待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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仮免試験日。医務室

 

 

 

 

 

 んぇ……。んん……っ。……。

 

 

 ……どうやら儂は、実技試験のひとつを通過したところで気絶してしまったようじゃ。生理はまだ収まっていないようじゃから、そんなに意識を失っていた訳では無い。と、思いたいのぅ。

 実はもう夕方とか夜になっていて、とっくに仮免試験は終ってしまっていた。なんて事態になっていてもおかしくはない。体を起こしたいと思っても、やっぱり起きたくなくて目蓋を閉じてしまう。正直言って、もう仮免試験は半ば諦めとる。気絶までしてしまったんじゃから、試験をひとつ通過しても落第となっているじゃろう。そう考えたら、もう頑張りたくないんじゃ。このまま寝てしまおう。今は寝具(べっど)の上が心地良いとすら思える。それだけ体も心も弱っているからの……。ぐすん。ぐすぐす。もうやじゃ、泣きたい。泣く。枕に顔を埋めて泣いてやる。生理なんか嫌いじゃ、大嫌いじゃ。

 

 ところで、ここは何処じゃ? 片目をうっすら開くと見知らぬ天井に、見知らぬ寝具(べっど)が目には入る。少し消毒液の臭いがするから、恐らくは医務室か病室なんじゃろう。さっきまで気絶してたんじゃから、病院に運ばれていてもおかしくない。もしそうなら、もう仮免試験は諦めよう……。

 

「……! 円花ちゃんっ、起きました!?」

 

 ん……。おぉ、被身子……。被身子が居る。儂の様子を見に来てくれたようじゃ。今はそれが嬉しい。じゃけど、そんな心配そうな顔をして駆け寄るのは止めてくれ。何だか申し訳ない気分になって、気分が沈む。ただでさえ生理で沈んでいると言うのに。

 こんな事になるなら、変に格好付けようとしないで大人しく諦めるべきじゃった。仮免がどうしても欲しかったのは事実じゃけど、体調不良を無視してまで手に入れるような物じゃない。まして大事な許嫁をこんなに心配させてしまうのなら……。うむ、今年はもう諦めよう。また来年にでも挑戦したら良い。

 

「……儂、どれだけ気絶してた……?」

 

 ひとまず、儂が横たわる寝具(べっど)に駆け寄って来た被身子に聞いてみる。今はどうにも、時間の感覚が無い。時計が見当たらぬから、夕方なのか夜なのかも分からないんじゃ。

 

「ほんの三十分ぐらいなのです。まだ仮免試験は続いてますけど……」

「……そうか。でもまぁ、儂はもう止めとく。りたいあじゃ、りたいあ」

 

 気絶していたのは短い間だけじゃったらしいの。だからと言って、次の試験を受けたいとは思えぬ。

 

「……受けないんですか?」

「こんな状態じゃ合格なんて無理じゃよ……。筆記は間違いなく落ちとるし……」

 

 はぁ。もう何もしたくない。動きたくない。帰りの事を考えると面倒この上無いが、寮の布団で寝たいのも事実じゃ。帰る時はまた無理をすることになりそうじゃのぅ……。さっきみたいに気絶しなければ良いが。

 

「……じゃあ、仮免試験が終るまでゆっくりしてましょう。喉とか渇いてないですか?」

「ん……何か飲みたい……」

「ココアで良いですか? 温かいの、持って来てるので」

「うむ……。頼んだ」

 

 用意が良いのぅ……。いや、いつも生理の時は甘えっぱなしになってるのは儂なんじゃけど。でもでもじゃって、辛いから仕方ない。それこそ生理の時は被身子に甘えるぐらいしか出来ないし、それ以外は何もしたくないんじゃ。

 じゃから、ほら。椅子に腰掛けてないでもっとこっちに近寄ってくれ。生理が収まるまで、抱き締めてくれ。でないと、もう無理じゃ。

 

「うぅ、被身子ぉ……」

 

 あぁ、駄目じゃ。お腹も頭も痛い。お薬の効力が弱まった気がする。それとも生理痛が悪化したのか。どちらにせよ、ろくなものじゃない。やはりこんな時は被身子に抱き締めて欲しい。ここあを用意してくれるのも良いけど、そんな事よりごゅっとしてくれないと嫌じゃ。

 

 ……何か、甘い匂いがする。あぁ、ここあか……。

 

「起きれますか……?」

「うぅ……起きたくない……」

 

 痛い、気持ち悪い。何でこんな辛い目に遭わなければならぬのか。もう指一本だって動かしたくない。でも、起きねば。このままじゃ飲み物すら飲めぬし、被身子に抱き付くことも出来ん。じゃけど困ったことに体が重くて、どうしても動きたくない。こんな調子じゃ被身子を困らせてしまうと分かっているんじゃけども……。

 

「じゃあ、起こしますね。よいしょっと」

 

 被身子の手が、体の下に差し込まれる。直ぐ目の前に被身子の顔があって、このまま抱き付いてしまいたい。同時に、とても情けない気分にもなってしまうんじゃけど……。

 

「……うぅ、すまぬ……」

「良いんですよ。もう慣れっこなのです」

 

 そんなに起こして貰ってばかりじゃったかのぅ……。いやでも、生理の度にこうして体を起こして貰っている気がする。あぁ……まっこと駄目なんじゃな、儂。我ながら情けない。

 背中を支えられる形で、何とか起こして貰えた。気持ち悪さが大きくなったのは、気のせいじゃない。吐き気が酷い。何でこんなに生理が思いのか。……解せぬ、被身子が羨ましい。他の女子(おなご)達も羨ましい。

 

「はい、飲めますか……?」

「んん……のむ……」

 

 口許に、蓋状の(こっぷ)が差し出された。ので、口を付けると少しだけ傾けられた。……ここあ、甘い。美味しい……。温かくて、少し落ち着けるような気がする。それと、もう我慢出来ぬ。一刻も早く、被身子に抱き締めて欲しい。じゃから、抱き付くことにする。

 

「んく……、ふぅ……。うぅ、被身子ぉ」

「わっ、ちょっ……!」

 

 体を預けるようにして抱き付くと、もっと気が楽になったような気がする。痛みは少しも収まらないが、それでも気分は楽になる。気持ち悪さが和らいだのは、多分気のせいじゃないじゃろう。

 あぁ、落ち着く。今日はずっとこうしていたい。他に何もしたくない。このまま被身子に抱き付いて、ゆっくり過ごしたい。

 

 ……ほら、背中を擦ってくれ。腹も擦って欲しい。噛み付いたって良いんじゃ。今なら何をされても、儂は嬉しいから。じゃから、じゃからほら。早く何かしてくれ。でないと、とても堪えられんから。

 

「……っ。もぅ、早く収まったら良いのに……」

「……別に、噛んでも良いんじゃぞ……?」

 

 むしろ、むしろ噛んで欲しい。そしたら、もっと楽になれるんじゃ。でもこやつは、儂が生理の時だけは我慢してしまうから。いつもは我慢なんてしないのに、こんな時だけは我慢して……。あぁもう、まっこと嫌じゃ。生理なんて大嫌いじゃ。こやつにこんな顔はして欲しくないのに。何で月に一度も二度も来てしまうのか。

 

「……ぎゅぅう〜〜〜っっ」

「んぐっ、ん……っ」

 

 辛そうな顔をした被身子が、思いっきり抱き締めて来た。から、抱き締め返す。明日はまた大変な事になりそうじゃ。でも、こやつの気が済むまで応えてやらねば。今日一日、色々と我慢させてしまうわけじゃし。

 明日は、被身子が満足してくれるまで身を委ねよう。朝から晩まで、被身子と二人きりで過ごすんじゃ。ああでも、明日から新学期か……。授業に出なければならぬ。となると……夜か……。夜じゃの……。明日の夜は、寝れそうにないのぅ。

 

 なんて考えながら被身子と抱き締め合っていると、医務室の扉が開いた。姿を見せたのは……。

 

「廻道、起きたか?」

 

 相澤先生じゃ。……貴様、間が悪いぞ。今、被身子の首に接吻(きす)でもしようかと考えていたのに。こうも目が合ってしまったら、しにくいではないか。空気の読めん奴め……。許さん……。生理が収まったら覚えておけ……。

 

「……起きたみたいだな。次の試験が始まるが、動けそうか?」

「……、やじゃ。動きたくない。儂はもう動かん」

「悪いが出てくれ。……出たら何もしなくて良い。それで仮免は取れる」

「……は?」

 

 何もしなくて、仮免が取れる……? いや、そんな筈は無いじゃろ。何言っとるんじゃこやつ。そんな訳の分からん事で儂が釣れると思うなよ。もう知らん、仮免なぞ儂は知らん。来年、また挑戦すれば良いだけの話じゃ。

 

 ……ううむ。何やら、苦虫を噛み潰したかのような顔をしておる。もしやこやつとしても、納得が出来てないのか? 仕方ないじゃろ、生理なんじゃから。いや、違うか……。そうではない。多分じゃけど、公安から何か言われたようじゃ。儂や緑谷、そしておおるまいとに七山が訪ねてきた時もこんな感じの顔をしていたような気がする。

 教師として、英雄(ひいろお)として公安のやり方に納得していないらしい。それでも反発せずに居るのは……儂の為か。あのなぁ相澤、儂は子供ではない。まぁ見てくれは子供じゃし、法的にも子供じゃ。じゃけども、子供じゃ無いんじゃよ。じゃから、そんな顔して儂を見るな。自分より年下の大人に子供扱いされるのは、中々腹立たしいものなんじゃぞ?

 

「……廻道。これは俺も納得してないんだけどな、お前と緑谷は二次試験を受ければ結果が悪くとも後日個別テストを受けれる。そこで受かれれば仮免取得が可能だ。さっき、七山さんからそう連絡が有ってな」

 

 ……それは、何とも不公平な話な気がしてならん。話の中に七山が出てこなければ、素直に応じたんじゃけども。公安……呪術総監部め。多少何かをねじ曲げてでも、儂を手元に置いておきたいらしいの。

 

「俺は納得行かないよ。お前が言っていた通り、正式に仮免を取ってから呪術師として活動するべきだ。オファーの時と言い今と言い、何を考えてるんだ公安は……」

「……意地でも儂が欲しいんじゃろ。相澤、渡祇井馬市の件は知っとるな?」

「知ってる」

「あれな、恐らく呪霊の仕業じゃ。おおるまいとが現地で調査しとる筈じゃが、まず間違いなくあの一つ目の仕業じゃろう」

「……やっぱり、か。だからお前達だけ、名指しされた訳だ」

 

 取り敢えず、総監部の狙いは分かった。まったく、緑谷め。お主が呪術師になるなんて口走らなければ、儂はこの話を断れたんじゃぞ? このままでは、お互い呪術総監部に縛られることになるじゃろう。最悪、儂個人はそれでも構わん。しかし、子供を巻き込むような真似はしたくない。

 ……この話を受ける代わりに、何か交渉出来ぬじゃろうか? 例えば、儂が総監部の下で働き続ける代わりに緑谷には呪術師としての活動を依頼しない……とか。

 れでぃ・ながんが言っていたように、ろくでもない目に遭ってしまった気がする。

 

「……相澤、その話は受けん。絶対やじゃ」

「そう言ってくれて安心したよ。だがそうなると、お前一人だけ試験に落ちることになる」

 

 まぁ、その点は仕方ないの……。生理じゃから。今じゃって相変わらず体調が悪いままじゃし、とてもこの後の試験を受けれるとは思えぬ。そもそも、もう動きたくないんじゃ。喋ることすら、今は嫌なんじゃから。

 

「……廻道。もう少しだけ頑張ってみないか? また気絶してしまったら、その時は諦めよう」

「えぇ……? やじゃあ……」

 

 嫌じゃ。やじゃやじゃ。絶対に嫌じゃっ。何で更に頑張らなければならないんじゃ。儂、もう頑張ったじゃろ……! 気絶するまで頑張ったんじゃぞ!? なら、後はもう何もしない! そんなに見詰めてきたって駄目なものは駄目じゃっ。ここで試験が終るまで、被身子に抱き付いて過ごすんじゃあ……っ!

 

「おいチビ! そろそろ始まるから出てこいや! ぶっ殺されてえんか!?」

「廻道、動けそうか?」

「起きたなら受けてみようよ! きっと受かれるよ☆」

「廻道ちゃん! 辛いのは分かるけど、あとちょっとだけみんなで頑張ろ!?」

 

 ……おい。何で医務室に貴様等が入ってくるんじゃ。試験はどうしたんじゃ、試験は。こんな所に居て、落ちても知らんぞ? しかし貴様等……何で全員傷だらけの汚れまみれになっとるんじゃ? あの球当て、そんなに難しいものじゃったのか……?

 

「……駄目です。もう円花ちゃんに無理はさせられません! どうしてもって言うなら、私が出るのです!」

 

 ……は? おい待て被身子。貴様、訳の分からん事を口にするのは止せ。お主が出てどうするんじゃ。儂に変身して、出るとでも? 流石にそれは駄目じゃ。あと、頭に響くから全員静かにしてくれ……! うぐぐ、もう無理じゃ。もう、起きてられん。痛くて気持ち悪くて、これ以上は無理なんじゃ……っ。

 

 うぅ、ううぅ……。もうやじゃ。儂、寝る。被身子に抱き付いたまま、ふて寝する。そうじゃないと苦しい、辛い。

 もう良いから、そっとしておいてくれ。そして貴様等はさっさと試験を受けに戻れ……! これ以上騒ぐなら、儂は許さんからな……っ!?

 

 

 

 

 

 









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