待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
木の根の繭に揺られた後。儂は地下空洞……? にて、黒い靄の中を通された。で、次の瞬間に儂の目に映ったのは何処ぞの建物の中じゃ。暗く、やけに大きな水槽が幾つも並んでおる。気になって中を覗き込んでみれば、水槽の中には見覚えの有る化物が沈められていた。どうやらここは、脳無を作るなり保管するなりしている場所らしい。
こんな所にわざわざ儂を連れて来るとはのぅ。どうせならもう少し景観の良い場所に拐って欲しかった気がするが……。まぁ良い。悪党の根城とは、今も昔も大して変わらんらしい。
「こんばんわ円花。ここまでの道程は快適だったかな?」
薄暗い闇の中で、ひとつの人影が見えた。それは徐々に儂へと近付き、やがて儂の前に立つ。気が付けば、儂をここに連れて来た呪霊達が消えていた。
「全然じゃ。で、貴様は何の話がしたいんじゃ? あと、名前で呼ぶな」
こんな悪党に名前を呼ばれたくないのぅ。この背広男は、妙に馴れ馴れしいんじゃ。本音を言うと気色悪い。近付きたくない。生理的に嫌いじゃ、こやつ。
とは言え、話は聞かなければ。可能ならば、出来る限り長引かせておきたい。これより儂と話している間、
「単刀直入に言おうか。僕達
「貴様がな」
「いいや、君もだよ。円花、君は戦いに餓えているのだろう?」
「否定はしない」
実際、猛者と呪い合いたいのは事実じゃ。戦いに餓えていると指摘されても、否定する材料は儂には無い。じゃって、好きなんじゃもん。生まれ持った性質じゃから、こればっかりはどうしようもない。どうしようもなかったんじゃ。
しかし、じゃからって形振り構わず戦いたいとは思わん。儂が相手にするのは、呪霊や悪党、そして呪詛師のみじゃ。たまには
「今の時代、君は生き辛いだろう? 戦うことを何より楽しんでいるのに、ヒーローになろうとしている。矛盾の中に身を置いて、本能を抑え込んで……。そんな生き方は、息苦しいだけだ。
でも大丈夫、僕なら君の望みを叶えられる。君の大好きな戦いの場を、僕なら用意出来る」
「話にならん。そんな程度で儂を引き込めると思うな。嘘吐きめ」
「……」
さっきからこの男は耳触りの良さそうな事ばかり口走っているが、そのどれもが本心から来る言葉とは思えない。
確かにこやつの言う通りかもしれん。
いつか、そう思う時が来るかもしれない。
じゃけど、その道を行くつもりは無いんじゃ。
儂は呪術師じゃ。前世も、今も。何より、今生での生き方はとうの昔に決めている。呪術師として生きるが、呪術師としては死なん。あの日そう誓った。被身子に、何より……儂自身に。
「君はポンコツだと聞いていたんだけどね。流石に子供騙しには引っ掛からないか」
「は? 儂はぽんこつではないが??」
誰じゃ、悪党の親玉に儂をぽんこつじゃと伝えた輩は。許さん、まっこと許さん。何でこんな奴にまでぽんこつ扱いされなければならないんじゃ。こやつに儂がぽんこつなどと間違った情報を渡したのは、あの手小僧か? また会うことがあれば、その時は全力で殴ろう。それで死んだとしても儂は知らん。悪党じゃし。
「僕は、とある計画を進めていてね。その為に有能な後継者を探してる。君を欲しがるのは、君がとある一族の末裔だからだ」
……何の話じゃ? 後継者? とある一族の末裔? どうでも良いな。後継者など、勝手に探せ。悪党の跡継ぎなど儂はならん。そんなものになるぐらいじゃったら、おおるまいとの後継者として扱われる方がずっと良い。
ただ、気になる所ではある。悪党の親玉が欲しているのは、どうやら儂が持つ血筋のようじゃ。廻道家の血が欲しいのか? いや、止めておけ。あんな父と、あんな母の血筋じゃぞ? 血筋が欲しいと言うのなら、その辺りを調べていないなんて事はない筈じゃ。
「円花、君はね。呪術界御三家のひとつ。五条家の末裔なんだ」
「……はっ」
阿保かこやつ。馬鹿を言うな。冗談にしても笑えんな。思わず鼻で笑ってしまう。儂が五条の末裔? 無い無い。偽の情報でも掴まされたんじゃないか?
まだ加茂の末裔じゃと言われた方が納得出来る。儂が持っている術式は、赤血操術。これは加茂家の相伝じゃ。もし仮に儂が五条の末裔なら、儂の持つ術式は無下限呪術の筈じゃ。まぁまったく別の術式である可能性も有るが、とにかく儂が五条の血を引いてるなんて事は絶対に無い。
それに。加茂の儂が五条の末裔に産まれ直したなんて、そんな馬鹿な話がある筈が無い。いや、産まれ直したこと自体が馬鹿な話なんじゃけども。
「廻道輪廻。君の母親の旧姓は五条でね」
は? 待て待て。そんな話は知らん。そもそも廻道家は呪術界とは無縁の筈じゃ。母じゃって、呪術界など知らん。そうじゃと聞いておる。こやつ、真面目に偽情報を掴まされたんじゃないか? 悪党の親玉のくせに。悪党の親玉のくせにっ。
「君の馬鹿みたいな強さも、五条の末裔なら納得が行く。六眼を持っていれば尚更良かったが、今の君でも十分に器足り得る。
何故か加茂家相伝の術式を持っていることだけが、君の最大の謎だけどね」
知るかそんな事。仮に貴様の言うことが
……。さてはこの男、色々と知っているな? 確かな情報をどの程度持っているのかは知らんが、色々と聞いてみても良いかもしれん。話を長引かせたくはあるからの。
「円花、君が抱く疑問は僕が答えられる。
何せ、呪術界に関する情報は僕が殆ど独占しているからね」
これはまた、大きく出たな。今のところ、偽の情報を掴まされているとしか思えん。しかしさっきから、自信満々な面をしているのぅ。余裕が崩れんと言うか、いつまでも平然としていると言うか……。
何なんじゃこやつ。会話を続ける程に、嫌悪感が増していく。まるで信用出来ぬ。したいとも思わんが。
「他の呪術師は何をしている? 何故姿を見せない? 呪霊を祓わない?」
「居ないからだよ。呪術師は、一度呪霊諸とも消え去った。何故なら、人類が呪力から脱却したからだ」
「……、は?」
何を言っとるんじゃこやつ。駄目じゃ、やはりこの男は偽の情報を掴まされておる。呪力からの脱却? そんな真似、出来るわけないじゃろうが。仮にそんな真似が出来たとして、ならば何故儂や貴様は呪力を持っている? どうして呪霊が発生している?
いい加減な事ばかり喋りおって。そろそろ相手をする気が失せてきたのぅ……。
「2028年。人類は呪力からの脱却を果たした。それに伴い御三家の解体、呪術総監部も情報のみを保管して分解。呪術師はね、自らの手で一度滅んだんだよ。呪霊と共に。
……だけど、その数百年後。人類は再び呪力を得てしまった。恐らくは超常の始まりと同時に」
「……信じられぬな」
信じたくない、と言った方が正しい。平安時代以降、正しくは前世で息絶えた時以降の呪術界を儂は知らぬ。文字通り死んでおったし、今生では調べようが無かったからの。
じゃから、仮に平成……じゃったか? に、呪術界に大きな変革があったとしても儂はそれが真実かどうか調べることも出来ぬ。秘匿されているであろう呪術界の情報なんて、それこそ呪術師や呪詛師からしか得られん。
この男の言うことを信じるわけじゃない。他に情報を持たぬから、ひとまずは受け止めなければならないだけじゃ。
「情報が欲しいなら、もっと教えてあげても良い。君が僕の器になるのならね」
「……いや、良い。貴様の話はどうにも信用出来ぬ。儂は悪党になどならぬし、器にもならん」
そもそも、器とは? 単なる後継者探しではないのか? まぁ良い。とにかく分かっていることは、この男が儂を欲しがっていると言うこと。そして恐らくは、こやつがおおるまいとの言っていた、おおる・ふぉお・わんとか言う巨悪じゃな?
呼びにくい名前をしおって。名乗りを改めたらどうなんじゃ。
「そう言うと思ったよ。だから、君を従わせる効果的な手段を用意した」
「ほう?」
儂を従わせる効果的な手段? 言ってみろ。そんなものを用意したところで、儂は貴様なんぞに従わぬが。
「爆豪勝己と、常闇踏陰。この二人を確保してある」
「は?」
は?
輪廻が母親としてはちょっと変なところがあること及び、サングラスをしていることを何度か描写してきたのは、五条の末裔って設定だったからです。尚、廻道家は非術師の家系です。廻道家はね。嫁さんが術師の家系ではないとは言っていない。
また、円花が土壇場で甘やかしたことで青山くんの分岐が始まっています。頑張れ青山くん。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ