待て！ 止さぬか！ 儂じゃなかったら死んでおるぞ！！

折寺中学校。

　折寺中学校に着いたのは、朝の九時半過ぎ。転校初日に思いっきり遅刻してもうた。爆豪に案内されて職員室に行くと、教師に驚かれた。何故遅れたのかを素直に報告すると、方向音痴呼ばわりされてしもうた。

　やはり儂、方向音痴なのかの……。いや、そんな事は無いぞ？　無いったら無いんじゃ。だって歩けばいつか目的地に着くじゃろ？　ほら、儂は方向音痴などでは無い。断じて違う。認めん。認めんからな……！

　おい、なんじゃ爆豪勝己。人の顔をそんなに見て。儂、その顔した奴が何て言うか知ってるぞ。ぽんこつって言うんじゃろ。言うておくが、儂はぽんこつじゃない。ぽんこつ扱いされるのは、どうしても納得出来ん。

　なんて思いつつも教師からの説明を一通り受けた儂は、職員室を出る。教室の場所は聞いた。どのくらすに入るかも聞いた。じゃが場所は分からぬ。

　さて、どうしたもんかの。

　そうじゃなあ。校舎は広く無いんじゃから歩き回ってれば見つけられるじゃろ。この校舎には一度入っとるし。うむ、そうするか。

　と思って意気揚々と歩き始めたら、爆豪に襟を掴まれたわ。おい待てこら、人を引き摺って歩くな。貴様は儂の舎弟じゃろうが。それなら引き摺るんじゃなくて、担ぐとか、だっこするとかあるじゃろ！　あと、この姿を被身子に見られたら大変なんじゃぞ。主に儂が。

「てめえマジで方向音痴だな……。遭難したいんか？」

「たわけ。儂は方向音痴などでは無い。ちょっと散歩したら朝まで家に帰れないだけじゃ」

「とんでもねえ方向音痴じゃねえか！　それでよく方向音痴じゃないなんて言えるなクソが！！」

　おいおい授業中じゃろうが。廊下に声を響かせるのは良くないぞ。怒られたらどうするんじゃ。転校初日に教師からの説教なんて受けたくないぞ儂は。まったくこやつは。一度凝らしめた方が良さそうじゃな。被身子のように放っておくと、どうなるか分からん。一度徹底的に……。

　……いや。止めておこう。幾ら爆豪婦人から好きに扱って良いと言われても、家族にも被身子にも迷惑をかけてはならぬ。しかし言葉で屈服する男には見えんのぅ。行動で示すしかないと思うんじゃが。

　ただなぁ。儂、気にいらん輩は問答無用で殺して来たからのぅ。人拐いとか、子供を虐げる悪党とか、今の時代で言う毒親とかな。この時代、殺人すると警察に掴まって牢屋行きなんじゃろ？

　ううむ。面倒じゃこやつ。関わるべきではなかった。しかし母を見る限り、ご近所付き合いはしておくべきじゃと思うし……。

「おい。着いたぞクソチビ」

　あれこれと考えておったら、教室に着いておったわ。こやつどうやってここまで来た？　しまった。道順覚えとらん。

　まぁいいか。明日また爆豪に案内させておけば良いんじゃ。一人で出歩くと、被身子も両親も止めに来るからのぅ。しばらく舎弟に案内させれば良かろうて。

「ご苦労。案外使えるんじゃな、舎弟」

「チッ。何様のつもりだてめえ……」

　何様と聞かれたら呪術師と答えたいが、この返しは常闇扱いされる気がしてならんの。止めておくか。ひとまず爆豪の言葉は聞き流すとして、教室に入るとするかの。完璧な遅刻じゃから注目はされるじゃろうが、なーに沢山の子供に見られるのは前世でなれておる。これでも子供の面倒はしょっちゅう見てきたんじゃよ。

「おはよう皆の者！　今日から世話になる廻道円花じゃ！　済まんが許嫁がおる身じゃ！　程々に接してくれると助かる！

　こやつは儂の舎弟の爆豪勝己！　頭狂っとるが、仲良くしてやってくれ！　がははは！」

　うむ。ちゃんと腹から声も出せたな。笑顔も見せた。自己紹介はこんなもんで良いじゃろう。

　む？　どうした舎弟。そんなに震えて。ほほう、さては喜んでおるな？　犬みたいな奴じゃからな貴様。

「ふざけた事抜かしてんじゃねえぞクソチビィイ！！！！」

「う……るさいのぅ。授業の妨げになるじゃろ。静かにせんか小僧っ！」

　怒るな怒るな。怒りに身を任せても良い事は無いぞ。仕方ない舎弟じゃのう。感情の抑え方から教えてやろうか？

◆

　……しまった。迷った。真か？　昼休みに念の為校舎を見回ったら、教室への帰り道が分からなくなってしもうた。思い返してみれば、前の中学では常闇と行動を共にしてたからの。移動教室とか。体育は男女別だったんじゃが、その時あやつ……儂を送り迎えしてたような気がするの。そうか……儂、やっぱり方向音痴なんじゃな。違うと思っておったのに……。いかん、急に自分が情けなくなってきた。

　また常闇に会う機会が有ったら、礼を言おう。そう言えば連絡先知っとるの。今度連絡しておくか。久々にだあくしゃどうの声が聞きたくなってきた気がするぞ。

　いや、待て。これは浮気か？　浮気扱いになるのか？　また被身子に「円花ちゃんさいてーです。浮気者」なんて拗ねられるのは勘弁じゃぞ。

ああなった被身子はしばらく機嫌を直してくれないんじゃ。

　……許可を貰ってからにしよう。そうしておこう。だから儂は浮気者じゃないぞ！

「で、ここはどこじゃ？」

　呑気に歩いていると、嫌に埃っぽい教室に入り込んでしもうた。机や椅子何かが山積みになっとるから、空き教室を備品室にでもしておるんか？

　かあてんが閉じられているせいか、妙に薄暗い。あとここ、空気が悪いのぅ。呪術的に空気が悪い。夜中に来たら何か出るんじゃないか？

　もうこの建物の呪霊は祓ったと言うのに。儂としたことが……見逃したか？

　いや、違うなこれは。そうじゃない。これは残穢だ。それも呪霊の。

　……誰かが祓ったと言う線は無いな。残穢がひとつしかない。学校で発生した呪霊が、どこかに移動したのか？　いや、分からんな。儂、細かいことは苦手なんじゃって。そう言うのはそう言うのに長けてる術師に任せておったからのぅ。一時期の話じゃがな。

　仕方ない。また夜に来てみるかの。そろそろ五時間目の授業が始まってしまう。授業が始まる前に、教室に戻れるか不安じゃ。舎弟を連れて歩くべきじゃったな。昼休みぐらいそっとしておくかと気を遣ったのが、間違いじゃったらしい。

　ちなみに。儂が転校して来たことで爆豪は周囲から変な誤解を受けた。あやつは儂の舎弟であることを否定して回ったようじゃが、誰も信用しなかったそうじゃ。あやつ、くらすめえとや同級生にどう思われてるんじゃ。

　まぁ、あんな態度を誰彼構わず常にしておるのなら、周囲からの信用なんて無いじゃろうな。早急に改善してやるべきかの？

　仕方がない小僧じゃなまったく。この一年ちょっとぐらいは面倒を見てやろうかのぅ。一年ちょっとだけ、それも学校に居る時だけじゃからな。放課後は駄目じゃ。被身子を放っておくわけにはいかん。拗ねられては面倒じゃし、早く帰っておやつを食べたいんじゃ。

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何度でも言うぞ。続きなど無い。(挨拶)
そろそろこの挨拶しなくていいな……。

久しぶりにがははは笑い円花ちゃんです。可愛い。
アンケートは今晩で期間終了します。ありがとうございました。