待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
仮免取得に向けて必殺技を作る為の圧縮訓練、その初日は緑谷を投げ飛ばし続けただけで終った。まずは受け身を覚えさせる。本格的に組技を教えるのは、受け身が出来るようになってからじゃ。
朝から夕方まで人を投げていたせいか、すっかり疲れてしまった。広い浴室で汗を流して着物に着替えて、ひとまず身なりは整えた。この後、少しの休憩を挟んだ後に儂と緑谷は呪術総監部からの依頼をこなさなければならない。寝不足なのが祟っている。まだ夕方の五時なのに、かなり眠い。一時間でも良いから睡眠を取りたいところじゃけど、今寝てしまったら明日の朝まで寝てしまう自信があるのぅ。
なので、寝ないことにする。ただ、体は休めたい。これからの事を考えて、気持ちを落ち着かせたい。じゃから。
「んふふっ。円花ちゃんは甘えんぼなのです」
寮の居間。そふぁに座って、被身子と
「甘えたって良いじゃろ。駄目か?」
「良いですよぉ。甘えたいぐらい、トガが大好きってことですもんねっ」
「仕方ないじゃろ。……実際、……好き、なんじゃから……」
「えへへぇ。もぅ、そんな人前で好きだなんて……。照れちゃいますよぉ」
気恥ずかしい。どうしても顔が熱くなる。部屋の外で好意を口にするのは辞めた方が良いかもしれん。でも、こんなに被身子が喜ぶならそれで良いかと思ってしまうのも事実での。困ったのぅ。好きとか、愛してるとか、そういうのを伝えると決めたのは良いが……場所ぐらいは考えた方が良い。部屋の中とか、二人きりの時とかにしようかの。でないと、くらすめえと達に赤くなった顔を見られてしまうし。変にからかわれたりしたら、それはそれで面倒じゃし。
……まぁ、その。今日はもう少しだけ。あと少ししたら、被身子から離れる羽目になってしまう。少しでも長く、こやつを感じていたい。
「あー、もう。二人して幸せそうにしちゃってさ。場所ぐらいは選んで欲しいかなー?」
そふぁで被身子を堪能していると、芦戸が話し掛けて来た。呆れられている。空気が読めないこやつに同調するかのように、気が付けば周囲に集まっていた他の者達が頷く。うるさいのぅ。良いではないか。儂じゃってたまには、こういう事がしたいというか、何というか。
これは、被身子からの悪影響かも知れぬの。でもでもじゃって、言いたいんじゃもん。こうして被身子が幸せそうにしてくれるから、言いたくなる。前々から、もっともっと言うべきじゃったかも。そう考えると、惜しい事をした気分になってくるのぅ。
「揃いの指輪までするようになってるしさ。その指輪、エキスポの時にはしてたよね? どっちから?」
「……耳郎。その手の話は苦手じゃから止めてくれ」
がぁるずとおくは苦手なんじゃ。赤裸々に惚気話をするつもりはない。と言うかじゃな、貴様等。邪魔をするな邪魔を。被身子のように言うのなら、今の儂は被身子を充電してるんじゃ。
……訳が分からん言葉じゃの。被身子も儂も電化製品ではないのに、充電て。堪能していると言った方が分かり易くないか、これ。
「その手の話をさせようとしてるのは、二人の方じゃない? これだから雄英バカップルは」
「そうですよぉ。今は普段の三倍ぐらいバカップルなのです。円花ちゃんがやーーっと素直になってくれて、もう嬉しくって……!」
「うるさい。こっちは気恥ずかしいんじゃぞ」
何で自慢するんじゃ。被身子のたわけ。そんな誰彼構わず明るい笑顔を振り撒くな。お主、浮かれ過ぎていないか? 嬉しいのは分かったから、少し落ち着いて欲しい。お主がそんなだから、人前で甘やかしたくないんじゃ。もう良いかの、離れても。くっ付き続けている場合では無くなってしまったような気がする。芦戸も耳郎も対面のそふぁに腰掛けたし、このままじゃと……がぁるずとおくが始まってしまう。好きじゃないから、逃げよう。
何でこう、
って、こら被身子。儂が立ち上がろうとしてるのに引っ張るな。見せ付けるように抱き寄せるな。ああもぅ、これではろくに動けん。もう良いか、出掛ける直前までこのまま被身子を堪能していれば。
「廻道さん、そろそろ……」
お、ちょうど良いところに来たの緑谷。危うくがぁるずとおくが始まって面倒なことになるところじゃった。名残惜しくは有るんじゃけど、もうそんな時間か。
「被身子、行ってくる」
繋いでいた手を解いて、何とか被身子の腕の中から逃れ、立ち上がる。体が重い。まだまだ被身子に甘えたくて仕方がない。ううむ、困った。こんな調子で居続けたら、いずれ被身子から離れられなくなってしまうのでは?
……まぁ、それも悪くないのぅ。じゃってほら、愛してるから。
なんて思いながら動こうとすると、被身子に腕を引かれた。その力が強くて、しかも不意打ちじゃったから、儂の体は簡単に抱き寄せられてしまう。こら、儂はこれから出掛けるんじゃからそんな風に邪魔しないでくれ。出掛けたくなくなってしまうじゃろっ。
「緑谷くん、空気が読めないのです。お邪魔虫は嫌いです」
「す、すみません渡我先輩。でもその、ええっと……」
「事情は円花ちゃんから聞いてますよぉ。だから言い訳しなくて良いです」
「……すみません」
睨むな睨むな。不機嫌になるなとは言わぬが、緑谷を睨むのは止さぬか。そうやって直ぐ人を威圧するのは、お主の悪いところじゃぞ? 中々迫力が有るんじゃから、人を怖がらせるような真似は控えるべきじゃ。
まったく、こやつと来たら。
「じゃあ円花ちゃん。出掛ける前にひとつ、良いですか?」
「……何じゃ?」
ううむ。嫌な予感がする。じゃって被身子が、にたりと笑ってるんじゃもん。こういう時のこやつは、大抵ろくでもない事を口走る。今回は何を言うつもりじゃ? 頼むから、訳の分からん事を口走るなよ……?
「いってきますのキス、して欲しいのです」
「……、やじゃ」
こ、こやつ……っ。人前で
あれか!? 儂がお主のものじゃって周囲に知ら示したいのか!? 勘違いするなよ、たわけ! お主が儂のものなんじゃからなっ!!
「してくれるまで、離しませんよ?」
……。……馬鹿。阿保、変態。見せ付けたがりっ。抱き締めながら、顔を見詰めるなっ。頬に手を添えるでないっ。し、仕方ないのぅ。一回だけ、一回だけじゃからなっ!?
◆
いってきますの
で、儂等の行く道を塞いだこの車の運転手は誰じゃ? 邪魔じゃから退いて欲しいんじゃけど?
現れた車を前に首を傾げていると、助手席側の窓が開いた。その向こう側の運転席に腰掛けているのは……。
「私が、車で二人を迎えに来た!」
「お、オールマイトっ!?」
「シーーッ! 私もうこっちの姿でもオールマイトだからっ、そんな叫ばないの!」
「ご、ごめんなさいオールマイト」
……。見覚えのある骸骨面じゃった。おい、おおおるまいと。何でその姿をしている? もう体は
まぁ、詳しい事情は車の中で聞こう。後部座席の扉が開かれたから、緑谷と共に乗り込む。車の中は……儂が見慣れている車と比べたら少し狭いような気がするの。車体も低く、乗り込み難い。何でわざわざこんな車で出迎えに来たんじゃこやつ。
……おお。座席が柔らかい。少し手狭な感じはあるが、座り心地が良い。
「シートベルトはちゃんと付けてね。あとオジサン、人を車に乗せて運転するの久々だから緊張しちゃう……」
「オールマイトはオジサンじゃないです……」
「それより、その姿は何じゃおおるまいと」
取り敢えず、言われた通りに
「廻道さん、シートベルトはゆっくり引っ張らないとロック掛かっちゃうから……」
「……、……知ってたが?」
うむ、知ってた知ってた。別に普段から車に乗る時、被身子に付けられていたから使い方が判らなかったとかそんなでは無い。知ってたが、ほら、ちゃんと
……、良し。
「で、おおるまいと。何で萎んでるんじゃお主」
「反転術式で傷は治ったんですよね?」
「あぁ、それなんだけどね二人とも。何年もこの姿で居ることがデフォだったせいか、脱力すると萎むようになってね。
ほら、旅館でマッサージチェアに座って溶けてる人が居るだろ? あんな感じ」
「……緑谷、さてはこやつ滅茶苦茶か?」
「オールマイトは常識から外れた存在って事だよ。凄いなぁ……!」
え? 凄いのか? 緑谷お主、おおるまいとの事になると全肯定してしまうのか?
師を敬愛して止まぬのは良いが、もう少しこう……師に対して疑いを持て。何でもかんでも首を縦に振れば良いってわけじゃ……。
「それより二人共、仕事の話をしよう。緑谷少年と廻道少女には、とある場所で捜査をして貰う訳なんだけど……」
「はい、オールマイト」
「その場所は?」
「……対『個性』最高警備特殊拘置所。通称、タルタロス」
……タルタロス……? 確か授業で教わったような……。聞き覚えがあるのぅ。ええっと、何じゃったっけ?
うむ、忘れたの! がははは!!
という訳で脱力したら萎むオールマイトです。トゥルーフォーム続投。そして三人はタルタロスへ。何が起きてるんでしょうねぇ、タルタロス。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ