待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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新学期の昼。

 

 

 

 

 

 午前中は、盛大に遅刻した。教室に辿り着いたのは、一限目の英語の授業が終わった後じゃ。新たな時間割りは知らぬが、教室から出ていくぷれぜんと・まいくの後ろ姿が見えたので一限目が英語じゃったのは間違いない。遅刻してしまったのは、寝坊したこともあるが……つい長湯してしまったからで。途中で舎弟の催促を無視したのがいかんかったか……。じゃけど昨日は風呂に入っていなかったし、身なりは清潔しておきたい。いつでも風呂が入れるこの時代、入らぬ理由が無いからの。

 教室に入ろうとするなり、被身子から電話が掛かって来た。ので、電話しながら教室に入るとする。

 

「もしもし?」

『おはようございます円花ちゃん。体調大丈夫ですか? 朝ご飯は食べました? 迷子にならず教室に着けましたかっ?』

 

 ……ううむ。そう一気に捲し立てないでくれ。心配させてしまって申し訳ない。取り敢えず、ひとつひとつ答えていくとするか。そのついでに、教室の扉を開く。すると。

 

「廻道! 起きたの!? 大丈夫!?」

「円花ちゃん、体調はどう? まだ辛かったら頼って」

「廻道ちゃん、仮免……残念だったね。でも再試験あるから、頑張ろっ!」

 

 芦戸と梅雨と葉隠が、一斉に儂を囲んだ。おい、急に猛然と近付くな。圧を感じて、思わずたじろいでしまうじゃろ。あと、儂は電話中なんじゃけど。こやつ等にも心配させてしまったのか。申し訳ないのぅ。もっとしっかりしなければ。いやしかし、生理の時はどうしようも……。

 まぁ、まずは被身子が先じゃ。心配させてしまったんじゃから、まずはそこから謝らないと。

 

「平気じゃ。もう収まった。朝食も食べたし、舎弟に送られたから迷子にもなっとらん。

 ……心配させて済まなかったの。もう大丈夫じゃから」

『……なら、良かったのです。良かったぁ……。昨日は、我慢出来なくて。それでもっと酷くなったらどうしようって……』

「大丈夫じゃから気に病むな。じゃけど、寝てる時より起きてる時の方が儂は嬉しいんじゃけど」

『……もぅ、円花ちゃんのえっち』

「お主に言われたくない」

 

 誰が淫らじゃって? 儂より被身子の方が淫らじゃろ。普段から散々儂を求めるくせに。お主なぁ、淫乱と言われても反論出来る立場に無いんじゃぞ? もう少し節操と言うものを……。まぁ、良いが。求められるのは嬉しいから、人前じゃなければ好きにしたら良い。じゃけど、今夜は覚悟しておけよ。昨日の分も噛んで貰って……。

 

 ……、何を考えてるんじゃ儂は。いかん、被身子に染められておる。あんな悪女色に染められてしまうなど、不覚じゃ不覚。どうにかしなければ。どうにもならぬと思うけど。

 

「とにかく、体調は良好じゃ。今夜、覚えておけよ貴様」

『んふふっ。はぁい。楽しみにしてますね……!』

「あと、もうてすとに集中してくれ。じゃあ、また後での」

『はい。円花ちゃん』

「ん?」

『大好きです。愛してます!』

「儂もそうじゃ。……ぁ、愛し……てる」

 

 って、朝から何を言わせるんじゃこやつ。通話終了っ。まったく、朝から気恥ずかしい。いや、まぁ……言われて嬉しかったけども。あぁ、顔が熱い。何でくれすめえと達の前でこんな真似をしなければならぬのか。

 さて。今度はくれすめえと達の相手をするか。って、何じゃ三人して儂を見詰めて。あと峰田、教室の奥で変な気配を醸し出すな。そういうところじゃぞお主。そんなじゃから女子(おなご)達にお灸を据えられてしまうんじゃ。まったく。

 

「おはよう、皆の者。昨日は迷惑掛けた。また来月も頼む。多分……月末じゃから」

 

 恐らく、三十日もすればまた生理が来るじゃろう。やじゃやじゃ、まっこと勘弁して欲しい。何で毎月律儀に来るんじゃ。たまには数ヵ月ぐらい来ないでくれ。何なら一生来なくても儂は構わんのじゃぞ。

 

「それはもちろん、協力するけどさー。それはそれとして廻道さぁ、ほんっと渡我先輩が大好きだよね」

「ケロケロ。もうすっかりA組の名物ね。いつまでも仲良くしててね」

「ね、ねぇ廻道ちゃん……。今の電話の内容ってどういう……」

 

 ……気恥ずかしい。芦戸も梅雨もからかうのは止めてくれ。それで葉隠、何じゃその態度は。らしくない気がするの。何処と無く峰田に近い気配を醸し出してるのはどういうつもりじゃ? まさか、被身子を狙っておるのか? それとも儂か?

 駄目じゃ、許さんからな。被身子は儂ので、儂は被身子のものじゃけど!? まったく、朝から何を考えさせるんじゃこの透明人間。

 

「廻道、大丈夫か?」

「おはよう轟。ところで貴様、仮免試験でとんだ体たらくを見せておったの。何じゃあれは」

 

 三人の向こう側から、轟が話し掛けてきた。こやつもこやつで、儂の体調を気にしているようじゃ。もう大丈夫なんじゃけどな。一日経てば、反転術式(はんてん)が回せるようになるから肉体は全て新鮮じゃ。

 

「わりぃ。あの時は苛ついてた。気を付ける」

「いや、それは仕方ないじゃろ。あの喧しい奴が悪い」

 

 まぁ、儂もどうこう言える立場には無いんじゃけども。生理でなければ、あの鯱頭と楽しめたのに。そしたら轟は、あんな姿を見せることも無かったじゃろう。そうでなくとも、もう少し動くことが出来てればのぅ。そう言えば、舎弟や儂以外に仮免に落ちた者は居るのか? 不合格は儂等だけで済んだのか?

 

「ところで、儂と舎弟以外に受からなかった奴はおらんよな?」

「俺も落ちた」

 

 ……。駄目じゃったか。まぁ、あの体たらくでは落とされても仕方ないの。悪党の前で仲間割れなど、減点されて当然じゃろう。最後の方は協力しておったが、それでも駄目じゃったらしい。これで仮免試験に落ちたのは三人か。まさか、他にも居るのでは? 居ない……よな? 常闇はどうなんじゃ? 鯱頭に吹き飛ばされた後、何をしとったんじゃ?

 まさか気絶してた、何て事は無いよな? だから体を鍛えろとあれ程……。まぁ良い。とにかく、くれすめえと全員が仮免を取れたわけでは無いらしい。

 

「轟、後で話そう。取り敢えず、次の授業は何じゃっけ?」

「次は数学だよ☆」

 

 ……数学か。まぁ……英語よりは良いか。今日はもう英語は無いわけじゃし。雄英の授業は進みが早い上に、難解じゃから付いていくのが大変じゃ。同じ英雄(ひいろお)科でも、別の学校にしておくべきじゃったかのぅ。転校は……止めておこう。被身子が付いて来てしまう。下手すれば二人して、もう一度一年生をやる羽目になるからの。

 いやしかし、存外悪い気がしない。じゃってほら、被身子と同じ学年になれると考えたら……。うむ、やはり止めておこう。身が持たん。

 

 さて。阿呆な事を考えていないで、授業の準備をしよう。次は数学じゃったな。

 

 あ、いかん。鞄忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みになると同時。被身子が教室の扉を勢い良く開いて姿を見せた。久々の夏服姿じゃの。何で夏なのに、かあでぃがんを着とるんじゃこやつ。暑くないのか? 熱中症には気を付けろよ?

 と言うかじゃな、授業終了の撞鐘(ちゃいむ)と同時に教室にやって来るな。お主、試験はどうしたんじゃ試験は。今ここに居ると言うことは、撞鐘(ちゃいむ)が鳴るより先に教室を出てるじゃろ。まったくこやつと来たら。ってこら、何で少し涙目になってるんじゃ貴様。心配掛けたのはすまないと思ってるが、毎月の事なんじゃから何をそこまで……。

 

「円花ちゃんっ!」

 

 お、おい待てっ。そんな跳び掛かって来られたら……! ぐえっ。ほれ見ろ! 椅子ごと倒れる羽目になったじゃろっ!

 

「すっごく、心配しました! 昨日は全然目を覚ましてくれなくて……!」

 

 それは、気絶しとったからの……。仮免試験では無茶ばかりして、心配させてしまった。これは、しばらく落ち着いてくれそうにないのぅ。こうなってしまったら、教室じゃけど甘やかすしかないか。

 

「渡我先輩! 危ない真似はしないでください!」

「いや、構わんよ飯田。心配掛けたのは儂じゃし」

「それはそうだが! しかし月経は君のせいじゃないだろう!?」

「まぁ、そうじゃけども」

 

 月経て。別に間違ってはいないんじゃけど、そんな声高々に口にすることか? 生理ってのは、女子(おなご)からすれば繊細(でりけえと)な話で……。まぁ良いか、こんな事は気にしなくて。そんな事より、今は被身子優先じゃ。

 取り敢えず頭を撫でながら、背中を擦ってやる。これで落ち着いてくれると良いんじゃけど、そうもいかんじゃろう。儂が逆の立場じゃったら、こんな事では落ち着きたくない。

 

「すまぬの。もうあんな無理はしないから、許して欲しい」

「……ぐすっ。別に、怒ってないのです。昨日のは、仕方なかったって分かってます」

「そうか。それでも、儂が悪かった。いつもすまんの、ありがとう」

「……どういたしまして。ぎゅうぅう〜〜〜っっ」

「おぐっ」

 

 これこれ。そんなに思い切り抱き締めるな。少し息苦しいじゃろ。じゃけどまぁ、好きにさせてやるとしよう。今日一日は、被身子の好きなようにさせてやるつもりじゃ。人前じゃから、抱擁(はぐ)以外は流石に止めて欲しいんじゃけども。

 でも、求められたら断れる気がしない。こう、首筋に被身子の息が掛かると……その。少し期待しそうになってしまう。いかんのぅ、まさかここまで噛まれたいと思ってしまうとは。そんな趣味をすっかり植え付けられてしまった気がする。じゃって、嬉しいんじゃもん。我ながら困ったものじゃ。

 

「じゃ、全員教室出ようか。今日ぐらいはバカップルを二人きりにさせてあげよ」

「さんせー。収まり付きそうにないし」

「廻道ちゃん、渡我先輩、ほ……程々にね? 程々にだよ!?」

 

 何故か女子(おなご)共が、くらすを取り仕切り始めた。そして全員、ぞろぞろと教室を出て行った。おい待て、変な遠慮をするのは止さぬか。ここで被身子と二人きりにされたら、下手すれば始まってしまうんじゃけど!?

 

「……んふふっ。後でみんなに、お礼しなきゃですね」

「ま、待て待て被身子っ。それは寮に帰って、夜になってから……!」

「今日のお昼ご飯はぁ、円花ちゃんにするのです♡」

 

 あ、これはいかん。駄目じゃ、始まってしまう。ここは教室なのに、被身子が始めようとしておる……! こうなったら……!

 

 教室の扉に血を飛ばし、遠隔で扉を閉める。よ、よしこれで何とか……なるのか? なってくれ。頼むから、誰も来るな。もう被身子が儂の制服を脱がし始めてるんじゃ!

 

「ご、ごめんね!? 財布忘れ……て……」

 

 ……葉隠、貴様。今は戻って来て欲しくなかった。扉を固定し忘れたのは儂の不覚じゃ。いかん、何か言われる前にどうにかしなければ。ど、どうすれば……!?

 

「……見せちゃいます? トガは別にそれでも……」

「見せるか阿呆!!」

「ふぎゅっ!?」

 

 流石にこれ以上はいかんので、拳骨しておく。それから直ぐに被身子の下から脱け出して、乱された制服を整える。あ、危なかった。危うく被身子が特待生で居られなくなるところじゃった。やはり儂が流されてはいかん。外では気を付けねば。

 

「むぅうーー……」

 

 いや、そんな不貞腐れた顔で睨んでも、駄目なものは駄目じゃ。しかし、無下にしたくないのは本音じゃ。

 

 ……じゃから、まぁ。

 

「ほら、寮に戻るぞ」

「……! はいっ!」

 

 手を差し出すと、拗ねた被身子が笑顔になった。あぁもう、それは狡い。そうやって笑われてしまったら、儂はもう何も言えん。

 

 で、この後。儂は被身子と寮に戻った。尚、昼食は食べ損ねてしもうた。

 

 

 

 

 

 

 

 









サブタイトルを「葉隠は見た。」にするかちょっと悩みました。

三人称による補完は要りますか?

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  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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