待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
領域を解く。と、同時。儂は膝から崩れ落ちた。体中に穴だらけな上に、術式が焼き切れてしまったせいで止血が維持出来ない。痛みも、酷くなってきた。
……危なかった。花御は、どう見ても戦闘経験が少なかった。大した場数を踏んでいなかった筈じゃ。もしあやつが多くの戦闘を経験していたら、結果は逆だったように思える。取り敢えず、
傷を治しながら、周囲の状況を確認する。戦場は、混沌としておる。明らかに
「げほっ、ごほっ」
どうにも調子が悪いの。さっきまで死にそうになっていたんじゃから、当たり前か。傷は塞がった、失った血液も元に戻りつつある。呪力は大分減ってしまったが、それでも半分程は残っていると思いたい。領域展開は、出来そうにないな。無理をすれば短時間ならば或いは……。まぁ良い。使うつもりは無いからの。
さて、次を楽しむとしよう。もう一度周囲を見渡して見ても、やはり一つ目は見当たらん。目に入る悪党は、脳無と背広男のみ。おおるまいとは……まだ戦っているの。体から少し煙が出てしまっているが、まだ動けるじゃろう。となれば、儂がやることはひとつ。
息を整え、立ち上がる。使えるのは呪力強化のみじゃけど、やるしかあるまい。一つ目の奴が居なくなっていることだけが気になるが、居ないのならそれでも良い。花御を置いて逃げたとしたなら、期待外れも良いところじゃけど。儂が弱っている時に攻め込めば、或いは殺すことが出来たも知れぬのに。勿体無い奴じゃ。
呪力を練り上げると、
「なっ!? 駄目だ、逃げろ!!」
誰かは知らぬが、そう慌てるな。でにむ男。他の
飛び掛かってきた脳無の内一体に向かって、跳ぶ。術式が使えぬ今、加減することは出来ぬ。そんな余裕は、無いっ。
「どっ、こいせえ!!」
真正面から、脳無の顔面を殴り抜く。人の顔を殴った感触ではない。いかん、加減を誤ったか? いやしかし、今の儂に余裕は無い。呪力の残りは心許なく、術式が戻るまでは殴る蹴るしか出来ぬ。脇差しの一振でもあればもう少し変わったかも知れぬが、無いものは無いんじゃ。
まぁ、これはこれで楽しいんじゃけど! 折角じゃ、ここに居る脳無共は無手で倒して切ってやろう!
沢山居る脳無の一体を殴り倒すと、左右と真上から同時に跳び掛かってきた。全ての動きを見るなんて都合の良い真似は、今は出来ぬ。術式が使えるようになるまでは、どうにかするしかあるまい。今の儂にやれることは限られているが、ただ跳び掛かってくるだけの奴に遅れを取るつもりはない。
「けひっ」
あぁ、また楽しくなってきた。血が熱くなる。花御を祓ったことで落ち着いていた心が、また騒ぎ出す。まだ、悪党共との呪い合いは終っていない。これはいつまで続くのか。いつまで続けさせてくれるのかっ!
もっとじゃ、もっと。さっきよりも楽しませてくれっ。いつまでもどこまでもっ、儂を喜ばせてくれ!!
左右から迫る巨体と、真上から降り掛かる巨体。脳無に逃げ道を塞がれる前に、前へ踏み込む。そしてそのまま、奥から続々とやってくる別の脳無達に殴り込むっ。
逃げるつもりは毛頭無い! 全員漏れなく相手してやるからっ、纏めて掛かって来い! 儂を、儂を退屈させてくれるなっ!
「ひひっ」
目前に迫る二体。その股下を滑り抜け、通り抜けると同時に跳躍。続く三体目の頭上を取り、思いっきり踵を振り下ろす。肉が潰れた感触が伝わってくる。が、少し浅いのぅ! どれ、もう一発蹴飛ばして……!
「っと!」
脳無の肩に乗り頭を蹴飛ばそうとしたところで、先程無視した脳無が振り向き様に拳を振るってきた。蹴るのは止めて、無理矢理跳ぶ。少し高く跳び過ぎた。脳無達が、一斉に儂を見上げる。
うむ、気色悪い面じゃ! どいつもこいつも脳みそを見せびらかしおって! 全部潰してやるから、覚悟しておけっ!
「げっ」
儂を目で追った脳無達が、一斉に手を掲げる。その直後、様々なものが儂に向かって飛んで来た。骨やら爪やら、空気やら。刃物らしきものまで射出しておる。しかも、そのどれもに呪力が込められている。これは、無傷では済まんの。頭だけを守るために両腕を交差する。
衝撃に備え、歯を食い縛る。呪力を纏い、少しでも威力を軽減できるように身構えた。その時。
「油断、してんじゃねえぇえっっ!!」
ぐえっ。真後ろから舎弟が飛び出してきた。寸前のところで儂を抱き留め、挙げ句正面に向かって大爆破を繰り出した。その反動で、儂も小僧も真後ろに吹き飛ぶ。お陰で脳無からの攻撃を受けずに済んだ。済んだんじゃけど……。
おいっ、貴様……! 儂の邪魔をするなっ。あんな攻撃、別に受けても問題無かったんじゃけど!?
「何で居るんじゃ!? さっさと逃げんか!」
「こっちの台詞だクソチビ! てめえに逃がされるぐらいなら、死んだ方がマシだ!!」
「ふざけるなよっ!? 離せ阿保!!」
こ、こやつ……っ。人の体を容易く抱えおって! 貴様に抱かれても何も嬉しくないんじゃがっ!? そもそも、後で被身子が知ったら儂が大変なんじゃから止さぬか!!
「爆豪、こっちに!!」
「うるせえ死ねっっ!!」
「応っ! やってみな! 来いっ!!」
「かっちゃん、廻道さん!!」
「こっちに、早く!」
おい、おい待てっ。何でそこらの建物の屋根に、緑谷や切島が居るんじゃっ。轟や飯田、八百万に青山まで……! おかしいじゃろっ。連れ去られた儂等はともかく、何で貴様等までここに居るんじゃっ!
さては儂等を探しに来たな!? 余計なお世話じゃっ! 別に儂は一人でも帰れるんじゃっ。常闇と舎弟だけ連れ帰らんかっ、たわけ共!!
「ダークシャドウ!!」
「アイヨ!!」
んぐっ。おい常闇っ、だあくしゃどうに儂を掴ませるなっ。脳無が追って来てるのが見えていないのか!? おいこら貴様等っ、屋根に置いてあるその得体の知れぬ機械は何じゃっ!?
「八百万くん、準備は出来てるかっ!?」
「はい! カタパルト、いつでも行けますわ!」
「よし、後は廻道くんを縛り上げるだけだ! 諸君、縄は持ったな!?」
縄って何じゃ縄って! 何で全員、漏れなく縄を持ってるんじゃっ! まさかそれで儂を縛るつもりかっ!? 被身子以外にそんな真似されたって、儂は悦ばんからな!?
ぐえっ。こらっ、着地するなり全員で寄って集るなっ! 儂を縛るんじゃないっ!! どいつもこいつも……っ!!
あとっ、かたぱるとって何じゃ!?
「全員ロープで繋がったな!? 常闇くん!」
「行くぞ、ダークシャドウ!」
「任セロ!!」
待て、待たぬか貴様等っ。何をする気か知らぬが、儂を抜いて話を進めるなっ。そもそも、何で儂を縛り上げたんじゃ貴様等は! 後で被身子に知られたら、貴様等が責任を取れよ!? 儂は知らんからな!!
この後。くらすめえと達は縛った儂を全員で抱えたまま、かたぱるととやらを使って空へ飛んだ。機械を動かしたのは、だあくしゃどうじゃ。もはや飛んだと言うより、撃ち出されたと言った方が良い気がするが。
まったく。どいつもこいつも儂の楽しみを奪いおって……! 許さんからなっ。絶対、絶っっっ対に許してやらん!!
◆
空を、飛んでいる。いや、吹き飛ばされていると言うべきじゃろうか。とにかく今の儂は、くらすめえと達に縄で縛られたまま空を突き進んでいる。両腕が自由なのが幸いと言うべきか、何と言うか……。
それにしても、かたぱるととか言う機械は凄いのぅ。新たな交通機関になるのではないか? 電車や
……はぁ。そんな事を考えている場合ではない、か。くだらん現実逃避は止めにしよう。儂は無理矢理、戦場から連れ出されてしまったんじゃ。もう戦うことは出来ぬが、それでもやれる事はひとつある。と言うか、やらねばならぬ事がある。それは……。
「ね、ねぇ……? あれ、追って来てない……?」
飛んだまま後ろを見た青山が、震えた声を出す。そうじゃな。確かに追って来ている。脳無の群れが、そこらの建物の屋根の上を跳び移りながら儂等を追って来ている。当然じゃ。儂はまだ呪力を練ったままじゃからの。どういう訳か知らんが、脳無は呪力に反応して襲い掛かる。恐らくは、あの背広男が
呪力を消してしまえば脳無達は儂を追い掛けようとはしない筈じゃけど、それは出来ぬ。恐らく儂を見失った後の脳無は、あの戦場に戻るじゃろう。あそこには多くの
じゃからまぁ。それなりに不服ではあるが、囮となることにした。おおるまいとが思う存分戦うには、儂等や脳無が邪魔じゃからの。
「これ以上近付いてきたら、俺がぶっ殺す!」
儂等は一丸となって空を飛んでいるが、舎弟だけは違う。こやつは自力で空を飛べる。大爆破で飛べば、かたぱるとで飛んだ儂等よりも早く飛ぶことが出来るようじゃ。現に、爆破を繰り返しながら儂等の前を飛んでいるしの。
威勢が良いのは、結構。じゃけど、それだけでどうにか出来るほど呪力と言う力は弱くない。今この場で、追撃して来ている脳無達をどうこう出来るのは儂だけじゃ。抵抗だけなら、緑谷も出来るじゃろうけど。
「貴様には無理じゃ小僧。八百万、弓と矢は創れるか?」
「弓矢、ですか?」
「追い掛けてくる脳無は儂が全て射止める。創れるなら、早く創ってくれ。追い付かれる」
「……出来ましたわ。これでどうでしょう?」
「上出来じゃ。助かる」
流石に、空中で矢を放つ事は経験は無い。
八百万が直ぐに創ってくれた弓を構え、呪力を流し込みながら引いていく。もちろん、矢にも呪力を込める。そして今、やっと術式が回復した。血を
音のように速く飛んでいった一矢は、儂等を追う脳無の肩に突き刺さる。眉間を貫いた方が手っ取り早いんじゃけど、殺人は駄目じゃからの。例え脳みそを見せびらかして居ようとも、見た目が化け物としか思えなくとも、脳無は人じゃ。人間なんじゃ。じゃから、建物の壁や地面に矢で縫い付ける程度に留めておこう。
脳無は、あと何体居る? いや、何体居ようが考えるだけ無駄じゃ。とにかく今は、追い付かれぬようにしなければ。
「もっと矢を寄越せっ」
「はい!」
……それにしても、弓に触れるのは随分と久し振りじゃ。最後に触ったのは……はて? 覚えておらん。しかし勘や腕は鈍っていない、と思いたい。多少軌道が逸れてしまっても、血を付けておけば軌道修正が出来るからの。
さて……。地面に着地するその時までに、なるべく多くの脳無を射止めておかねば。でなければ追われてしまうし、追われなかったとしても
もう楽しむことは出来ぬが、やれるだけの事はやっておいてやろう。
ぐぬぬ……。嫌いじゃこやつ等。儂の楽しみを奪いおって。こうなったら、この場の全員に責任を取って貰うしかない。後で覚えてろよ貴様等っ。儂は拗ねると面倒臭いんじゃからな? まっこと、面倒なんじゃからなっ!?
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ