待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「お帰りなさい、円花ちゃん。無事で安心しました」
い、いかん。これはいかん。まっこと、いかん……! 被身子が、被身子が怒っている。口許は冷ややかな笑みを浮かべているのに、一切目が笑っていない。目元が少し腫れているのは、電話越しに泣いていたからじゃろう。
警察署の取調室で呪術総監部の七山と話した後、儂は帰ることが許されて何故か最寄りの
何せ儂、子供達を守る為に勝手に悪党と取引して、勝手に連れ去られたわけじゃからの。しかも、止めようとする被身子から逃げるような形で。三人が怒るのは当然じゃ。まずは謝って、それから許して貰わなければ。許して貰えるかどうかは、分からんけども。
「円花、ちょっとこっちに来なさい」
父が真顔で手招きしている。右拳が固く握られているので、あれは拳骨待った無しじゃ。素直に受けるとしよう。心配させたのは儂じゃし、危ない目に自ら遭ったのも儂じゃ。
母は黙って事を見守ってくれているようじゃが、次の瞬間にはお説教を飛ばして来てもおかしくはない。
いかん。背中が凍ってきた。早く謝るとしよう。謝らなければならない。しかし、しかしのぅ。これだけ圧を加えられると、流石に気圧されてしまう。う、動き辛い。が、怯んでいる場合ではない。
「し、心配させて……、ごめんなさい」
ひとまず、その場で頭を下げる。これで許して貰えるとは思わん。絶対にお叱りの言葉が幾つも幾つも飛んでくる。儂はそれだけの事をした。あの時はそうするしかないと判断した。全員無事じゃったのは、結果論に過ぎぬ。もしかしたら、儂以外の誰かが傷付いて居たかも知れない。下手をすれば死んでいたのかも。
次からは、もう少し考えて行動を選択しよう。被身子にも、両親にも心配されないように。
足音が、三つする。少しすると、三人の足先が見えた。で、次の瞬間。鈍い音と衝撃が響いた。視界が揺れる。痛い、物凄く痛い。父よ、さては全力で拳骨したな? 儂を叱る時は、だいたいそうじゃ。しかしここまで加減が無いのも珍しい。
いや、儂に文句を言う権利は無いんじゃけども。それで気が済むのなら、幾らでもすれば良いとも思う。
「……頭を上げなさい。そしたら、ちゃんと被身子ちゃんに謝ること。お母さんに叱られること。良いね?」
「う、うむ……。分かった」
頭を上げる。直ぐ見えたのは間近で儂を睨む被身子じゃ。もう冷たい笑みすら浮かべていない。なのに圧の強さは増している。そろそろ睨むだけで人が死にそうじゃ。儂、流石に殺されるか? いや、そんな事は無いと思いたい。被身子を前に身の危険を感じるのは、何だか久しぶりのような……そうでないような……。
悪かった。儂が悪かった。
「ひ、被身子」
「はい」
いかん、声が震える。我ながら情けない。でもでもじゃって、被身子からの圧が凄まじいんじゃもん。
「……すまなかった。勝手な真似をして」
「はい」
「その、じゃから……な?」
「はい」
「今後、同じ事はもうしないから。じゃから、許して欲しい……」
「……」
……。……黙らないでくれ。その顔で睨まないでくれ。もしかして、嫌われたか……? それは、嫌じゃ。勘弁して欲しい。被身子に嫌われてしまったら、どうしたら良いか分からん。今まで、ここまで怒ったことは無かった。拗ねたり不機嫌になったりすることはあっても、こんなに怒ったことなんて一度も……。
うぅ。儂が悪かった。心配させた儂が悪かった。反省しとるから、許してくれ。どうしたら良いか分からないんじゃ。
「……、円花ちゃん」
「何、じゃ?」
「……トガはすっごく怒ってます。一生恨んでも良いかなってぐらい、今回の事はショックでした」
「……すまん」
「でも、円花ちゃんならあんな事をするのは分かってました。きっとみんなを守る為に、あんな真似をしたんですよね?」
それは、そうじゃけど。でも、良くない行動であったのも事実じゃと思う。他に選択肢が有ったかもしれない。子供達を信じて、一致団結でもしていればこんな風に怒られることは無かったかも知れぬ。
……いや、そんな未来は有り得ぬか。儂は、円花で頼皆じゃから。この生き方は、そう簡単には変わらない。変えられない。子供に頼るなんて真似は、絶対に出来ない。じゃって、儂が守らなきゃいけないんじゃから。呪霊から、呪術から、呪詛師から。そして、子供達が身を置く環境からも。子供の命を守る為だったら、儂は何だってやる。正しいか間違いかなんて、関係無い。そう思ってしまう。
それでも。被身子が笑えぬと言うのなら、変えるべきじゃ。別に、こやつの笑顔の為だったら儂は……。…………。
「……本当の事、言って良いですか?」
「う、うむ……。良いぞ……」
「私、円花ちゃんがヒーローやるの反対です。だって円花ちゃん、助けようとしちゃうから。
一度でも面倒を見ると決めたら、見離したりしませんし。爆豪くんとか、緑谷くんとか、飯田くんとか常闇くんとか」
……そうじゃ。儂は子供を見離さない。見離せない。前世から続くこの生き方は、変わりそうにない。子供は守るべきものじゃ。助けるべきものじゃ。大人なんて生き物は勝手にしてれば良いと思うが、子供は別じゃと思っている。
「円花ちゃんがヒーロー科に行くって言った時、本当は嫌でした。すっごくすっごく、嫌だったの。でも、円花ちゃんのやりたい事だから。私を見離さないで居てくれる円花ちゃんだから、応援してあげたいなって思ったのも本当で」
……。知ってる。儂が
「円花ちゃんポンコツですし、私が支えてあげるのも良いかなって思ったりもして……。だから色々、勉強もしました。私に出来ることは、してたつもりです」
それも、知ってる。普段の勉強だけでも大変なのに、法律の勉強をしたり儂の私生活を支えてくれたり。時には、危険が有っても儂と行動を共にして……。
儂が
「でも、もう。またこんな事になるかもしれないなら……、嫌です。
ヒーロー科、辞めてください」
それは。それは……困るのぅ。どうしたものか。儂は呪術師でありたい。呪術師として生きる。その為に
「怖かったです。円花ちゃんは強いから大丈夫って思っても、何かあったらって考えたら……凄く怖くって。またこんな事が続くなら、ヒーローになんてなって欲しくない」
「……」
「……でも、でも。円花ちゃんは私のしたい事をさせてくれます。受け止めてくれて、愛してくれて……。だから私もって、私もそうしたいって思ってるんですよ? 大好きな円花ちゃんと、一緒が良いから」
……、分かった。もう良い。もう良い、被身子。儂が悪かったから。間違えていたから。謝るから、何でもするから……。じゃから、泣くのは止めてくれ。
「被身子」
涙を浮かべる被身子を、抱き寄せる。力いっぱい抱き締めて、背中を擦ったり頭を撫でたりして、少しでも落ち着いてくれたら良いと思って……慰める。
これは儂が招いてしまった事態じゃけど、それでも泣いて欲しくない。そんな顔をして欲しかったわけじゃない。じゃから……。
「……お主と共に生きたい。出来れば、お主より後で……廻道円花として死にたい。渡我円花でも良いけど。
とにかく、お主を残して死ぬような真似はしないと決めてるんじゃ」
「……っ、ぐすっ。私だって、円花ちゃんと一緒に生きます。廻道被身子が良いです。だから、だから……っ」
「ん……。悪かった。悪かったから。じゃから……お主が笑って生きられるなら、別に……ひいろおなんて……」
……
被身子と共にあると。悔いの無い死に方をすると。やれる事は全てやって、被身子と生きると。その誓いを、決して違えないと決めている。
別に
「……辞めるよ、ひいろお科。もう、心配させないから」
「……ほんと、ですか?」
「はい、ちょっと待ってね二人共。お母さん、それはちょっと見逃せないなぁ」
「輪廻ちゃん……?」
ここまで沈黙を保ってきた母が、口を開いた。真顔じゃ。余程儂と被身子に文句が有るように見える。次はどんな説教が飛び出してくるのやら。億劫ではあるが、話を聞かないわけにも行かぬ。今の儂は、家族に叱られるしかないしの。
「変な方向に暴走するのは止めなさい。特に円花、被身子ちゃんに譲歩し過ぎ」
「いや、そんなつもりは……」
「口答えしない」
んぐっ。唇を指で摘まむな。何するんじゃっ? まさか母もせくはらするつもりか? 被身子だけで手一杯じゃから、勘弁して欲しい。
「円花が被身子ちゃんを愛して、恋してるのも知ってる。大切で大好きだから、基本的には何でも許してあげちゃうものね。
そういう気持ちは分かるし、尽くす事が悪いとは言わない」
「むぐ……」
おい、いつまで唇を摘まんでるつもりじゃっ。変な真似をするな母。話なら黙って聞くから、離してくれ。せくはらじゃぞ、せくはら。家庭内せくはらじゃこれは。せくはらするなっ。
「でも、だからって円花が何かを諦めるのは違うの。被身子ちゃんだって、円花が犠牲になるのは違うって思うでしょ?」
「それは、……はい。そう思います」
「知っての通り、円花は頑固だから。だから、ここでヒーロー科を辞めたってこの子は絶対に同じ事を繰り返すわ」
「むぐぅ」
いや、そんな事は無い。もう被身子を心配させるような真似はしない。
「だから、折り合いを付けなさい。差し当たって、お互いが納得出来るよう相談し合うこと。円花がヒーロー科に通い続けて、被身子ちゃんが心配しない都合の良い方法を二人で探しなさい」
……何じゃそれ。何でそんな訳の分からん事を言うんじゃ。被身子に心配を掛けないように
それに。親玉を失った
なのに、お互いが納得出来る形を二人で模索する? 話が平行線を辿るだけな気がするんじゃけど……。
「愛し合うのも良いけど、たまには喧嘩すること。どうなったか結果だけ教えなさいね。
あと円花、免許取るまで許可は出さないから」
母め。また魂を読みおったわ。許可が出ないことは分かってたことじゃけど、出して欲しかったのが本音じゃ。まぁ……仕方ないの。両親に更なる心配をさせるような真似はしたくないと思っているし。
それにしても、喧嘩……? 被身子と、喧嘩……? いや、そんなの出来ぬが。じゃってこれまで、被身子と本気で喧嘩したことはない。戯れの範疇ならば有ると言えるが、お互いを傷付け合うような喧嘩はろくにしてこなかった。したいとも思わん。
つい、被身子の顔を見詰めてしまう。被身子も同じ事を考えているのか、瞬きを繰り返しながらも儂を見詰める。さっきまでの凄まじい圧は、気が付けば消えていた。
「じゃあ、しますか? 喧嘩」
「どうやって」
「ええっと、そこは……ほら。お互いの不満を言い合うとか……ですかね……?」
「無いが」
有るわけ無いんじゃ、被身子に不満など。結局儂は、被身子に振り回されていることが好きで。気が付いたらそうなっていて。まぁこれは、口が裂けても言うつもりは無いんじゃけど。
絶対に言わん、言わんったら言わん。じゃって、何か負けたような気がするし。儂がこやつに勝てないのは良いが、それはそれとして敗けを認めるつもりは無いからのぅ。
「……取り敢えず、部屋行きましょうか。疲れてますよね……?」
「まぁ、そうじゃけど……」
そうなんじゃけど。でも、その……もう少しぐらい抱き締めていたい。じゃってほら、雄英に入ってから離れ離れになったことはないし。昨日の夜は、一緒に寝れなかったし。じゃからほら、少しぐらい被身子を堪能したい欲求が……無いと言ったら嘘になる。自分勝手な振る舞いなのは、重々自覚してもいるが。
喧嘩をする前に、このくらいはしていても良い……よな?
18話、三年生じゃ。にてトガちゃんが微妙な反応をしていた件についての回収回になります。大事な人が一生居なくなるかもしれない事態にトガちゃんが耐えられる気がしなかったので流石にね? と言うことで。
本当はもっと早い段階でやりたかったんですが、気が付けばこんなタイミングに……。あるぇ……??
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ