待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
ちなみに、じゃけど。今日一日は割りと快適に過ごせた。客扱いと言うことでしっかり食事は提供されたし、何とおやつまで出て来た。そのどちらも美味くはなかったがの。やはり食事もおやつも被身子が作ったものに限る。
「げほっ。……で、何の用じゃっ ?」
ああ、もう。また訳の分からん個性で儂を移動させおってっ。食事中に変な液体で人の口を満たすんじゃないっ。ふざけおって……! 許さん、許さんぞ背広男っ!
「君を呼び出した用件はひとつさ。答えを聞こうと思ってね」
「断る」
誰が貴様の誘いになど乗るか。五条の末裔も器とやらも、儂の知った事ではない。特に五条の血が流れているなんて話が、最も信じられん。儂は五条じゃない。加茂じゃ。そして、廻道。いずれは渡我を名乗っても良いと思っている。
この先、何があったとしても儂が五条を名乗ることはない。
常闇と舎弟の安否が気になるが、話し合いはもう終わりじゃ。縛りは果たされた。儂はこやつの話を聞き、こやつは誰にも危害を加えなかった。じゃから、ここからは。ここからは……!
「漏瑚、花御。前に伝えた通りだ。
僕等で、彼女を殺す。そして、オールマイトへの手土産にしようか」
「その言葉を……!」
【待っていましたよ】
脳無が沈んだ浴槽の部屋。一つ目と枝が、背広男の背後から姿を見せた。いや、正確には影のような何かからじゃ。十種影法術とは違う。呪霊を呼び寄せる、或いは操る。そんな類いの術式を、あの男は持っているようじゃの。
一度に使役出来る呪霊の数は? 等級は? 術者が死んだ場合、呪霊はどうなる?
様々な疑問を抱いてしまうが、まずは両手を叩き合わせる。儂の正面に立つ男は、赤血操術を知っている。ならばこの構えが何を意味するか、当然分かるじゃろう。
対応出来るならそれで良し。むしろ、それが良い。対応出来なければ、その時はその時じゃ。
血を、圧していく。同時に、一つ目が視界から消えた。枝は背広男を庇うかのように動く。まるで、式神使いを相手にしてるような気分じゃ。あやつが使役しているのは、呪霊じゃけどな。それも、意志疎通が取れて術式を有している呪霊。
どんなに低く見積もったとしても、一級を下回ることは無い。
一対三の呪い合いか。たまにはそんなのも悪くない。せいぜい儂を楽しませろよ、悪党共!
「ヒャアッ!」
消える程の速度で動く一つ目が、右から。床から木の根を出現させた枝は、真正面から。親玉の姿は見えなくなってしまったが、どうせ何かをしてくるじゃろう。穿血は、圧縮が足りない。最大の威力と速度を出させる気は無いようじゃ。
穿血を放たれる前に邪魔をする。近接戦に持ち込む。見飽きた戦法じゃ。
右から熱が迫る。炎よりも、僅かに先に。一つ目の姿は見えていないが、勘で頭を大きく下げて首筋から派手に血を噴出させる。それと同時に赫鱗躍動を使い、左斜め前に踏み込む。後ろ髪が少しばかり火によって焼かれてしまったが、気にしている場合ではない。儂の眼前には幾つもの木の根が迫っている。それらを穿血で吹き飛ばす。
火の術式は厄介じゃけど、この植物操作の術式も厄介そうじゃ。この術式は、攻撃にも防御にも使える。じゃからこの枝は、親玉の盾になるかのように前に出たのか。或いは、そう操られているのか。
穿血だけでは吹き飛ばせなかった幾つかの木の根を両腕で防御すると、足元が熱くなった。咄嗟にその場から跳び退くと、真後ろに跳んだのに体が宙で止まってしまった。右足に木の根が巻き付いておる。その事に気付くと、視界が右へ左へと激しく揺さぶられた。次の瞬間に儂が見たのは遠ざかっていく呪霊と悪党。
木の根によって投げ飛ばされてしまった。体が軽いと、直ぐに投げられたり吹き飛ばされてしまうから困る。
受け身を取り、それから直ぐに床から立ち上がる。派手に投げ飛ばされてしまったが、この程度じゃ怪我にもならん。
「化け物め」
【やはり我々だけでは手に余りますね。しかし……】
「付け入る余地はある。行くぞ花御」
手に余るだの、付け入る余地があるだの。こそこそと話すぐらいならさっさと掛かって来い。儂の気はそう長くはないんじゃ。
「けひっ」
ああ、駄目じゃ。どうしても楽しくなってしまう。嬉しくて嬉しくて、自分を止められそうにない。常闇と舎弟を助けなければならないのに、今この瞬間に他の子供達が襲われているかもしれないのに、何もかもを忘れてこの愉悦の中に沈んでいたい。
もう、誰も邪魔してくれるな。何者も何事も、水を差すな。今度こそ最後まで。最後の最後まで、儂はこの呪い合いを続けたいんじゃっ。
そして。あの男は、儂が殺すっ!
首と手首から出した血を操りながら、前へ。儂の動きを察知した一つ目は手から火を放つ。眼前に迫る火の壁を、血の壁を作ることで一瞬弱める。と、同時に体を捻りながら真上へ跳ぶことで天井に足を付ける。
それから天井を蹴り、前へ向かって急降下。血を出し続けながら、一つ目の頭を……殴る!!
が。
【……油断し過ぎですよ。漏瑚】
割り込んできた枝が、防ぎおった。から、防いだ腕に組み付く。苅祓を一つ目や背広男に向かって飛ばしつつ、股下にある枝の腕を力任せに捻り上げる。そして。
「せぇ、のおっ!」
思いっきり、引く。鈍い音が聞こえた。その寸前まで手のひらに有った抵抗感が、消え失せる。この枝呪霊の肉は硬い。と言うよりは打たれ強い。じゃけど、呪霊とは言え不定形ではない。
人の形をしているのなら、ある程度は人間相手に通用する技術も武器になる。手っ取り早いのは殴ることじゃけど、じゃからって関節技が無効と言うわけではないからの。力任せに、腕をへし折った。勢い余って、引き千切ってしまったが。
【……っっ!!】
鈍い。腕をもがれた程度で驚くな。等級が高い呪霊ならば、肉体の欠損など何の問題にもならん。人間と違って、新たな腕を生やすのは容易いことじゃ。
「花御!」
また、熱を感じた。体を覆うように血を出しつつ、儂は背広男に向かって駆ける。ついでに、枝の腕は一つ目に投げ付けておいた。
距離は潰した。が、この背広男は動じた素振りを見せない。式神使いとそう変わらんくせに、随分と余裕じゃなぁっ? 良いじゃろう、今その面を殴り飛ばして……!
「ここだ」
背広男が、手を向ける。その瞬間、何かが儂の体を貫いた。硬く、長く、鋭利な何かが肩や脇腹を……。
よく見たら、儂の体は背広男の背から刃らしきものが生えている。それは刃物のように硬質でありながら、自在に蠢くらしいの。それも、かなりの速度で。更に受けて分かった事がある。これは個性じゃ。術式ではない。が、呪力により強化されているのぅ。でなければ、個性が儂の肉体を貫くことはない。
「鋲と言ってね。中々使い勝手が良い。
駄目じゃないか円花。夢中になって敵の懐に飛び込んでしまっては」
「……ひひっ。貴様こそ、良いのか……?」
ああ、あぁ……っ。余計に、楽しくなってきた……! こやつは強いっ。下手をすれば、今のおおるまいとより上かもしれん!
そんな輩が、目の前に居てくれる! 儂を殺そうと呪ってくる! 嬉しいっ、楽しい!!
また、巡り会えたっ! こんな猛者に、再び出会うことが出来たっ!
「けひっ。ひひっ」
―――笑みが、溢れる。頬が緩んで仕方ない。笑い声が漏れてしまって、どうしようもなく血が騒ぐ。体を貫かれた痛みなど、これっぽっちも感じない。
ここからじゃ。これからじゃ。もっともっと楽しくなる。嬉しくて嬉しくて、堪らない程の喜びがこの先に有る!
鋲、とやらを掴んで、力任せに捻り折る。手の内から鈍い音がした。壊れたら消えてしまうようで、儂の体を貫いたままのこれは欠片となって崩壊した。
「苅祓っ!」
血を飛ばす。今度は四方八方に、血の刃を連続して放ち続ける。それが一時の目眩ましとなり、攻撃となり、一つ目も枝も背広男も防御や回避に意識を割いた。から、儂はもう一度背広男の懐に踏み込んだ。次は殴る。鋲はもう見た。次は、いったい何を見せる!?
【っっ、下がりなさい!!】
強い呪力を感じた。から、その場から跳び退く。床から瞬く間に生えた木の根が、天井に突き刺さった。ちっ、邪魔しおって……! 水を差すような真似が上手い奴じゃな貴様!
決めた、まずは貴様から祓うっ!!
「花御、避けろ!」
「遅いっ!!」
木の根が邪魔で背広男を狙うことは出来ぬが、枝ならば殴りに行ける。一足で距離を詰め、拳を振るう。枝の腹に拳が食い込むが、手応えから察するに大して通用していないように思える。現に怯んではいるものの、まだまだ耐えられそうな感じじゃのっ。なら……!
耐えられなくなるまで、殴れば良い!!
二撃、三撃、四撃と繋げていく。赫鱗躍動と呪力強化を併用し、力任せに殴り続ける。が、それでもまだ枝は耐えておる。拳だけでは祓えそうにないなっ!
「待てっ! 廻道円花!」
また、熱を感じる。呪力を纏いながら枝の前から離れると、顔の前を炎が通り過ぎた。一つ目の術式は儂の天敵じゃけれども、火が来る前に熱を感じることが多い。呪力の流れも見えやすい。有している力は強いくせに、それを操る実力が伴っていないように思える。産まれて間もないのかも知れんが……。
いや、そんな事はどうでも良いのぅ!
呪霊達からも背広男からも離れた位置で、両手を叩き合わせる。分かり易く呪力を手に集中させると、一つ目が駆けてきた。直ぐに間を潰してきたこやつは、火を纏った掌を儂の両手に向けて振るう。から、両手を引っ込めて圧縮途中の血液をその場で破裂させる。
解き放たれた血が、四方八方に飛ぶ。その一部が、一つ目の肉を貫いた。
「ぐ……っ!」
「この程度で、怯む、なっ!!」
「がはっ!?」
動きを止めてしまった一つ目を、思いっきり蹴り上げる。儂の蹴りは顎を捉えて、打ち抜いた。から、怯んだ体を赤縛で縛り上げて今度は苅祓で切り刻む。最後にもう一度蹴飛ばして、吹き飛ばす!
一つ目は吹き飛び、二転三転と床を転がった。祓えてはいないが、直ぐに立ち上がっては来ない。顎を砕かれ、肉体を切り刻まれたせいか、多少回復に手間取っているように見える。情けない、まっこと情けない奴じゃ! 祓われていないのなら、動きを止めるな!
「ひひっ。そんなものか、呪霊っっ!!」
【相性が悪い筈の漏瑚を、こうも易々と……っ】
「ああ、そやつとの相性は悪いのぅ!」
【……っっ!!】
悠長に喋っている暇は、お互いに無いじゃろっ! 儂等は語り合いたくてこの場に居るわけじゃないっ。呪い合って殺し合う為に、今ここで向かい合っておるんじゃっ!!
再び枝との距離を詰めようと前へ踏み込むと、今度は真後ろから木の根が飛び出てきた。鋭利な尖端が、背中に突き刺さる。痛みが激しい。内臓が幾つか潰された、ような気がするっ。
けひっ。良いな、やはり良い……! こうして命を削り合うことが、堪らなく楽しいっ!
「ぬ、がぁ!」
無理矢理前へ踏み出すことで、背中に刺さったものを引き抜く。背中から吹き出る血を操り、苅祓として枝に向かって飛ばす。流石にそろそろ血液の補充と傷の回復をしたいところじゃが、まだ体は動く! じゃったら、止まっている場合では無いよなぁっ!?
苅祓と共に、再び枝の懐に入る。もう一度拳を打ち込もうとした、その時。
儂の体は、大きく吹き飛ばされた。呪力による攻撃ではない。個性による攻撃じゃ。
じゃからつい、見逃してしまった。吹き飛ばされつつ、何かの衝撃が来た方向を見ると背広男の姿が見えた。あぁ、鬱陶しいのぅ!
吹き飛ばされた体が、壁を突き破る。視界が揺れる程の衝撃に一瞬息が止まり、背中の痛みが増す。から、
ああ、もうっ。体が軽いと面倒じゃ! 大したことない攻撃でも吹き飛んでしまうし、どうしても殴り合いで不利になる!
じゃけど、それはそれで……楽しいっ!
「ふーっ、ふーーっ!」
ひひっ。あぁ、楽しくて仕方がない。儂に殴られて、儂の術式を受けて、それでも立ち向かって来てくれる呪霊共が、あの背広男が、もはや愛おしいとすら思える……!
もっとじゃ、もっと! もっともっと呪い合おう! 何も分からなくなる程に、何も考えられなくなる程に、ただひたすらにこの喜びの中で楽しもう!! 貴様等なら出来る!!
「漏瑚、花御。ここからは僕が指揮を取ろう。君達では、円花の相手は無理だ」
【……その通りですね。やはり彼女は、我々では荷が重過ぎる】
「……個性め、忌々しい……!」
「仕方がないさ。個性の台頭により、人々は自然を恐れなくなった。自然呪霊の君達の力が落ちるのは当然だろう?」
ちっ。今の儂を前にしながら、悠長に喋りおって……! 気に食わんっ! 気に食わんが、今度はあの男が主体となって動くつもりのようじゃ。それは喜ばしい。あの背広男の力は、生半可なものではない。力を振るったのはたったの二度。しかしその二度が、もっとも儂に通用している。天敵の筈の一つ目よりもじゃっ!
そんな輩が、これから動く。あぁ、素敵じゃ。なんて素敵な……! 良いぞ、良い。良いっ!
これから更に楽しくなるなんて、どこまで儂を喜ばせるつもりじゃ貴様等っ!!
「君の弱点は知っている。そこを、遠慮なく突かせて貰おうか」
「けひっ。やれるものならな……!」
「そう難しいことじゃない。ほら」
「……!」
こやつ……! こやつっ! 下らん真似を! 何でこんなに楽しい時に、こんなつまらん真似をするんじゃ貴様!! ふざけるなよっ!!
「げほっ、んだよこれは……!」
「ごほっ……。爆豪、無事か?」
「何ともねえんだわ、鳥頭ぁ!!」
「……修羅め。廻道とそう変わらないな……」
常闇と、舎弟があの訳の分からん個性によってここに連れ出された。だけではない。続々と、
おい、ふざけるな。ふざけるなよ……! ここに来て、儂をここまで楽しませてくれた貴様等が、そんな真似をするな!! おいったら!!
「君は子供の命を見捨てられない。さぁ、どうする?」
中々心行くまでバトれない円花ですが、今回は大分楽しめた方だと思います。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ