待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
喧嘩、喧嘩て……。被身子と喧嘩なぞ、本気ではしたことが無い。意見の衝突すら珍しい。大抵は儂が振り回されて終いじゃし、それも悪くないと思っているのも事実で。
そもそも、じゃ。誰だって人に言われて喧嘩などしないじゃろ? じゃからほら、儂はしない。と言うか出来ぬ。被身子が本心から望むのであれば、もう
「……」
「……」
「……」
「……」
……、沈黙が重い。儂は
今は何を話しても、駄目な気がしてならない。余計に被身子の機嫌を損ねてしまうような気がして、話辛い。
「円花ちゃん」
「……、何じゃ?」
「します? 喧嘩」
「いや、しないし……。そもそもどうやって……?」
「んん……やっぱお互いの不満をぶつけ合う、とか?」
「じゃから、無いんじゃけど」
被身子に対する不満は、まるで無い。強いて言うなら毎晩儂を抱こうとすることぐらいで。じゃけどそれも、被身子からの愛情表現じゃと思ったら嫌ではなくて。こやつが儂にお熱なのは知っているし、儂も……最近はそうじゃ。喧嘩しようにも、喧嘩する理由が無い。少なくとも、儂には。
「今回の件で、怪我……しましたよね?」
「したのぅ。直ぐに治したが」
危うく死にかけた、と言うのは内緒にしておこう。隠し事をするのは忍びないが、これ以上泣かれたくない。今だって、まだ泣き出しそうな顔をしているし。
笑って欲しい。昨日は見れなかった。今日も、まだ笑顔を見ていない。なのに、笑ってくれない。儂が悪いと分かっていても、それでも笑顔が見たいと思ってしまう。
「……ボロボロの円花ちゃんを見れなかったのは、不満です」
「いつも血塗れにしとるくせに」
「それはそれ、これはこれなのです。
……円花ちゃん。何で、一人で行っちゃったんですか? 私を置いて、みんなを置いて」
何でって、それは……。決まってる。
「……少し呪術的な話になるんじゃけど、良いか?」
「はい。ちゃんと説明してください」
「縛り、と言うものが有っての。簡単に言えば必ず守らなければいけない約束で、破れば何かしらの罰が下る。儂はそれを、悪党の親玉としたんじゃ」
「どんな約束ですか?」
「儂が話し合いに応じている間、被身子や両親……くらすめえと達に危害を加えない。画策もしない。そしてこの事は誰にも話さない。
……そういう縛りじゃ」
そう。じゃからあの時、儂は被身子達を置き去りに一人で動いた。そして
両親を、子供達を……何より被身子を守る為にした事じゃ。勝手に決めて、勝手に動いて。結果、色々と大変な事になってしまったがの。
まだ何の声明も出ておらんが、おおるまいとは恐らく引退するじゃろう。元々長くは戦えない体じゃったし、あの背広男との戦いで死力を尽くした。個性の残り火を使い切り、それを
「……私達を悪い人から守る為に、一人で動いたんですか?」
「そうじゃ」
「何で、そんな真似するんですか……っ」
「それが、儂の生き方じゃから」
何でと言われても、それが儂の主義じゃ。力の振るい方、呪術師としての方針は子供の命を守ることが最優先。次点で、儂個人が猛者と呪い合うこと。子供の命は、何がなんでも守る。手の届く範囲に有る子供を見捨てるような真似はしない。したくない。じゃけどそれはそれとして、猛者と命懸けのやり取りをしたい。じゃって、戦うことが大好きじゃから。それでこの命を終わらせて良いと思う程に、愛おしいから。
まぁ、もう呪術師として死ぬ気は無いから流石に命を終わらせてはならぬけど。
呪術師として生きる。じゃけど被身子と共に生きる。そして、呪術師としては死なん。
……我ながら面倒な生き方を選んでしまったものじゃ。お主のせいじゃお主の。責任取れ、馬鹿。
「儂はどうしても、子供の命を守りたい。見捨てたくない。それはずっと昔からそうで、今更変えられないんじゃよ」
「……だから、死んじゃうかもしれない事を平然とやるんですか? 私を、置き去りにして……っ?」
「死なんよ。何処に行ったとしても、必ず生きてお主の居る所に帰ると決めてるからの。
じゃから、こうして帰って来たじゃろ?」
「誰にでも、そうするんですか? 子供だったら、誰でも良いんですか?」
睨まれた。涙が溢れそうな瞳で、真っ直ぐ睨まれた。納得は、してくれそうにない。一生許されないかもしれない。一生、恨まれるのかも。それだけの事を儂はした。被身子を、子供達を守る為に……こやつに酷い事をしてしまったんじゃ。
「違う。儂の手の届く範囲だけじゃ。儂が守りたいのは、儂の目の前で危険に晒された子供だけじゃからの。それ以外は、とっくに諦めてる」
結局何をどうしたって、儂一人に出来ることは限られているからの。おおるまいとのように、何処へでも駆け付けて誰も彼も助けるなんて真似は出来ぬ。そんな事は、一度死ぬ前から知っている。儂がまだ加茂頼皆でしかなかった頃、身を以て学んだ事じゃ。
じゃから、じゃから儂は手の届く範囲でしか守らん。不平等に子供を助ける。今はその中に、くらすめえと達が居る。もちろん、被身子や両親も。
それ以外の命は、見捨てるしか無い。その事に何も思わないわけでは無いが、とっくに割り切っている。無理なものは、無理じゃからのぅ。
「誰を守るかは、儂が不平等に決めている。今はお主と、くらすめえと達。後は母と父だけじゃ」
「……だったら、ちゃんと側で守ってください。一人で遠くに行かないで、私の隣に、居てくださいっ。離れ離れなるのは、ヤです。絶対、絶対に……っ!」
「一人にさせて、すまなかった。お主には儂しか居ないのに、あの時は置いて行ってしまって」
「……まったくなのです。許しませんから。こうなったら、一生隣に居てくれないと許してあげません」
それは、いちいち言わないで欲しい。こんな時でも気恥ずかしくなってしまうから。そもそも言われなくたって、とっくにそのつもりじゃ。儂とお主は結婚するんじゃから、離れようがない。一生、お互いがお互いの隣に居続けることになる。
そうありたいと、願う。じゃから、その為に……。
「改めて約束する。お主と結婚して、一生隣に居る。あと、ひいろお科も辞めるから。それで許してはくれぬか?」
「……、……嫌です。嫌。ヒーロー科に居て欲しくないけど、本当に辞めて欲しいなんて思ってません! そんな風に笑って……簡単に辞めるなんて言わないでっ」
……。いや、何を言ってるんじゃ。訳が分からん。じゃって、被身子は儂が
まったく、仕方のない奴じゃ。何でお主はこう、自由奔放なのか。たまには振り回される儂の身になれ。なんて、今は言えぬけど。
「円花ちゃんは、私を受け入れてくれました。これまでだって、これからだって、私の好きにさせてくれるのも分かってます」
そうじゃの。儂はこれから先、幾らでも被身子の好きにさせるつもりじゃ。お主が欲しがるなら、血でも体でも心でも……何もかも捧げてしまって良いと思う。
見えない未来も、消せぬ過去さえも。
……そうしたいと思う程、大好きじゃから。愛してるから。何でもしてあげたいと、思ってしまうから。
「そんな円花ちゃんのしたい事を、やりたい事を、否定したくないのっ。私は、あの人達と一緒になりたくない! でも、怖いのも本当で……!
私、私……どうしたら良いんですかぁ……っ」
……、あぁ……。情けない。情けないのぅ。儂は、また間違えていたのか。どうやら儂は、被身子の事になると冷静では居られないらしい。正しい判断が出来ず、間違ったことをしてしまう。
そうじゃよな。ここで儂が被身子の言う通りにしてしまったら、被身子に譲ってしまったら……
こやつは儂のしたい事を否定したことになってしまう。そうしたら、あの毒親共と同じになってしまう。それは駄目じゃ。被身子をあんな輩と同じにしたくない。
それに。責任は取ると決めたんじゃ。
じゃから……。
「すまなかった。
……被身子、儂は呪術師としても生きたい。その為に、どうしても免許が欲しい」
「……、はい」
「じゃから、ひいろお科は辞めたくない。ひいろおには、ならんのじゃけど」
「円花ちゃんは、とっくに私のヒーローです。私の、私だけのヒーローなんです」
「そうかの……?」
そんなつもりは無いが、でも被身子がそう言うなら、きっとそうなのじゃろう。少なくとも、こやつの中ではの。儂はそうは思わん。悪いけど。
「そうなのです。でも、やっぱりヒーロー科はヤだなって思っちゃうのです。円花ちゃんのしたい事、応援したいのに。支えたいのに……っ、怖くて……!」
「でも、認めて欲しい」
「認めません。だってヒーロー科に居たら、円花ちゃんは誰彼構わず守っちゃいますし。それに、円花ちゃんが怪我した姿を見たら……きっとみんなメロメロになっちゃうのです」
いや、それはお主だけじゃって。拗ねた顔で訳の分からん事を言うな。そもそも、くらすめえと達の中に、お主のような趣味嗜好をした輩はおらん。おらん筈じゃ。……、まさか居るのか? 被身子みたいな物好きが?
それは……何だか恐ろしい気がする。そんな危険人物は、放っておけん。早急に何とかしてやらねば。だ、誰じゃ!? 誰が被身子と同じ趣味を持ってるんじゃ……!?
……はっ!? そう言えば儂を変な目で見る奴が一人だけおるのっ。峰田か、峰田なのか……っ!?
「ヒーロー科は辞めて欲しいのです。でも、私はあの人達みたいになりたくないです。だから、円花ちゃんがどうしてもって言うなら……信じさせて。大丈夫だって、安心させてくださいっ。そしたら……譲歩しても、良いです……」
「……」
どっちなんじゃ、もぅ。辞めろと言ったり、辞めるなと言ったり。譲歩するとは言っているが、心底嫌そうにしている。かと言って儂が
……、面倒な奴じゃ。知っていたけど。そうやって儂を困らせて、振り回して。じゃけど、こやつのそんな所も……愛しく思う。
どうしたら良いんじゃ、儂は。どちらの選択肢を取ろうとも、被身子は確実に不機嫌になってしまう。こんな理不尽な二択がこの世に有って良いのか? まっこと、勘弁して欲しい。勘弁して欲しいが……選べるのはどう考えたって一つしかない。
「……ひいろお科は辞めない。じゃから、約束する。もう心配させない。怖い思いも、させないから。
どうか、許して欲しい」
被身子を、あの二人と同じにするわけには行かぬから。じゃから、儂は
「むぅーーっ。そう言われると、狡いのです。狡です狡っ。私が駄目って言えないの、分かってるくせに」
「……すまぬの。たまには儂が振り回したって、良いじゃろ?」
「んん……。無し、とは言えません。だからぁ……、はいっ!」
「……?」
何じゃお主。不満そうな顔のまま、急に両腕を大きく広げおって。儂を睨んだまま変な格好をするな。
「今日は、円花ちゃんが押し倒してください。安心させてっ。トガを抱けたら、全部許してあげるのです」
……。……、いや……何を言って……。儂が、被身子を? 押し倒す?
そんな事言って、どうせ途中から儂を押し倒すつもりじゃろっ。知ってるんじゃぞ。途中で我慢出来なくなって、儂を辱しめるのはお見通しじゃ。
でも。それが被身子の望みなら。お主が心からそうされたいと思ってるなら、してやらんでもない。とは言え……。
何じゃ、これ。何で儂は今、急に緊張しているのか。別に被身子を押し倒すぐらい、なんて事は無いんじゃけど? 何なら抱かれる度に、いつか押し倒すと密かに誓ってるんじゃけど??
まぁ今まで、そんな機会は一切無かったんじゃけど。
「抱けないんですか? 特別に、トガの抱き方を教えてあげても良いですよ?
あぁでも、円花ちゃんはポンコツですし、愛してるも中々言えない甲斐性無しのヘタレですし、土台無理なお話でしたねぇ……」
「……喧しい。そこまで言うなら、……良いじゃろう……!」
誰がぽんこつじゃ。誰が甲斐性無しじゃ。そこまで言うのなら、今日と言う今日は分からせてくれる。一度は儂に負けてしまえば良い。被身子の阿呆。たわけっ。へんたいっ!
「きゃー、円花ちゃんのえっち♡」
頭に来たから勢いで押し倒すと、わざとらしい悲鳴を上げられた。さっきまでの不満顔は何処に行ったのやら。気が付けば、挑発的に笑っておる。その笑顔も悪くはないが、儂が見たいのはそうじゃなくて……。
ここから、どうすれば笑ってくれるじゃろうか。いつもの笑顔を、今はもう大好きなあの笑顔を、どうやったら見せてくれるのか。それに、勢いで押し倒したは良いものの……ここから何をどうすれば……。儂は、どうされてたっけ……?
いかん。変な緊張が続いて、何も思い浮かばん。でも、あれじゃ。多分あれじゃあれ。今回は儂が振り回されるんじゃから、いつも被身子にされているようにすれば良いんじゃ。なら、まずは……。まずは……。
「んっ」
「ぁ……っ♡」
首に、噛み付いてみるか。
※トガちゃんに煽られてトガちゃんを抱いたので、円花の敗北です。その内、詳しい様子を書くつもりです。
楽曲コードの使用は、多分これであってる筈……!
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ