待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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誕生日前日。

 

 

 

 

 

 明日は、八月七日。被身子の、そして儂の誕生日……なんじゃけど。今日は朝から困ったことがある。それはの、被身子に贈る誕生日ぷれぜんとを用意し損ねていた事じゃ。

 いかん、まっこといかん。お互い、毎年何かしらの贈り物を贈り合うようにしているんじゃけど、今年の儂は何も用意出来ていない。言い訳をするなら、買いに行く暇が無かった。当初の予定じゃと、林間合宿が終わった後に買いに行くつもりじゃったんじゃ。でも、拉致事件が有ったからのぅ。

 そのせいで儂、しばらく外出は自粛しろと警察に言われておる。そして両親からは、外出禁止を言い渡された。こうなってしまうと、贈り物を用意することが出来ぬ。自業自得と言えばそうなんじゃけど、早急にどうにかしたい。ただでさえ被身子の機嫌を損ねてしまっている身分じゃ。ここで誕生日ぷれぜんとを用意出来なかったなんて、口が裂けても言えぬ。じゃからもう、こうなったら仕方ない。こういう時は……!

 

「常闇っ、助けろ! 儂を助けろ!」

 

 友を、頼ろう。どうせ暇してるじゃろうと思って、儂は藁にも縋る思いで常闇に電話した。電話の向こう側では、常闇が呆れている。じゃって仕方ないじゃろっ。予定が台無しになったんじゃから! 儂、新学期まで外出禁止なんじゃ!

 

『……急にどうした?』

「被身子の誕生日ぷれぜんとを用意していない」

『……』

「おい、呆れるな。儂じゃってこんなつもりは無かったんじゃっ」

『つまり、今から買い物に付き合えと?』

「それがの、実は外出禁止で……」

『通販は?』

 

 ……なるほど。通販。あれじゃよな、いんたあねっととか、電話とかで買い物が出来るやつ。たまに被身子が、訳の分からん道具を買う時に使っているやつじゃ。その手が有ったか、常闇……お主天才か? さては天才なのか?

 いつぞやの二月十四日(ばれんたいんでい)の時と言い、こういう時は頼りになる男じゃ。頼もしいの、がははは!

 

 ……で、じゃ。

 

「やり方が分からぬ」

『……』

 

 じゃから、いちいち呆れないでくれるか? 通販なぞ、使ったことが無い。そもそも、いんたあねっとがろくに使えぬ。電話しても良いが、何処に電話したら通販出来るんじゃ? 商店街か? それとも店? 分からん。まっこと分からん。じゃから、是非とも教えて欲しい。父と母は、二人揃って出掛けておるし。儂を置いて被身子の誕生日ぷれぜんとを買いに行くのは狡くないか? 何で儂を連れていってくれなかったんじゃ……!

 

『廻道、済まないが俺も家から出れない。外出自粛中で……』

「……お主もか……」

 

 冷静に考えれば、何もおかしい話ではない。常闇じゃって、悪党(う゛ぃらん)連合に連れ去られてしまったんじゃ。儂が外出自粛しろと警察に言われたんじゃから、常闇じゃって言われているじゃろう。

 ううむ、困った。常闇の力を借りれぬとなると……儂は誰に頼れば良いんじゃ?

 

『だから、今回は力になれない。それと今日の午後に荷物が届くように手配しておいたから、受け取ってくれ』

「荷物?」

『誕生日プレゼント。渡我先輩には期末テストでお世話になったから、そのお礼も兼ねて先輩の分も用意した』

「……相分かった。受け取っておく」

 

 律儀な奴じゃの、常闇。何だかんだ、毎年誕生日ぷれぜんとを贈ってくれる。どうやら今年は被身子にも用意したらしいの。

 しかし、しかしのぅ……。常闇からの贈り物は大抵ろくなものではない。今まで貰った物のだいたいが押し入れ行きになっておる。恐らく今年も、押し入れの奥にしまわれることになるじゃろう。下手をすると、今年は被身子の分も。

 

 常闇は、贈り物の感性(せんす)が独特を通り過ぎて意味不明なんじゃ。去年は過去最高に酷かった。何で真っ黒な包帯を送ってきたんじゃ。お陰で被身子と首を傾げることになった。それも長時間。

 

『じゃあ、また学校で。廻道、渡我先輩を大切にしよう』

「言われなくとも、しとる。また学校での」

 

 ……。……さて、困った。かつて無い程に困っているのに、更に困る事態になってしまった。常闇に頼れぬ。電話は切られてしまった。このままじゃと、何も用意出来ない。どうにかしなければ。誰か、誰か頼りになりそうな奴はおらんのか? こうなったら……片っ端からくらすめえと達に電話を掛けて聞くしかない。いやいっそ、全員に掛けてしまおう!

 

「電話。くらすめえと達」

 

 携帯電話(すまほ)を音声操作すると、画面が勝手に動き(らいん)とか言う機能(あぷり)が動き始める。程無くして呼び出し音が鳴り始める。誰か出てくれると良いんじゃけど。この際、誰でも良いから儂を助けてくれ。

 

 お、繋がった。

 

『あれ、廻道? クラス全体に電話なんて、どったの?』

 

 真っ先に通話に出てくれたのは、芦戸じゃ。今はその明るい声に救われる。普段は喧しい奴とか思って済まなかったの。今度、直に謝るとしよう……。

 

「……助けてくれ。被身子に誕生日ぷれぜんとを用意したいんじゃが……」

『えっ、渡我先輩の誕生日いつ? 一緒に買いに行こっか!』

「芦戸……! 実は、明日でのぅ。それで儂、実はこの間の件から外出禁止で……」

『あー……』

 

 おい。何で急に乾いた笑みを浮かべた。いや、電話じゃから顔は見えぬけど、今絶対そんな感じの笑みを浮かべたじゃろっ。分かるんじゃぞ貴様。

 

『廻道さん? 皆さんに電話なんて、どうかしましたか?』

『あー、聞いてよヤオモモ。廻道、明日渡我先輩の誕生日なのに何も用意してないんだって』

『なるほど……! では、これから皆さんで渡我先輩へのプレゼントをご用意なさるのですね!?』

『それなんだけどー、廻道が外出禁止。ほら、この間の件でさ』

『……それは、……ええっと……』

 

 八百万も電話に出た。と思ったら、今度は困った笑みを浮かべられた。気がした。

 

『おはよう円花ちゃん、三奈ちゃんにモモちゃんも。朝からどうかしたのかしら?』

 

 今度は梅雨が電話に出た。もしかして、儂はいちいち電話を掛けた理由を説明して……その度に呆れられるのか? それは、正直勘弁して欲しい。勘弁して欲しいんじゃけど、もはや儂一人の力で被身子への贈り物を用意することは叶わぬ……っ。

 

 でも、背に腹は変えられんっ。多少のぽんこつ扱いは許容してでも……!

 

『梅雨、実はかくかくしかじかでさぁ。廻道がポンコツした』

『あぁ……。ポンコツしたのね』

 

 いや、やはり駄目じゃ。ぽんこつ呼ばわりされとうない。誰がぽんこつじゃ、誰がっ。今回のは仕方ないじゃろ。元々、日程に無理があったんじゃ。それに外出禁止にさえなっていなければ、問題無かった! くそっ、別に無事じゃったんじゃから出掛けたって良いではないか……っ!

 

『おはよう諸君! 廻道くんからクラス全体に電話とは珍しい! どうかしたのか!?』

『おはよーみんな! 廻道ちゃんから電話なんて珍しいね? どうしたの?』

『おはよう。廻道さん、どうかしたの?』

 

 続々とくらすめえと達が電話に出てくる。この調子じゃと、既に相談済みの常闇以外の全員が参加してくれるじゃろう。三人よれば文殊の知恵と言うし、その三倍近い人数が集まればきっと何か良い案が出てくる筈じゃ。そう信じたい。そうでなければ困る。もはやこの問題は儂一人ではどうしようもないんじゃっ。

 

「円花ちゃん、朝ご飯冷めちゃいますよ?」

「ひ、被身子……!」

 

 いかん。被身子が部屋に戻ってきた。電話の内容を聞かれるわけにはいかん。どうにかして誤魔化さなければならぬ。ど、どうやって……?

 

「あ、電話中でしたか。誰とですかぁ?」

「……く、くらすめえと達と」

「みんなと? 珍しいのです。どうかしました?」

「な、何でもないぞ? 気紛れじゃ気紛れっ。がはははっ! 通話終わりっ!」

 

 うっかり誰かが(まこと)の事情を話したら大変なことになるので、慌てて通話を切って携帯電話(すまほ)を畳んである布団の上に放り投げる。良し、この場の窮地は脱した。ひとまず朝食を食べて、後で隙を見てもう一度くらすめえと達に電話しよう。多分もう芦戸辺りから、全員に用件が伝わっているじゃろう。何か携帯電話(すまほ)が連続して震えておるし、何かしらの打開策が提案されている筈っ。そう信じさせてくれ……!

 

「んー? 何か隠してません?」

「い、いや、そんな事はないっ。ほら、儂が被身子に隠し事なんてする筈無いじゃろ……?」

「……」

 

 さ、探るな。そんなにじっと見詰めるな。母のように魂が見えるわけじゃないが、被身子はそれなりに儂の心を読む……事がある。頼むから詰め寄らないでくれ。うっかり話してしまうかも知れぬし、見破られる可能性が高い。

 

 とにかく、何がなんでも誤魔化さなければっ。

 

「もしかして、出掛けようとしました?」

「外出禁止じゃから、そんな事は無いっ」

 

 出掛けたかったのは本音じゃけども。

 

「ですよね。ってなると……あぁ。もしかして誕生日プレゼント、用意し損ねました? そのくらいしか焦る理由がないですよね?」

 

 ぎくっ。

 

「……そ、そんな事は無い、……が?」

「ほんとですか?」

 

 真顔でじっとり見詰めないでくれ。冷や汗が止まらぬから。

 

「う、うむ。ちゃんと用意して……」

「ほんとですか?」

 

 圧を掛けないでくれ。つい挙動不審になってしまう。

 

「……実は用意出来そうにない……」

 

 うむ……。やはり嘘は良くないの。まっこと良くない。じゃってほら、どうせ被身子には見破られてしまうし。隠し事はしても、嘘は駄目じゃ嘘は。観念して素直に謝ろう。もうどうしようも出来なさそうじゃし……。

 

「す、すまぬ。決して忘れていたわけじゃ……いや、後回しにしてたのは儂なんじゃけど! でもでもじゃって買いに行く機会が無かったと言うか、そもそも外出禁止にさえならなければ……!」

 

 ……出るわ出るわ。何とも情けない言い訳が。こんなつもりは無かったんじゃけど、こんな事になってしまった。情けなくも慌てている儂を見た被身子は瞬きを繰り返し、それから小さく微笑んだ。

 

 ……被身子? 怒ってない……? もしかして、怒らない……??

 

「もぅ、そんな事で怒りませんよぉ。私を何だと思ってるんですか」

「……、悪女?」

「それが嫁に言う言葉ですか?」

 

 あ、いかん。素直過ぎるのもいかん。つい口から出てしまった。すまぬ、儂が悪かったから睨まないでくれ。

 

「まぁ、円花ちゃんが忙しかったのは知ってますし、実はトガも用意するのが遅くなっちゃったんですよね。何とか間に合いましたけど」

 

 今度はじっとり睨まれる。距離が近付いたのは決して気のせいではない。圧が凄まじいので、反射的に半歩下がってしまった。そしたら、半歩距離を詰められて抱き寄せられた。

 

「じゃあ今年のプレゼントは……一日、トガの言うことを聞いてください。それで許してあげます」

「う、うむ。一日、被身子の言う通りにする……」

「んふふ。言質取っちゃいました。明日が楽しみなのですっ!」

 

 ……これは、もしかして……。儂、今とんでもない事をしてしまったか? 被身子が大層嬉しそうに笑っている。何か、何か嫌な予感がする。しかし、しかしじゃ。悪かったのは儂。被身子は条件ひとつで許してくれると言うんじゃし、ここは真摯に応えるしかない。

 

 でも、何かこう……嫌な予感がするんじゃ。明日は大変なことになるぞと、本能が叫んでいる。蛇に睨まれた蛙と言うのは、こんな気持ちなのかも知れぬ。でも……。

 

 被身子が笑ってくれたから、それで良しとする。そう思うことにする。明日は被身子の誕生日。出来る限り、盛大に祝わねば……!

 

 

 

 









三人称による補完は要りますか?

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