待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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タルタロス。調査

 

 

 

 

 

 三日前。れでぃ・ながんは、妙な気配を察知して深夜に目が覚めたらしい。たるたろすの独房は防音性能が高く、中に入ってしまえば外の様子は一切分からないそうじゃ。なのに、部屋の外から奇妙な気配を感じたそうじゃ。今にして思えばあれは気配ではなく、ただの胸騒ぎだったかもしれないとも言っていたが。

 とにかく。妙な気配を察知して目を覚ましたながんは、気になって扉に耳を付けたらしい。そんな事をしても外の様子はろくに分からないそうじゃが、その時はそうしてしまったんじゃと。で、数分は様子を窺っていたと。結局何も分からず終いで、ただの気のせいじゃったと思い込んで寝直そうとした。その時じゃった。

 振り返ったこやつを待っていたのは、真っ黒な人影。そやつに首を締め上げられ、何か喋り掛けられたそうじゃ。何を言っているのかは理解出来なかった。ただ、その姿形がおおるまいとと一致していたと。咄嗟に個性を使って抵抗しようとしたが、その時は個性が発動しなかったそうじゃ。で、意識を失う寸前に解放され、真っ黒な人影は消えていたと。

 僅かに見た姿から、おおるまいとに襲われたと証言したようじゃが、荒唐無稽と相手にされんかったようじゃ。この話を聞いた儂は、れでぃ・ながんの部屋に案内するよう看守に頼んだ。良い反応はされなかったが、おおるまいとが随伴していることと呪術総監部からの事前通達が有ったお陰で、特例的に許可が降りた。

 

 そんなこんなで、現在。れでぃ・ながんと看守を入れた儂等五人は、れでぃ・ながんが収容されている独房にやって来たわけじゃ。そこで儂等を待っていたのは……。これまた、濃過ぎる残穢じゃった。

 

「……っ、これ、廻道さん!」

 

 独房の扉が開けられると同時、緑谷が目を見開いて息を飲んだ。おおるまいとは顔をしかめた。凄惨な事故現場でも見たような顔をするな。呪術師として活動するなら、感情を表に出すなど論外じゃ。ただ、驚くのも無理はない。この独房の中は、残穢で満ちている。部屋の全容が分からんぐらいの残穢じゃ。これだけの痕跡を残す呪霊に襲われて、よく生きていられたの。いやまぁ、呪われている時点で無事とは言い難いが。

 黙って見ていても仕方ないので、残穢に満ちた部屋に一歩踏み込む。中に入って、ようやくここがどのような部屋か理解出来る。厠と寝具だけが置かれた簡素な部屋じゃ。天井の隅には監視受映機(かめら)が据え付けてある。まぁ、囚人の扱いなんてこんなものじゃろう。見たところ壁はしっかりしているし、やはり物理的に侵入したようには思えぬ。等級の低い呪霊ならば壁なんかはすり抜けられるが、これだけの残穢を残す呪霊の等級が低いとは思えん。

 

「この部屋の、何処に人影が立っていた?」

「……ちょうどあんたが立っている位置だ。そこに出て来た」

「そうか。となると……」

 

 その場でしゃがみ、足元を凝視してみる。……今儂が居る位置。その床部分の残穢が、一際濃い……ような気がする。多分じゃけど。床から呪霊が術式を以て現れた。その可能性も無くはないのぅ。

 まだたるたろすに呪霊が潜伏しているのならば、残穢を頼りに探してみるか? いや、これだけ残穢が満ちている中では、用意に後を辿れないじゃろう。

 

 ……手詰まりじゃの。呪霊の仕業で有ることは確かじゃろうけど、これ以上は何も分からなさそうじゃ。かと言って放置しておく訳にも……ぬおっ!?

 

「っ、これは……」

「かい……っ、ヨリミナ!!」

「ブラッディ!!」

 

 おお、足が沈んでいくの。床に吸い込まれていく感覚がある。呪霊が儂を何処ぞに連れ去ろうとしているようじゃ。もう既に膝まで沈んでおるし、おおるまいとや緑谷が慌てて駆け寄ってくるが……これは間に合わんの。

 

「大丈夫じゃ。行ってくる」

 

 わざわざ向こうから招いてくれるとはの。手間が省けてちょうど良い。このまま祓って、調査を終わらせるとしよう。

 

「ヨリミナ!!!」

 

 おい、飛び込んでくるな阿保。お主まで巻き込まれるじゃろうが。この先がどうなっているのか分からんのじゃから、不用意に近付くな。って、あぁ……。緑谷の足も床に沈み始めた。

 駄目じゃなこれ。もう手遅れじゃ。こうなったら、緑谷を連れていくしかない。伸ばされた手を掴み取り、引き寄せる。次の瞬間、儂と緑谷はおおるまいとを残して、床に呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ、わぁあああっ!?」

「喧しい。着地の準備をせい」

「ちゃ、着地って……!」

 

 床に呑み込まれた直後。儂と緑谷を待っていたのは浮遊感じゃ。足場が無い。周囲を見渡せば、壁や床の向きが出鱈目になっている。儂等が落ちていくのは……天井かの。それなりに距離があるが、この程度の高さなら落下死することはない。緑谷はやたらと慌てているが。あと一秒もしない内に儂等は天井に着地するじゃろう。衝撃に備えて呪力で体を強化する。緑谷は、まず全身に淡い光を纏った。一瞬遅れて、呪力も。

 よし、それなら問題ないのぅ。着地を手伝ってやらなくとも良い。

 

「おっ、とと……」

「ふべっ」

 

 うむ、着地出来たの。緑谷は腕から着地しようとして、地面に激突した。何で個性や呪力は間に合ってるのに体が間に合ってないんじゃ貴様。昼間あれだけ受け身を教えたじゃろうが。

 まったく、仕方のない奴じゃ。被身子とは別の意味で仕方ないの。あまりにも仕方ないから、手を引いて立ち上がらせてやる。どうやら顔面を強打したようで、鼻先が赤くなっとる。情けない面をしおって。

 

「しっかり受け身を取れ。たわけ」

「ご、ごめん。間に合わなかった……っ」

 

 情けない奴じゃ。まだまだ鍛練が足りぬのぅ。明日から、もっと扱いてやるとするか。いつまでもこんな調子で居られても困る。お主一人だけ仮免試験で不合格を貰うつもりか?

 ……さて。緑谷ばかりに構っている場合ではない。儂等二人は、恐らく何かの結界、或いは生得領域に引き込まれた。見たところ、この建物そのものを結界に組み込んでいるようじゃの。じゃから床やら壁やら天井が、滅茶苦茶に繋がっている訳じゃ。こんな所に率先して儂を引き込んだんじゃ。呪い合うつもりなら、受けて立つ。ほら、早く姿を見せぬか。儂を待たせるな。ほら、早く! 早よっ!!

 

「か、廻道さん、あれ……っ!」

 

 緑谷が、この出鱈目な空間の真上を指差す。なんじゃ貴様、緊張した面をして。上を見上げてみると、儂等を見下ろす人影がひとつ。見てくれは……なるほど。れでぃ・ながんが言っていた通りじゃの。

 

「オールマイト……っ!?」

「の、ようじゃな」

 

 少なくとも、見てくれだけは。あれはどう見てもおおるまいとじゃ。頭の触覚も、膨らむ筋肉も、青い瞳も。そのどれもが、おおるまいとと一致する。じゃけどあれは、おおるまいととは違う。似ているのは姿形だけ。中身はまったくの別物じゃろう。何せ一目見た時から、違和感が凄い。

 

「まさか呪霊が平和の象徴を真似るとはのぅ。貴様、それが真の姿か?」

「―――あぁ、これがワタシさ。そう言う君こそ、随分とおかしな存在だ。ワタシの術式の対象の筈なのに、術式効果を受けていない。どういう理屈かな?」

 

 ……気色悪い奴じゃ。姿形も、声までおおるまいとと同じとはの。

 

「知らん。貴様の術式操作があやふやなだけではないか?」

「なるほど、その可能性はあるね。何せワタシは産まれて間もない。つい先日、呪胎を果たしたばかりでね」

 

 にしてもこやつ……。強いな。今生の中で出会った呪霊の中で、最も強い。こうして対峙しただけで、その凄まじい力量が分かる。こやつ……下手をすると儂よりも……。

 

 けひっ。ひひっ。良いぞ、良いぞ……! ようやく儂が挑まねばならん呪霊が姿を見せたか……!!

 

 貴様がどのような呪霊であるかは、知らん。どうでも良いっ。大事なのは、儂を楽しませてくれるかどうかじゃ!

 

「そちらの少年。巻き込んで済まなかったね。ワタシが今お話ししたいのはそこの少女なんだ。帰ってくれるかな?」

「……っ。ぉ、お前が、囚人達を襲ったのか……?」

 

 おい、貴様。呪霊貴様……! 儂を連れ込んでおきながら、緑谷に意識を向けるんじゃないっ。緑谷も緑谷じゃ! この呪霊は儂の獲物じゃ。儂と呪い合うんじゃ! 邪魔をするなよ!?

 

「そうだね。ワタシはヒーローの呪霊だから、(ヴィラン)を懲らしめる為に産まれてきたんだ。

 さぁ少年、君は帰ってくれ。ワタシはこれから、そこの少女を懲らしめなければならない」

「……帰らない。帰るもんか! 相手が誰であれ、人に危害を加えたお前は……ヒーローなんかじゃないっ。ただの呪霊だ!」

「―――」

 

 おいこら。何勝手に啖呵を切って、拳を構えてるんじゃ貴様。儂のじゃぞっ、儂の獲物じゃ! 儂が一人で祓うんじゃ! 幾ら貴様でも、それは譲らんっ。許さん!

 

 ほれ見てみろ、呪霊が呆れとるぞ!

 

 

「仕方ない。ヒーローの言うことを聞かない子供にはお仕置きだ」

 

 

 っっ!

 

 

「でく!!」

 

 呪霊が視界から消えた。咄嗟に緑谷の腕を掴み、力尽くで儂との立ち位置を入れ替える。呪霊はとっくに拳を振り被っている。呪力をひだりうでに集中し、同時に赫鱗躍動も使う。

 次の瞬間。拳が構えた左腕を撃ち貫き、儂の視界は大きく揺れる。何か鈍い音がして、一瞬息が止まる。儂の体は、壁まで容易く吹き飛ばされた。

 

 

「けひっ。ひひ……!」

 

 

 ……、……強い……! 今の一撃で、分かった。あの呪霊の動きは、おおるまいとと何も変わらない。いや、おおるまいとよりも速い。繰り出される打撃は、おおるまいとよりも重かった……!

 

 はたして、いつ以来じゃろうか? 迫る拳を防いだのに吹き飛ばされて、その挙げ句……骨を砕かれたのは……!

 

 とんでもない。あやつは、とんでもなく強い。それが堪らなく嬉しい。楽しくて楽しくて、仕方がない。

 やっとじゃ。やっと、まともな奴が出て来た! 儂が最後の最後まで楽しめる、そんな輩が!!

 

「っっ! デトロイト……!」

「げほっ、下がれ阿保!!!」

「!!!」

 

 儂が吹き飛ばされたのを見た緑谷が、即座に呪霊に殴り掛かろうとしたのは悪いことじゃない。反応は遅かったが、直ぐに反撃を試みたのは駄目とは言わん。じゃが、相手を選べ阿保っ。貴様が何をしたって、その呪霊には勝てん。殺されるだけじゃ。

 そうならないように、叫ぶ。今直ぐにあの呪霊の側から緑谷を引き離す為に。この判断は、正しかった。緑谷はその場から直ぐに跳び退いて、儂の側に着地した。呪霊は、それを見て既に振り被っていた拳を下げる。

 

 こやつ、ふざけおって……! 力量差も分からぬままに戦おうとするな! 何よりっ、儂の楽しみを邪魔するんじゃないっ!!

 

「……そうか、なるほど。君はまだ、誰も殺していないのか。なのにワタシの術式が反応したのは奇妙なところだが……」

「っは。貴様が情けないだけじゃろ、呪霊」

「いいや。君が特別なんだ。ワタシの術式はね、悪を罰するものだ。罪を犯した者を、懲らしめる為のものだ。

 だけど君は、まだ何の罪も犯していないようだね」

 

 お喋りに付き合うつもりは、無い。話すことに夢中で何もしてこないなら、その間に備えさせて貰うだけじゃ。反転術式(はんてん)を回して、左腕を治す。それから今度は、赫鱗躍動・載で限界まで身体能力を底上げしていく。

 この呪霊は、強い。おおるまいとよりも速く、そして重い打撃を繰り出すんじゃ。恐らくは、術式無しで。緑谷が側に居ることが、鬱陶しい。邪魔にしかならぬ。

 

「逃げろ。あれは強い、死ぬぞ」

「……嫌だ。強いのは、分かるよ。多分オールマイトより……。

 でも、君を置いて逃げるなんて出来ない! 逃げるなら、一緒に!!」

「じゃから! 儂が逃げろと言ったら逃げろ! 儂の言う事を聞けって言ったじゃろうが!!」

「それは従えないよっ! 何かあったら先輩はどうするのさ!?」

「生きて帰るって約束してるから大丈夫じゃ! たわけ!!」

「あんなの相手に一人で戦えるわけ無いじゃないかっ!!」

 

 ああもうっ、鬱陶しい!! 何で儂の言う事を聞かないんじゃこやつは! ここに来てから、逆らい続けおって……! 何じゃ貴様、さては舎弟の真似事でもしておるのか!? みっともないから止さぬかっ!!

 

「……まったく、ヒーローを前に仲間割れか。まったく情けない」

 

 あ゛? 誰が情けない、じゃって……?

 

 よぅし、良いじゃろうっ。貴様は祓う。今この場で祓う。もう知らん。緑谷など知ったことか。こんな聞かん坊など、儂は相手にせん。

 そんなことより、今気に掛けるのは貴様じゃ。心行くまで呪い合おう。どこまでもどこまでも、儂を楽しませてくれっ。

 

 両手を叩き合わせ、穿血を放つ準備を進める。相手がおとるまいとよりも強いなら、この一撃は楽に凌げる筈じゃ。その姿を見せてくれ。そんな事も出来ぬ雑魚では無いよなぁ!?

 

「穿血」

 

 圧縮し切った、血を放つ。音を越える一撃は一瞬にも満たぬ間でに呪霊へと近付き……。

 

「むっ、これは……!」

 

 突き出した右手に、容易く受け止められた。ひひっ、見えておるわ。こやつ、穿血が見えておるっ! おおるまいとのように拳ではなく、見てから手のひらで受け止めおったわ!

 

 じゃけどなぁっ! 儂の穿血を、そんな程度で防げると思うなよっ!?

 

「ぐお……っ!?」

 

 儂の血は呪霊の手のひらを貫通し、腕を通って肩を抜ける。これで右腕は潰した。相手は呪霊、直ぐに治るじゃろうが関係無いっ。

 呪霊との間に有る距離を、穿血を撃ち終わると同時に走って潰す。いつぞやの試験の時のように、懐に入り込んで拳を振りかぶり……。

 

 全力で、殴るっ!!

 

 が、儂の拳は空を切った。あの呪霊、目の前から消えおった。赫鱗躍動で引き上げた動体視力でも、捉えきれぬ程の速度で。もはやそれは、単なる移動では無い。消えたと錯覚する程の速度じゃ。

 

「……危ない危ない。このままだと……殺されかねないな」

 

 声が、真上からした。上を見上げれば、貫かれた右腕を治しつつある呪霊が、天井となっている床に立っておる。何じゃそれ。貴様今、いったいどうやってその場に移動した? そう言う術式か?

 ……じゃとすると、厄介じゃ。何より気に食わん。そんな移動方法を使わずとも、普通に動けば良いじゃろっ。儂の間合いから逃げおって! ふざけるなっ、こっちに下りてこい!!

 

「苅祓っ」

 

 天井に向け、首から血を飛ばす。四つ放った血の刃は、その全てが呪霊の肉に突き刺さる。並みの呪霊ならば、致命傷じゃ。なのにあやつは、平然としている。赤血操術者の血は呪霊にとって有毒な筈なのに、ろくに効いていないように思える。

 

 やはり、強いなこやつ……! 良い、良いぞ! 貴様のような奴に会いたかった!

 

「残念だが、ワタシにはやるべき事がある。君の相手をしている暇は無くてね」

「じゃったら、どうする?」

「もちろん、こうする」

「は?」

 

 ……は? 消えた、じゃと? 同時に、この出鱈目な風景をした結界に綻びが生じる。周囲の景色が歪み始め、足元が定かでは無くなっていく。

 

「逃げさせて貰うよ。君の相手は骨が折れる。それにワタシには、使命がある」

 

 声だけが、何処からか聞こえた。

 おい。貴様今、何と言った? 何と宣った? 逃げるじゃと……!? あれだけの実力が有りながら、儂から逃げるじゃと!?

 

「世の中の悪人が消えて無くなったら、また会おう」

 

 っっ、この……! おい待て貴様っ! 何で儂の前から逃げるんじゃっ!? 最後まで楽しんでいけば良かろうっ!? なあ、おい! おいったら!!

 

 

「居なく、なった……?」

 

 

 ……! 気配が、完全に消えおった……! もうこの場に奴は居ない……! どころか、空間が歪み始めておるっ。足元から重力が無くなったような気がして、視界の上下が反転した。そして。

 

「ぐえっ」

「うわっ!?」

 

 儂と緑谷は、床に向かって頭から落ちた。

 

 

 

 

 

 








という訳でUSJの頃に円花が考えていたことのひとつ。ヒーローの呪霊の登場です。オリ呪霊って奴です。見た目はオールマイト。今回は顔見せなので、円花はお預けになります。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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