待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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調査出来ぬ。

 

 

 

 

 

 んん……。このまま寝たい。寝たいんじゃ。被身子に抱かれると朝までぐっすりなんじゃあ……。

 

 ……はっ!? 起きねばっっ!!

 

 いやでも、この人肌の柔らかさと温かさは疲れて気怠い体にちょうど良くてのぅ。こう、被身子に抱き枕にされると良く眠れて……。

 

 ああ……。女体とはどうしてこう、儂の眠気を誘うんじゃ。いかん……いかんぞ被身子……。お主ちょっと……儂を寝かし付けるのが得意過ぎんか……? 安眠に導かれては困るのぅ……。ふへへ……。ぬくいんじゃあ……。

 

 

 ……。…………。

 

 

 すぴぃ。

 

 

 …………。……。

 

 

 

 ではないっっ!! 起きろ、儂っっっ!!!

 

 

 今にも寝てしまいそうな体、と言うか脳を叩き起こすのは一苦労じゃ。どうも最近は眠気に抗う事が難しい。いつ被身子に刺されても良いように反転術式(はんてん)を回し続けてるのは良くないかのぅ。最近は包丁や、かったあないふを片手に迫ってくる事は無いから、そろそろ回さんでも……。

 いや、油断は禁物。してはならん。気を緩めると、寝首を掻いて来るのがこやつじゃ。その内、また包丁なりなんなり持ち出してくるじゃろうて。

 それはそうと、最近の儂は大変じゃ。被身子め、お主ちょっと儂を辱しめることに熱中しすぎじゃ。加減しろ、たわけ。

 何が首輪に犬の耳に犬の尻尾じゃ。どこにとは言わんが、異物を入れられた儂の身にならんか。たわけめ。

 

 ……まぁ、存外良かったのは否定し切れんが。貴様、今に見てろよ。泣いて許しを請うまで仕返しするからな。と言うか泣いても許さん。たまには儂の気持ちを味わったら良いんじゃ。

 

 さて。被身子に復讐を誓ったところで動くとしよう。今、何時じゃ? ……四時? 四時!?

 おいおい。夜中に様子を見に行くつもりが、もう殆ど朝ではないか。

 

 まっこと、こやつは仕方のない女じゃのぅ。

 

 のんびり準備をしておると起こすかも知れぬからな。さっさと着る物を着て、外に出るとしよう。ぱんつ……ぱんつはどこじゃ。見当たらぬ。

 

 ……もういいか。穿かんで。

 

 

 よし。畳に脱ぎ散らかしてあった着物は着た。準備は出来た。あとはこっそり家を抜け出すだけじゃ。

 

 ……そのつもりじゃった。

 

「んん……。どこ行くんですかぁ……」

 

 被身子が、起きてしもうた。いや、まだ半分以上は寝ておるか。体は起こさんし、儂に向けた顔は、ほぼ寝顔じゃ。布団の中から両手を伸ばすな。儂を探してるのは分かるが、そこに儂はおらんぞ。大人しく寝ておれ。お主、明日……と言うか今日は制服の採寸に行くんじゃろ? これ以上の夜更かしをしては、寝坊してしまうぞ。

 

「……厠じゃ。直ぐ戻るから、大人しく待っておれ」

 

 静かに。なるべく静かに。儂は自室を出て玄関に向かう。んん……、廊下は冷えるのぅ。外はもっと寒いんじゃろうな。もう一枚、何か羽織って来るべきじゃったか。まぁ、別に良いか。ちょっと学校に行って、直ぐ戻ってくるだけじゃ。

 道は帰りに覚えた。迷うことは無い。無いよな? 儂、方向音……いや方向音痴では無いが。もう方向音痴とはおさらばじゃ。朝食までには帰る! 今日も学校じゃからな!

 

「円花。こんな朝早くからどこに行くの?」

「うおっ!?」

「部屋に戻りなさい円花。今すぐ」

「ぅ、母……。いや、ちょっと散歩……違っ、外の空気を吸うだけじゃって……。どこにも行かんぞ? (まこと)じゃぞ?」

 

 今度は、母に見つかってしもうた。これは……駄目かもしれん。母はお冠じゃ。こうなったらお説教されるじゃろう。いやしかし、今回の調査は仕方ない事情があっての事じゃ。

 ちょいと気になる残穢を見たから、少し調べておかなければならない。夜中の方が都合が良い。放っておいても、多分今すぐどうこうなるものじゃないとは思う。急ぐことはない。じゃが、何かあってからでは遅いじゃろう?

 あそこは中学校じゃ。子供が沢山おる。じゃから、呪術師である儂が動かねばなるまいて。被害に遭うのが大人ならまだ良いが……いや大人でも良くはないが、子供は洒落にならんて。それに、母の為でもある。

 

「……円花。貴女がしようとしてる事は、きっと立派な事よ。だって円花は、誰かの為に動くもの。

 被身子ちゃんの時も、そうだったものね」

「……いやまぁ……」

 

 母からはそう見えてるようじゃが……あれは儂が苛ついたからじゃ。嫌いなんじゃ。憎いんじゃ。子を、子の気持ちを蔑ろにする親が。子を育まぬ親が、子を愛さぬ親が。

 

 ……どうしても許せない。

 

 だって。儂だって、蔑ろにされて来た。呪術師の子に産まれた時点で運の尽きと言ったらそれまでじゃが、それでも抗いたかったんじゃよ。あの時は、普通に生きたかった。呪霊なんて、ただ怖いだけじゃった。でも呪術師になるしか無かった。……術式に恵まれなかった弟も妹も、見捨てられなかった。

 気付けばどうしようもなくなってて、じゃから糞親父を殺そうとした。殺して儂が当主になれば良いと思った。そしたら加茂を変えられると思ったから。

 まぁ結局、殺せなかったんじゃがな。当主の座は、糞親父の隠し子が継いだ。弟と妹は、呪霊の餌にされたと後になって聞いた。

 

 それ以降……と言うか以前もじゃが、儂は行く先々で、子を愛さぬ親を殺して回るようになった。ずっと憎かった。憎くて堪らん。今だって、憎いんじゃよ。殺して良いなら殺してしまいたい。

 

 じゃから。別に被身子の為じゃない。だって儂は、一度被身子を見捨てようとした。関係無いと切り捨てようとした。今生まで、他所の家に首を突っ込むつもりはなかった。

 

 我慢は、出来なかったがな。

 

 ほら。だから誰かの為じゃない。儂の為じゃ。

 

「……お母さんね。円花のやりたい事を、やらせてあげるつもり。でももう、駄目よ。今後は夜間の外出を禁じます」

「いや、母……。それはじゃな……」

 

 それは聞けぬ。絶対に聞かぬ。昼間でも呪霊は祓えるが、夜の方が良い。だいたい、何で今更なんじゃ。これまでは夜中に出掛ける儂を、気付いてて放ってたじゃろ? 自由にさせてたじゃろう?

 

「……まあね。でも悪いものが見えたから、もう駄目よ。

 どうしても呪霊とやらを祓いたいなら、まずヒーローになりなさい。良いわね?」

 

 ……おい、待て。何も言うとらんぞ儂は。思っただけじゃ。何故分かる?

 

「円花。貴女の魂は、よく見えるのよ。何を考えてるかも、文字になって読めるの。お母さんの個性ならね」

「……そこまで便利なものじゃったか、霊能は」

「普段は見ないようにしてるし、見えても断片的なのよ。さっき読めたのは、呪霊と祓うの二つ。あと被身子よ。

 あんたねえ、そんなに好きなら愛してるのひとつやふたつ言ってあげなさいよ。魂に被身子って刻むぐらいに好きなんでしょ?」

「……いや待て、母。それは今関係無いじゃろ」

 

 待て待て待て。何で突然、そんな話になるんじゃ。今は関係無いじゃろっ。と言うか、魂に被身子を刻むってなんじゃ! 訳が分からん!

 

「あるわよ。あの子、愛の言葉に餓えてるわよ? 円花ちゃんが言ってくれないって、しょっちゅう愚痴るの。ちゃんと伝えてあげないと愛想尽かされるんだから気を付けなさい」

「いや……この間、言うたし……。伝えたし……。そんなに言うことでも……」

 

 あやつ、母に何を吹き込んでおる……。二度も言われれば満足じゃろうが。何でそんなに欲しがりなんじゃ。儂の全てを手に入れないと気が済まんのか? それはもう少し待てと言うに。

 

 結婚は! 十八に! なってからじゃ!!

 

「じゃあ聞くけど、被身子ちゃんに愛してるって言われたくないの? 一度や二度で足りるの?」

「……いや……まぁ……。別に、……何回言われても……構わん、が……」

「それと同じ。ほら、分かったら部屋に戻る! たまにはちゃんと言ってあげなさい!

 被身子ちゃん待ってるわよ!」

「ぬぐぐ……っ」

 

 真に解せぬのじゃが、こうして儂は部屋に引き摺り戻された。渋々と部屋に戻ると被身子はすっかり起きていて、母のようにお冠じゃ。厠に行くなどと嘘を吐いたのがいかんかった。 次からは嘘は嘘だと分からないように……いや。嘘は言わんでおこう。呪術師は嘘吐きと相場が決まっておるのじゃが……被身子には、止めておこうかの。

 

 で、じゃ。この後の儂は、散々「愛してる」と言わされてしまった。怒った被身子が機嫌を直してくれたのは、だいたい一時間後。

 それまで儂はずーーっと、布団の中で被身子を抱き寄せながら、ご所望の言葉を言うしかなかった。

 

 ……なんなんじゃもう! 愛してるなんか嫌いじゃ!! 二度と言わんからな!!!

 

 

 言わんからな!!!!

 

 

 

 

 

 

 




ナンドデモイウゾ・ツヅキ=ナドナイさん?
ああ、あいつは死にました。これからはこの子が上手くやるでしょう。

TS・転生の処女作です!(新しい挨拶)

もう流石に今日は更新ありません。続きは明日書くことが出来れば書きます。

三人称による補完は要りますか?

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  • 良いから一人称で突っ走れ
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