待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
ふぅ。肉じゃが、美味かった。被身子の料理はの、誰が作る料理よりも美味いんじゃ。良い具合に腹も満ちたし、後は風呂に入って寝るだけじゃ。と、言いたいところじゃけど……。
生憎、今日はここからが大変じゃ。もう日が沈んで、外は暗くなった。夜になってしまった。つまり、これから
何で昨日の時点で儂を拐わなかったのかは分からんが、とにかく今宵、儂は
ともかく。儂はこれからが忙しくなる。少なくとも儂が悪党連中の話を聞いている間は、被身子やくらすめえと達が悪党に襲われることはない。話が終わった途端に狙われる可能性も十分に有り得る話ではあるが、まぁそこは何とでもするしかないのぅ。殺しはご法度なわけじゃけど、殺すことも視野に入れておこう。今回ばかりは、殺さないなんて選択肢は取らん。殺してしまった方が何かと手っ取り早い。
……。よし、じゃあ悪党からの合図がある前にやる事をやっておこう。これから何処かに連れ去られるわけじゃし、いつ帰ってこれるかも分からぬ。なので、椅子に座ったまま被身子に体を向ける。
「ほれ被身子。おいで」
「えっ」
えっ。ではない。何じゃもう。儂がせっかく抱き締めてやろうと両腕を広げたというのに。何で固まっとるんじゃ貴様。別に人前での
「何じゃ? 来ないのか?」
「……えっと。じゃあ遠慮なくっ」
普段から遠慮しないくせに。こんな時だけそんな言葉を口にして。まぁ良い。文句を言う時間が惜しい。今の内に少しでも触れ合っておきたい。ここは外で、周囲にはくらすめえと達が居るが気にしないことにする。
やっと被身子が近付いて来たが、どうにも焦れったいのでもう儂の方から抱き付くとしよう。ぎゅっとしてやると、何故か目を丸くしおった。何じゃ貴様、さっきから変な反応をしおって。ほら、お主もさっさと儂の背に腕を回せ。いつも通りに抱き締めんか。
「ふふっ。どうしたの?」
「どうもしとらんが?」
今は
ううむ、少し平常心から逸れてしまっている気がするの。別に今生の別れになるわけでもあるまいに。何故か今は、少しでも被身子と触れ合っていたいと思う。
怖い、のか? いや、そんな筈は無い。ただ単に、寂しくなると思っているだけじゃ。どうも、そんな予感がある。
……。寂、しい? 儂が? いやいや、そんな馬鹿な。子供じゃあるまいし。
「ぎゅぅう〜〜っ」
「んぐっ。こら、被身子っ」
急に力を込めるな。息苦しいじゃろ。貴様、自重というものを……しとらんのは儂か。思いっきり抱き締められることを、喜んでいるのは事実じゃ。こやつもそうじゃが、どうやら儂も仕方のない奴らしい。そんなつもりは無いんじゃけどなぁ……。
「誰かを好きになってると、急に不安になることってありますよね」
「は? 何言ってるんじゃ貴様。不安などこれっぽっちも無いが?」
「ほんとですかぁ? 何か、昨日から……ちょっといつもと違う気がしますので」
「別にいつも通りじゃ。まったく」
心の内を、見透かされた気がする。魂でも読まれたか? いや、被身子の個性は霊能ではない。ただまぁ、付き合いは長いからの。腹の内を読まれることぐらい、あっても不思議ではない。儂じゃってこやつの考えていることが分かる時が……。
……。いや、無い。被身子が何を考えてるかなんて、ろくに分からん。何なら分かりたくないかもしれん。別に、こやつに振り回されたいから分かろうとしてないとかそういう訳ではないが。そういう訳ではないがっ!
「カァイイねぇ。カァイイねぇ。大丈夫なのです。トガは、円花ちゃんがだーいすきですから」
「知っとる。気恥ずかしいから、いちいち言うな」
「ずっと一緒に居ます。離してって言っても、離してあげませんから」
「じゃから、気恥ずかしい事を言うな。何なんじゃもう……」
あぁ。困った。気が抜けてきた。そんなつもりは無かったのに、どうにも落ち着いてしまう。こやつは狡い。何でそんなに、儂の扱いに手慣れているのか。儂はこやつの扱いに苦労していると言うのに。
まぁでも。お陰様で。気が楽になった。ここからは、固くならずに済みそうじゃ。
さて。確か今宵は、肝試しをするんじゃったな。暗い森の中を出歩くことの何が怖いのか、さっぱり分からぬが。まぁとにかく、訳の分からん催し物が始まるのは事実じゃ。せっかくじゃから、楽しむとしよう。楽しめるかは、分からんがのぅ。
じゃから、そろそろ離してくれんか? お主が気恥ずかしい事を言うから、顔が熱くなって来たんじゃ。まったく、こやつと来たら。
「はいはーいっ。いつまでもイチャイチャしてないで、肝試ししようよ! もうみんな待ってるよ!」
やかましい。邪魔するな葉隠。儂を被身子から引き剥がそうとするな。余計なお世話じゃ。
◆
肝試しが始まろうとしている。くじ引きの結果、儂は常闇と。被身子は障子と組むことになった。お陰で被身子がご立腹じゃ。ついでに轟と組むことになった舎弟もご立腹じゃったが、何だかんだで先に肝試しを始めていた。仕方ない、常闇と障子のどちらかに変わって貰うとしよう。ちなみに、芦戸と上鳴と切島と、あと瀬呂は相澤に引き摺られる形で補習に行った。あやつ等、期末試験の出来が悪かったからの。仕方ないと言えば仕方ないんじゃけど、相変わらず手厳しいな相澤。
それと、人数の都合上一人余った。緑谷は一人で肝試しすることになるらしい。まぁ、大丈夫じゃろ。万が一呪霊と遭遇してしまっても、こやつなら取り敢えず呪殺されることは無い。と思う。呪力量だけで言えば、儂より上じゃし。
なんて、思っていたら。
「え……?」
緑谷が首を傾げた。同時に、儂も気付く。たった今、帳が降りた。あの男は合図を送ると言っていたが、これが合図か? じゃとすると……。近くに居るじゃろうな。
周囲を見渡すと、確かに帳が降りている。まだ完全に効果は出ていない。しかし、何の目的が有って帳を? 儂を連れ出すだけなら別に、帳など降ろす必要は……。あぁ、そういう事か。
あやつ等が子供達に手を出さないのは、儂が話を聞いている間のみ。つまり、連れ去った後の話じゃ。連れ去る前ならば、何をしようが縛りを破ったことにならん。おまけに、戦闘が起きてこの場が混乱すれば儂を連れ出し易い。悪党なんぞに気を遣われても、嬉しくもなんともないが。回りくどいからさっさと誘拐するなりすれば良いじゃろ。まったく。
さて。ここからどう抜け出そうかの。取り敢えず、適当な言い訳でもして移動しておくとするか。
「……呪霊じゃ。全員ここを動くなよ」
と言うことにしておこう。まぁ、嘘は吐いとらん。現に視界の端に、漏瑚とか言う一つ目呪霊が見えた。木々の向こう側に居る故、まだ緑谷の視界には入ってはいないようじゃ。付いてこなければ周囲を焼き払うとでも言いたげに、儂に見えるよう手を構えておる。
わざわざそんな脅しをしなくとも、付いて行くつもりじゃが? まったく、呪霊のくせに小心者じゃの。って、貴様。手のひらに火を灯すな。緑谷に見られたらどうするつもりじゃ。
「……はぁ。全員、今すぐ相澤の所に行け。それで良いな?」
念の為に指示を出しておくか。後の事は……情けない話じゃが、信じるしかない。あの一つ目が暴れたら、儂はともかく子供達が危ない。あの術式を使われたら、容易く殺されてしまう。
「待って廻道さんっ。一人じゃ駄目だよ……!」
後ろから、緑谷に肩を掴まれた。どうやら漏瑚に気付いたらしいの。あの呪霊を一目見て危機感を抱いたようじゃが、それでは駄目じゃ。気付いた時点で逃げの一手を取らんか。たわけ。どうもまだ、呪霊に対しての危機感が薄い。見えとる貴様こそが危機感を抱かなければならないのを、分かっているのか?
「すまんが、付いてくるな。邪魔じゃ」
緑谷の手を払い、歩き出す。また被身子に心配させる羽目になってしまうが、仕方ない。帰ったら謝るとしよう。もしかすると、許してくれないかも知れんが。
「円花ちゃん。駄目です」
今度は被身子が儂の前に立ち塞がった。それは困る。お主を押し退けるような真似はしたくないからの。しかし、あまり時間は掛けられそうにない。一つ目め。あからさまに火を大きくするな。そんな真似をせずとも、付いて行くと言うのに。
まったく、どいつもこいつも……。
「すまん。どいてくれ」
「嫌です」
「被身子」
「絶対、ヤ!」
ううむ……。困ったのぅ。
呪力を練り、跳び上がる。被身子を飛び越えて、森の中へ。多分被身子の目には、儂が消えたように見えたじゃろう。他の子供達は、目で追えたかも知れぬが。
すまんとは思っている。後で幾らでも怒られるから、叱られるから、今だけは諦めてくれ。頼むから。
「ほら、来たぞ。さっさと何処へなりとも連れて行け」
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ