待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
あぁもう、生理は嫌いじゃ。大嫌いじゃっ。なのに月に一度も二度も勝手に来おって! せめて来る前に一言言わんか。そしたら、生理に合わせて予定が組めるじゃろうが。まったく……!
いかん、どうにも苛ついている。しかも死にそうなぐらいに体調が悪い。じゃから儂は、もう今日は何もせずに寝て居たかったんじゃ。なのに総監部も教師もくらすめえと達も、儂を仮免試験に参加させようとする。そして仮免を取らせようとする。納得いかん。儂は辛くて苦しいんじゃ。そっとしておいてくれ、頼むからっ。
ああ、苛つくのぅ。まっこと、頭に来た。もう知らん。儂が倒れて責任問題が起きても、儂は庇わんからな。世間から糾弾されてしまえば良い。雄英も公安も纏めて怒られたら良いんじゃないのか? いや、誰がそのふたつに対して怒るのかは知らんけど。
……はぁ。何でこんな事になったんじゃ。被身子が暴走しそうじゃったから、それは止めるしか無かった。じゃって、儂に変身して仮免試験を受けようとするんじゃもん。どうせやるなら、筆記試験の時にして欲しかったのぅ。何で実技試験を受けようとするんじゃ。まったくあやつと来たら、相変わらず仕方のない奴じゃ。まぁ、そんなところも愛しく思っとるが!
『えー、百人の皆さん。これご覧下さい』
連れて来られた新たな控え室で苛ついていると、放送が掛かった。喧しいから両手で両耳を塞ぐとする。そもそも、周囲に居る連中が鬱陶しい。今は誰も話し掛け無いでくれ。立ってるだけでも苦しいから、少しだって余裕が無いんじゃ。今は被身子以外は嫌いじゃ、どいつもこいつも。ふんっ。
で? 喧しい放送をしてまで何がしたいんじゃ公安は。壁に掛けられた大きな画面を見ると、外の風景が軒並み爆破されおった。建物も岩場も何もかも、派手に煙を巻き上げながら崩れていく。
……会場を壊して良いのか? まぁ、どうでも良いかそんな事は。始めるならさっさと始めてくれ。儂はもう、何もしたくないんじゃ。本気で何もしないで居てやろうか……。いや、それでは公安の思う壺じゃの。仕方ない、多少は動いてやろう。ああ、嫌じゃ嫌じゃ。まっこと嫌じゃ。
『次の――で、ラス―――。皆さんには、―――で、―――として』
何か言っておるけど、無視じゃ無視。両耳塞いどるから何も聞こえん。いや、聞こえんわけでは無いんじゃけども今は何も理解したくない。じゃから、聞こえてくるものは全て右から左に流すとする。試験など知らん。儂は機嫌が悪いんじゃ。こんな時は被身子のおやつが良い。何か甘いものでも食べれば多少は落ち着けるじゃろう。
別に、おやつで釣られて機嫌を直すほど儂は子供ではないが。
っと……。また建物が開きおった。壁も天井も倒れて、崩壊した会場の風景が露になる。
「行こう、廻道」
「跨ガッテナ!」
おい、常闇にだあくしゃどう。儂を連れ出すんじゃない。特にだあくしゃどう、勝手に儂を背負って飛ぶな。わざわざ常闇の外套まで羽織りおって……。
はぁ、まったく仕方ない。こうまでされたら、苛ついてる場合でもないか。だあくしゃどうの背に跨がるのは……体育祭以来か? あの時と比べて、随分と力が強くなっているような気がするの。これは多分、外套を羽織っているからじゃ。
「だあくしゃどう、廻道。上から生存者を探してくれ」
「アイヨ!」
「……相分かった」
さて……。頼まれたから、頼まれた通りにするとしよう。常闇の頼みじゃし、無下にするつもりはない。こやつとは連携し易いしの。だあくしゃどうとも、長い付き合いになりつつある。
だあくしゃどうが高く飛んだので、周囲を見渡してみる。酷い光景じゃの。瓦礫の山ばかりじゃ。いつぞやに村がひとつ滅んだ時もこんな感じじゃったか。あの時に常闇が居れば、もう少し子供を助けられたんじゃろうか?
……余計な思考をしてる場合ではない。何だか良く分からぬが、生存者を探せば良いんじゃな? お、遠くに被身子が居る。相澤先生の姿も見えた。手でも振っておくか。それで、生存者らしき人影は……っと。
「常闇、北東」
数百
「北北東ニモ居ルゼ!」
「近いのは北東の方じゃの」
「分かった。まずは北東から行こう」
常闇が走り出すと、それに追従するようにだあくしゃどうが動く。ので、移動中も周囲を見渡して置くとする。他の連中と同じ方向に行っても、担当する場所が重なってしまうだけじゃからの。それでは助けられる人数が減ってしまう。
あぁ、お腹痛い。頭も痛い。早く終らんかの、この救助試験。やじゃやじゃ、どうにもやる気が起きぬ。
なんて考えていると、気が付けばだあくしゃどうの動きが止まっていた。常闇も足を止めておる。直ぐ目の前には、血塗れの……と言うか血糊塗れの大人が二人。腕を押さえて悶えている……振りをしている大人が一人。……はぁ、仕方ないのぅ。
「常闇、重傷者が三人。倒れてる方の内、片方は出血量からしてもう助からん。もう一人と、そこの腕を押さえてる奴を優先するぞ」
「いや、待て廻道。三人とも……」
「無理じゃ。助けられる命は限られとる。可能性が高い者を優先して、低い者は後回しで良い」
何て言ったかの……? 確か……とりああじ、とか言うやつじゃ。傷病者の振り分け、じゃったと思う。授業で習った。今回のような救助の場合、助けられる命を優先した方が良い。助かる見込みが低い者に時間を取られては、助けられる筈の命を見落とすことになってしまう。
だあくしゃどうの背から降り、着地。それから倒れてる方に歩み寄ると、片方は呻いて居るの。こんな時は……何するんじゃっけ?
……。あぁ、そうじゃ。傷の程度と意識の確認からじゃ。
「おい、意識は有るか? 自分の名前は言えるかの?」
「う、うぅ……。助け、助けてくれ……っ!」
「大丈夫じゃ。助けてやるから安心しろ。だあくしゃどう、こやつを背負って低く飛べ。常闇、そっちは?」
「意識はしっかりしてる! だが……!」
「お、俺を! 俺を先に助けてくれよ! そっちの二人はもう駄目だ! 死んでるんだろ!?」
……半狂乱、の振りか。いざ実際にこんな大人を目にしたら儂は見捨てるし見捨てたが、試験ゆえそうも言ってられんか。
前世でも居たのぅ、こんな感じの奴。鬱陶しかったから、一思いに殺してやった覚えがある。子供じゃったら助けたんじゃけどな。
「……落ち着いてください。貴方も、そちらの二人も俺達で必ず助けます! ですからどうか落ち着いて……!」
「これが落ち着いて居られるかってんだよ!? こんなに血が出てるんだぞ! 俺はまだ死にたくねえよ!!」
血糊塗れの腕を常闇に向かって突き出して、叫び散らしておる。これじゃ救助の妨げになるのぅ。そこまで元気なら自分で助かれと思うんじゃけど、ここは試験の場じゃからな。この阿保と、今だあくしゃどうに背負われた奴は助けてやるしかない。
良し、殴ろう。殴った。
「何すっ……ん……」
うむ。気絶したの。これで良し。
「か、廻道っ。怪我人を殴るのは……!」
「時間の無駄じゃ。怪我の具合から、気絶しても問題無い。むしろ気絶してくれた方が手間取らなくて済む。
そやつ止血しとけ、骨が折れてるかもしれぬから添え木もしてやれ。儂はこっちを見るから」
うるさい輩を黙らすことが出来たので、だあくしゃどうが背負った血糊塗れの大人を見る。傷は……深い。と言う想定じゃろう。出血量が多い。医療器具でもあれば、それっぽく手当てしてやるんじゃけども生憎儂は何も持っていない。常闇は……持っとるようじゃの。
仕方ない、有る物で代用するか。帯で良いじゃろ。袴が落ちてしまうが、白衣の丈が長いから問題無い。袴の方も止血帯として使うか。儂が見ようとしてる方は、かなり血塗れじゃからの。
さて、止血の仕方は……。んん、どうするんじゃっけ? 傷口を圧迫するのが正解じゃっけ? それとも、近くの動脈? そもそもこやつの傷口は……血糊が特に塗りたくられているのは胸じゃの。傷口を圧迫して固定しておくか。
「あだっ!? あだだだっ!!?」
「痛いと思うならお主は大丈夫じゃよ。大人なんじゃから我慢せぬか」
「いや、もうちょっと優しくしようね!? 本番なら死んじゃうからね!?」
「人はそう簡単に死なぬが? この傷で生き残る奴なんて、何度も見て来た」
まぁ、一般人ではなく呪詛師じゃけども。そして死ぬ時は呆気なく死ぬものじゃけども。
さて、こやつはこれで良いじゃろう。もう一人は……駄目じゃの。死んだ。と、思うことにする。取り敢えず二人、この辺りから遠ざけるとしよう。近くの建物が倒壊しないとも限らないしの。常闇も、ちょうど気絶した大人を背負ったところじゃし。
「常闇、行くぞ」
「待った廻道、もう一人……!」
「もう死んどる。首と背中からの出血じゃぞ。助からん」
「いや、しかし……!」
「あのなぁ常闇。儂等の力で助けられる命なんて決まっとるんじゃよ。儂等はひいろおで、医者じゃない。出来ぬことに時間を費やすより、出来ることに時間を掛けろ。でないと命を取り零すぞ?」
ううむ、どうにも
「……分かった。俺に出来る事をする」
「そうか。なら、最初はこの二人から助けることじゃ。ひとまず此処から離れるぞ」
「ああ、建物が倒壊して来たら危険だ」
それにしても。儂はもう何もしたくない。いい加減休みたいんじゃ。しかしそうも言ってられそうに無いのぅ……。あぁ、やじゃやじゃ。まっこと嫌じゃ。じゃけど……やるしかない。また気絶する羽目になりそうじゃけど、仕方ないか。被身子に後で謝らなければ。今日だけで、何度心配させてしまうか分からん。
明日になったら、沢山甘やかそう。被身子が満足するまで、幾らでも。じゃからほら、また無理をするが許してくれ。何だかんだで、儂は仮免が欲しいんじゃ。
呪術全盛の時代に人命救助をしたことはないなんて事は無いと思ったので、割りとしっかり動いて貰いました。ただし大人には塩対応となります。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ