待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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小僧と勉強。

 

 

 

 

 

「クソチビ。俺と戦え」

 

 仮免試験を明日に控えた今日。儂やくらすめえと達が迫る試験に向けて最後の集中力を発揮している中で、英雄装束(ひいろおこすちゅうむ)姿の舎弟が話し掛けてきた。突然の提案に、直ぐ側で組み手をしていた緑谷と麗日が動きを止めた。舎弟の声は周囲にも聞こえていたようで、くらすめえと達全員が訓練を止めてしまった。

 ……急に何じゃこやつ。顔を見せるなり睨み付けておって。どうやら余程儂と戦いたいようじゃの。別にそれ自体は構わんし、何ならいつでも受けて立つ。いやまぁ、生理の時は嫌じゃけど。

 

 とは言え、儂が首を縦に振ったところでこやつと戦うことにはならんじゃろう。現に、訓練場の隅に立っていた相澤先生が舎弟の発言を聞くなり、儂等を睨みながら近寄って来ているし。

 

「急に何じゃ? そんな真似、出来るとは思えんが?」

「良いから受けろや。仮免取る前に、いい加減てめえを越えておきてえ。そろそろうんざりなんだよ、舎弟扱いも、下に見られんのも……!」

 

 越える? お主が儂を? それは、残念ながら無理じゃろう。こやつと儂の実力差は、未だ大き過ぎる。ここ最近は個性伸ばしや必殺技開発に勤しんでいたようじゃけど、それでもまだまだ儂との実力差は埋まらんじゃろう。

 ただ、相手が自分よりも強いと分かっていても挑む姿勢を止めぬのは、……正直嫌いじゃない。が、今は鬱陶しく思う。いつもの目をしているのなら喧嘩を買っても良かった。が、今のこやつは普段とは違うように見える。それだけ鬱憤が溜まっているのか、それとも何か思うところがあるのか。

 

「ちょっ、何言ってんだよかっちゃん! 戦うって、そんな真似出来る筈無いじゃないか!」

 

 儂と舎弟の間に、緑谷が割って入った。咄嗟に動いてしまったのなら仕方ないが、今の舎弟に話し掛けるのは止めた方が良いと思うぞ。

 

「てめえに話し掛けてねえんだよクソナード! しゃしゃり出てくんじゃねえ!!」

「だから怒鳴るのは止めてよ! 何でいつもそうやって……!!」

「そこまでにしとけ、たわけ。相澤がこっちに来てるんじゃけど?」

「関係ねえだろ! とっとと受けろやクソチビ!!」

「ぎゃっ!!」

 

 右手が突き出された。だけではない。緑谷を左手で殴りおった。おい、正気かこやつ? 問答無用で始めるつもりか?

 

 ……それは、些かやり過ぎじゃろ。仕方ない、お灸を据えてやるとするか。次の瞬間には捕縛布が飛んで来そうじゃが、相手になってやろう。儂に喧嘩を売るとどうなるか分からない程に視野が狭まっているようじゃしの。貴様が何をしようが儂の口から父に伝えるつもりはないが、被身子は別じゃぞ? 被身子が知ったらどうなるか、それが分からない頭では無いじゃろうに。

 次の瞬間には爆破が飛んできそうじゃから、取り敢えず呪力を纏って意識をこの馬鹿に向けておく。

 

 って、ああ。捕縛布……。舎弟の首に見事に巻き付いておる。

 

「そこまでにしとけ爆豪。クラスメートを敵視するんじゃないよ」

「……まぁ待て相澤。この阿呆と個性有りで組み手しても良いか?」

「廻道。試験目前の今に、俺が喧嘩の許可すると思うか?」

 

 まぁ、するかしないかで言えばしないじゃろうなぁ。となると……この阿呆に儂からお灸を据えることは出来ぬ。じゃけどいい加減、緑谷への態度は改めさせたい。出来ることなら周囲への態度も。この阿呆に何をしても良いと、爆豪婦人には言われているしのぅ。そろそろ、その権利を行使させて貰うとするか。

 と、なると……。この場はやり過ごすのが正解か。後で人目を盗んで帳を降ろせば、小僧の望み通りに戦うことは出来るしの。帳自体は緑谷やおおるまいとに見られてしまうが、仕方ないか。

 

「爆豪、お前いい加減にしとけ。大事な時期に人を殴るような真似はするな。緑谷、大丈夫か?」

「っ、はい……。平気です」

 

 にしても。何がそんなに気に食わないんじゃこやつは。そんなに儂に舎弟扱いされるのが嫌いか? それとも、手を出してしまう程に緑谷が苦手なのか?

 へどろ事件の後は、あんなに大人しくしてたんじゃけどなぁ。なのに雄英入ってからは、態度は悪くなっていく一方じゃ。何がここまで、こやつを追い詰める?

 

「よし小僧。後で(・・)話を聞いてやるから、今は大人しくしとけ」

「あ゛ぁっ!? てめえに話すことなんざ、何もねえんだよっ!」

 

 ……取り付く島も無い。捕縛布に縛られているからから、それとも既に相澤が赤く目を光らせて居るからか、もう暴れるような真似はしない。が、態度も口も荒ぶったまま落ち着かん。個性を消されていなければ、間違いなく大暴れしてたんじゃろうな。

 

「廻道、お前もうあっち行け。これ以上爆豪に話し掛けるな」

「そうさせて貰おうかの」

「……っち! 逃げんなよクソが……!」

 

 いつにも増して、態度が悪い。相澤に拘束されては居るものの、手を差し出したら噛みつかれそうじゃ。取り敢えず、夜になったらこやつを連れ出すとするか。夕飯を食べた後……に相手をするのは骨が折れそうじゃし、何より明日に備えて夜はゆっくり過ごしたい。今の儂は間違いなく生理前じゃからの……。あぁ、嫌じゃ嫌じゃ。何で試験当日に来てしまうんじゃ。一日で良いから、たまには遅れてくれんかのぅ。

 

 ……はぁ。明日が憂鬱じゃ。まっこと、勘弁して欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日に疲労を残さぬよう、訓練は早い時間に終った。明日の仮免試験が不安な者は多く、訓練時間の延長を相澤先生に頼み込んでいたが軒並み却下されていた。明日の為の調子作りをするのも訓練の内だと言われたら、従うしかない。少しの休憩を挟んだ後に座学が行われたが、これもまた短い時間で済まされた。結果どうなったかと言うと、全員して午後は丸々自由時間となった。空いた時間をどう使おうが個人の自由と相澤先生は言っておったんじゃけど、訓練だけは禁止じゃ。最後の最後の追い込みとして、座学の勉強はして良いそうじゃ。

 

 なので、現在。若干一名を除いた儂等(ええ)組の面々は、寮の食堂にて被身子にお手製の問題集と向き合っておる。分からないところがあれば即座に被身子が答えを仄めかしてくれるので、解答欄を埋めることに苦戦している者はそう多くない。かく言う儂も、思ったより答えが分かる。今日までの訓練と勉強はそれなりに大変じゃったけれど、何だかんだでしっかり身に付いているらしい。

 

 ……何で呪術師をやるのに英雄(ひいろお)免許が取らなければならないのか。と、疑問に思ってしまう時が無くは無いんじゃけども。

 

「渡我先輩〜〜っ! ここっ、全然分かんない!! 何で弁護士目指してる訳じゃないのに法律の暗記しなきゃいけないんだ〜〜っっ!?」

「三奈ちゃん、ヒーロー免許の座学は法律が殆どなのです。抑えなきゃいけないところはちゃんと覚えてるみたいですから、明日までに細かいところを詰めましょうか」

「廻道っ、廻道はここ分かる!?」

 

 若干涙目になっている芦戸が問題集片手に詰め寄って来た。と思ったら、今日は何故か制服姿の被身子に後ろから抱き寄せられた。然り気無く匂いを嗅ぐのは止めてくれぬかのぅ。ほら、訓練後じゃけど風呂に入れておらぬし。何より気恥ずかしい気分になってくる。仕返しに被身子の匂いを嗅いでも良いが、そんな真似をしたらどんな仕返しが待ってるかも分からん。今は勉強中じゃし、そちらに集中しよう。

 

 で、何じゃって? 何が聞きたいんじゃお主は。儂に聞くより被身子や他の連中に聞いた方が早いと思うんじゃけど?

 

 どれどれ……。……。………。

 

 あぁ、うむ。ほら、うん……。これは、あれじゃ。あれじゃよあれ。何じゃったけ? 確か、ええっと……。

 

「……うむ、分からんっ。がははは!」

 

 駄目じゃった。教えられたような気がするのに、まるで思い出せん。こんな所を相澤先生に見られたら、盛大に睨まれてしまいそうじゃのぅ。明日までに、もう少し勉強しておかねば。

 って、いかん。こんないい加減な姿を被身子に見せてしまうのは駄目じゃ。今日までこやつは、仮免試験の為に勉強を教えてくれた。自分の成績にはまったく関係無いことを猛烈な速度で覚えて、熱心に教えてくれたんじゃ。なのに儂が覚えていないなんて、そんな情けない姿を見せるわけにはいかんっ。

 

 ……、今夜は一夜漬けでもしようかの……。一夜漬けで何とかなるのか? いやしかし、一夜漬けでも何でもしないと座学にはどうしても不安が残る。

 

「まぁ、そこは円花ちゃんには教えてない範囲なので聞いても分からないのです」

「……、なに?」

 

 頭の上から、とんでもない事実が聞こえて来た。と思ったら、脳天に顎を置かれた。

 

「過去の出題傾向から絶対に出る部分と、高確率で出てくる部分しか教えてませんから」

「そ、そうなのか……」

 

 そうじゃったのか……。まるで分からんかった。しかしこやつ、まっこと勉強が出来る女子(おなご)じゃの。そうじゃとは知っていたが、改めて被身子は学力特待生なんじゃと実感させられる。

 そんなに勉強しなくとも、将来は儂が養うつもりなんじゃけどなぁ。いや、勉強しなければならん理由が被身子にはあると分かっているんじゃけども。しかしこのまま行くと、儂が養われてしまうかもしれん。そう言えばこやつ、進路はどうするんじゃ? 被身子の学力ならば何処の大学じゃろうと進学出来るとは思うが……。

 

 大学、大学か……。儂も行った方が良い、のか? いや、雄英を卒業したら本格的に呪術師としてやっていくつもりじゃったし。それに、もう就職先が決まっているような状況ではある。恐らく儂は、卒業が決まると同時に呪術総監部に勧誘されるじゃろう。個人事業主(ふりいらんす)でやって行きたい気持ちは有るんじゃけども、それが許されるかどうかは分からん。

 

「渡我先輩。ヒーロー活動においての器物損壊とその裁判について、詳しく教えてくれますか? この辺り、ちゃんと覚えておきてぇから」

「良いですよぉ。 そこは後で、円花ちゃんと一緒に覚えましょうか」

「被身子ちゃん。救助活動の医療行為のくだりについての資料とか、持ってたりするのかしら?」

「あ、それは子供相手の場合についてしか調べてないのです」

「十分勉強になるわ。今度、教えてくれるかしら?」

「はい。私の分かる範囲であれば」

 

 ……何じゃ貴様等。訓練の時は儂に群がるくせに、勉強となると被身子に群がるのか。まぁ確かに勉強については被身子に聞いた方が良いとは思うが、……ううむ。なんじゃか少し、嫌な気分じゃ。轟も梅雨も、被身子は儂のものじゃって前提が抜けとらんか? おい、まずは儂に許可を取れ許可を。こやつは儂のなんじゃけど?

 

 ……いかん。何か、こう……苛々して来た。生理前じゃからか? こんな程度の事で苛ついてしまうなど、大人げない。ううむ……。

 

「渡我先輩、自分も質問よろしいでしょうか!?」

「はい、どうぞ。分かる範囲は幾らでも教えられるのです」

 

 ……、……むぅ。どいつもこいつも。こうなったら、後で思う存分被身子を独占するしかないのぅ。後で覚えてろよ。どうなっても儂は知らんからな。

 

 ふんっ。何なんじゃもう。被身子まで楽しそうにしておるし。明日に向けて勉強することが悪いとは思わぬが、どうにも納得出来ぬ。儂の被身子じゃぞ、儂のっ。まったく……!

 

 

 

 

 

 








三人称による補完は要りますか?

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