待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
無理矢理に被身子の側から離れた儂は、一つ目呪霊の漏瑚に連れられて森の中を歩いている。遠くから儂を探す声が聞こえているが、それは無視じゃ。今から子供達の下に戻るつもりは無い。と言うか、相澤の所に行けと言ったじゃろうに。これだから
まぁ、良い。ここで儂の言う通りにするなら、それはそれで
で、じゃ。いつまで歩かせる気じゃ? そもそも儂を連れ去るつもりなら、さっさと黒霧の個性を使えば良いじゃろ。何でわざわざ歩かせるんじゃこやつ。
「ここだ」
【お待ちしておりましたよ。廻道円花】
ぬおっ。急に現れるのは構わんが、急に話しかけるのは止せ。頭に言葉の意味を叩き込まれるのは、どうにも変な感じがするんじゃ。そもそも、貴様がちゃんと人間の言葉を話せば済むんじゃけど? まったく呪霊は、勝手気ままの害でしかない。そんな害に付いて行ってる儂も、そうかもしれんが。
とにかく。一つ目の奴が足を止めたらひとまずここが目的地ということじゃ。ここからどうやって移動するのかは知らん。知らんが、何かしら用意してあるんじゃろう。でなければここで足を止める理由が無い。
【森の中が騒々しいですね。どうやら、こちらの思惑通りに事が進んでいるようです】
まぁ、確かに騒々しくはある。さっきから、儂を探す声に紛れて妙な音が響いているの。やはり儂が離れたのを良いことに、悪党共は好き勝手にしているらしい。なら、儂も好き勝手にするか。こやつ等二人を祓っても、別に良いじゃろう。
呪力を練り上げるなり、漏瑚も花御も儂から距離を取った。警戒心は有るようじゃの。大抵の呪霊は人間を見下すから、呪力を練った程度で危険を感じることはほぼ無いんじゃが。どうやらこやつ等に限っては、少し違うようじゃの。
「貴様……。
「忘れとらん。じゃけどまぁ、貴様等を祓ってから子供達を助けに行くという選択肢も儂にはある」
掌印を組む。こんな形でこやつ等を祓ってしまうのは勿体無いが、子供達の命には代えられない。話し合いの場に招かれはするが、それまでの道中で危害を加えないなんて縛りはお互いに結んでおらん。じゃから呪霊を祓い、悪党を打ちのめしたとしても何ら問題はない。その場合は、いずれ訪れる話し合いの場で縛りの通りにするだけじゃ。儂も、悪党の親玉も。
【待ちなさい。この騒動は貴女を連れ去る為の陽動です。子供達に危害を加えるつもりは、こちらには無い】
「その言葉を信じる理由が無い」
【では、仕方ありませんね。この手は使いたくなかったのですが……】
枝目の足元で、何かが蠢いた。と思ったら、木々の間を縫って何かが飛来する。一瞬だけ視線を動かすと、木の根が何かを引っ張っているようじゃ。次の瞬間、儂等の間に現れたのは……。
「んぐっ、んんう゛っっ…!」
……木の根に吊るされた、青山じゃった。何をやっとるんじゃこやつ。いや、仕方ないか。どうやら花御とやらの術式は、植物を操ること。現に青山の口は何かの蔦で塞がれておるし、よく見れば手足なんかも丁寧に縛ってある。その上から木の根で拘束されているのなら、まず動けんじゃろう。唐突に植物に襲われたとしたなら、ろくに動けぬまま捕らえられているのも仕方がない。が、それでも
【貴女が大人しくしないのであれば、このまま絞め殺します。そしてこの森の中に居る者は全て、私の術式の有効範囲内であると思っていただきたい】
「……。……はぁ。分かった。これで良いな?」
呪力を消す。と、同時に視界が大きく揺れた。一瞬の浮遊感と、頬に走った痛みと嫌な音から殴り飛ばされたようじゃ。体が二転三転と転がる。それなりに痛い。体が軽いといちいち踏ん張ることも出来ん。
【漏瑚】
「黙れ花御。多少痛め付けてから連れて行く」
火が灯る。焼くのは勘弁して欲しいの。火傷は綺麗に治すのに手間取るんじゃ。並みの
……。いや、駄目じゃな。傷跡は何一つ残せぬ。被身子が傷付く。泣かれたくない。仕方ない。手の内を見せてやるとするか。
「ああ、無駄じゃから止めとけ。貴様程度じゃ傷跡ひとつ残せん」
たった今出来た傷を治しながら、平然と立ち上がって見せる。殴り飛ばされたぐらいの傷なら、自己補完の範疇で済ませられる。さっき程度の打撃じゃ、何度傷つけられようが何の問題にもならん。
「……反転術式か」
「大人しくしてやるから、子供達に手を出すな。
脅しではない。これ以上何かをしようとするなら、青山の命を見捨てでもこやつ等を祓う。多少の犠牲は仕方ない。子供の命ひとつで大勢の子供が助けられるのならば、心底嫌じゃが切り捨てる。ただしその場合、何がなんでも一つ目も枝も祓うがの。
【では、こちらの繭に入っていただきたい。安全な場所まで移動した後、黒霧の個性で移動します】
木の根で出来た繭が、地面から生えた。便利な術式じゃの。こうも自在に植物を操るか。いや、よくよく見ればこの植物は呪力で出来ているのか? そんな気がするの。詳しいことは六眼でもないと、儂には分かりそうもない。
「青山の解放が先じゃ。そやつを離したら、入ってやる」
「今の貴様が交渉出来る立場にあると思うか?」
「雑魚が強がるな。子供を盾にしないと何も出来ぬ分際で」
「貴様……!」
殴るか。よし、殴ろう。何、こやつの力量は知っている。流石に一発殴った程度で祓われるような雑魚では無い。ある程度は耐えるじゃろ。じゃから、本気で殴る。一発は一発じゃ。
【……分かりました。解放しましょう】
「花御! 貴様!!」
【漏瑚、我々二人では廻道円花は手に余ります。それは貴方がよく知っていることでしょう?】
「……勝手にしろ」
【ではそうしましょう。
……お望み通り、そちらの少年は解放します。それから他の子供達に危害は加えないと約束しましょう。ですがその代わり……】
「……分かった分かった。早くしろ」
ううむ、殴り損ねた。花御とやら、どうにも殊勝な奴じゃの。呪霊にしては話が分かる。こうも儂に譲歩する辺り、何か裏が有りそうじゃ。あの親玉からの指示か、それとも儂との戦闘を避けたいのか。
……どちらでも良いか。ひとまず青山は解放されるんじゃから、今はそれだけで良い。細かい事なんて、後で考えれば良いだけの話じゃ。
青山の口を覆う蔦も、体を縛り上げる木の根も解けた。取り敢えず体は無事のようじゃ。目立った外傷は無い。うむ、擦り傷ひとつ無いようじゃ。傷ひとつでも付いていたら、その分殴ってやろうと思っていたんじゃがのぅ。
「よし、青山。直ぐにここから逃げろ。怖ければ隠れても良いからの」
出来る限り優しく、語りかけてやる。側に寄って、頭を撫でてやろう。呪霊なんぞに縛られて、こんな所まで連れてこられたんじゃからの。それなりに怖かった筈じゃ。少しぐらいは、儂が落ち着かせてやらんとな。何より、こんな状況に巻き込んでしまったのは儂のせいじゃし。
「っっ、でも、君は……っ?」
「問題無い。お主は何も気にせず、生き残ることだけを考えろ。儂の帰りは遅くなると思うから、被身子にそう伝えておいてくれるか?」
「……っ、……でも、でも……っ!」
「良いから逃げろ。逃げることは恥ずべき事ではない。どんな形でも、生きてる方が勝ちなんじゃ」
まぁ、これは子供に限った話ではあるがの。
「さて。この中に入れば良いんじゃな?」
木の根の繭か……。居心地は悪そうじゃ。さっさとこやつ等にとっての安全な場所とやらに移動してくれると良いが。こんな狭い物の中で、長時間の移動など勘弁じゃ。
繭の中に入ると、儂は直ぐに暗闇に包まれた。何も見えん。まぁ木の根に包まれてるんじゃから、そんなものじゃろう。居心地は……かなり悪いのぅ。せめて
【では、連れて行きましょうか。漏瑚、万が一例の少年や平和の象徴が来た場合】
「儂が殺す」
【殺されるの間違いでしょう? 我々呪霊の力は、超常以前より弱まっているのですから】
……。外の会話、筒抜けじゃの。木の根の繭が動き出したのか、体が揺らされる。
ところで、超常以前より呪霊の力が弱まっている? それはまた、どういう理屈じゃ?
「おい。小娘に聞こえる」
【隠したところで無意味かと。彼女は彼に、この世界の真実を聞かされるでしょうから】
「……」
何を話しているんじゃこやつ等。まぁ良い。後で聞かせて貰えるのなら、別に今気にする必要は無いのぅ。気掛かりは有るが、今は大人しく連れ去られるしかない。一つ目も枝も、子供達を鏖殺出来る類いの呪霊じゃ。悪党共がこの場に連れて来たのがこやつ等だけならば、まだ子供達は生き残ることが出来るじゃろう。
……、被身子だけがどうしても気掛かりじゃ。くらすめえと達と行動を共にしていれば、恐らく大丈夫だとは思うが……。
信じるしかないのが、どうにも歯痒い。多くの選択肢を間違えたように思える。被身子に何かあったら、その時は……。
……。…………。………………。
分かっているな? 加茂頼皆。
※聖母のごとき笑みを浮かべて青山くんを宥める円花の図。青山くんの脳を焼いたとも言います。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ