待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
呪術総監部から、依頼が来ていた。何でも、雄英近くの商店街で原因不明の事故が相次いでいるらしい。警察や
まぁとにかく、そんなこんなで。儂は夕飯を済ませた後で、寮を出た。今は真夏じゃから、夜でも外は暑い。纏わり付く湿気は鬱陶しいし、気温の高さに辟易してしまう。
外に出ると、
まったくの別物なんじゃけどなぁ。悪党と相対することと、呪霊を祓うことは。
「あれ、廻道さんはコスチュームじゃないんだ……?」
「着る必要がない。基本的には私服で十分じゃからの」
呪霊を祓いに行くのは、儂からすれば散歩に行くのと変わらん。殆どの場合は、じゃけども。相手が特級相当ならば儂も頑丈な服を着ても良いかも知れぬが、雑魚を相手にする分には必要無い。いつも通りに着物を着るだけじゃ。
それにしても、暑いのぅ。もう夜の八時なのに、まったく涼しくならん。この時代の気温はどうなっとるんじゃ。何で現代人は、こんな暑さの中で外に出ることが出来るのか。つい正気を疑いたくなってしまう。こんなに暑い日は、冷房の効いた部屋で
「じゃあ、行こっか。現地は調べてあるから、はぐれないようにしてね……?」
「お主こそ。迷子になっても知らんからな」
さも当然のように儂が迷子になると思うな、たわけ。と言うか何じゃ? 送迎の車は無いのか。現地まで涼しい車内で座って居たかったんじゃけどなぁ。無い物は仕方ない。素直に歩いて、さっさと済ませるとするか。どうせ雑魚呪霊が商店街を彷徨いてるだけじゃ。緑谷のように緊張するつもりは無い。
取り敢えず、商店街に向かって歩き始まるとしよう。まずは雄英の敷地から出なければ。校門の方角に向かって歩こうとすると、緑谷が隣で歩き始める。儂の少し前を歩くのは、道案内のつもりか? 雄英の敷地から出ることぐらい、一人でも出来るんじゃけど??
「えっと、七山さんからの指示だと道中に見えた呪霊は無視して良いみたいなんだけど……どうしよう?」
「気になるなら目に付く呪霊もついでに祓うか?」
「……オールマイトは、きっと祓うよね……? なら僕も、そうするべきかなって思うんだけど……」
「あやつと同じ事をする必要は無いんじゃぞ。あんな風に動いたら、時間が幾ら有っても足りぬ」
そのせいで、職場体験では酷い目に遭った。もう二度と、おおるまいとの脇に抱えられたまま空を飛ぶなんて体験はしたくない。飛行機すら乗りたくないぐらいじゃもん。
それに、誰でもおおるまいとのように動けるわけじゃない。人間誰しもあんな動きが出来るのなら、あの筋肉阿呆が平和の象徴等と呼ばれることは無かった筈じゃ。
「と言うか緑谷。別にお主は来なくて良いんじゃぞ?」
仮免試験の為の勉強や訓練に、呪術師としての活動。儂は夜に出掛けても大丈夫じゃけど、こやつはそうもいかんと思う。学業と呪術師の両立は、まっこと無理があるからのぅ。何より、付いて来られるのは邪魔じゃ。
「ううん、行くよ。僕にやれる事があるなら、ちゃんとやらなきゃ」
「……仮免、落ちても知らんぞ」
「う……。だ、大丈夫。ワン・フォー・オールを貰う時と比べたら、まだ何とか……!」
……
そもそも、お主はおおるまいとの後を継ぐことだけに注力してれば良いんじゃよ。呪術師なんて寄り道をしてる暇はどこにも無いじゃろ。阿呆め。
「お主、呪霊との戦い方は覚えてるか?」
「林間合宿の時の、だよね? もちろん、覚えてるよ」
「それともうひとつ条件を付け加える。相手が術式を持っていた場合、お主は前に出るなよ」
歩きながらにはなるが、幾つか説明しておこう。具体的には呪霊の等級と術式についてじゃ。この辺りの事も、共有しておかなければならない。今の緑谷が祓える呪霊は、せいぜい二級が限度じゃろう。術式を持った一級相手は、まだ無理じゃ。
「……それは、でも……」
「呪霊には等級があっての。一級以上は儂が引き受けるから、それ未満はある程度任せる」
「……駄目だよ。廻道さん一人で戦わせたくないし、僕はもっと頑張らなきゃ行けないから」
「何でじゃ? 何でそんなに焦っとるんじゃお主は」
どうも、何か焦っているように見える。足を止めて顔を見詰めると、緑谷も同じようにしてきた。訓練の時は感じなかったことじゃけど、少し様子がおかしく見えるの。どうしたんじゃこやつ。今になって、何を焦っているのか。
「神野でオールマイトが戦って、反転術式のお陰で健康になって……。それでどうしても、考えちゃう事があって」
「……」
「僕、オールマイトに個性を返した方が良いんじゃないかって。知ってるとは思うけど、今……日本の犯罪率は少しずつ上がって来てて。
オールマイトが弱ってるってことが、晒されちゃったから。だから、返すべきなんじゃないかって……!」
……あの阿呆め。緑谷がこうなると想定していなかったのか? 師としてどうなんじゃそれは。
ただ、合点は行った。緑谷がこうして焦るのは、仕方がない話ではある。じゃから呪術師としても活動しようなんて、こやつは思ったわけじゃ。呪術師になるつもりはないと言っておきながら、それでも呪術界に身を置こうとしてるのは少しでも平和の象徴に追い付きたいから。同時に、自分は相応しくないとでも思ってるんじゃろうな。
師が師なら弟子も弟子か。二人揃って阿呆か? そうじゃとは思っていたが、まさか
「一度託されたものを返そうとするな。あの筋肉阿呆は、お主を信じて託した。個性を返すなら、それを否定することになるが良いのか?」
「……それは……」
悩む必要なんて無いと思うんじゃけどな。何でそんな事でいちいち悩むのか、儂には分からん。家を継ぐことが出来なかった儂からすれば、羨ましいぐらいなんじゃけど。
「不安なら、さっさと強くなれ。幾らでも胸を貸してやる」
こやつがおおるまいとのようになるまで、あと何年掛かるのやら。それまでは、仕方ないから面倒を見てやろう。一応、儂の弟子みたいなものじゃし。
まぁ、呪術師にしてやるつもりはまったくないんじゃけども。
さて……。阿呆な事を話してないで、さっさと呪霊を祓いに行こう。遅い時間に帰るつもりは無いんじゃ。済ませることを済ませて、早く被身子に会いたい。少し離れただけでこう思ってしまう辺り、我ながら呆れてしまう。どこまで惚れ込んでるんじゃ儂は。まさか
……それを悪いとは思わん辺り、重症かもしれんの……。
「さっさと行くぞ、たわけ。のんびりしてると帰りが遅くなってしまうからの」
「ぅ、うん……。無事に早く帰れるように、頑張ろう」
◆
雄英の校門から歩くこと、三十分程。儂等は呪霊被害が発生したと思われる商店街にやって来た。もう夜の八時半を越えてしまっているからか、人通りは少ない。どころではなく、まったく無い。警察により、立ち入り禁止措置が行われていたからじゃ。儂と緑谷は顔を見せただけで中に入れたので、どうやら総監部からの通達は行き届いているようじゃの。これなら順調に呪霊を祓えそうじゃ。
出来れば、日付が変わる前に寮に帰りたい。じゃからっていい加減な仕事をするつもりは無いんじゃけども。
まぁ、何事も無く簡単に終わるじゃろ。この時代の呪霊はどうにも弱いままじゃからの。
「闇より出でて闇より黒く
その穢れを禊ぎ祓え」
まず、帳を降ろす。これで部外者がこの商店街に入ることは無くなった。次に緑谷と共に帳の中に入ると……。
……うむ。何もおらんな。どうやらまだ、呪霊は儂等の前に姿を現さないようじゃ。こうなると、この商店街の中を探し回るしかないのぅ。まったく、面倒な事じゃ。祓ってやるからさっさと出て来い。
「廻道さん。帳って、僕やオールマイトでも使えるかな……?」
「可能じゃ。言ってしまえば、これは呪力操作の延長じゃからの。まぁ教えるつもりは無いが」
「えっ」
「お主を呪術師にするつもりは無いんじゃ。おおるまいとは、ある程度好きにさせるが……お主は駄目じゃ」
「な、何で……?」
「子供じゃから。それ以外に理由は無い」
「……」
こやつ、さては納得しとらんな? が、口には出さない辺り、舎弟よりは行儀が良い。あやつじゃったら即座に怒鳴り散らして居たじゃろう。いい加減、あの態度の悪さを何とかしなければ。何とかなると思い難いのも、問題じゃけど。
で、緑谷よ。何じゃその目は。儂も子供じゃと言いたいのか? それは間違いではないが、間違いみたいなものじゃぞ。儂、これでも七十過ぎの爺じゃからの。……精神的には。
さて。緑谷ばかりに構ってないで、少し集中するとしよう。試しに気配を探ってみるが、特に何も感じぬ。残穢は見当たらない。と言うことは、呪霊被害など無かった、もしくは術式を持ち合わせない低級呪霊の仕業と考えられる。
どれ、試しに呪力を練り上げて威圧してみるか。知能が無いような奴ならば、驚いて姿を現すかもしれん。
「……ここに、呪霊が居るんだよね……?」
「恐らくは、じゃけど。居なければ居ないで構わん」
どうせ居たところで、楽しめないじゃろうし。次に楽しく呪い合える日は、何時になることやら。
人気の無い広い商店街を、緑谷と並んで真っ直ぐ進んで行く。呪霊の気配は未だに無い。総監部が読み違えた可能性が無いとは言い切れんし、帳の縁に着いたら帰るとしようかのぅ。
そう思った、直後じゃった。商店街の中心辺りに儂等二人が辿り着くと同時、大量の呪霊が姿を現した。四方八方、あちらこちらに。中には、建物の窓にくっ付いている呪霊もおる。
「う、うわ……!? こんなに沢山……!?」
「落ち着け。どれも雑魚じゃから、基本的な呪力操作で祓える」
見たところ、殆どが三級程度じゃ。何なら四級未満の雑魚も混じっておる。まぁ儂からすれば、全て雑魚でしかないんじゃけども。儂等を囲う呪霊共の数は多いが、個々の力量は間違いなく低 い。未だ続々と姿を現し増え続けては居るものの、相手がこの程度ならば緑谷に任せても良いな。
……にしても、妙な気がするの。呪霊がここまで群れるか? 有り得ない話でも無いんじゃけども、その原因が気になるところじゃ。
取り敢えず、呪霊を祓いつつ探ってみるとするか。何か見付かればそれで良し、見付からなくとも良し。
「さて緑谷、祓えるだけ祓ってみろ。目標は……まぁ半分程で良い」
「……分かった。ワン・フォー・オール、フルカウル!」
緑谷が個性を使うと同時。こやつは個性特有の薄い光に包まれた。個性の扱い自体は大分慣れてきたようじゃの。まだ息をするように扱えてはいないが、雄英に入学した時と比べれば大分良くなっている。で? 呪力は?
「それと、フューエル・インジェクション……!!」
お。呪力を練り上げた。と言うより、個性の中から引き出しおった。こっちも、割と扱えるようになって来たようじゃ。
どうやらいつのまにか、呪力を引き出す感覚はしっかり掴んでいるようじゃの。出鱈目な個性に、呪力強化。この二つを維持し続けられれば、そこらの雑魚に遅れを取ることはあるまい。三級までなら、どうとでもなるじゃろう。二級は、相手次第では少し苦戦するかもしれんが。
で、ふゅうえるって? 何か聞いたことがある英語じゃの。ええっと、何じゃったっけ。確か綴りはえふ・ゆう・いい……える、じゃったか?
……ああ、そうじゃ。燃料って意味じゃったの。燃料? 何が? 呪力が? いんじぇくしょん?
分からん。分からんから、必殺技は日本語で言ってくれ。
「っ、っっ……! よし、これで……!」
ううむ。個性と呪力の同時使用はともかく、その維持に手間取っているようじゃ。意識が個性や呪力に向けられて、そのせいで体が固くなっている。個性だけの時と比べて、この様子じゃ大して動けんじゃろう。個性や呪力の維持は、こやつの課題じゃの。いっそ、攻撃と防御の瞬間だけに呪力を引き出すように訓練した方が良いのでは?
いや、その場合は攻撃前と防御前に動きが固くなってしまうか。
「後ろは気にするな。好きに暴れて来い。合わせてやる」
「……うん。じゃあ、任せるね……!」
固い動きでは有るけれど、緑谷は正面に居る呪霊に向かって駆け出した。個性と呪力を併用しているからか、固い動きのくせに速い。力の維持を無意識で出来るようになれば、更に速くなるじゃろう。
そう考えると、悪くない。いつかおおるまいとの如く動けるようになる筈じゃ。そうなるのが何年後の話かは知らぬが、その時は是非手合わせしたいところじゃのぅ。
「スマーーッシュ!!」
緑谷の蹴りが、数匹の低級呪霊を纏めて吹き飛ばした。うむ、ちゃんと祓えているの。威力はそこそこ。もっと滑らかに打ち込めれば、更なる威力が期待出来そうじゃ。
この蹴りを皮切りに、呪霊達が一斉に動き出した。大半は緑谷に向かって飛び掛かり、残りは儂の方に来た。ので、適当に血を撒いて雑魚の群れを祓っていく。緑谷周辺の連中には、手を出さん。このくらいの雑魚ならば、特に問題は無いじゃろう。……無いよな?
念の為、何が有っても良いように備えておくか。緑谷の背に儂の血を付けておこう。それはそれとして……。
「……雑魚ばかりじゃのぅ」
つまらん。まっことつまらん。何一つ話にならん。立派なのは数だけで、それ以外はまるで駄目じゃ。幾ら儂の血が呪霊に有毒じゃとしても、少しかかった程度で祓われるとは。どうなっとるんじゃまったく。
そうこうしている内に、儂に近づかぬ方が良いと判断した呪霊共が緑谷の方に逃げていく。おいおい、逃がすわけ無いじゃろ阿呆。
逃げる呪霊を一匹残らず、根こそぎ祓う。これで全体の半分程は減ったかの。後は緑谷が相手にして居る呪霊共を祓い尽くせば、今回の依頼は済むじゃろう。最後に見回りだけして、見逃しがないかだけ確認しておこう。
「わっ、ちょっ……!?」
あぁ、これはいかん。緑谷が呪霊に埋め尽くされた。ので、緑谷の体を儂の方に血で引っ張る。呪霊を吹き飛ばしながら、儂の足元に転がった。ある程度散った呪霊は、ついでに血を飛ばして祓っておいた。これで殆どは消えたのぅ。後は、十匹も居なそうじゃ。
「ごめん、ありがとう……!」
「油断するな。弱くとも数は多いからのぅ」
「うん、気を付ける。……数が沢山居る場合、埋め尽くされるから位置取りには気を付けなきゃ。ひとつひとつ迎撃するんじゃなくて、もっと立体的に動いて……。足かっ、足を使わなきゃ!
となると、かっちゃんの動きに飯田くんの動きを合わせて……」
……ぶつぶつと何か呟いて、考えこんでおる。まぁ、もう大丈夫じゃろう。とは言え、もう一度血を付けておくがな。また同じような目に遭うかもしれんし。
「よし……! 行こう!」
呪霊に向かって、緑谷は駆け出した。さっきよりも速度を上げて、まずは飛び蹴り。一匹祓ったのを確認した後、即座に真上へと跳び上がる。それから足を大きく振りかぶって……。
「マンチェスター、スマーーッシュ!!」
勢い良く、踵を振り下ろした。その一撃は緑谷を追っていた呪霊を容易く打ち祓う。
ふむ。さっきよりもずっと動けているの。着地の際はしっかり周囲を確認して、近寄って来ていた呪霊を拳で打つ。その際真後ろから跳び掛かってきた奴は、振り向き様に回し蹴りで吹き飛ばした。さっきよりも格段に動きが良い。
緑谷は三匹、四匹と立て続けに祓い、最後に残った一匹を左拳で殴り抜いた。……相変わらず、呪力の流れが遅れているのぅ。もう少し呪力操作を円滑に行えれば良いんじゃけども。
「……ふぅ。今ので最後……だよね?」
「取り敢えずはの。最後に見回って、残りが居ないか確認しておこう」
「うん、取り逃がしが有ったら大変だ。しっかり見回らないとね……!」
何じゃこやつ。いきなり気分良くなりおって。体を動かしたからか? そこまで単細胞な人間では無かった筈なんじゃけど。
もしかして、初めて呪霊を祓うことが出来て達成感を感じている……のか? そんなに喜ばしいことでも無いとは思うんじゃけどなぁ。まぁ、放っておいてやるとするか。こやつはとにかく経験を積まねばならん立場じゃ。あの筋肉阿呆に追い付こうと思ったら、少なくとも向こう数十年は努力も経験も積み上げなければ。そうまでしても、おおるまいとのようになれるかは分からんけども。
「最後まで気を抜くな。また呪霊に埋め尽くされても、儂は助けんからな?」
「今度は囲まれたりしないように、気を付けるよ」
この後。儂と緑谷は商店街を一通り見て回って、呪霊が見当たらないことを確認してから帳を出た。寮に帰れたのは、十一時手前。日付が変わる前に帰れて、
じゃって、ほら。今回は雑魚呪霊相手で済んだが次はそうとも限らんじゃろ?
デクくん、呪術師デビュー。フューエル・インジェクションは燃料噴射って意味です。つまりフルカウル+呪力放出(強化)ってことです。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ