待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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自然の驚異。

 

 

 

 

 

 領域に、招かれた。ひひっ、楽しい。嬉しい。あの枝は、一つ目もそうじゃがそれなりの呪霊じゃ。まさか(まこと)に領域展開が出来るとはのぅ。何がなんでも儂を殺そうとして居る貴様が、もはや愛おしく感じられる。良い、実に良いっ。貴様がその気なら、当然儂もその気で行く!

 

 もっともっと、楽しもう! この時間を、この戦いを! 何処までも呪い合って、いつまでも続けよう! なぁっ、花御! 貴様もそう思うじゃろっ!!

 

「ひひっ。大した風景じゃな……!」

【貴女に自然を慈しむ心があるとは思いませんが、ひとまず褒め言葉として受け取っておきます】

 

 おいおい。儂は褒めてるんじゃけど? 花御の領域は、朶頤光海とか言ったな?

 この領域は、儂の領域と比べたら遥かに美しい。何処までも続いていそうな大森林に、枝葉の隙間から射し込む優しげな木漏れ日。絶景の中に踏み込んだ気さえしてくる。こんなところで呪い合うのは、中々乙な気がするのぅっ。

 

【貴女は、領域を使わないのですか?】

「けひっ。そんなもの、必要無い」

 

 ああもう、焦れったい奴じゃ。領域展開したのなら、さっさと襲い掛かってくれば良いものを。追い詰められることがあれば、当然儂も領域を展開する。しかしまだ、花御と向かい合ったこの状況で領域を使うつもりはない。じゃって、そんな真似をしたら勿体無いじゃろう?

 儂は呪い合いを楽しみたい。命懸けで味わって、余すところなく堪能したいんじゃ。

 

【如何に貴女とは言え、対策を取らねば死にますよ】

 

 そうじゃろうな。そうでなければ、何の為の領域展開か。が、儂は領域展開をするつもりは無い。じゃって、いきなりそんな事をしてしまったらつまらん。久し振りに思う存分呪い合えそうな猛者が目の前に立ってくれているんじゃ。どこまでも楽しまなければ、失礼じゃろう?

 

 じゃけど。このまま何もしないで居るのも違う。直ぐに殺されてしまうのは儂の望むところではない。それではつまらんからの。

 

 ……何より、被身子を残して死ぬなんて真似は絶対に出来ぬ。儂は呪術師としては死なん。悔いの有る死に方は、絶対にしないと決めている。死ぬとするなら、それは被身子が天寿を全うした後じゃ。

 両手を合わせ、両の指を組み合わせる。そして、領域展開とはまた別の結界を構築していく。

 

 

彌虚葛籠(いやこつづら)

 

 

 これは、とある呪術師が考案した結界のひとつ。領域展開とは別であり、相手の領域内に招かれた時にしか機能しない。使い勝手も悪い方じゃ。何せ発動の為に両手を使わねばならぬし、両足を地面から離すことも出来ぬ。それだけの不便が有りながら、出来ることは領域の必中効果を中和することのみ。ついでに、相手の力量が儂よりも上ならば直ぐに効力を失ってしまう。少しでも結界にほつれが生じれば、そこから直ぐに分解されてしまうところも不便じゃ。

 しかし領域展開を使わぬままに、ある程度領域に対抗出来る術でもある。

 

【簡易領域……のような何かですね。そんなもの、時間稼ぎにもなりませんよ】

「それはどうじゃろうな? 試してみるか?」

 

 簡易領域……? 何じゃそれ。儂はそんな物は知らぬ。儂が死んでいる間に作られた新しい結界術か? それとも、領域展開とはまた違った領域か? 簡易と言うぐらいじゃから、もしかしたらお手軽に領域展開する為の術かもしれん。

 

 うむ、そんな物は知らぬままで良いな。

 

【私の術式は呪力で植物を産み出し、それを操る事が出来ます。先程から貴女が目撃しているものは、全て私の呪力によって産み出されたものです。

 植物の強度や操作精度は、産み出した数次第になりますが……少なければ強く細やかに。多ければ弱く大雑把と言ったところでしょうか】

 

 ……領域展開をして来た上に、術式開示。本気じゃな。あやつは、何がなんでも儂を仕留めるつもりじゃ。おいおい、そんなに殺気立つでない。つい笑ってしまうじゃろ。そんな風に殺意を見せられたら、もっともっと嬉しくなってしまう。ああもう、素晴らしいな。うっかり恋でもしてしまいそうじゃ。

 まぁ、儂が恋するのは被身子だけのつもりじゃけども。

 

【ですが、領域の中で産み出した植物は全て実物に変わります。そして私の左腕は植物の命を奪い、呪力へと変換する】

 

 周囲の植物が、枯れていく。木も草も何もかもが朽ち果てて、その分が呪力となって花御の左腕に吸い取られていく。とんでもない領域じゃな、これは。

 

【本来なら、この呪力は私に還元されません。しかし生得領域の具現化、その環境要因により……私は植物から直に呪力を得ることが出来る。つまり……私は長時間、領域を維持することが出来ます】

「話が長いのぅ。あまり儂を待たせるな」

【それは失礼。説明した方が、より術式の効果が高まるそうなので】

 

 その通りじゃ。自ら術式を開示すれば、術式効果が底上げされる。そういう縛りになるからの。じゃから、自らの手の内を晒すのは呪術戦において決して間違いではない。

 しかしまぁ、とんでもない領域もあったものじゃ。笑顔が止められん。貴様のような奴は、もっと早く儂の前に現れて欲しいものじゃ。

 

【この供花を、貴女に捧げましょう】

 

 呪力が、花御の左肩に集中する。意図を隠すつもりがない呪力操作をするな。わくわくしてしまうじゃろっ。ここまで来たら防ぐような真似はせん。貴様が何をしようが、幾らでも相手になってやる!

 その代わり、しっかり儂を楽しませよ! つまらん思いをさせたら、許さぬからなっ!

 

 両手を叩き合わせる。呪力を込め、血液を操り、未だ収束し続ける呪力に対抗する為の準備を進めていく。良いぞ、良いぞ花御っ。純粋な火力勝負と行こう!

 貴様と儂、どちらの力が上なのか思う存分比べ合おう!

 

 呪力の光が迸る。彌虚葛籠を使っていなければ、儂に必中(あた)っていた呪力の閃きが空を裂きながら迫ってくる。その膨大な呪力の塊、真正面から撃ち抜いて見せようか!!

 

「穿血」

 

 邪魔されることもなく圧縮しきれた血を、今度こそ放つ。迸る呪力と、儂の血が衝突し周囲に衝撃が撒き散らされる。とんでもない一撃じゃ。あんなものを食らってしまえば、流石に今生の儂でも死ぬじゃろう! まさかこんな力比べが出来るとはのっ。一度産まれ直すのも悪くない!

 

「ぬ、ぐ……っ!」

 

 押されている。放たれた呪力は穿血を掻き消しながら、儂へと向かってくる。ひひっ、とんでもない。とんでもないのぅ! まさか儂の穿血を真っ向から上回ってくるとは!

 

 良い、良いっ! 凄く良いっ! 見直したぞ!!

 

 そして、もう……!!

 

 

【終わりです。廻道円花】

「……ああ、その通りじゃ」

 

 

 終わりが、近い。残念じゃ。まっこと、残念じゃ。折角楽しい時間じゃったのに、ここからはもう楽しんでいる場合ではない。何せこのままじゃと、儂は死ぬ。間違いなく、死んでしまう。幾ら戦うことが楽しくても、誰かと呪い合うことが大好きでも、死ぬのは駄目じゃ。

 

 前世なら、死んだって構わなかったんじゃ。楽しい時間の果てに死ねるなら、それも良いと思っていた。

 けど、今生はそうじゃない。儂は被身子の為に生きたい。呪術師として、死ぬわけにはいかんのじゃ。

 

 その、為には……。

 

 穿血が破られた。迸る呪力の光はまだ収まらず、真っ直ぐ儂へと向かってくる。咄嗟に両腕の血を固め、交差させることで盾とする。

 

 次の瞬間、儂は呪力の光に呑み込まれた。

 

「が……っ!」

 

 吹き飛ばされる。呪力強化に赫鱗躍動・載、更に血星磊で両腕を固めた防御は容易く打ち破られ、儂の体は焼かれながら吹き飛ぶ。

 腕が二本とも、千切れてしまった。吹き飛んだ体は何度も地面を転がり、やがて一本の樹木に激突して止まる。いかん、死にそうじゃ。意識が薄れる。よもやここまでの一撃とはの……! 中々やるのぅ、花御……!

 

 あぁ、嫌じゃ。嫌じゃ嫌じゃ。絶対に、やじゃっ! この時間を終わらせたくないっ! もっともっと、もっと呪い合いたい!

 でも、死にたくは……ない。死んで、たまるか。被身子を残して逝くなんて真似は、絶対に駄目なんじゃ!

 

 消し飛ばされた両腕を、反転術式(はんてん)で治していく。花御の一撃は凄まじく、あやつの領域そのものを揺るがす程。そんな呪いを真正面から受けて、それでもまだ生きていられた。ならば、あとはもう……。

 

【まだですよ。廻道円花】

 

 周囲に生えた木々が、その枝葉や根を槍として儂を貫く。肩も腹も足も、貫かれる。痛い。血が止まらぬ。止められぬ。しかし辛うじて、治したばかりの両腕は無事じゃ。ならば問題はない。

 花御よ。儂を殺したいなら、もう一度両腕を切り落とすべきじゃ。そうされていたら、間違いなく儂は死んでいた。

 

 掌印を、組む。体の怪我を治すのは、後回しじゃ。花御を祓った後で良い。

 

「……領域展開」

 

 もう、これで終わりになる。終わらせてしまうのは、惜しい。けれど……何事にも終わりは有るんじゃ。腹の底から嫌じゃけど。心の底から名残惜しく思うけれど。後は、もう……。

 

 

 

「奉迎赭不浄」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花御の領域に、儂の領域をぶつける。するとあやつは領域を維持しようと結界を強める。領域の引き合い、或いは押し合いが始まった。その結果、お互いの領域が混ざり合い異様な光景が出来上がっていく。絶景とも言えた花御の領域は、赤黒い暗闇に包まれる。足元は血の海に呑み込まれ、けれども数多の樹木や草花は消えてなくならない。奇妙な光景が出来てしまったのぅ。これは花御の領域と、儂の領域が釣り合った故に起きたことじゃ。

 どちらかが気を抜けば、その瞬間にどちらかの領域が塗り潰される。この時間も楽しみたいところじゃけど、そうも言ってられん。領域を展開する直前、儂の体には幾つも風穴が開けられてしまった。しかし今、反転術式(はんてん)を回す余裕は無い。領域をぶつけ合っているんじゃから、反転術式(はんてん)に気を回すことは出来ぬ。

 じゃから、流れ出る血液は術式で無理矢理止める。これ以上体の外に出ぬように血液を操作しつつ、並行して周囲の木々を苅祓で切り刻む。

 体が自由になったところで、儂は駆ける。赫鱗躍動・載を使いつつ、足元の血液を四方八方に飛ばし続けながら。その影に、百斂で圧縮した血を隠しておく。

 

【それ以上近付けるとでも?】

「それは、貴様次第じゃ!!」

 

 周囲に飛ばし続ける血液が、枝葉やら根やらでひとつひとつ打ち落とされる。足元から飛び出てくる血に染まった木の根は、前方に跳躍することで避ける。宙に居る儂を狙った枝葉は、赤縛や苅祓で大雑把に防ぐ。命に届く攻撃以外に、細かな対応をするつもりはないからの。

 

 距離が、詰まる。このまま殴りたいところじゃったけど、花御の動きが速い。儂の拳が届く範囲から跳び退き、樹木の毬を幾つも作ってそれを足場に方向転換。容易く儂の背後を取り、宙に居ながら再びあの呪力砲を撃とうとしている。残念じゃけど、それはもう撃たせてやらん。

 花御よ。貴様、見逃したな? それとも大した障害にはならぬと、放っておくつもりじゃったのか?

 

 どちらにせよ、それは悪手じゃ。貴様はさっきまで、警戒していたじゃろう? 両手を合わせねば使えぬと、頭に刻んでしまったのか?

 

 その間違いは、貴様の命を終わらせる。最後の最後で、下らん失敗をするな。

 

「穿血」

【っ!?】

 

 足元から、そこらの宙から。幾つもの穿血が花御を貫こうと飛び出した。あやつはそれらを防ごうと周囲の木々を操り壁とするが、それは事前に付着させておいた血液であらぬ方向へと操り逸らす。

 

【が、あ……っ!?】

 

 腕を、足を、腹を胸を肩を。四方八方から飛んでくる穿血が貫いた。もう呪力を放つどころではないのじゃろう。どうにか木々を操ろうとして居るが、それでは間に合わん。穿血を受けてしまった以上、今更何をしようが無駄になる。何せ貴様の血液は、もう儂のものじゃからの。

 

「……貴様は強かった。楽しかったぞ、花御」

【……そう、ですか……】

 

 最後の言葉を掛けた後、容赦なく花御の体内から全ての血液を……内蔵を引き抜く。肉は裂かれ、こやつの肉体は肉片となって吹き飛んで行く。瞬く間に、花御は頭だけの姿となる。そして、血の海に落ちていく。

 鈍い音がして、血飛沫が立つ。花御の領域は消え去った。残ったのは、儂の領域のみ。後は、残った頭に止めを刺すだけじゃ。

 

【……せいぜい気を付けなさい、廻道円花。あの方は、貴女の】

 

 残った頭を直接踏み潰し、祓う。これで花御は消えた。何かを言い残したかったようじゃが、最後まで聞いてやる義理は無い。が、楽しい時間をくれたことには感謝している。久し振りに、死ぬかと思ったのも事実じゃ。

 もし花御がここで儂と呪い合わず、もっと多くの経験を積んで居たら……結果はどうなっていたか分からん。もしかしたら、儂が殺されていたのかもな。

 

 ……、さて。領域を解くとしよう。解いた瞬間、一つ目の奴が襲い掛かってくるかもしれん。暫くは術式無しで相手せねばならぬが、まぁ何とかするしかあるまい。

 

 さぁ、次の呪い合いを始めるとしよう。連続して猛者と戦える。そう考えると、やはり今宵は素敵じゃ! 素敵な夜じゃっ。

 

 

 

 けひっ。ひひっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

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