぅ。お陰で靴が濡れてしまった。後で乾かすのが面倒じゃ。
まぁそれよりも、じゃ。
「儂を誘ったのは貴様か?」
水溜まりの中心に、呪霊が立っておる。姿形は人間に近い。背丈は儂より少し高いように思える。身に纏う呪力は、中々のものじゃ。それと、儂が話し掛けるなり睨み付けて来たわ。大きな一つ目が。
奇っ怪な顔じゃ。まぁその辺の呪霊と比べたら、まだ親しみがあるような気がしないでもない。
「……何の冗談だ、これは?」
「何がじゃ?」
「どんな猛者かと思えば、小娘ではないか。こんな子供を危険視するとは、あの男もヤキが回ったか?」
……。まぁ、気持ちは分かる。今の儂の見てくれは小娘じゃ。そんな儂を危険視する輩が居るとしたら、それは一人だけじゃろう。間違いない、この呪霊は
別に、どちらでも良いな。儂からすれば実力さえ備わっていればそれで良い。黒沐死は特級じゃったが、こやつはどうじゃろうか? 強くあって欲しい。儂に死力を尽くさせる程の猛者であったなら、文句無しじゃ。
「で? お主は何の用で儂を誘った? 呪い合いなら相手になるぞ?」
と言うか、もう我慢出来ぬ。我慢なぞ、したくないっ! 儂は早く呪い合いたいんじゃっ。
呪力を更に練り上げて、両手を叩き合わせる。まずはいつも通り、穿血を放って力量を測るとしよう。これを避けるか、防ぐことが出来るならそれ相応の猛者じゃ。あぁ、楽しくなってきた。わくわくが止められん。早く、早く呪い合おうっ。語り合うなんて、呪い合いながらでも良いじゃろっ。これ以上、儂を焦らすな! 呪霊!!
「ここに来たのはあの男からの提案を伝える為。……だが、そこまで殺気立たれたら此方も殺すしかないわ!」
水飛沫が上がる。儂の視界から呪霊が消えた。背中を触れられた感触がある。
けひっ。あぁ、何じゃお主。中々やるではないかっ。良い、良いぞ……! 良い速さじゃ! そんな速度で動く輩は、果たしていつ以来かっ。
「あっつ!?」
咄嗟に右へ転がると同時。一瞬前まで儂が居た場所が噴出する炎によって飲み込まれた。轟の使う炎とはまるで格が違う。範囲は一点、けれども炎の量は多く。まるで青山の光線みたいな炎じゃ。
ひひっ。そんなものを平然と解き放ちおって……! 何じゃ何じゃ、そんなに儂を喜ばせたいのか!? 良い! もっとじゃ、もっと魅せぬか!!
「赫鱗躍動・載っ」
直ぐに体勢を立て直し、呪霊との間を一足で潰して拳を振りかぶる。目が合った。大きな瞳の中に映る儂は、それはもう笑っている。血を目の前にした被身子のように。
あぁ、悪くない。悪くないぞっ。こやつは、それなりにやれる奴じゃ!
拳を突き出す。腕で防がれた。が、関係無いのぅ! このままっ、殴り抜けるっ!!
「ぐぅ……っ!」
腕の防御など一切気にせず、全体重を乗せて放った拳は呪霊を数歩下がらせた。追撃に行こうかと思ったが、足元に変なものを感じたのでその場から大きく背後に跳び退くことにする。次の瞬間、地面から炎が噴出した。また光線みたいな炎じゃ。こんなものを喰らったら、流石の儂でもひとたまりもない。
「けひっ。ひひっ」
うむっ、楽しい! 楽しいぞ! こんな輩も配下にいるなら、さっさと儂に送り込まんか! しみったれた真似をしおって……!
儂は! 儂は退屈しとるんじゃっ! 儂を狙うなら、もっともっと楽しませてくれなければ困るっ。
さぁ、もっと。もっと楽しもうっ。こやつの術式は、炎! 或いは、火っ! どちらにしても赤血操術の天敵じゃ!
じゃけど、じゃけど……! 楽しい……!!
「……」
おい、何じゃお主。そんなに見詰めおってっ。こんなに楽しい時間なんじゃから、顔を固くするなっ。お主もこれを楽しまなければ、損じゃろうがっ!
「ヒャアッ!!」
また、呪霊の姿が儂の視界から消えた。速度が速い。赫鱗躍動で動体視力を上げていなければ、真上を取られたことにも気付かんかったじゃろう。もしやこやつ、速さだけならおおるまいとと大差無いのかっ!? じゃとしたら、じゃとしたら……!
もっと、もっと楽しくなるのぅ!!
真上から降り注ぐ炎の噴出を、その場から跳び退くことで避ける。今度は少し、皮膚に掠った。熱い!
「苅祓っ!」
まだ宙に浮かぶあやつに向かって、血を飛ばす。首から、手首から。狙いは、頭と両腕。呪霊相手ならば、儂の血は掠るだけでも効果がある毒になる。速さと火力は見せて貰った。ならば、固さはどうじゃ? まさか苅祓程度で祓われる程、脆弱では無いよなぁ!?
「ちっ」
炎が、呪霊の全身から噴出する。それは儂の放った血を容易く蒸発させ、見事苅祓を防ぎきって見せた。やはり良い、こやつは良いっ! 中々強いぞっ。気に入った!
「百斂」
今度は儂の番じゃ。呪霊が着地するまで、もう数瞬はある。まだ地に足が付いていないこやつが次の一手をどう防ぐか。或いは避けるか。それが見てみたいっ。圧縮は足りぬが、小手調べには十分!
「穿血」
普段と比べれば全然遅いが、それでも苅祓よりは速度がある。発射は呪霊の着地よりも、僅かに早い。一直線に突き進む儂の血を、こやつは……。
「ひひっ」
炎を纏わせた手のひらで、弾いた。多少血が付着してしまったようじゃが、あやつは無事じゃ。反応も良い、防御も出来る! 速くて、強い!
何じゃこやつ!? ますます気に入ってしまいそうじゃっ!!
「たの、しい、のぅ!」
距離を詰める。真っ直ぐに駆け寄り、再び拳を握る。が、今度は呪霊の方が跳び退いた。儂を注視したまま二度、三度と跳び、十二分に距離を取って着地。つれない奴じゃなっ。至近距離でも殴り合わんか! お陰で拳を空振りしてしまったじゃろっ。
「ふーっ、ふーっ」
楽しい。楽しいっ。楽しい! 楽しいぞ!!
気分が上がるっ。理性が溶けていくっ。もっともっと、もっとこの愉悦の中に居たい! なぁ呪霊! お主もそう思うじゃろっ!?
「縺昴縺セ縺」
……、あ? 何じゃ今の。訳の分からん音が聞こえた。聞いたこともない音じゃ。しかしそれが言葉であることも、どんな意味を持っているかも分かる。何じゃこれ、気色悪いのぅ。儂がせっかく楽しんでいると言うのにっ!
【そこまでにしなさい、人の子よ。漏瑚もです】
「……、何じゃ貴様」
いつの間にか、近くの岩肌の上に呪霊が立っている。一つ目の呪霊と比べたら、訳の分からん面をしておるの。何で目玉から枝が生えてるんじゃ。しかも隻腕じゃし。どんな呪霊じゃこやつ。いや、呪霊……か? 呪霊なのは間違いないが、どうも何かが違う気がする。この感覚は憶えがあるのぅ。確か……前世で精霊とやらを見掛けた時に……。
いや、そんな事より。儂等の邪魔をするつもりか? こんなに楽しい時間に水を差すなど、許さんぞ。
【これは失礼しました。私は花御、そちらの一つ目は漏瑚。突然の来訪故、気遣いが足りませんでしたね】
「うおっ」
お、おぉ……。花畑じゃ。何でか知らんが、水溜まりが花畑に変わってしまった。綺麗じゃな、これ。被身子を連れてきたら、笑ってくれるかのぅ?
って。いやいや。そうではない。何じゃこれは? 変に気が抜けるっ。花御とやらの術式かこれは……? 術式、じゃよな……?
【漏瑚。今の我々では廻道円花に祓われるだけです。今回は交渉に来たことを、お忘れなきよう】
「……邪魔をするな花御。廻道円花は儂が殺す」
【目的は、交渉のみ。その為に誘き寄せたのでしょう?】
「チッ」
交、渉……? は? 呪い合いに来たんじゃないのか貴様等。おいっ、あんなにわくわくさせといてお預けじゃとっ? やじゃやじゃ! ふざけるなっ。儂! お主と呪い合いたい! お主もそのつもりなら、そんな奴の言葉なんぞ無視してかかって来い!
【廻道円花。貴女の存在は我々連合の障害になる。しかし貴女は英雄等とは程遠い人種。
どうです? 我々と手を組み、心行くまで人々を呪いませんか?】
「……阿呆か貴様。儂にそんな趣味はない。だいたい、そんな提案をするなら貴様等の頭がここに来るべきじゃろ」
【あのお方はまだ表立って動けませんので。少なくとも平和の象徴を殺す算段が付くまでは】
「貴様等が? それは無理じゃろ。あの筋肉阿呆は、凄まじく強いぞ」
【どんなに強かろうと、所詮は人間。それこそ、手段は幾らでも】
……。はぁ。もう良い。萎えた。せっかく楽しんでいたのに、こうもくだらん話をされるとはの。
【どうでしょう? 廻道円花。我々と共に来てくだされば、相応の扱いをお約束しますが】
「貴様知らんのか? 人間の子供は怪しい奴には付いていかないんじゃぞ」
まぁ、儂は子供ではないんじゃけど。
【いいえ。貴女は我々に付いて来ることになる。でなければ、今宵、向こうの宿泊施設に居る子供達を皆殺しにします。
貴女の許嫁は確か……。渡我被身子、と言いましたか?】
……。そこまでして、儂を取り入れたいのか。
「儂が付いて行ったとして、
【ええ、ありませんね。我々呪霊は、あくまで貴女との交渉の為にここに来ました】
「被身子、そしてくらすめえと達に何もしないと縛りを結ぶなら、付いて行ってやっても良い。ただし、縛りを結ぶのは貴様等の親玉じゃ」
【……】
「出来ぬのならそれでも良いぞ? 貴様等は纏めてここで祓う」
【……ええ。分かりました。縛りを結びましょう。では、こちらをどうぞ】
「は?」
おい。何で呪霊が
【どうぞ】
「……」
どう操作するんじゃっけ。普段は音声操作じゃから、使い方が……。ええっと、ああ、こうか。よし、電話は掛けれたみたいじゃの。
呼び出し音が聞こえる。と思ったら、直ぐに通話状態になった。まさかとは思うが、悪党の親玉が儂からの電話を心待ちにしていたのか?
それは……うむ。気色悪い。
「貴様が親玉か?」
『ああ、その通りだよ廻道円花。はじめまして、ようやく会えたね』
「会っとらんじゃろ」
『個性で花御や漏瑚と視覚を共有していてね。僕からすれば、君が目の前に居るのと変わらないんだ』
……その可能性は有ると思っていたが、やはり呪霊と視覚共有をしておったか。個性は便利じゃの。まさか呪霊と視覚の共有までしてしまうとは。どういう原理は知らぬが、取り敢えず今、儂が親玉に見られていることは分かった。
『それで、電話をしてきたと言うことは僕達の下に来ると言うことで良いのかな?』
「たわけ。そんなつもりはない」
『では、縛りを結びたいと。君が連合に入る代わりに、合宿中のクラスメートや渡我被身子に我々は手を出さない。そんなところかな?』
「概ねその通りじゃ。が、今すぐ連合に入るとは言えん。儂がそっちに行って詳しく話を聞いてやるから、貴様等連合は被身子やくらすめえとには手を出さない。
そういう縛りなら結んでやっても良いが?」
『……』
あぁ、面倒じゃ。面倒この上ない。悪党の親玉なんぞと、細かい話なんてしたくないんじゃ。しかし
ただの悪党ならまだ良いが、脳無だの呪霊だのを送られたらそれこそ全滅してしまう。
さっきまで楽しかったのに、何でこんなつまらん話をしなければならぬのか。ううむ、問答無用で目の前の呪霊を祓うべきじゃったか? いやしかし、それはつまらんしのぅ……。
『分かった。君は僕達の拠点に話を聞きに来る。その代わり僕達は君のクラスメートや渡我被身子に手を出さない。この縛りでどうかな?』
「ついでに両親や、びい組にも手を出すな。それならば、話を聞きに行ってやっても良い」
『良いよ。では縛りを結ぼうか。今そちらに行くから、少し待って貰えるかな?」
「……便利じゃの。それ」
黒い靄が急に出てきたと思ったら、その向こう側から男が出てきた。すうつ姿の、歳を重ねた優男とでも言うべきか? まぁとにかく、そんな感じの奴が出て来た。
……こやつが
「苦労して作った甲斐が有った。お陰で好きな所に行けるからね」
「そうか。それで?」
「縛りを結ぼう。君が僕達敵連合に話を聞きに来る。その間、君のクラスメートや渡我被身子、そして両親やB組にも僕達敵連合は一切危害を加えない。画策もしない。もちろん、この事は誰にも話してはいけない。
……これで、どうかな?」
「……はぁ。それで良い。成立じゃ」
「聞き分けが良くて助かるよ。明日の晩に迎えに来るから、出来れば一人で外に出ていて欲しい。タイミングはこちらで支持する。
ああ、こちらの根城を掴まれては困るから、スマホは置いてきてくれるかな?」
「今じゃないのか?」
話なんぞ、さっさと済ませて欲しいんじゃけど。何でわざわざ、明日の晩まで待たなければならないのか。
……まぁ、仕方ないのぅ。子供達や両親、何より被身子を守る為じゃ。ただ、こやつが儂に有利となる縛りを結んだことは気になる。そこまで儂に譲歩して来たのは、それだけこやつ等が儂を縛るのに代償が居るということか?
ううむ、あれこれ考えても仕方ない……か。どうせ何か企んでいるんじゃろうけど、何かしてくるようなら叩き潰せば良いだけの話じゃ。少なくとも、儂個人に何かしてくるようなら問題は無い。
話を終えた途端、両親や子供達に手を出す可能性は大いに有るが。皆を守る為とはいえ、どうにも面倒な事になって来た。
「縛りを結んだ事だし、僕は帰るよ。
……円花、また会おう」
「貴様に名前で呼ばれる筋合いは無いが?」
「仲間になるかもしれないんだ。今の内から親しくしたって、良いだろう? ああ、そのスマホは返して貰うよ」
いや、良くないが。貴様なんぞと親しくするつもりは少しも無い。仲間になどならん。何じゃこやつ、いったい何を考えている?
言いたいだけ言って、
「さて……。儂はここから、どうやって帰れば良いんじゃ……?」
……もしかして儂、これから遭難することになるのか……? い、いかん。どうにかしなければ。確か自分の
ま、まぁ何とかなるじゃろっ。いつかは辿り着くから、大丈夫じゃっ。がははっ!
という訳で、漏瑚と花御の登場&敵連合の親玉と縛りを結んでしまった円花です。遠くにいる子供の安全を脅かされるとなると、この子にあんまり選択肢は無いです。円花の大きな弱点のひとつですよね。側に居るならあまり弱点になりませんが、遠くにいるとどうしても……。
まぁこうなったのは、ほいほい漏瑚に釣られちゃった円花のせいですけどねっ。
あと、親玉さんは金玉ではないです。イケオジスタイルですね。金玉なら金玉と円花は思うので。つまり、そういうことです。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ