待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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電話と一文。

 

 

 

 

 

 たるたろすでの調査は、酷く時間が掛かった。何せ隅から隅まで、手分けして見回ることになったからのぅ。それも、二手に分かれて。三人別々に動いた方が手っ取り早いと意見したんじゃけど、迷子になるからなんて理由で却下された。解せぬ。別に迷子になったって隅々まで見るつもりじゃったが? 何で儂が迷子になったら調査が滞ると思ったんじゃこやつ等。そうやっていつもいつも方向音痴扱いしおって……! 温厚な儂でも、そろそろ怒るぞっ!? ただでさえ機嫌が悪いと言うのに……!

 

 ……。まぁ、そんなこんなで。時間は掛かったがたるたろすの見回りは何とか終わらせることが出来た。日付が変わる辺りで車に乗れたのは、幸運だったと言うべきか。結局建物の中では被身子に電話することが出来なかったので、今電話しようと思う。もう寝ているじゃろうか? それとも、まだ勉強しているか? ……出なければ諦めよう。寝ているのなら仕方がない。

 

「電話。被身子」

 

 音声操作で被身子に電話を掛ける。直ぐに呼び出し音が聞こえた。と、思ったら。

 

『はい。廻道です』

「まだ籍は入れとらんじゃろ」

『将来の為の予行練習ですよぉ。あ、どちら様ですか?』

 

 直ぐに電話に出たと思ったら、開口一番で変な事を言っている。二年後を意識するなとは言わんが、廻道を名乗るにはまだ早すぎるじゃろ。それに、儂としては結婚したら渡我の方が……。まぁ廻道のままでも別に良いんじゃけど。将来どちらの名字を名乗るか、それは話し合っておいた方が良いかもしれん。結局は被身子が選んだ方になりそうじゃけどな。

 どれ、たまには少し……戯れても良いかもしれん。

 

「……渡我じゃ」

 

 ……、……。うぅむ……。戯れに言ってみたのは良いものの、これは……何とも言えぬ気恥ずかしさがあるの……。何でじゃ。別にこんな事、恥ずかしいようなことではない筈じゃが……。

 

『えぇ……。円花ちゃんは廻道のままが良いのです』

 

 おい。人が戯れに乗じたのにその言い草は何じゃ。電話越しぐらいでも分かるぐらいに引きおって。まったく、こやつと来たら……。

 仕方ないのぅ。仕方ない仕方ない。じゃから儂だけが見てやらんと。儂以外に見させるつもりもないが。

 

「儂は渡我でも良いんじゃけどなぁ。……すまんの。すまほ、取り上げられてた」

『電話してくれないのかと思って拗ねてたのです。忙しいんだろうなって思いましたけど、もっと早く電話してくださいよぉ』

「すまん」

『なーんて、冗談です。ちゃんと電話して来てくれたから許してあげます。バイト、どうですか?』

「もう終わった。今帰ってるところじゃけど、帰りは……三時間ぐらい掛かるかの……」

 

 何せ、たるたろすは雄英から遠い。途中で止まること無く真っ直ぐ帰れば、二時間半もあれば帰れるとは思う。行きは三時間程じゃったから、帰りも多分そんなものじゃろう。じゃからまぁ、寮に帰るのにまだまだ時間が掛かる。帰宅は、夜中の三時を過ぎるじゃろう。幾ら夏休みとは言え、そんな時間まで被身子を寝させないのは気が引ける。

 儂等は儂等で明日も朝から仮免に向けての訓練があるし、帰ったら直ぐに寝た方が良い。のは、事実なんじゃけど……。こう、帰ったら直ぐにでも抱擁(はぐ)したいというか、何なら接吻(きす)も……。いや、いかん。そこまでしてしまったら、色々と始まってしまう。今日……と言うか昨日は、ただでさえ寝不足じゃったのに。じゃから明日まで寝不足になるのはどうかと思うんじゃ。緑谷の鍛練もあるし、儂自身の鍛練じゃってしたい。

 

 電話、何処でも被身子とお喋り出来て便利じゃけど、顔が見えないのはなぁ。その点だけが不満じゃ。どうにかならぬか、これ? 何と言うか、こう……物足りない。

 

 困った。被身子の声を聞いたら、今直ぐにでも会いたくなって来た。学校の授業以外で離れ離れになったことはそんなに無いから、そのせいじゃろうか?

 

『もぅ、そんな急に寂しそうにして……。円花ちゃん、そんな寂しがりでしたっけ?』

「……駄目、か?」

『駄目じゃないのです。むしろすっごく嬉しいぐらい。あ、そうだ。顔見ながら電話しましょうか』

「……は?」

 

 顔を見ながら、電話……?? それ、電話する意味が有るのか? 絶対無いじゃろ。何の為の電話じゃ。なに訳の分からん事を言って……。

 もしや、儂が携帯電話(すまほ)をろくに使えないからって騙そうとしているのか? おいこら、そんなのに儂が引っ掛かると思うなよ……!?

 

「いや、顔が見えるなら電話する意味が無いじゃろ。謀ってるのか?」

『……IT音痴もここまで来ると、いっそ天然記念物か何かなのです。顔を見ながら通話出来る機能がスマホには標準装備されてるんですよぉ』

 

 ……。いや、知ってた。知ってたぞ? あれじゃ、りもおとわあく? ……とか言うやつじゃな。儂が幼い頃、父がやっていたやつじゃ。あれ、携帯電話(すまほ)でも出来るのか。ぱそこんでしか出来ぬと思っていた。

 ほほぅ、便利な物じゃな。携帯電話(すまほ)。電話も出来て調べ物も出来る。ここまで便利ならもう少し使えるようになった方が良いかも知れぬな。今後、呪術師をやる上でもしかしたら必要になるのかも。

 

『音声操作で出来ると思いますよ? 一度通話を切って、今度はビデオ通話で私に電話してみてください』

「……うむ。じゃあやってみるか」

『分かんなかったら緑谷くんにでも聞いてください。一緒に居るんですよね?』

「隣に座っとるよ。寝とる」

 

 たるたろすに向かう時と同じように、後部座席に儂等は座っている。が、隣の緑谷は座ったまま夢の中じゃ。ついさっきまでは頑張って眠気を振り払おうとしていたんじゃけど、今日はもう終わりと分かっているから気が抜けてしまったんじゃろう。すっかり眠りこけて、微動だにせん。

 

『昼間は訓練して、夜はバイトですもんね。じゃあ、オールマイトは?』

「運転中じゃの」

 

 おおるまいとは、萎んだ姿で運転中じゃ。よくもまぁ、脱力しきったまま運転出来るのぅ。器用な真似をする。たまに変に体に力を込めてしまって、元の姿に戻っているのは滑稽じゃ。いっそ膨らんだまま運転していた方が良いんじゃないのか?

 ……いや、あの姿で運転席に座るのは無理があるか……。

 

『んふふっ。じゃあ円花ちゃんを独り占めですね』

「元々独り占めしとるじゃろうが。何なんじゃもう」

『そうでもないですよ? ぜーんぶ独り占めしたいって思っても、中々そうは行きませんし。例えば、今日とか』

 

 ……。まぁ、それもそうか。物理的に無理な時も有るには有る。と言うか、何じゃ貴様。そんなに儂を独占したいのか? 片時も離れず、行動を共にしろと?

 ううむ、それは……。やはり、色々と無理がある。そんなのは考えなくとも分かることじゃ。でも。

 

 今、悪くないなと少し思ってしまった。少しだけ、じゃけど。

 

 じゃって……、ほら。被身子とは今まで常に一緒に過ごして来たわけじゃし。離れるのは、授業の時ぐらいで。それ以外の全ては被身子と一緒じゃったと言って良い。今よりも、もっと側に居る? 無理だとは分かっていても、そうじゃったらそれはそれで悪くないと考えてしまう自分が居る。ここまで毒されたのか、儂は。もう、何と言うか……。

 

 ……ぐぬぬっ。なんか、なんか負けた気分じゃ。

 

「……難しいものじゃの」

『何がですか?』

「……それを言うのは、気恥ずかしい」

 

 別に被身子が目の前に居るわけでもないのに、つい視線を逸らしてしまう。逃げるように窓の外を眺めて、気恥ずかしいから口を閉じる。幾ら好きでも、言えるわけないじゃろ。もっともっと側に居たい、だなんて。こんな事を白状したら益々被身子は調子に乗るじゃろうし、きっと儂自身もどうにかしてしまう。

 

 好き、と言うのは厄介じゃの。こんなに被身子本位で考えてしまうのか。相手の事ばかり気になって、ふとした時に思い浮かべてしまって。何度でも笑顔が見たいと思ってしまって、それから。それから……。

 

 ぐぬぬっ。儂をこんなにしおって。責任取れ、馬鹿。

 

『……そこは、言って欲しいなって思うんですけど。円花ちゃんってほんと、トガへの気持ちを伝えてくれませんよね』

「うるさい。阿呆、たわけ。通話終了」

『あ、ちょっ……!』

 

 気恥ずかしさが増して来たから、つい一方的に通話を止めてしまう。携帯電話(すまほ)を耳から離して、何となく画面を見詰める。やはり被身子への本心を言葉にするのは、気恥ずかしい。でも、これからは伝えると決めたんじゃ。

 じゃから、間を取って言葉ではなく別の手段で伝えるとする。ええっと、言葉を送るには確か……この緑の印に触って……。

 そうすると確か、被身子の名前が……出て来たの。英語表記じゃけども、出て来た。これをもう一度触って、それから。

 

「……これはこれで、気恥ずかしいのぅ」

 

 どうにかして入力した文字を自分で読み直して、つい携帯電話(すまほ)を放り投げたくなってしまう。でもまぁ、伝えるって決めたのは儂じゃし。こういう気持ちも、伝えて行かなければなぁ。

 

 

 ――― もっといっしょにいたい。

 

 

 この一文を、被身子に送っておくとしよう。変換の仕方がいまいち分からぬから、全部平仮名になってしまったが。

 

 ……後で大変な事になりそうな予感も有るけれど、それはひとまず無視じゃ無視。後先の事を考えていたら、どうせまた何も伝えられなくなってしまう。

 

 あぁ、顔が熱い。たった一文送るだけでも、こんな風になってしまうとは。

 扉に付いているすいっちを押すと、少しずつ窓が開いていく。外から流れてくる風が、今は心地良い。握ったままの携帯電話(すまほ)が震えたが、気にしないでおくことにしよう。どうせ、被身子から返事が来ただけじゃ。それはもう少し落ち着いてから、読むとする。

 

 ……今読んだら、それこそ頭から煙が出て来てしまいそうじゃからの。あと、びでお通話とやらは今度じゃ今度。今の顔を被身子に見せたくない。気恥ずかしくて、堪らんからのぅ。

 

 

 

 

 

 








※バカップル、遠距離でもイチャつくの巻。

三人称による補完は要りますか?

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