待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
ううむ、いかん。寝不足じゃ。昨夜はその、盛り上がってしまった。愛してると伝えるのは、良くないかもしれん。じゃってあの後、抱いて抱かれてを何度も繰り返しすことになってしまって……。嫌ではなかったし、むしろ普段よりも気持ちが昂ってとても良かった。とても良かったんじゃけど、四時間しか睡眠が取れなかったのは良くない。結局布団は汗なら血やらで盛大に汚れてしまって、後で被身子がこっそり洗うと言ってくれたが……。
今まで通り好き勝手に血を吸わせるのは、やはり良くないのぅ。今日のところは一年全員や相澤が寮から出払うから良いが、いずれこっそり布団や手拭いを洗うのが難しくなってくるかもしれない。やはり、何か対策が必要じゃ。
なんて考えながら朝から被身子と広々とした風呂に入り、朝食を摂った後。くらすめえと達と、
訓練の目的は、各自最低でも二つは必殺技を作ること。
……必殺技。必殺技……? いや、それは難易度が高いのぅ。そもそも人を殺さぬ
必殺技とは言っているが、必殺である必要が無い。言うならば得意技で、なんともそれが
尚、この訓練。儂と舎弟は免除されている。舎弟は林間合宿で一人この課題を与えられていて、既に幾つか必殺技を作ってしまったようじゃ。で、儂の場合は赤縛・苅祓・赫鱗躍動・穿血が必殺技と認められてしまったから免除。その代わり、個性を伸ばせと指示された。じゃから、儂は仮免試験当日まで回転を鍛えなければならない。出来れば回転による必殺技を考えろと言われたが……どうしたものかのぅ。取り敢えずひとつは、竜巻で良いとは思う。
まぁ、やってる内に何か思い付くじゃろう。多分。何も思い浮かばなかったらその時はその時じゃ。がははは!
「廻道ー、ちょっと良い?」
「ん? どうしたんじゃ芦戸」
「ちょっと教えて欲しくって。廻道のあれ、手から血をびゃーって出すやつ! あれどうやってるの?? アタシ、こう、酸をびゃーって遠くまで出したくってさ!」
訓練場の隅で石ころを手のひらの上で回していると、芦戸が駆け寄って来た。何を言ってるのか一瞬理解出来なかったんじゃけども、両手を叩き合わすのを見て理解出来た。つまり穿血を教えて欲しいと。いや、あれは呪力前提じゃから原理を教えたところで何の役にも……。いや、まぁ……教えてやるとするか。再現は出来なかったとしても、何かの一助になるかも知れぬ。多分じゃけど。
それに、穿血はともかくとして芦戸の個性は赤血操術と似た点が有る。全身どこからでも溶解液を出せるところとか、似ていると思う。
「あれは呪力で血液を圧縮してるだけじゃから、そもそもお主に再現出来ぬ。ちなみに赤縛・苅祓・赫鱗躍動も再現は無理じゃ」
「うっ、やっぱり呪力かぁ……」
「それ以外の部分なら教えられると思うが。芦戸の個性は、少し儂の術式を真似られる筈じゃ」
「ほんと!?」
「嘘は吐かん。例えば……」
回転させていた小石を投げ捨てて、
「こんな感じで、殴ることと個性の使用を組み合わせる。相手からすれば避けにくくなるし、酸があるから防ぐことも出来ぬ」
「あー、なるほど。でも廻道、その……アタシの個性ってさ……人に向けて使うにはその」
「調節が難しい?」
「そうなんだよね。一歩間違えたら、殺しちゃう……」
まぁ確かに。恐らくは何でも溶かせる酸を武器にするのは難しい。芦戸のきるすこあ計測訓練は、良い結果が出せているとは言えぬ。容易く振るえば、簡単に人を殺してしまう個性じゃ。儂の術式に似たものでありながら、どちらかと言えば緑谷の個性に近い。
「芦戸の個性は、酸の強さも操作出来たよな?」
「ん、出来るよ。でもほら、どうしても調節が難しくって。その上、一度出しちゃったら後から調節出来ないし」
「それは経験で克服出来る。お主に足りんのは対人経験の場数じゃ。儂が相手になるから、試してみたら良い」
「えっ? いや危ないよ!? それならエクトプラズム先生に相手なって貰うから……!」
「む、そうか」
「ありがと廻道! 色々試してみる!」
別に、問題ないんじゃけどなぁ。儂は脳と意識さえ無事ならば、どんな怪我をしたとしても直ぐに治せる。芦戸の個性操作の練習相手に適任じゃとも思うが、まぁ本人が遠慮するなら無理強いはしない。えくとぷらずむ先生の分身が相手でも出来ることではあるしのぅ。
芦戸は元気に走り去って行った。どれ、また回転の鍛練を……。
「廻道、少し良いか?」
「何じゃ常闇」
鍛練の続きをしようと思ったら、宙から常闇が飛び出して来た。だあくしゃどうの背に立って飛ぶ様は、割りと目立つ。空を飛べるのは羨ましいのぅ。落下死の心配が無くて良い。儂も式神でも使役してみるか? いや、残念ながらそっち方面の才能は儂には皆無じゃ。どうしても無理じゃったし、諦める他無い。
で、常闇よ。いったい何の用じゃ? 儂は回転の鍛練で忙しい。集中したいから話し掛けてくれるな。
「俺の必殺技を見て欲しい。何か改善点などあれば、指摘してくれ」
「……相分かった。やって見せろ」
「ああ。……纏え、ダークシャドウ」
「アイヨ!」
……おぉ。体育祭の時とかに一瞬見せていたあれじゃの。だあくしゃどうを纏って、これは……。……禍々しいの、常闇。
「ダークシャドウを纏うことで近接・フィジカルの強化……。名付けて、深淵暗躯……!」
お、おう。そうか。分かりにくい名前をしとるの。深淵暗躯て。もう少しこう、分かりやすい名前の方が良いんじゃないのか? 知らんけど。
まぁ、とにかくじゃ。常闇がだあくしゃどうを纏った。で、本人曰くこの姿になると近接戦闘が優位になったり身体能力が向上するらしい。形は違うが赫鱗躍動と同じ類いの技か? であれば……どれ、試してやるとするか。
「よし、良いぞ。どの程度のものか見せてみよ」
両手を叩き合わせる。体育祭の時のように手加減はするが、どの程度のものか穿血で見極めてやろう。あの時と同じように弾けるのであれば、及第点としてやるか。いや、手厳しく行こう。あの時と何も変わらないのであれば、落第にするか。ただだあくしゃどうを纏っているだけなら、話にならんじゃろ。
数歩程度しか離れていない距離。手加減した穿血を放つ。直ぐに眼前に到達した儂の血を、常闇は……。
「ふっ!」
右腕で楽に弾いた。特に傷を負った様子はない。深淵暗躯とやら、どうやらただ単にだあくしゃどうを纏っただけのようじゃ。見たところ、だあくしゃどうの強みを捨てている。落第じゃ、話にならん。だあくしゃどうの強みは、広い間合いと自由自在の動き。なのに、だあくしゃどうを完全に身に纏ってしまったらその強みが薄れる。
「……どうだ?」
「話にならん。常闇、個性で肉体を強化する前にまずはしっかり肉体を鍛えろ。基礎がなっとらん、基礎が」
「……ぐ……」
「それに、お主の体の動きに合わせてだあくしゃどうを動かしてるのが間違いじゃ。だあくしゃどうの強みを捨てるな、勿体無い。もっと自由に解釈を広げろ。以上」
つまらん必殺技じゃった。時間を無駄にしてしまったような気がする。少し厳しく言い過ぎたような気がするが、鍛練の場で甘く接するのは違う。腑抜けた修行など無意味なんじゃ。
さて、今度こそ儂の鍛練に戻るとしよう。今度は石を螺旋に回してみるか。
「廻道ー! わりぃ、ちょっと良いか?」
「廻道、俺も聞きたいことが」
「廻道さん、僕も少し質問したいことが……」
……何じゃこいつ等。なんで儂の所に来て、儂に教えて貰おうとするんじゃ。えくとぷらずむ先生が分身しまくってるんじゃから、そっちに聞かんかそっちに。どいつもこいつも……!
「てめえ等! 先生に聞け先生に! わらわら群がってんじゃねえぞ!!」
それはそうじゃ。舎弟、よく言った。たまには役に立つではないか。高い所から儂等を見下しながら叫ぶのはどうかと思わなくもないが。
「おいクソチビぃ! 新技、てめえで試させろや!!」
「……よし。切島・轟・緑谷。一人ずつ聞いてやるから、何でも言え。儂が教えてやろう」
取り敢えず、小僧は無視しよう。物事には優先順位と言うものがある。今回の場合、話し掛けてきた順に対応するべきじゃろう。儂の体はひとつだけなんじゃから、三人同時に鍛えてやるなんて芸当は……出来なくもないがしたくない。
「おぉ、ありがとな……! でよ、廻道。俺の個性で必殺技って……何すりゃ良いと思う……?」
「硬めて殴れ」
これしかない。と言うか、これ以外に有るのか?
切島の長所は、硬くなれること。体育祭時点で、手加減した儂とあんなに殴り合えたんじゃ。これは明確な長所じゃ。必殺技とやらは、つまり得意技。こやつの個性は、特に対策出来るものでもない。まぁ弱点と呼べるものは探せば色々と有るんじゃろうけど、真正面から殴り合って突破しようと思ったら要求されるのは純粋な破壊力のみ。その破壊力を上回れる程の硬さを獲得出来たなら……。ひひっ、きっと楽しい。想像しただけでわくわくじゃ。
「いや、それいつも通りで必殺技って訳じゃ……」
「あのなぁ切島。このくらすの中で、儂と殴り合って最も耐えたのはお主じゃ。倒れなかったのはお主だけなんじゃ。それは小僧にも常闇にも出来ていない。じゃから、そこをひたすら伸ばせ。磨け。
儂とまた殴り合いたいなら、その硬さを必殺技と呼ばれるまで鍛えて見せろ。小手先の技術を学ぶのは、その後で良い」
「……押っっ忍!! 爆豪! 思いっきり爆破してくれ!」
「ああ゛!? 新技試させろや切島ぁ!!」
「応!! でも効かねぇぐらい固めるからな!!」
……ううむ、扱いやすい。
で、次は……轟か。こやつが儂に聞くことなんて無いと思うんじゃけど、まぁ頼られたのなら話を聞くとしよう。何の用じゃ、何の。
「で、轟はどうしたんじゃ?」
「廻道。俺は左も使うようになったんだが」
「うむ」
「右と同時に使うと動きが鈍る。あと、左のコントロールが右に追い付いてねぇ。どうにかしたい」
なるほど。それは簡単に出来ることではないのぅ。じゃって、こやつの場合は左右で使う力が違う。右は氷、左は炎。まるで真逆の性質を持った力を使うのはさぞ大変じゃろう。
じゃけど、ひとつ思う事がある。半冷半燃と言うひとつの個性なのに、右も左も分ける必要が有るのか? ほら、儂の場合は呪力と術式、更には回転でそれぞれが異なる力じゃ。細かく分けるなら
じゃから、まぁ。正しい事を教えられるわけじゃないんじゃけど……。轟の個性については、月並みな意見になってしまうのぅ。
「左の操作精度については反復し続けるしかあるまい。体の動きが鈍るのは……何で鈍るのか理屈が分からん。分からんことは教えられぬ」
「……そうか。わりぃ」
「いや、儂も力になれぬからの」
残念ながら、教えられることは無い。実戦での立ち回り方なら、手合わせを通じて教えることも出来そうじゃが……。
「もう少し試してみる。それで駄目なら鈍るのを前提に使うか、左右を交互に使うようにするか……。左右は違う。体はひとつ……」
ううむ。力になれなかったのぅ。不覚。
「それで、緑谷は?」
「あ、うん。その……必殺技のイメージが出来なくって。それで廻道さんは色々必殺技を持ってるから、どうイメージしたのかなって」
……。……これはまた、教えてやれそうにないのぅ。必殺技も何も、儂のは伝承したものじゃからな。分かりやすく言うなら取扱い説明書があったから、その通りに呪術を使ってきただけじゃ。ある程度使い易いようにしているがの。赤血操術の全ての技は、実は簡略化しておるし。何せ正しい手順でやると、それなりに時間がかかるからのぅ。じゃから全て、儂好みに簡略化して運用しておる。基本的にはそれで事足りる。儂にとっては基本技でしかない。それを勝手に必殺技とか呼んでいるのはお主等じゃし。
「おおるまいとでも参考にしたらどうじゃ? ほら、ええっと。……ふぁん、じゃろ?」
「そうしたいんだけど、実は腕に爆弾が出来ちゃって……。あと一度でも大怪我をしたら腕が使えない生活になるって」
「は?」
は? こやつ今、何を言った?
次に腕を大怪我したら、腕が使えなくなる……じゃと? おい貴様、なんでそんな事になっとるんじゃ。そんな有り様じゃ、とても平和の象徴を継ぐなんて……。
……罰が悪そうにしている。少し焦っているようにも、見えなくもない。どれ、詳しく話を聞いてみるとするか。緑谷が後先考えずに個性を乱用なんて真似をしたとは……いや、するなこやつは。絶対にする、間違いなくする。ただ、その事実の向こうに有ることは聞いておこう。情状酌量の余地があるかも知れぬから。
「何でそうなった?」
「……林間合宿の時。
それで、また同じような怪我をしたら腕が使えなくなるってお医者さんが……」
「どう無茶した?」
「……100%と呪力を長時間放出しちゃって。それでマスキュラーは何とかなったんだけど、代わりに両腕が」
……。……それは、儂のせいか。背広男との縛りを、もう少し別の形にするべきじゃった。
それに。あの時、儂が離れずに居れば緑谷の腕はこんな事態にはならなかった筈じゃ。ますきゅらあ、とやらを儂と緑谷で対処していれば……。いや、これは余分な思考じゃ。もしかしたらを考えても、時間の無駄にしかならぬ。もう起きてしまったことは、変えられない。
確かなのは、緑谷の腕がこうなってしまったのは儂が間違えたせいじゃ。その責任は、取らねばな。
「……緑谷。儂と組み手しよう。お主を鍛えさせてくれ。何、手を使わずとも戦う方法は幾らでもある」
「えっ。う、うん。それは凄くありがたいけど」
「すまなかったの。離れるべきではなかった」
「廻道さんのせいじゃないよ。僕がドジしちゃっただけだから。それより、必殺技のイメージ作りを付き合ってくれると嬉しいな」
困った。そうやって笑われるともう何も言えなくなってしまう。こうなったら、とことん付き合うとするかの。取り敢えず二つ出来るまで、緑谷の必殺技開発に尽力するとしよう。
「うむ。幾らでも付き合うぞ」
儂の鍛練は、後回しで良いじゃろう。相澤がこちらを睨んでいるような気がするが、無視じゃ無視。まずは緑谷に、拳を使わない戦い方を教えるとするか。
そうじゃなぁ、組技なんてどうじゃ? 腕は使うことになるが、殴るよりも負担は無いじゃろ。どれ、取り敢えず緑谷を投げ飛ばして組技が何足るかを教えて行こう。
あ、そうじゃ。麗日に協力して貰おうかの。あやつ、職場体験先で組技を学んだようじゃしな。
仮免に向けた圧縮訓練が始まりました。アドバイスするのはポンコツバトルジャンキーです。オールマイト弱ってるけど健康ですからね。暇じゃないから圧縮訓練に来れません。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ