待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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悪どい笑顔。

 

 

 

 

 

 雄英近くの警察署に収容中の元・公安英雄(ひいろお)れでぃ・ながんに会いに行ってから、早くも三日経過した。その間、儂は個性鍛練を続けつつ緑谷やら常闇やら切島やら芦戸やら……とにかくくらすめいと達の必殺技開発に付き合い続けていた。

 何でどいつもこいつと儂に聞きに来るのか。先生に聞け先生に。と、思わんでもないんじゃけど子供に頼られたら無下に出来ぬ。お陰で儂自身の個性鍛練は、進んでいるようで進んでいない。仕方無いから、一昨日から夜は寮の部屋で個性伸ばしをするようにしている。まぁこれはこれで、あまり長くやっていると被身子が構って欲しそうに儂を見てくるんじゃけども。そうなってしまうと、もう儂としても個性伸ばしなぞしている場合ではない。

 儂じゃって被身子が勉強に集中していると構って欲しくなる時が有るので、被身子に止めろとは言えぬ。困った困った。別に良いがな。被身子を甘やかしてやりたいと常々思っとるようなものじゃし。愛と言うのは偉大で厄介じゃのぅ。殆ど呪いみたいなもののような気がしてならん。

 

 そんなこんなで。現在儂は、寮の裏手で緑谷と組み手中じゃ。お互いに個性は無し、呪力も術式も無し。単純な身体能力だけの、これまた単純なものじゃ。こんな事をしている理由は、幾つか有る。体の動かし方を教えたり、動きの無駄を削ぎ落としたり、経験を積ませる為じゃったり。……まぁ色々と有る訳じゃ。特に大事なのは、この組み手を続けることで戦うに置いて必要な筋肉を鍛えること。緑谷が個人的に体を鍛えているのは知っているが、それでもまだまだ不十分じゃと儂は思う。筋肉を付けるだけなら、鍛えれば誰だって出来る。じゃけど折角付けた筋肉の扱い方を知らなければ、それは宝の持ち腐れじゃ。じゃからそうならぬように、徹底的に扱く事にした。

 

「セントルイス……スマーーッシュ!」

 

 最近、緑谷は組技と並行して足技も学ぶようになった。主に飯田から。たまに尾白にも教わっているところを見る。腕を酷似出来ぬから、今後は麗日に教わった組技や足技を中心として戦うことになるじゃろう。

 

 なんて考えていたら、左から頭に向かって蹴りが飛んできた。ので、少し身を屈めて避ける。同時に前に踏み込んで、緑谷の軸足を蹴る。蹴りの最中に軸足を刈られたものじゃから、当然と言えば当然なんじゃけど緑谷は腰や背中から派手に転んだ。

 

「あだっ!?」

「動きが素直過ぎる」

 

 足技を使うようになったのは良いんじゃけど、どうも緑谷の動きは直線的じゃ。動きの起こりはまるで隠せていないし、そもそも動作が大き過ぎる。もっと小さく鋭く蹴れんのかこやつは。足腰の鍛練がなっとらん。まったく情けない。

 

 ……が、まぁ。成長している点は有る。例えば今、緑谷は儂に転ばされたわけじゃけど、直ぐに受け身を取って構え直した。それから一息も入れずに、直ぐ儂に立ち向かって来る。今度は踏み込むと同時に左拳を突き出して来たから、それを右手で横から払う。と、今度は儂の脇腹狙いで蹴ろうとして来たから、儂はもう一度前に踏み込み緑谷の懐に密着。これで蹴りの威力は殺したので、ばばろあとか書いてある洋服(しゃつ)の襟を掴み、右手を捕る。で、思いっきり……。

 

「よっこいせぇ!」

 

 多少強引な形で、背負い投げる。

 

「んぎっ!?」

 

 阿保め。投げられただけならまだしも、受け身も取れず芝生に叩き付けられおった。一瞬どころか一秒程も動きが止まったので、額に拳骨を落としておく。

 

「交代じゃ、たわけ。息を整えながら反省しろ

 次、麗日」

「はい! よろしくお願いします!」

「いや、変に改まるな。やりにくいじゃろ……」

 

 この組み手、実は麗日も参加しておる。と言うのも、緑谷に色々と教えている内に麗日も技を磨きたくなったようでの。もちろん教えるのも自らの鍛練になると分かっては居るようじゃが、それだけではあまり技を磨くことは出来ぬからの。頭であれこれ考えるのは大事じゃけど、一度実践しないと得られぬ事もある。こやつには緑谷の育成を手伝って貰っとるから、そのお礼と言うことで麗日の練習相手を買って出た。そしたらまぁ、訓練が終っても訓練することになってしまった訳なんじゃけども。

 

 まだ起き上がれぬ緑谷から離れ、両手を構えた麗日に向かって真っ直ぐ歩く。こやつが使う組技は相手の力の流れを利用するものじゃったり、人体の構造を突く点が多い。自ら動いても投げたり組伏せたりすることは出来るが、もっとも威力を発揮すると言う点では受け身に動いた方が良い。

 が、それには相手の行動をしっかりと見なければならん。じゃから、儂から仕掛ける。手が届くに距離なった瞬間、儂は右拳で殴ろうと拳を突き出す。そしたら、黒い衣服(しゃつ)運動着(じゃあじ)の麗日はあっさりと儂の右手首を掴んだ。そして直ぐ儂の襟を掴もうとして来たので、手首を掴んで止める。

 

「ぉ? お?」

 

 ううむ。個性も呪力も術式も無いとなると、流石に体重差で大きな不利が出来てしまう。結構力は入れている筈なんじゃけど、襟を掴もうとしている手が徐々に迫って来ているのぅ。体重を預けられるのは、正直困る。儂は小さくて軽いから、大きさと重さで勝負されるとどうにも分が悪い。

 

 さて、どうしたものか。このまま力比べをしていても押し切られるだけじゃし、かと言って打撃で対応するのは何か負けた気がするしのぅ。ああ、そうじゃ。後ろに倒れながら投げるか。確か巴投げ……じゃったか? それで行こう。

 

「っ」

 

 麗日を引き込みながら自ら後ろに倒れると、目を見開かれた。急に儂が力の向きを変えたせいで、対応が遅れたらしいの。と言うかお主、何で儂に腕力で挑もうと思ったんじゃ? お主のやり方じゃないじゃろ、それ。

 引き込んだ麗日の腰に足を当て、蹴飛ばしてみる。おお、割りと勢い良く飛んで行ったわ。それでも、受け身自体はしっかり取っておる。その辺りはまだ緑谷よりも出来ておるぐらいじゃ。欲を言えば、受け身を取ったら直ぐに飛び掛かって来て欲しいけども。体勢を立て直したなら、直ぐに動かんか阿保。様子見してどうするんじゃ、まったく。

 

「びっ、くりした……! 巴投げされるとは思わんかったよ」

「試してみただけじゃ。実戦ではまず使わん」

「えっ。あんな綺麗に投げれるのに……?」

「相手が人間ならば使い道も有るんじゃけど、呪霊相手じゃとなぁ。大抵は術式で事足りるからのぅ」

 

 呪霊相手に組技は、使えたり使えなかったりするからの。相手の形が人に近ければ良いが、人から大きく逸脱した姿をしていると組技よりも打突や術式の方が手っ取り早い。まぁ今後、悪党相手に戦ったりすることも有るかもしれんし麗日や緑谷相手に組技を試し続けるのも悪くないかもしれん。出来れば、かつてのおおるまいとが相手じゃったりすると捗るんじゃけど……それは無い物ねだりじゃの。

 

「ほら、話してないで掛かってこんか。儂を一度ぐらい投げて見せろ」

「もう一回、お願いします!」

「じゃから改まるなって。やりにくいんじゃ」

 

 何でかは知らぬが、何でそんな話し方で挑んで来るんじゃこやつ。まぁ確かに儂の実力は麗日よりずっと上じゃけど、敬う必要は特に無い。一応は同年代で、くらすめえとなんじゃから。

 

 この後、儂は麗日を何度も投げ飛ばしたり緑谷を軽く殴り続けたりした。途中で蹴りや拳を合わせて来たことについては、少しくらいは褒めてやろう。儂に通用はしなかったが、儂以外の相手ならば多少は翻弄出来る筈じゃ。まだまだ動きは荒く、課題点は多いがの。それでも色々と試そうとしているのは悪くない。もっと鍛練しろ、幾らでも付き合ってやるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい円花ちゃん! ご飯にします? お風呂にします? それともぉ、トガにしますか!?」

 

 何言っとるんじゃこやつ。日が暮れて腹も空いてきたから組み手を切り上げ、緑谷や麗日と共に寮に戻ると着物に前掛け(エプロン)を合わせた被身子に出迎えられた。手には何故かお玉と、包丁。何で逆手で持っとるんじゃ。然り気無く緑谷に冷たい視線を飛ばすな。人前で刃物を持ち歩くなと、何度言ったら分かるんじゃこやつは。まっこと仕方ないのぅ。

 

 取り敢えず、質問には答えておこう。

 

「全部じゃ。風呂にして飯にして、お主にする」

「駄目です。私を先にしてくれないと!」

「おぐっ」

 

 急に抱き付いてくるな阿呆。人前なんじゃからもう少し躊躇いと言うものを持ってくれ。別に抱擁(はぐ)自体は幾らでもして良いが、たまには人目を盗むと言うことをじゃな……。

 まぁ良いか。抱き締め返してやろう。背中に包丁が有るのは少し落ち着かんが、流石の被身子でも人前で刺すなんて真似はしてこないじゃろうし。

 

 ……しないよな? 流石に人前で血を吸うのは無しじゃぞ。あい・あいらんどの時みたいなのはもう勘弁じゃ。何せ説明が面倒じゃからの。

 

「緑谷くんもお茶子ちゃんも、訓練お疲れ様なのです。どうでした?」

「すっごい投げられちゃって……。でも、参考になったところは沢山有ったから有意義な時間だった! ありがとう先輩、円花ちゃんはお返しします!」

「僕も、廻道さんのお陰で詰めなきゃ行けない部分が分かった気がします。ありがとうございました……!」

「はい。円花ちゃんがお役に立てたみたいで、何よりなのです」

 

 何か解せぬ物言いをされたような気がするが、気にしないでおこう。そんな事より、そろそろ包丁を引っ込めて欲しいんじゃけど。人前で刺されるかもしれんと思ったら、気が気じゃない。後で包丁を持ち歩くなと釘を刺しておこう。物騒じゃし、こんなところを相澤先生にでも見られたら何を言われるか分からん。

 

「じゃあ麗日さん、廻道さん。また明日、よろしくね」

「うん、こちらこそよろしくね。一緒に強くなろうね!」

「ん゛っ゛っ゛」

 

 ……何で緑谷は、麗日の笑顔を見ると変な顔をして硬直するんじゃ。昔から女子相手には変な反応をしてしまう奴じゃが、さてはまだ女子に慣れんのかこやつ。麗日とは接することも多いんじゃから、そろそろ慣れたらどうなんじゃ?

 なんて思っていたら、変顔の緑谷はそそくさと去った。変な奴め。それ、実は失礼なんじゃないのか?

 

 で、それはそれとして被身子よ。何で今、にたりと笑ったんじゃ? お主、何かろくでもない事を考えたじゃろ。分かるんじゃからな!

 

「じゃあ、私はお風呂入るから。二人とも、またね」

「あ、それなら一緒にどうですか? 円花ちゃんも入りますし、私も入るので!」

 

 あ、いかん。被身子が何かしでかすつもりじゃ。そんな気配しかしない。まぁ、放っておくとするかの。すまん麗日、諦めてくれ。何、被身子に振り回されるのはそう悪いものじゃない。少し気疲れするだけじゃ。慣れない内は大変かも知れぬが、何でか知らんが標的にされたお主が悪いと言うことで……。

 

「まぁ、一緒に入るか? 被身子、取り敢えず包丁はしまって来い。危ないから」

「後でちゃんとしまいますよぉ。そんな事より、お風呂にしましょう!」

 

 おい、包丁を持ったまま両手を振り上げるな。危ないじゃろ。麗日、何とかしてくれ。儂が言っても駄目なんじゃ。

 

「あ、そうだ円花ちゃん。ダブルデートって興味有ります?」

 

 だぶるでえと? 何の話じゃ、何の。と言うか貴様、何で麗日を見てそんな悪どく笑うんじゃ。何を企んでいるか知らぬが、程々にしておけよ? どうせ儂じゃ止められないんじゃから、たまには自発的に踏み止まらんか貴様っ。

 

「んふふ。これは楽しみになってきました……!」

「え、えっと……何が……?」

「麗日、諦めろ。こうなったら被身子は止まらん」

 

 あぁ、もう駄目じゃ。こうなったら、どうしようもない。じゃって被身子じゃもん。人生、時には諦めも肝心じゃ。

 

「廻道さんが止められんなら、もう誰も止められへんと思うんやけど……」

「それが被身子じゃ。……可愛いものじゃろ?」

「んん……。ナチュラルに惚気てる……」

 

 いや別に、惚気てなどおらんが。事実を口にしただけじゃ。何だかんだで、自由奔放に動き回る被身子は可愛いものじゃ。確実に振り回されてしまうが、まぁ醍醐味みたいなものじゃ。多分。

 

 

 と、言う訳で。この後、儂も麗日も被身子に振り回されることになった。風呂ではゆっくりしたいんじゃけどなぁ。まったく、こやつと来たら……!

 

 

 

 

 

 









トガちゃんがアップを始めました。あーあ。

三人称による補完は要りますか?

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  • 要らん
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