待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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小僧の本音。

 

 

 

 

 

 明日は仮免試験なわけじゃけど、その前にどうしてもやっておくことがひとつある。昼から始まった自主的な勉強会は夕方には終わりを告げ、それでもまだ勉強し足りない者は個別に被身子に聞く形で解散になった。すまんが夜は儂がこやつを独占する番じゃから、くらすめえと達が聞きに来たとしても追い返したいぐらいじゃけど。

 ひとつ解せぬのは、勉強会が解散になった理由が疲れたとか夕飯時が近くなっているからとかではなく、儂が不機嫌そうじゃったから……なんて理由な事ぐらいか。別に不機嫌ではない。何か被身子を取られたような気がして気に食わなかっただけじゃ。

 

 ううむ、どうにもいかんの。何じゃって生理前はこう……被身子が欲しくなって堪らんのか。明日の事を考えると求め合って盛り上がるわけにはいかんのじゃけど、恐らくそうなってしまうじゃろう。日付が変わる前には寝ておきたいところじゃが……。

 

 そうそう。北海道に行ったおおるまいとから連絡があった。燃やし尽くされた街には、残穢が残っていたそうじゃ。となるとあれはやはり、一つ目の仕業か。次に儂等の前に現れることがあれば、確実に祓わなければならぬ。自分達から探しに行くには、人手が足りなさ過ぎるのが一番の問題じゃけど。

 

 で、じゃ。儂は今、舎弟を連れて寮を出た。そして行く宛も無く適当に外を歩き回ってるわけじゃ。こやつだけは勉強会に参加していなかったものじゃから、話し掛ける機会がなくて手間取ってしまった。結局最後は携帯電話(すまほ)を使って、呼び出したわけじゃけど。その後、夕飯を作りに食堂に向かった被身子の目を盗む形でこっそり外に出た。一声掛けても良かったんじゃけど、舎弟と出掛けるなんて言ったら包丁が飛んで来そうな気がするし 。

 

「てめえ……マジで何処まで歩くつもりだ……!!」

「何じゃ、もう疲れたのか?」

「もう一時間は歩いてんだわ!! 勝負するんじゃねえのかよ!?」

「する訳無いじゃろ、たわけ。明日の事を少しは考えんか」

「っち! 俺は帰っからな!!」

「まぁそう言うな。儂が迷子になって、大捜索になって良いならそれでも構わんが」

「……クソが! てめえ本当にその方向音痴を何とかしろ!! どうなってんだ!!」

 

 どうなってるって、どうなってるんじゃろうなぁ。それは儂が聞きたいぐらいじゃ。外を一人で出歩くと、結果的に迷子になるんじゃから仕方ない。儂自身にその気は無くとも、何故か道に迷っておる。そういうものじゃと思って諦めてくれると有難い。儂もこれからは一人で出歩かんよう、気を付けるし。

 にしてもこやつ、何も話すつもりが無いの。聞いたところで反発されるだけじゃから待ってみようかと思ったんじゃけど、やはりそれでは駄目か。

 

 取り敢えず腰を落ち着けて話すとするか。おっ、これは何の建物の壁じゃ? 見覚えが有るような、無いような。まぁ良い。ちょうど良いから、寄り掛かるとするか。

 

「なぁ小僧。貴様、何でそんなに緑谷に突っ掛かる? 今日のはいかんじゃろ。暴力は駄目じゃ暴力は」

 

 腕を組み壁に寄り掛かりつつ、後ろに居る小僧を見る。何がそこまで気に入らないのか、とんでもない形相をしておるの。その目はどこまで吊り上がるんじゃ?

 

「……うるせえな。クソナードなんざ、どうでも良いだろうが」

「どうでも良いなら、あんな風にはならんじゃろ。話してみろ」

「話さねえ。そんなに聞きてえなら、俺に勝ってからにしろや」

 

 ……面倒な奴め。何じゃってこう、儂と勝負したいんじゃか。相手にしてやるしか無いのか? いやしかし、喧嘩なぞして帰ったら被身子に何て言われるかも分からん。それに、相澤先生からも盛大に叱られる羽目になる。

 じゃから、話し合いで済むならそれに越したことは無いんじゃけど。どうもそう上手くはいかんらしいの。

 

「闇より出でて闇より黒く

 その穢れを禊ぎ祓え」

 

 暴力は良くないんじゃけどな。こやつの場合、まずは力で捩じ伏せねば駄目らしい。仕方ない。お互い怪我をせぬように、捩じ伏せるか。そんな器用な真似をするのは面倒じゃけど、怒られない為にはやるしかない。

 

「やっとやる気になったかよ……! 最初からそうしろってんだ!!」

「悪いが捩じ伏せるぞ。儂が勝ったら、全部話せ」

「上等だ! 俺が勝ったら、もう見下すんじゃねえ!!」

 

 別に、見下しては居ないんじゃけどな。仕方ない奴じゃとは思っているが。

 まさかまた、こんな羽目になるとはのぅ。もう懲り懲りなんじゃけどな。こやつとこういう事をするのは。じゃってほら、絶対に怒られるし。

 

 さて、どうしてくれようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 儂の勝ち。赫鱗躍動・載を使い一気に間を詰めて、舎弟が何かする前に腹を殴って地面に組伏せた。若干不意打ち気味になったが、そこは対応し切れなかったこやつが悪いという事で。それでも目だけは儂を追っていたから、そこは褒めてやるとする。こやつ、まっこと動体視力や反射神経が優れておる。まぁそれでも、儂が本気ならまだまだ相手にならんが。今回ばかりはお灸を据えなければならんからの、こやつに合わせて戦うつもりは無かったんじゃ。

 仕置きとは言え、子供に手を上げるのは気が進まなかったが……こやつがやった事を考えるとのぅ。やはり捨て置けぬ。

 

「ぐ……っ、くそ……! もう一回だてめえ!!」

 

 儂の尻の下で、うつ伏せに倒れた小僧が再戦を望んでいる。が、それに付き合ってやる理由は無い。一度相手にしてもらっただけ幸運じゃったと考えて欲しいのぅ。どうせならこやつがどれだけ成長したのか見ておきたったとは思うがの。少し勿体無いことをした。

 

「もうやらぬよ。お主は儂の舎弟のままじゃし、いい加減全部話せ。緑谷に突っ掛かる理由も、そんなに焦ってる理由も」

「……話すから、退け」

「駄目じゃ。しばらくこのまま反省しておれ。次に儂以外の誰かに手を上げたら、こんなもんじゃ済まさんからな」

「……」

「あと、緑谷に謝っとけ。暴力はいかんぞ、暴力は」

 

 まぁ、結局こやつを殴り伏せたのは儂なんじゃけども。ううむ、我ながら説得力が無い。子供を叱るなんて真似は、基本的にしてこなかったしのぅ。じゃってほら、子供は自由に生きるべきじゃと思うし。

 それはそれとして、常闇と比べるとしっかり体を鍛えておるの。まだまだ線が細く見えるが、こやつの個性による移動方法を考えると闇雲に筋肉を付けるのは良くない。もう少しぐらいは、筋肉質になっても良いとは思うが。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 ……。……駄目、か。困ったものじゃ。叱っても駄目、殴っても駄目。ここまで頑なじゃと、もう儂じゃどうしようもない。おおるまいと辺りに叱らせれば、案外大人しくなるのか? いや、あやつに子供を叱るなんて真似は出来なさそうじゃし。かと言って相澤先生では、下手すれば除籍じゃ。こやつは態度の悪さも一級品じゃからのぅ。

 

「……てめえは、あいつを気持ち悪いと思わねえのかよ」

「緑谷を? まぁ儂の事を、のおとに細かく纏めていたことは流石にどうかとは思ったがの」

 

 あれは良くなかった。せめて許可を取ってからにして欲しかったのぅ。まぁでも、子供のやってることじゃし。犯罪でも無ければ、何でも好きにしたら良い。被身子にもそうさせておるからの。いや、あやつのやる事は、時折犯罪すれすれじゃけど。

 

「そういうところもだ、気に食わねえのは」

「……だから、あんな態度を取ると?」

「……それだけじゃねえんだよ。あの野郎、どんだけ殴ろうが突き放そうが、それでも俺の後ろを付いて来やがる。無個性だったくせによぉ……!」

 

 なるほど? つまり……緑谷にも原因が有るとこやつは言いたいようじゃ。あやつの存在が、こやつにとっては不気味と言うことか。じゃからって、暴力は良くない。苛めもじゃ。緑谷から距離を取れば良いだけの話な気がするが……これでも幼馴染みじゃからのぅ。まして中学、高校と同じくらすで過ごしているわけじゃから離れるに離れられんか。

 そう言うのは、さっさと言わんか阿保。もっと早く知っておきたかったんじゃけど? そしたらもう少し、別の形で話を聞けたり仲裁出来たかもしれんのに。

 

「緑谷をどう思ってるかは、ひとまず分かった。じゃけど、儂や周囲にまで態度を悪くするのは何でじゃ?」

「ヒーロー目指してんなら、全員ライバルだろうが。馴れ合うつもりはねえんだよ」

 

 ……、面倒くさい奴め。いや、まっこと面倒じゃそれは。要するに、負けたくないから周囲を威圧していると。じゃから、こうも態度が悪いと。

 

 貴様……口下手にも程があるじゃろうが。大概にしとけよ。伝えるべきところは、しっかり伝えて置かぬか。そんなじゃから下水を煮込んだような性格とか言われるんじゃぞ。

 

「……もう良いだろうがっ。さっさと退けや!!」

「いや、これは仕置きじゃし。暫く儂の椅子になってろ」

「ああ゛っっ!? てめっ、いい加減にしろぉ!!」

「ぐえっ」

 

 ううむ、跳ね除けられてしまった。お陰で背中を地面にぶつける羽目になってしまった。そんなに軽い体をしているつもりは無いんじゃけど、まだまだ儂は重さが足りぬらしいの。やはり、体が軽いと色々と不便じゃ。改善したいと思っては居るが、改善する気がしないのも事実。被身子の為に、今ぐらいの体型を維持して置きたい気持ちが有るからのぅ。

 

「おい小僧。くらすめえとには、もう少し態度を良くしておけ。緑谷には……暴力を振るわなければ態度を改めなくとも良い」

 

 こやつの態度の悪さには、少なからず緑谷にも非があるようじゃからの。舎弟の言い分だけを聞くつもりは無いから、後で緑谷の言い分も聞いておかなければ。その上でどうしようも無いようなら……もうお手上げかも知れぬ。

 まぁそれでも、見放すような真似をするつもりはないが。また被身子が凄い顔をするんじゃろうなぁ。あやつ、儂の事が好き過ぎて少々おかしい節が……。いや、別に良いが。狂おしい程に愛してくれるなら、それを嫌とは思わん。何ならもっと愛してくれても良い。儂はほら、結局は欲しがりじゃから。

 

 にしても、どうしようかこやつ。叱っても駄目、殴っても駄目。となると……。

 

 あ、そうじゃ。ひとつ試していないの。こやつには逆効果な気がするからやってなかったんじゃけど、たまに効果的な子供がおるんじゃよなぁ。

 

「っち。態度変えるつもりはねえよ」

「そうか、なら仕方ない。暴言吐く度に拳骨じゃの」

「あ゛?」

「貴様が少し気を付ければ良いだけの話じゃ。あぁ、すまん。そんな真似は出来ぬか。じゃあ、くらすめえと達の前で儂に拳骨され続けるしか無いのぅ」

「……! 出来るわ!! 余裕に決まってんだろ!! 見とけやチビ!!!」

 

 ……お? まさかの効果覿面か? おいおい、煽るのが正解じゃなんて誰も思わんて。こやつもこやつで、まっこと分からん奴じゃの。

 ところで、ちびとは何じゃちびとは。糞が抜けてるだけ前よりは良いと思うが……それでもそれは暴言では? は? 許さん。誰の身長が、低いって……?

 

 よぅし、さっそく拳骨じゃぞ貴様っ。歯を食い縛っとけ!!

 

 

 

 

 

 







次回からやっとこさ仮免試験です。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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