待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
緑谷に案内して貰って寮に戻ると、何故か
その関わりの薄さを維持する為にも、勉強は絶対にしなければならない。
じゃから、まぁ……。……被身子の邪魔にならぬようにするかの。本音を言えば被身子と昼寝したり、触れ合ったりしたいんじゃけど。でも、勉強の邪魔はしたくない。こやつの為にならん。
じゃから、なるべく気配を消して居間を通り過ぎることにする。被身子無しで寝るのは少し、いや……それなりに寂しい感じは有るんじゃけど、仕方ない。
寮の玄関で靴を脱ぎ捨てて、なるべく静かに歩く。が。
「あ、お帰りなさい円花ちゃん。こんな時間に帰ってくるなんて、どうしたの?」
一歩踏み出しただけで、気配を察知された。何で気付いたんじゃこやつ。儂、今気配を消すように努めてたんじゃけど? 気付かれずに部屋に戻ろうとしたばっかりなんじゃけど??
……まぁ、気付かれてしまったのなら仕方ない。観念して普通に歩くことにする。
「ただいま。眠いから、今日の訓練はもう終わりにしたんじゃ」
「……サボりですか? 相澤先生に怒られちゃいますよ?」
「ぬぐ……。いや、おおるまいとが言い訳しといてくれるそうじゃから、多分大丈夫じゃ」
た、多分の。多分。あの筋肉阿呆に任せたのは今となっては間違いじゃった気がするが、とにかく今日の訓練はもう抜け出した。緑谷は戻って行ったがの。あやつも寝不足なんじゃから抜け出しても良かったと思うが……。まぁ、やりたいようにやらせてやろう。緑谷も、中々やるべき事が多いからのぅ。鍛練とか鍛練とか、鍛練とか。
……あやつ、やるべき鍛練が多いの。昼間は学校、夜は呪術師。そんな二重生活を送り続けることが出来るのか? いつか過労で倒れそうな気がする。少し、体調面を気遣ってやるとするか。
っと、いかん。緑谷の事なんか今は考えなくて良い。被身子を前にして、そんな余裕は儂に無い。じゃってほら、何を言い出すか分からんのが被身子じゃし。油断すると振り回されて大変なことになってしまう。それ自体に、文句も不満も無いが。
うむ、好きじゃから許す。何でも許してやる。ああもう、落ち着け。被身子を前に、儂は何を考えているんじゃ。
あれこれと考える必要なんて、無い。そんな時間すら勿体ない。
「……、部屋に戻る。夜まで寝てるから、お主は気にせず勉強しててくれ」
「えぇ……? それはヤです。こっち来てください」
然り気無く居間を通り抜けようとすると、そふぁの上で膝立ちになった被身子が両腕を広げた。不満そうな顔で見詰めないで欲しいのぅ。何だか申し訳ない気分になるし、何よりそうやって腕を広げられると……つい飛び込みたくなる。
まぁ別に、寮には誰も居ないんじゃし。人目を気にする必要は何処にも無いんじゃけど。じゃけど、その。やっぱり勉強の邪魔はしたくないんじゃよなぁ。
「いやでも、お主勉強中じゃろ?」
「勉強しながらイチャイチャすれば良いんですよぉ。だから、はいっ!」
……何なんじゃ、もぅ。そんな風に言われたら、気を遣った儂が馬鹿みたいじゃ。こうなったら仕方ない。被身子の言う通りにしよう。儂も本音は言えば、被身子と触れ合いたいわけで。
いかん、どんどんこやつに流されてしまっている気がする。このまま行くと、何処かとんでもない所まで行かされてしまうのでは?
まぁ、良いか。被身子が幸せならそれで。儂も被身子が幸せなら、幸せじゃし。
観念して被身子に近付くと、思いっきり抱き締められた。どころか、首に噛みつかれた。甘噛みじゃけど。
これこれ、そんなに甘えてどうしたんじゃ? まったく、仕方ないのぅ被身子はっ。仕方ないから頭を撫で回してやろう。ほれほれ、今日も相変わらず毛先が尖っているの。
ああ、もぅ。こうして抱き締め合っていると、愛しくて仕方ない。同時に、猛烈な眠気がやってくる。歩いていれば感じずに済んだ眠気が、こうして被身子と一緒に居るとまた大きなものになってきた。このまま寝てしまいたい欲求に駆られるが、そうはいかん。寝るなら、せめて横になって寝たい。被身子が側に居てくれれば、尚更文句は無い。
じゃから。どうにか被身子の隣に腰掛けて、そのまま体を委ねる。涼しい部屋でこうして被身子と触れ合えるのが、幸せで堪らない。
「んぅ……ひみこぉ……」
「んふふ。おねむで甘えんぼな円花ちゃんもカァイイのです」
「……ぅるさい。も、……ねりゅ……」
うぅん……。いかん、眠くて眠くてどうしようもない。目蓋が重い。開かない。このまま寝てしまいたい。でもその前に、被身子の笑顔を見ておきたいんじゃけど……。んん、駄目じゃこれ。被身子が全力で寝かし付けてくる。そんな風に頭を撫でたり、背中を擦ったりしないでくれ。直ぐに寝てしまうじゃろ、被身子の阿呆ぅ。
そうやっていつもいつも、……んん……。
「ぐっすり寝てて良いのです。晩御飯の時間には、起こしてあげますから」
……、そうか。なら、もう寝てしまおう。顔は見えなかったが、笑ったような気がするし。あと、こんな状態で居ることを誰かに見られたら、何か言われるような気がするが。
でもでもじゃって、眠くて眠くて堪らないんじゃ。勝てん、もう被身子の寝かし付けには、絶対勝てん。
負けっぱなしは癪じゃけど。たまには儂が被身子を寝かし付けたいけど、勝てる気がしないのぅ。……解せぬ。
「ひみこぉ」
「なーに?」
「……すきぃ」
「えへへぇ。私も、円花ちゃんが大好きなのです」
……言われんでも、知っとる。じゃけど、幾らでも言って良いぞ。遠慮は無しじゃ。いや、そもそもこやつに遠慮なんて概念は……。
んん……。駄目じゃ。もぅ、起きて、居ら……れ……。
すやぁ。
◆
「んぉ……? ん……っ、ふわぁ……っ」
……あぁ、良く寝た。それはもう、ぐっすり寝た。あれだけ有った眠気も、今はもう無い。……と言ったら嘘になるか。寝起きじゃから、少し眠い。二度寝したいが、流石に起きよう。いつまでも寮の居間で寝惚けている訳には行かぬからの。
で、今何時じゃ? 窓を見ると、外はすっかり暗くなっている。どうやら結構な時間を寝て過ごしていたらしい。体を起こそうとすると、被身子と目が合った。なるほど、やたらと寝心地が良いわけじゃ。儂はずっと、被身子の膝を枕にしていたらしいの。どのくらい膝上を占領して寝てたのかは分からぬが、いい加減に起きるとしよう。
って。こら被身子。頭を押さえ付けるな。撫でるな。また寝かし付けるつもりか貴様。もう十分寝たんじゃ。そろそろ起きねば。腹も空いて来たしのぅ。
「もう少し寝てても良いんですよ? 円花ちゃんの寝顔を眺めながら勉強すると、捗るって気付いたので」
「……訳の分からん事を言うな。起きる」
「あっ。もぅ……、円花ちゃんは意地悪なのです」
「うるさい。被身子の阿呆」
何とか体を起こすと、被身子が唇を尖らせた。こんな事で拗ねないで欲しい。何か悪い事をしてしまった気分になる。
そふぁで長時間寝ていたせいか、体が固まってしまっている気がする。立ち上がり、うんと伸びるとたまたま近くを通っている口田と目が合った。と思ったら慌てて目線を逸らされた。何故か知らぬが、兎を抱えている。そう言えば部屋で飼ってたのぅ。部屋の外に出しても良いのか?
あれか、たまには部屋の外に出してやろうって言う飼い主なりの優しさか? まぁ誰も兎に文句を言ってないようじゃし、儂も気にしないでおこう。
「んんっ、……っはあ。あぁ、良く寝たのぅ」
体を起こし、そふぁに腰掛ける。すると直ぐに被身子が肩を抱き寄せて来たから、好きなようにさせてやる。
「ほんとにぐっすりだったのです。寝言もいっぱい言って、可愛かったぁ」
……。気恥ずかしくなるような事を嬉しそうに言わないでくれ。そうやって直ぐ儂を辱しめようとするんじゃから。そういう所じゃぞお主。分かっとるのか? そういう所じゃぞっ。
せめてもの抗議に、じっとり睨むとしよう。どうせ効果は無いんじゃけどな。
「廻道くん! やっと起きたようだな!」
被身子の顔を睨んでいると、直ぐ後ろから喧しい声が聞こえた。思わず振り返ると、そふぁの後ろに飯田が仁王立ちしている。いつの間に背後に来たんじゃこやつ。まるで気配を感じなかったぞ。さては必殺技か? ……いや、違うか。単に寝起きなのと、被身子の相手をしていて気が緩んで居るだけじゃ。少ししっかりせねば。あまり無防備で居ると、後で被身子に何をされるか分からん。
「幾らアルバイトで疲れているからと言って、訓練を抜け出してしまうのは言語道断! 労働は立派だが、学業に支障が出ないようにしよう!」
「う、うむ。悪かったの……」
「そもそも何故こんな大切な時期にアルバイトを!? 仮免試験日まで、シフトは入れない方が良いんじゃないか!?」
「……」
説教が始まってしまった。どうしようかの、これ。どうやら飯田は、儂と緑谷が夜に何をしているか知らんようじゃ。ただの
ううむ。どうしたものか。もしかして儂、素直に飯田に叱られなければならんのか? げ、解せぬ……っ。
「まぁ、その……。今後は気を付ける。済まなかった」
「……反省しているなら、それで良いが。でももしアルバイトが忙しかったら、相談してくれ。友として力になる。抱え込むのは良くない事だ」
それを貴様が言うのか。いや、貴様だから言うのか。一人で抱え込んで暴走したこやつに言われると、無下に出来そうにない。と言うか、儂はお主にとって友達なのか? 特別親しくしたつもりは無いが……。むしろ一回殴り飛ばしたぐらいじゃし。
まぁ、良いか別に。友達でも何でも。ただ、被身子の前で必要以上に儂に近付くのは止めて欲しいかもしれん。嫉妬されると大変なんじゃ。また寝不足になってしまう。
「では廻道くん、コスチュームから着替えてくれたまえ。これから、俺が勉強を教えよう!」
「……は?」
は?
「君は午後の座学に出なかったから、その分遅れてしまっている! 俺が教えるから、しっかり取り戻そう!」
「……い、いや。大丈夫じゃ。儂、今夜もあるばいと……」
「では! 帰って来てから勉強だ!」
……正直、勘弁して欲しい。勘弁して欲しいんじゃけど、これ……善意じゃからなぁ。子供からの善意を無下にするような真似はしにくい。しかし、儂は帰って来たら被身子と寝たいんじゃけど。営み的な意味合いではなく、純粋に睡眠を取ると言う意味で。それを勉強如きに邪魔されるのは……嫌じゃ。
「んー……、飯田くん。多分円花ちゃん、帰って来たら寝ちゃうのです。だから勉強は無理かなぁって」
「む……。いや、しかしですね渡我先輩。仮免試験の合格率は例年五割を切るもので、勉強はしっかりしてから臨まないと……!」
「なら、私が教えるのです。ちょうど今日、その辺りの勉強もしましたので」
「被身子???」
何でお主が
「何故、渡我先輩が資格勉強を……?」
「円花ちゃんに勉強を教える為ですよぉ。過去問からだいたいの山を張ったんで、そこさえ押さえとけば多分円花ちゃんでも合格出来るのです」
……それは、ありがたいと思う。期末試験とか、被身子の予想が当たって楽に問題が解けたからの。しかし、自分の勉強をしながら儂の為に本来は必要の無い勉強をしているとは……。何だか申し訳ない。勉強については、昔から被身子に頼ってしまっているような気がするの。いかん、そろそろ自分で何とかしなければ。
でも、被身子に教えて貰うと不思議と覚えられるんじゃよなぁ。英語だけは、試験が終れば殆ど忘れてしまうけど。
「え、マジ? 渡我先輩、アタシ達にも教えてーっ!」
「なになに!? 先輩が教えてくれるの!?」
「じゃあウチも……。先輩、ちょっと法律のところで躓いてて……」
「ケロ……。流石学力特待生ね、被身子ちゃん」
……飯田の向こう側に置いてあるそふぁから、
儂はどうなっても知らぬぞ? 被身子に泣かされても知らんからな??
と言うか、貴様等。被身子の勉強の邪魔をするな。被身子は儂等より、遥かに勉強しなければならないんじゃぞ。後輩全員に構っている余裕は……。
「じゃあ取り敢えず、予想問題集を全員分作っておくのです。それでひとつ、みんなにお願いが有るんですけど……」
あぁ、これは……多分ろくでもない事になるの。そんな気しかしない。頼むから被身子、変な事は言い出さないでくれ。勉強を教える代わりに、くらすめえと達に何を要求するつもりじゃっ。そんな真剣な顔で、何を言い出すつもりなんじゃっ!?
「峰田くんのスマホ、確保してくれません? 今日こっそり、円花ちゃんの寝顔を撮ってた気がするんですよねぇ……。あと、今日干してた下着が一枚無くなりましたし。そう言うことするのって、峰田くんですよね?」
……。去らばじゃ、峰田。じゃってほら、
にしても、何をやっとるんじゃあやつは。そんな真似したら、後でどんな目に遭うか分からんでも無いじゃろうに。
で、この後。
☆峰田、欲望の果てに散る――――!?
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ