待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「HAHAHA! さぁ行こうか、廻道少女! もうオイタは駄目だぞっ!」
「廻道さん、さっきみたいなのはもう止めてね……? 一人で行こうとするのは、危ないよ……」
「……」
ぐぬぬ。ぐぬぬっ。たるたろすの中で車が停まって直ぐ、儂は赤縛でこやつ等を縛り上げた。一人で車から降りて、ついでに車の扉が開かぬようもう一度赤縛をした。車に向けてじゃ。そしたら、おおるまいとは直ぐに赤縛による拘束を外して車から出てきおった。少し遅れて緑谷も。なんじゃこやつ等、全力で抵抗しおって! もっと強く縛り上げるべきじゃった!
不覚。不覚じゃ。次からは加減などせず、絞め殺す勢いで縛り上げよう、そうしよう。あとなぁ、おおるまいと! 貴様、いつまで儂を脇に抱えてるつもりじゃ! いい加減に離せ、この筋肉阿保っ!
「さて、面会の受け付けはこっちだ二人共。タルタロスは面会者にも相当厳しいから、間違っても個性を使ったりしないように。防衛システムが作動して捕まっちゃうから」
「はい。廻道さん、気を付けようね……?」
「……」
知るかそんな事。呪霊が出て来たら、そんな事は気にしてられぬ。建物の中も残穢だらけのこの状況、いつ何がどうなってもおかしくない。緑谷やおおるまいとは駐車場に置いて行きたかったが、もう諦めた方が良いじゃろう。ぐぬぬ。
もう知らん。儂は知らん! 何がどうなろうが、貴様等など見捨てるからな!? 勝手にしろ!! 口も聞いてやらん!!!
ふんっ。儂は拗ねた。もう拗ねた。被身子以外が儂の機嫌を取れると思うなよ。こうなった儂は面倒なんじゃからなっ。せいぜい手を焼いて困れば良いんじゃ。ふんっ!
あ、そうじゃ。被身子に電話しよう。余裕が有ったら電話してくれと言われているしの。面会が始まるまでは、別に電話してても良いじゃろ。何せ今の儂は不機嫌じゃ。こんな時は被身子の声を聞いて落ち着くに限る。よし、じゃあ懐から
「ここ、セキュリティの都合で携帯電話は使用禁止なんだ。私が預かっておくから、緑谷少年も」
「タルタロスですもんね……。分かりました」
「……」
もうやじゃ。儂帰る。今すぐ寮に帰る。やってられん。こやつ等は意地でも付いてくるし、
ぐぬぬ……。
「お待ちしておりました、オールマイト。そちらの二人が例の……?」
「ああ、タルタロスの異常を調査する為に派遣された二人さ。きっとこの事態を解決してくれるよ」
「……そうですか。では、通信機器の類いはこちらでお預かりします。それと、こちらの入館証を。常に首に掛けていてください。でないとセキュリティが動きますので」
広々とした薄暗い廊下を歩くこと、数分程。辿り着いたのは受け付け窓口。話は事前に付けてあったのか、事はすんなりと進んでいく。儂の
で、筋肉阿保よ。いつまで儂を抱えているつもりじゃ。いい加減にしろ。さては健康自慢か? 筋力自慢か? それとも小柄な儂を馬鹿にしてるのか? 許さん。後で殴る。殴るったら殴る。
「じゃあ行こうか、二人共。くれぐれも勝手に動かないように。特に、廻道少女」
「……」
その無駄に濃い面を、儂に向けるな。笑顔で接すれば許されると思うなよ。それを許すのは被身子だけなんじゃからなっ。
◆
たるたろすの中は、色々と面倒じゃ。数分歩く度に鍵の掛かった大きな扉が有るし、開くまでに時間が掛かる。いちいち三人で首からぶら下げた
深夜には帰りたいところじゃけど、今からこの分だと朝まで掛かるんじゃないのか? いかん、見積もりが甘かったか。朝帰りなんてしたら、それこそ被身子に余計な心配をかけてしまう。せめて電話で一言断れれば良いんじゃが、
仕方ない。こうなったらなるべく迅速に調査を進めよう。細かい事を考えるのは苦手なんじゃけどなぁ……。
……まずは、現状分かっている情報と状況の整理じゃ。ここ最近、たるたろすの中では意識不明になったり、意識が混濁する者が発生している。税所は
となると、呪術総監部が今回の事件は呪霊の仕業と考えるのも無理はない。だから儂等が派遣されたわけじゃ。そして、その判断は正しかった。建物の外も中も、異常なまでに濃い残穢に包まれていたからの。これは明らかに呪霊、もしくは呪詛師の仕業じゃ。しかし、それにしては被害人数が少なく感じる。これだけの残穢を残す呪霊が、ろくに死者を出していないのはどういう理屈じゃ?
この辺りの事情は、呪霊に接触して見なければ分からぬ。言葉が通じる類いの呪霊じゃったら、まだ事情を聞くことが出来そうじゃ。まぁ事情を聞いたところで、祓うことに変わりはないが。人に被害が出てしまっている以上、野放しにしておくことは出来ぬからの。
そしてこれから、呪霊に襲われて比較的無事じゃった者に話を聞く。その為に儂等は、わざわざ何度も扉の前で待たされながら面会室とやらに向かっている訳じゃ。
「……ここが面会室だね。二人共、必要以上に窓に近付いたり触れたりしないように。ルールだからね」
あれこれと考えていると、気が付けば最初のお目当てである面会室前に着いていた。厳重に施錠された扉が、音を立てながら独りでに解錠されていく。
待つこと、一分程。やっと扉が開いた。未だおおるまいとに抱えられたまま、面会室の中へと入る。と言うか運ばれる。部屋の中央にある窓は、分厚いようじゃ。けれどもしっかり透き通っているから、向こう側の囚人の姿はしっかり目視出来るじゃろう。儂等が面会希望した囚人の姿は……まだ見えぬ。そしてここには、残穢が無い。
「で? 無事じゃった囚人とやらは? あと、いい加減に降ろせ阿保」
「OKOK.そろそろ来るんじゃないかな。ほら」
「……どんな人、なのかな……?」
「知らん。犯罪者らしい面でもしとるんじゃないか?」
何で緊張しとるんじゃ緑谷。確かにこれから儂等が会うのは捕らえられた悪党じゃけど、変に身構える必要は何処にもない。儂等は話を聞きに来ただけで、別に戦ったりする訳じゃ無い。
やっとおおるまいとの脇から解放された儂は、数十分ぶりの地面をしっかりと踏み締める。変な体勢で抱えられておったから、体が凝ってしまったような気がする。実際は凝ってなんて無いんじゃけど、それでもつい体を伸ばしてしまう。もうこの筋肉阿保の脇に抱えられるのは勘弁じゃ。地味に脇腹が痛い。もう少し丁重に抱えぬか、このたわけ。
「緑谷少年。そんなに固くなる必要は無い。我々は事情を聞きに来ただけだし、これから会う囚人は拘束されているから。それに、ここは安全だしね」
「……は、はい」
「どうじゃか。今この瞬間に呪霊が現れてもおかしくないんじゃ」
「それはそうかも知れないけどね……」
帳を降ろしている以上、呪霊は姿を現してくる筈じゃ。儂等の存在に気付いているなら、いずれ間違いなく出会すことになる。その時は問答無用で戦闘になるじゃろう。そうなった時、二人が邪魔になるのぅ。
たるたろすに居る呪霊は、あれだけの残穢を残す程の猛者じゃ。相手にした時、一筋縄ではいかんじゃろう。儂としては心行くまで楽しみたいところじゃけど、それには二人が邪魔じゃ。出来ることなら、今からでも帰って欲しい。帰ってくれないんじゃけどな。……はぁ。
「っと、来たみたいだ」
部屋の中央にある窓。その向こう側に有る扉が、音を立ててゆっくりと開く。姿を見せたのは、車椅子に縛り付けられた女性じゃ。派手な髪色と、首に仰々しく巻かれた包帯が目立つ。そんな奴が、看守に車椅子を押されて面会室にやって来た。
『オールマイト、時間は十五分です。それ以上は認められません』
「OK.そう言うわけだから、手短に行こうか」
「はい。って言っても……何を聞けば……?」
「こういう時はね、まず事実確認から入ってそれから……」
「儂は頼皆。こっちは、でく。で、知ってるとは思うがおおるまいとじゃ。……貴様は?」
緑谷とおおるまいとは放っておくとして、早速本題に入ろう。まずは自己紹介からじゃ。話していられる時間はそう長くないし、相手は悪党。名乗る必要は無かったかも知れぬが、
今は呪術師として活動してるから、呪術的に本名を伝えることは出来ぬが。
取り敢えず、窓の前に置かれた椅子に腰掛けて視線を合わせる。……この女、間違いない。呪われとるの。
「……どうせ、知ってて聞いてるんだろ? わざわざ会いに来たって事は……公安か?」
「いや、儂は貴様が誰か知らぬ。じゃから自己紹介したんじゃけど?」
「……れ、レディ……ナガン?」
「なんじゃ、知ってるのか?」
「う、うん。その……凄いヒーロー……だった人。言い争いからヒーローを殺害しちゃって……それで捕まったって。小さい頃、ニュースで見たのを覚えてる」
「……」
……なるほど。だからこんな場所に居ると。緑谷が居てくれて助かった。少なくともこれで名前を知れたし、もう自己紹介に時間を使わなくて良いじゃろう。今後こういう場面が無いとも言えぬし、緑谷のように
今の緑谷の発言で、少し分かったことがある。れでぃながん、と言ったか? 表情には出さなかったが、緑谷の言葉で少し雰囲気が変わった。一瞬おおるまいとに視線を向けたのも見えた。直ぐに儂の目を見詰め直して来たがの。
「ながんとやら。儂等はここ最近、たるたろすで起きている事件を調べる為にここに来た。知ってることを話して貰いたいんじゃけど」
「この首の傷の事か?」
「うむ」
「ここから逃げな。どうなっても知らねェよ」
「逃げぬよ。面倒じゃけど、儂等は
「……良いから逃げろ。何せ囚人達を襲ったのは、そこの男だからな」
……は? おおるまいとが囚人を襲った?
つい、後ろを振り返りおおるまいとを見てしまう。こやつとしても、ながんの発言は想定外じゃったようで目を丸くしている。
「見に覚えがないとは言わせない。あの日、ウチの首を絞めたのはあんただ。オールマイト」
「いや、待った。私はそんな真似はしないよ。変な疑いは止して欲しい」
「いいや、間違いなくあんただった。どうやってやったのかは知らねェけど、あんたはあの日、突然ウチの背後に現れた。振り向いてみたら掴みかかって来て、この様さ」
『それは捜査撹乱の戯言です。彼女を信用しないように』
……そうかの? 戯言にしては、嘘を言っているようには思えぬ。かと言って錯乱しているようにも見えぬの。こやつは、すこぶる冷静じゃ。
ふむ。もう少し詳しく聞いてみるとするか。
「何があったのか、全て話してくれるか?」
「そこの大男に聞け」
「儂は貴様の証言が欲しいんじゃよ、れでぃながん」
「……」
ううむ。話してくれそうにないの。口を閉ざして儂を睨んでおる。ただ、少しばかり情報は得た。こやつが口走ったことは嘘じゃない。恐らくは事実じゃろう。だがおおるまいとも、嘘は吐いていない。そもそもこの筋肉阿保が、囚人を襲うなんて馬鹿な真似はしないじゃろうからな。
であれば、答えはひとつ。呪霊の仕業じゃ。恐らくは術式。被身子のように変身した可能性は無くもない。ただ、そんな術式程度であれだけの残穢が残せるとは思えぬ。呪霊に直接会って、確かめるしかないのぅ。
「……オールマイトが人を襲うなんて真似は、しないと思います。でもレディ・ナガン、どうか教えてくれませんか? 僕達で必ず、タルタロスで起きたことを解決します」
「……」
駄目そうじゃな。緑谷が真っ直ぐ懇願しても、れでぃ・ながんの心は動きそうにない。こやつで駄目なら、もう駄目なんじゃろう。詳しい話を聞けぬまま捜査していくしかない。まぁ、情報が何も無いよりは捗るじゃろう。時間は掛かるかもしれぬが、そこは仕方ない。もう諦めた。すまん被身子、帰りは随分と遅くなる。朝帰りになってしまったら謝るから、どうか許して欲しい。
「……あれは、三日前の話だ」
お? 風向きが変わって来たの。どれ、しばしこやつの話に耳を傾けるとするか。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ