待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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常闇の進歩。

 

 

 

 

「ふわ、あ……。んん……っ」

 

 ……あぁ、変な時間に目が覚めてしまった。ここ最近は寝る時間が個個別別(ここべつべつ)じゃから、多分のそのせいじゃの。今宵こそはちゃんと朝まで寝ようと思っていたんじゃけど、目が覚めてしまった。直ぐ隣で眠っている被身子を起こすのは忍びないから、出来ることなら二度寝したい。んじゃけど……、どうにも眠れそうにない。すっかり眠気が無くなってしまった。

 ううむ、困ったの。寝れないからと言って、儂を抱き締めるようにして寝ている被身子を起こすなんて真似はしたくない。こやつはこやつで、しっかり眠らなければならん。特待生としての勉強も有るし、儂の分の家事と有る訳じゃし。普段はあんなのに、被身子は頑張り過ぎてしまう時が有るんじゃ。それで体調を崩すところは、もう見たくない。じゃからまぁ、しっかり寝かせてやりたい。今夜も盛り上がってしまったが、求められると抗えぬと言うか……何と言うか。

 

 あぁ、もう。顔が熱い。冷房が止まってるのか? 真夏の夜なのに? ……いや、動いているの。涼しい風が部屋の中を流れているのが分かる。じゃあ顔が熱いのは、寝る前にされたり、したりした事を思い出して照れているからか。じゃって気恥ずかしいんじゃもん。今日まで散々好き勝手に犯さ……抱かれているのに、何でか慣れることが無い。ひょっとして、儂がこんなじゃから被身子は調子に乗るのでは?

 

 ……まぁ良いか。被身子が幸せそうにしてくれているなら、儂はそれで。こやつが笑顔で居られるなら、何だって良いと思ってしまうんじゃ。我ながら安易じゃとは思うが、実際そうなんじゃから仕方ないのぅ。

 

「ん、ふふ……っ。ちょろいのです……♡」

「……」

 

 いったい、何の夢を見てるんじゃか。そんな緩みきった寝顔で、寝言を口走るな。かぁいいとか、思ってしまうじゃろ。

 何じゃか、少し悪戯したくなって来た。ので、頬を指で摘まむ。柔らかい。そう言えば小学生の頃、えっち……? な人は、頬が柔らかいとか何とか誰かが言っていた気がするの。結局は何の確証もない与太話じゃったけど、あながち間違いでは無いのかも知れぬ。じゃってほら、被身子はえっちじゃから。そんなこやつに付き合い続けてる儂も、もしかしてそうか……?

 

 ……いや、それは解せぬ。納得出来ぬ。儂はえっちではない。……ないよな? 違うよな?

 

「……んんっ、ん……」

 

 いかん。被身子が起きる。少し不機嫌そうな顔をして、口を動かし始めている。悪戯は程々にして、大人しくしていなければ。しかしのぅ……、このまま身動きひとつ取らぬままで居るのは……。

 あ、目が開いた。少しだけ、じゃけど。

 

「……ふふっ。円花ちゃんです……」

 

 まだ寝惚けている。と言うか、明らかに意識が覚醒しとらん。直ぐに目蓋は閉じてしまったし、余計に儂を抱き締めてくるし。静かな寝息も聞こえて来た。

 仕方ない。眠くないんじゃけど、寝るとしよう。目蓋を閉じて、こうして被身子と密着していれば直ぐに寝れるじゃろう。こやつの体は柔らかいから、抱き心地ならぬ抱かれ心地が中々良くて……。出来れば頭を撫でるなり、背中を擦るなりして欲しいところじゃけど、高望みはせん。今、こやつは寝てるんじゃから。どんな夢を見てるかは知らぬが、何か幸せそうじゃからそれで良しとしてやろう。

 

 まったく、こやつと来たら。

 

 ……なんて思いながら頬を緩めていると、枕元に置いてある携帯電話(すまほ)に着信が有ったことに気付く。儂が最後に携帯電話(すまほ)を確認したのは何時じゃったっけ? 確か今日は……。……うむ、してない。何なら昨日も一昨日も見てないかも知れぬ。おおるまいとや七山から、何か連絡が有るかもしれん。そう思ったら、少し気になってきたのぅ。しかし、この状況では手に取れぬ。指で触らずとも音声操作で確認は出来るが、それじゃと被身子を起こしてしまうし。

 

 別に良いか、朝になってからでも。どうせ大した連絡は入っとらんじゃろ。そう思うことにする。

 

 さて。そうと決まればもう一度寝て、朝から始まる訓練に備えるとしよう。仮免試験まで、もう時間が無い。個性伸ばしそのものは順調……と言えるかは微妙なところじゃけど、まぁ少しぐらいは進歩している筈じゃ。問題が有るとするなら必殺技が思い浮かばん事と、個性そのものを呪力強化した場合の出力が高過ぎることじゃの。何で竜巻なんて出来るんじゃ。気軽に試すことが出来ぬ。

 ……こう、術式と向かい合う要領で個性と向き合うべきか? 触れたものがぐるぐる回る程度の個性じゃけど、個性の解釈を広げて……。

 

 いやいや、回転は回転じゃ。どうやって解釈を広げるんじゃ?

 

 回転……。回る……。ぐるぐる……。渦巻く……。螺……。螺? 捻れる?

 

 そう言えば儂の個性、対象はどこからどこまでじゃ? 物質と気体に作用することは知っている。恐らく液体も対象範囲じゃろう。呪力強化が出来るのであれば、呪霊にも有効じゃ。なら、人体は? 生物は?

 

 うむ、気になって来たの。しかし、そう簡単に人に使うわけには行かぬ。どんな事になるか分からんしの。例えば触れた部位を中心として、人そのものが回転するだけならまだ良い。目が回るだけじゃ。しかし、触れた部位しか回転しないとなると……。こう、肉が丸まって千切れてしまうのでは? 下手をすれば全身、粘土を丸めるみたいに丸まってしまうのでは?

 

 ……。人に試すのは、止めておこう。下手をすれば死人が出てしまう。回転を使うのは、人以外の物質にしておこう。

 

「……くぁ……」

 

 あぁ、うむ。あれこれ考えていたら、少し眠くなって来た。夢の中で儂を撫で回しているのか、それともただの偶然か。反射なんてことは無いと思うが、被身子が背中を撫でてくる。そうされてしまうと、……うむ……。

 

 ……寝るとするか。お陰様で寝れそうじゃ。こやつ、まっこと儂を寝かし付けるのが上手いの。一人では寝れなくなりそうじゃから、少し手加減してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も今日とて、混凝土(こんくりいと)ばかりの訓練場で個性伸ばしじゃ。そろそろ小石を回すのにも飽きてきた。と言うか、慣れてきた。ので、せめんとす先生に頼んで人程の大きさをした混擬土の塊を用意して貰った。周囲に人が居ると危ないかもしれんから、今日は訓練場の隅を陣取って鍛練することにする。今朝は左回転な気分じゃから、左手で触れる。すると、ぐるぐる回り始めた。

 ふむ。どうやら対象の重さや大きさは、回転を使うに辺り特に関係無いらしい。回転速度は小石と変わらん。回転数も恐らくは変わらないじゃろう。こんなに大きな物を容易く回せるんじゃから、実は中々に個性出力が高いのか? まぁ、よく分からんけども。

 

 ……おえっ。

 

 こ、これはいかん。急に目が回って来た。何でじゃ? 対象の大きさや重さは関係無いと思っていたのに、実は関係有る感じかこれは。うえっ、気持ち悪いのぅ……。

 個性伸ばしは出来ていると思ったんじゃが、対象を変えただけでこうなるとは……。まだまだ鍛練が足りぬようじゃ。この分じゃと、個性を十全に使えるようになるのは何時になるんじゃろうなぁ。

 

「廻道。少し良いか?」

 

 気持ち悪さで吐きそうになっていると、今朝は常闇が一番乗りで話し掛けてきた。どうせ助言が欲しいんじゃろ? 何でどいつもこいつも儂に見て貰おうとするんじゃ。いい加減、えくとぷらずむ先生を頼れ。儂に個性伸ばしをさせぬつもりか?

 まぁ、別に良いがの。個性が扱えぬなら、呪力や術式で試験に挑むだけじゃ。この二つがあれば、実技はどうとでもなるじゃろ。

 

「うっぷ。何じゃ鳥頭……。儂は見ての通り気持ち悪いんじゃけど?」

 

 ところで、常闇。お主、英雄装束(こすちゅうむ)を変えたのか? この間まで着ていたのと比べて、かなり意匠が違う。全くの別物じゃ。黒い外套はそのままなんじゃけど、中に見える装束が何故か着物になっている。袴に上衣じゃ。何じゃその格好。そこまで変えたなら、いっそ外套は羽織りにしてしまえ。いや、だあくしゃどうの事を考えるとそうでもないのかも知れぬが。

 ……前々から思っとることなんじゃけど、何で英雄(ひいろお)は珍妙な格好を好むんじゃ? どこか頭がおかしいのか? うえっぷ。いかん、吐く。吐くぞこれは。

 

「すまない。深淵暗躯の改善をして来たから、見てくれると助かる」

「頑張ッタンダゼ!」

 

 だあくしゃどうが飛び出てきた。何やら誇らしげにしているの。余程自信が有るのじゃろうか?

 

「……じゃあさっさ見せ、おぇええっ」

 

 盛大に吐いてしまった。人前ですることじゃないとは分かっているが、出てしまったものは出てしまったんじゃ。今朝の朝食も美味かったのに、胃の中の物を吐き出すのは被身子に申し訳無い。

 あぁ、気持ち悪い。反転術式(はんてん)せねば……。とにかく、一度この気持ち悪さを消してしまおう。原因は三半規管の酷い揺れや脳にあると分かっているから、そこを重点的に新鮮にしていく。

 

 ……よし。何とか収まってきた。麗日はよくもあんなに個性が使えるのぅ。こんな風に酔ってしまうなら、もう使いたくないとか思わんのじゃろうか?

 

「大丈夫か?」

「んん゛……っ、何とかの。もう大丈夫じゃ」

「……遠慮なく行っても良いか?」

「お主が儂の体調を気遣うには、六十年は早いのぅ。ほら、良いから掛かって来い」

 

 常闇から五歩は離れ、分かり易く両手を叩き合わせる。それを見たこやつは、少し考え込んだ後にだあくしゃどうを身に纏い始めた。どうやら深淵暗躯の扱いに少しは慣れ始めたようで、前と比べたら滑らかにだあくしゃどうを纏っていく。どうやら、個性伸ばしは順調のようじゃの。

 ひとまず、前回と同じように試してみることにする。纏っただあくしゃどうをどう扱うようになったのか、それが気になる。まさか何の成長も無い、なんて事は有り得ぬ筈じゃ。

 

 たまには儂を魅せてみろ、常闇踏陰。

 

「深淵暗躯・躍動!」

 

 お。名前が変わっておる。深淵暗躯の派生か? まぁ良い。色々試してみれば良い。ろくなものじゃなかったら、一蹴するだけじゃし。

 

「穿血」

 

 程々の圧縮で、程々の速度の穿血を放つ。と、同時。常闇が左手を突き出した。すると、だあくしゃどうの腕だけが飛び出した儂の血に向かって突き進む。その一瞬後で、だあくしゃどうの爪が穿血を弾いた。

 

「ほう?」

 

 前回は纏うだけだったんじゃった。しかし今回は纏った上で、だあくしゃどうの特性を活かしておる。悪くない。間合いが広く、自在に動くのがだあくしゃどうの強みじゃ。そこに常闇自身が気付いているかは知らぬが、大分良くなったように思える。

 悪くない。悪くないのぅ。後はその状態をどの程度維持することが出来るのか、そしてどこまで扱うことが出来るのか。そこを見てみるとしよう。

 

「赤縛」

 

 常闇とだあくしゃどうに向けて、血の縄を次々と飛ばす。ひとつでも絡まれば、そこまでにするつもりじゃ。どこまであやつ等が動けるか見ておきたいから、絶え間無く血を飛ばして試すとしよう。

 

「……っ、く……っ!」

 

 迫り続ける儂の血を、力任せではあるがだあくしゃどうの腕で叩き落としていく。動きは、悪くないの。しかし悲しいかな。だあくしゃどうの腕は二本じゃ。故に連続して赤縛を打ち払うことが出来る回数は、そう多くない。

 二度、三度、四度と赤縛を払いのけ……そして。

 

 五度目で腕が追い付かなくなり、六度目で赤縛の餌食になり地面に転がった。ふむ、悪くないのぅ。くらすめえと達の中では、結構足掻いた方じゃ。

 

「……くそっ。これでも駄目、……か」

「いや、見違えたぞ。その調子で、もっとだあくしゃどうを動かせるようにしろ。更に自由に、更に自在にじゃ」

 

 そしたら、もっともっと良くなる。それぐらいの域に達することが出来るなら……もう少し本気で相手してやっても良い。いかん、何だかわくわくして来たのぅ。もしや、常闇と手合わせ出来る日が近いのか? じゃとしたら、儂は嬉しいぞ。素直に嬉しい。やはり骨のある奴と手合わせするのは、楽しいものじゃからのぅ!

 

「ところで、何でこすちゅうむを変えたんじゃ? 別に変える必要は無かったと思うが」

「……漆黒の和衣も有りと思って」

「鳥天狗みたいになっとるぞ、お主」

「褒め言葉として受け取っておく」

 

 いや、褒めとらん褒めとらん。良いのか? お主、 それで良いのか? 鳥天狗じゃぞ、鳥天狗。平安時代、そこそこ人々を脅かした呪霊なんじゃけど? あんなのに似ていると言われたのに、それを褒め言葉と受け取るのは……ううむ。やはり変な趣味をしているのぅ。儂には分からん。まっこと分からん。そんなじゃから中学時代、変な病人扱いされてたんじゃないのか。

 

 まったく、仕方のない奴め。仕方のない奴め!

 

「廻道こそ、術式や個性に合わせたコスチュームじゃなくて良いのか? ブラドキングは予備の血液パックを持ち歩いてるそうだが……」

「必要無い。血液は反転術式(はんてん)で補える」

 

 まぁ、実を言うと血液の入った袋や筒は有っても良い。何せ儂、反転術式と術式順転を併用出来ぬから。より正確に言うのなら、出来るけどやらぬ。そうすることで反転術式の効果を底上げしてる訳じゃし。この辺りの事を人に話してしまうと、呪術の秘匿義務に触れてしまうから詳しくは語らんが。

 

「ところで、廻道」

「何じゃ?」

「これ、解いてくれ」

 

 ……こやつ、手加減した赤縛も破れぬのか。もっと筋肉を付けろ。いや、おおるまいとみたいな筋肉阿呆になられてしまっても困るんじゃけど。そもそも、だあくしゃどうに解いて貰えば良いじゃろ。儂の手を借りる必要なんて無かろうに。

 甘えた真似をするな。仕方ない奴じゃなぁ……。 どれ、近付いて解いてやるとするか。

 

「もっと体を鍛えろと言っとるじゃろうが。情けない奴め」

「鍛えてはいるが、これは無理だ」

(まこと)か? それにしては、貧弱じゃのぅ。緑谷に教わったらどうじゃ?」

 

 地面に倒れたままの常闇から、固まった血を力で剥がしつつ、ついでに肉体に触れてみる。筋肉は……付いているには付いている。が、まだまだ薄い。鍛え方が足りん。

 

「……廻道は、どうやって鍛えてるんだ?」

「……授業での訓練とか、実戦で自然と……?」

「……」

 

 おい、呆れるな。前世では、ちゃんと鍛えていたんじゃ。重い荷物を担いで何時間も歩いたり、時には走ったり跳んだりしていた。移動のついでに、じゃったけども。ただ、今生では意外と体を鍛える時間が無い。儂個人としてはもう少し筋肉を付けたいところなんじゃけど、あまり筋肉質になるのは良くないと思うんじゃ。じゃってほら、被身子が拗ねるかも知れぬし。

 

「修羅め」

「喧しい。誰が修羅じゃ、誰が」

 

 まったく。油断すると直ぐそれじゃ。何でこやつは、儂を修羅扱いするんじゃ。何度も違うと言っているし、結局何度説明しても悪鬼羅刹じゃの修羅鬼じゃの言うしっ。儂の話を怪談扱いすることもあるしっ!

 

「あと、べたべた触るのは止めてくれ……! 渡我先輩が知ったら何て言われるか……!」

「おい暴れるなたわけ。大人しくせんか」

 

 ついでに、喧しい嘴を掴むとする。これで静かになるじゃろ。まったく、こやつめ……。何で儂に触れられると、そんな大袈裟な反応を見せるんじゃか。あと、被身子が居ない時は気にする必要は無いと思うんじゃけど?

 

 

「―――常闇くん。円花ちゃんに、何をさせてるんですか?」

 

 

 ひえっ。被身子お主っ、いつの間に儂の背後に立ったんじゃっ!? と言うか、いつ訓練場に来たんじゃっ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 









三人称による補完は要りますか?

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