待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
くらすめえと達が集まる居間で夕飯を食べ終えた後。儂は被身子と一度部屋に戻った。もう夜も遅い時間で、そろそろ寝た方が良い。じゃけどその前に、幾つかやるべき事が有るんじゃ。その内のひとつは、明日の件について被身子に白状すること。呪術総監部の事に、これから置かれるであろう儂の立場についても、洗いざらい全て話す。その上で、被身子に納得して貰いたい。説得は、決して簡単では無いけれど。
それでも、説得するしかない。何せもう、儂や被身子だけの問題ではない。緑谷やおおるまいとが巻き込まれた今、儂だけが呪術総監部から離れることは出来ないからの。
何より、儂は呪術師として生きたい。もちろん被身子と共に生きる。どちらかを選ぶだけでも大変なのに、両方選びたいと思ってしまうのは……ただの我が儘じゃろうか? でも、どちらも諦めたくない。呪術師も、被身子も。じゃから……。
「神野警察署で、呪術総監部の奴が話を持ち掛けて来ての。要は、儂を呪術師として雇いたいそうじゃ」
座布団の上で。対面に座る被身子に、何が有ったのかを正直に話す。まずは全て話して、それから説得じゃ。被身子は、儂を信じてくれている。心配してくれている。それを蔑ろには出来ぬ。
好きじゃから、巻き込みたくないと思っているのも事実なんじゃけど。
真っ直ぐ瞳を見詰めると、見詰め返される。儂の話を、一旦は真剣に聞こうとしてくれている。それが嬉しくて、だけど申し訳なくて。
「……今朝、応接室に呼び出されたのは呪術総監部絡みじゃ。儂に調査を依頼したくて、接触して来た。呪力を持っていると言う理由から、緑谷やおおるまいとも総監部に目を付けられておる」
「呪術総監部、って言うのは……?」
聞き慣れない単語に、被身子が首を傾げた。
「まぁ、ひいろお公安委員会みたいなものじゃ。呪術師を管轄して、呪霊や呪詛師による被害の対処や防止にあたる」
「ん、なるほど分かりました。じゃあその総監部の人達が、円花ちゃんや緑谷くんに呪術師としての活動を依頼したってことであってます?」
「そうじゃ。今回は呪霊の調査。可能なら解決って形じゃの」
「……でもそれ、個性使用法に抵触しますよね? 円花ちゃんも緑谷くんも、ヒーロー免許は持っていませんし。その辺りは……?」
確かに、被身子の言う通りじゃの。儂も緑谷もまだ
「個性特許……、個性特別使用許可証とやらが与えられるそうじゃ。まだ貰っとらんけど」
「それって、ヒーロー免許みたいな物なのです?」
「うむ。儂が呪術師をやる上で必要な物はそれだけで満たせるらしい。効力としては、ひいろお免許みたいなものじゃと思う」
「それ、貰うんですか?」
「……貰うつもりはない。そもそも断るつもりじゃったんじゃ。でも、緑谷がの……」
そう。呪術総監部の話を受けるつもりは、儂には無かった。両親の許可が必要と七山には言われたし、母には免許を取るまで許可しないと言われていたしの。それに、被身子に心配させたくなかったんじゃ。
なのに、緑谷め。簡単に安請け合いしおって。正直な話、おおるまいとにでも任せておけば良かったんじゃ。呪術師になるつもりが無いなら、総監部の話など無視すれば良い。でもあやつは、無視せずに向かい合った。自分が呪力を持っているから、なんて理由で。お陰で、儂も依頼を受けることになってしまった。
術師の家系に生まれ術式に恵まれ、その上で呪術師を目指すと言うなら儂じゃって反対はしない。その場合は徹底的に鍛えてやるだけじゃ。けれども緑谷は個性で呪力を獲得してしまった非術師じゃ。そもそもが
なのに、儂を独りにさせたくないなんて理由で依頼を請け負った。どうにかしとるぞあやつ。頭が狂っとるんじゃないか?
……皮肉なことに、頭が狂っとらんと呪術師など出来ないんじゃけどな。そういう意味では、困ったことにあやつには素質がある。緑谷の助けたいと思う気持ちは、常軌を逸しているからのぅ。まぁ平和の象徴の後継になると決めている時点で、常軌とは無縁じゃとも思うが。
「……困ったさんなのです、緑谷くん。でも、そういうところ有りますよね」
ほら見ろ緑谷。被身子ですら引いとるぞ。少し考えを改めた方が良いんじゃないか?
「じゃから放っておけない。依頼を受けるしかなくてのぅ」
「……円花ちゃんなら、そうしちゃいますよね。むしろそうしてくれなかったら解釈違いですけど」
解釈違いて。何の解釈じゃ何の。また訳の分からんことを言っておる。まぁ、良い。ひとまず被身子は、反対ではない……のか?
「私に、常闇くん。爆豪くんに飯田くん。そして、緑谷くん。体育祭では轟くんも気に掛けてましたよね?
……そうやって、いったい何人の面倒見るつもりですか?」
「じゃって、子供は儂が守らないと……」
「円花ちゃんだって子供なのです。その辺り、自覚してますか?」
……。……いや、まぁ。してないわけでは、無いが。精神はともかくとして、肉体は子供そのものじゃ。未成年じゃし、どうしてもやれる事は限られている。何かするにしても保護者の力添えは必要じゃし、この超常時代は平安時代と違って子供だけでは生きて行けぬ時代じゃ。
じゃから、嫌でも自覚させられる。結局今の儂は子供でしかなくて。でも、それをいちいち気にしていたら何も出来ぬ。
「そういうとこ、あんま緑谷くんと変わらないのです。分かってます?」
「いや、あれとは違うじゃろ。一緒にしないでくれ」
「同じですよ。誰かの為に飛び出してしまうなら、何にも違いません」
「……」
ぐぬぬ。そう言われると、言い返せぬ気がする。でも被身子、それでもやっぱり儂と緑谷は違う。儂が守りたいと思うのは子供とお主、そして家族だけじゃ。緑谷みたいに動くことはない。
「円花ちゃん。私と、何て約束しましたか?」
「心配させない。怖がらせない」
「はい、そうです。でも今、心配してますし、怖いのです。円花ちゃんの嘘吐き」
「……」
「でもこの約束は、土台無理な話なのです。円花ちゃんがヒーローやるにしても、呪術師やるにしても、トガはどうしても心配します。どうしても、怖くなっちゃうのです」
……なら、儂はどうすれば良いんじゃ。やはり、
でも、お主は信じて待つと言ってくれたではないか。絶対信じるって、言っていたのに。
「……明日の深夜、必ず帰ってくるって約束してください。信じて、待ってますから。
あと、余裕があったら電話してください。緑谷くんと仲良くしないでください。オールマイトとも駄目です。出来ればバイト中、常に私を考えてください。それから、えっと……今から抱いてください。朝まで離れちゃ嫌なのです」
「ひ、被身子……?」
いや、そんな色々と言われてもじゃな……。最初の方と最後の方はともかく、途中のは守れぬか分からぬぞ……?
と言うか、迫るな迫るな。真顔になって、押し倒しそうな勢いで近付いてくるな。圧が凄いんじゃ。思わず後ろに下がってしまうじゃろ。
「帰って来たら、キスしてください。ハグもして。もし私が寝てたら起こしてください。あ、夜這いしても良いですよ?
もっと愛してるって言ってください。何回でも大好きって伝えてください。それから、それから……」
お、おい。まだ有るのか……?
「とにかくっ。心配かけた分だけ、怖がらせた分だけ、いっぱいいっぱい私を甘やかして欲しいのです。たぁくさん、安心させてください。そうしてくれなきゃヤです。絶対ヤ。
そうしてくれなかったら、円花ちゃんを嫌いになっちゃうのです」
「そ、それは……、困るのぅ……」
「じゃあ! ほら! まずは抱いてくださいっ!」
ぐえっ。こら、被身子っ。急に押し倒すんじゃないっ。抱かれたいなら、儂に押し倒させろ!
「……してくれないんですか? 嫌いになっちゃいますよ?」
「しないとは言っとらんじゃろ。約束する。今言われたこと、全部ちゃんとやるから」
「……、ほんとですか……?」
「じゃから、するって。何で疑うんじゃ」
「だって、円花ちゃんはヘタレですから。今言ったこと全部、ほんとは私に言われなくてもして欲しいのです」
……悪かったな、へたれで。甲斐性が無くて。じゃって、自分からするのは気恥ずかしいんじゃもん。
でも。でも……もっと、もっと伝えなければ。被身子がこんなにも愛してくれてるように、儂じゃって被身子の事を……。だから、だから……。
被身子の肩を掴んで、少し乱雑になってしまうが互いの上下を入れ替える。その気になれば、このくらいは簡単じゃ。普段好きなように押し倒されてるのは、本気で抵抗してないだけじゃ。
このまま、流れで抱くのは……まぁ別に、難しくはないが? 全然余裕じゃけど??
でも、その前に。どうしても伝えなきゃいけない。聞かなきゃいけない。
「……すまない。心配掛けるのも、怖がらせるのも……許して欲しい。必ず、生きて帰ってくる。被身子の居る所に、儂は戻るから」
「……」
「じゃから、その。良いか? 呪術師になっても。お主には、沢山心配させてしまうが……」
「……」
「……駄目、か……?」
「……」
うぅ……、何とか言って欲しい……。何で黙って見詰めるんじゃ。お主には、お主だけには分かって貰いたい。認めて貰いたい。心配させてしまうけれど、怖がらせてしまうけれど。それでも、それでも儂は……呪術師なんじゃ。呪いを祓って、子供を守りたい。そんな生き方しか出来ないから。そんな生き方しか知らないから。
「……もぅ、仕方ないですねぇ。そんな顔してお願いされたら、断れないのです。だから、許してあげても良いですけどぉ……」
「……本当、か?」
「本当ですよぉ。でもその代わり、毎日愛してるって言ってくださいね」
「な……っ」
な、何を言っとるんじゃこやつ。ま、毎日? 毎日……愛を伝えねばいかんのか?
いや、そんな、それは……気恥ずかしいなんてものじゃ……っ。そもそも、嫌じゃ! そんな交換条件のひとつとして愛の言葉を囁くのは、違うじゃろっ。愛してるって、そんな簡単に言って良いものじゃないと儂は思うんじゃけど!?
「どうしてそんなに、言ってくれないんですか?」
「じゃ、じゃって……その。恥ずかしい、し……それに……」
「それに?」
「……大事にしたい、と言うか……その……。軽々しく、言いたく……ない……」
……何を言わされてるんじゃ、儂は。顔が熱くなってきた。いかん、このままだとまた押し倒されてしまう。今から被身子を抱くんじゃから、それは何としても阻止しなければ。
「円花ちゃんの愛は、言葉にしたら消えちゃうぐらい軽いんですか?」
「そんな筈無かろうっ。言っておくが、それはお主より重いからな!?」
「私より愛が重いんですか? 心外なのです。まるでトガの愛が軽いみたいな言い方して」
「い、いやそんなつもりは……っ!」
「んふふっ。慌てちゃってカァイイねぇ。分かってますよ、円花ちゃんがどれだけ私を愛してくれてるかなんて」
わ、分かってるなら言わせないで欲しいんじゃけど? 何でこれから儂に抱かれるのに、儂を辱しめようとするんじゃお主はっ! そういう所じゃぞ!? そういう所が悪女なんじゃぞ!?
直ぐそうやって悪どい笑みを浮かべて儂を困らせて……っ! まったく!!
「でも、それでも言って欲しいのです。沢山、いっぱい。何回も口にしたら消えちゃうぐらい、円花ちゃんの愛は軽いんですか?」
「……じゃから、軽くないと言って……」
「なら、大丈夫なのです。私は何回も言ってますけど、円花ちゃんへの愛は消えたりしないの。それとも、いつか消えると思ってます?」
「思っとらん」
こやつの愛がどれだけ大きくて重いかなんて、とっくに知っとる。いや、知らぬかもしれん。もしかしたら儂が思っている以上に、大きくて重たいのかも。それこそ、計り知れないぐらいに。
そもそも。口にしたら消えるなんて思っとらん。大事にしたいだけじゃ。大事にしたいから、大事に伝えたいから、簡単に口にするような真似はしたくなくて。
でも、じゃけど。被身子を見てると、思う。別に言っても良いんじゃないかって。言ったって、価値は薄れないんじゃないかって。
何度言われたって、儂は嬉しいから。被身子に愛してるって、何度でも言って欲しく思うから。
……じゃったら。その。気恥ずかしさは、まだ消えぬけど。もしかしたら、一生気恥ずかしいのかもしれんけども……。
「ぁ、愛……してる」
顔を、見詰めて。口にしてみる。ああ、駄目じゃ。恥ずかしくて敵わん。無理じゃこんなの。顔を見て言うのは、まだ儂には早い。気がする。
「はい、はいっ! 私も、愛してます!」
「……愛して、……る」
気恥ずかしいから、被身子の首に顔を埋める。うむ……これなら、言えそうじゃ。顔を見ながら伝えるのは、また今度にしよう。その、明日とか……? いや、明後日。むしろ来週……?
い、一ヶ月後はどうじゃろうか……?
「愛してる。……あと、大好き、……じゃ。お主が、何よりも」
「……!」
ああ、もう。恥ずかしい。気恥ずかしい。顔が熱くて、心臓が喧しくなってどうしようもない。どうしようもない、が……。
被身子が、喜んでくれている。顔は見れぬけど、喜んでいるって分かるんじゃ。少し驚いてるような気がするのは、解せぬけど。
「……好きじゃ。好き、愛してる。お主が、一番愛おしい……」
ぬ、ぐ……。そろそろ、そろそろ……言わなくても良いか? いや、でも。あと少し。一回、いや二回……三回か?
……、……その。とにかく、何度でも。今は、これからは……伝えていこうと思う。変に恥ずかしがってないで。被身子がしてくれるように、儂も被身子に。
「ぁ、愛してる。だから、ずっと一緒に居てくれ」
※バカップルが
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ