待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
今日の昼間は、大変じゃった。何がって、昼休みが終りそうなのに少しも離れようとしない被身子を引き剥がすのが。昼休みは、それはもう好き勝手されてしまって昼食を摂り損ねてしまったし。お陰で腹を空かせたまま五限目を受ける羽目になってしまった。授業内容はまったく頭に入って来なかった。六限目が始まる前に、常闇が水と菓子ぱんを恵んでくれなければどうなっていたことやら。
ちなみに、授業内容や今日相澤先生から通達された事は緑谷や舎弟に教えてはならんことになっている。授業の方はともかく、いんたあんしっぷの方は伝えた方が良いと思うんじゃけどなぁ。後でこっそり、教えておくか。
そうそう、儂が再試験となったのは相澤先生が七山に抗議したからじゃ。お陰で変な貸しを呪術総監部に作らなくて済んだ。三日後の再試験に落ちたら、強制的に仮免が交付されてしまうそうじゃけども。これは、意地でも再試験を突破しなければの。明日から、また被身子に教えて貰うとする。ちなみに、今日は駄目じゃ。今宵は被身子が最優先じゃからの。
そんなこんなで。今日の夜はどう被身子を甘やかそうかと居間のそふぁで考え込んでいると、轟がやって来た。
「廻道、お茶飲むか?」
盆で湯呑みを二つ持ってきた轟が、儂の対面に腰掛けた。そう言えば、後で話そうと言ったのは儂じゃった。被身子は今、夕食を作っているから……話すなら今しか無いか。わざわざ茶を入れて来てくれたようじゃし、追い払う理由が無いのぅ。
「飲もうかの。それで轟、あの喧しい奴とはどうした?」
差し出された茶を口に運びながら、聞いてみる。昨日の仮免試験、鯱頭が出て来てからの轟は酷いものじゃった。あの喧しいのと対立して、取り返しの付かない失敗をしてしまった。最終的にどうなったかは、気絶していたから知らぬ。
……ずずず。っておい、何で茶が冷たいんじゃ。そこは熱々の方が良かったんじゃけども?
「……最終的に、謝られた。俺も気付かされることが多かったから、喧嘩両成敗……みてぇな」
「そうか。……家族とはどうじゃ?」
「……体育祭が終ってから、母に会いに行った。親父とは……何も変わってねぇ、と思う」
なるほど。少しずつ、前には進んでいるらしいの。それがこやつの選んだ道なら、儂はとやかく言わん。好きにしろと言ったのは儂じゃしの。それに、どうしても両親との確執が拭えないなら儂が呪ってやるつもりじゃし。あれは半分冗談じゃったけど、半分本気じゃ。
じゃって、子を大切に育めぬ親は死ねば良いと今でも思っとる。憎くて堪らん。
「じゃけど、左を使うようになったな。それはどうしてじゃ?」
「……色々ある。けど、一番は緑谷かもな。あいつ、滅茶苦茶やって人の抱えてるもんぶっ壊しやがったから」
「あぁ……あれな」
あれは良く覚えとる。じゃって、被身子の目を奪っとったからの。許さんぞ緑谷。儂の被身子を誘惑しおって。次に同じ事をやったら、流石にもう捨て置けぬ。儂を妬かせたことを後悔させてやるからの。
「廻道は、どうして術式を使うようになったんだ? 使ってない時期、有ったんだよな?」
「儂か? 儂は……」
……あまり、思い出したくないのぅ。出来れば忘れてしまいたい。忘れられる筈も無いんじゃけどな。あの時の事は、今でも思い出せてしまうから。あれから何十年と生きようが、一度死のうが色褪せぬ。
「まぁ、色々じゃ。色々」
この話題はしたくない。実のところ、思い出すと死にたくなる。儂にとって最大の汚点と言っても良い。じゃけど忘れぬ事は出来ぬ。儂の主義の、原点じゃから。
そう。これだけは忘れてはいかん。儂が何をしたのか。何をしてしまったのか。あぁ、過去に戻れるならあの時の儂を殴りたい。何なら殺してしまいたい。そんな真似が出来たとしても、実際にはやらぬが。廻道円花の命は、既に儂一人の物では無いからのぅ。
「……お前も、色々あるんだな」
「そうじゃ。色々あった」
「両親と、仲悪いのか?」
「いや? 仲良しじゃけど?」
「……俺みたいな時期が有ったんだろ?」
……あったの。前世の話じゃけど。今生では、良い親に巡り会えたからのぅ。喧嘩もしたことがない。まぁ渡我夫妻を義両親とするなら、既に仲違いしてしまっているんじゃけども。
「まぁ、今は良好じゃよ。代わりに牛乳は飲めなくなったが」
「?」
せめて物心が付いた時に産まれ直したことを自覚出来れば良かったんじゃけども。現実は産まれた瞬間から産まれ直しを自覚してしまったからの。お陰で、赤子の頃は大変じゃった。それはもう大変じゃった。これはこれで思い出したくない。
「どうやって仲直りを?」
「……」
ううむ……。その質問は、困る。じゃって、前世の両親と今生の両親は別人じゃ。そもそも仲直りなんてしとらん。する気も無かったし、家を出てからは……まぁ何度か互いに見掛けることは有ったが、会話はしなかったしのぅ。むしろ殺し損ねた事に落胆したものじゃ。
じゃから、どう仲直りしたかなんて聞かれても答えられぬ。かと言って、いい加減な事は言いたくないしの。
「……色々と有ってのぅ。それはもう大変じゃったが、何とかなったぞ?」
「……そうか。……凄いな」
「お主も、いつか出来るじゃろ」
まぁそもそも、こやつが両親と喧嘩しているかと言うと微妙なところじゃと思うが。こやつの両親は紛れもない毒親じゃとは思うが、母親の方には変化が有ったように思える。なら後は父親だけじゃろうけど、父親との対立は簡単に解決出来るものでも無いからの。儂にはとても無理じゃった。今でも出来る気がしない。
「まぁ、どうしようもなかったら呪ってやるからの。安心して挑むが良いぞ、がははは!」
「いや、だから呪うつもりはねぇけど……」
「円花ちゃーん、ご飯ですよーー」
お。轟と話し込んでいる間に、どうやら夕飯の準備が出来たらしいの。食堂の方から儂を呼ぶ声が聞こえてきて、何じゃか凄く良い匂いが居間まで漂ってきておる。お陰で空腹が大きくなってきた。この匂いは……もしや炊き込みご飯では!?
具は何かのぅっ。何でも良いぞ! 被身子の炊き込みご飯は、それはもう美味いんじゃっ!
◆
「うめぇええええっ! この炊き込みご飯うめえよっっ!!」
「何で炊き込みご飯って、こうも食欲と本能を揺さぶるんだろうな……!!」
「渡我先輩、ありがとうございます! 俺達の分まで炊いてくれるなんて……!!」
今日の夕食は炊き込みご飯が全てと言っても過言では無い。実際、被身子がたまに作ってくれる炊き込みご飯は、味良し香り良し見映え良しの逸品じゃ。たまにしか作ってくれないんじゃけど、今日は気が向いたのか作ってくれた。しかも味噌汁付きじゃ。炊き込みご飯と味噌汁があれば、他におかずなど要らんのぅ。
美味い。まっこと美味い。男子達が騒々しくなってしまうのも仕方ない。
どうじゃ、凄いじゃろ。被身子の料理は美味いんじゃ。ありがたく味わえ。
「しかし、よくこれだけの量を作れたの?」
「実は女子のみんなに手伝って貰ったのです。お米研ぎとか具材の下準備とか」
なるほど。それならば全員分を用意出来てもおかしくないのぅ。おかしくは無いんじゃけど、それならば儂も手伝った方がもっと良かったのでは?
「言ってくれば儂も手伝ったんじゃけど?」
「いやいや!? 廻道は料理しちゃ駄目だからね!?」
「円花ちゃんに料理はまだ早いんやないかな……」
「円花ちゃんは台所に立っちゃ駄目よ」
「き、貴様等……!」
何でそんな散々な物言いをされなければならぬのか。解せぬ。たまには儂が台所に立っても良いじゃろっ。そうやって遠ざけるから、いつまで経っても何も覚えられないんじゃっ!
ふんっ。失礼な奴等め。こんな奴等は放っておいて、儂は炊き込みご飯を食べる。あぁ、美味い。三回ぐらいおかわり出来そうじゃ。しかしこの後で待っていることを考えると、腹八分目……いや七分程度にしておこう。満腹になって寝てしまう、なんて事態は避けたい。今宵はいつも通り……いやいつも以上に甘やかすつもりじゃし。
……食事中に考えることではないな。炊き込みご飯が勿体無い。もっと味わって食べなければ。
「円花ちゃんは料理も洗濯も掃除もしなくて良いのです。それはトガの役目なので!」
それはそれで、最近はどうかと思わんでもないんじゃけど。被身子ばかりに家事をやって貰うのは違う。じゃけど、何もやらせて貰えぬしのぅ。こっそり練習しておくべきか? 舎弟とか、意外と家事が出来るしの。今日の寮の掃除は隅々まで行き渡っておったし、預けた枕は綺麗になって帰って来た。まぁ掃除については、あやつが担当した範囲は、じゃけど。緑谷が担当した範囲は、少々雑な部分があった。手抜きをしてたなんて事はあやつに限っては無いじゃろうから、これは舎弟の掃除の腕が良いと言うことじゃな。被身子とどっちが良いんじゃろうか?
今度掃除対決でも……。いや、必要無いか。競わせるような事ではない。そもそも被身子の家事に不満など無いからの。むしろ、少し申し訳ないぐらいじゃ。
あ、そうじゃ。肩を揉んでやろう。ついでに背中とか腰とか、腕とか足とか。全身揉み解してやったら、良いお礼になるのでは?
……。よし、後で試してみよう。そうしよう。これでも
うむ、腕の見せ所じゃ。念入りに、骨抜きにしてくれよう……!
「そう言えば廻道。酸と打撃のコンビネーション、試験で役立ったよ! 教えてくれてありがとね!」
「ほう?」
と言うことは、芦戸も少しは強くなったのか。儂の教えが必ずしも正解とは限らぬが、助言が役に立ったなら良かった。個性の事はどう指導したら良いのか分からんからの。赤血操術との類似点が有ったから、まだ芦戸には教え易かった方じゃけど。例えば葉隠なんかは、どう教えたら良いのか分からん。八百万は、もっと質の良い武器を作れるようになると良いんじゃけども。
梅雨なんかは優等生じゃから、特に教えることも教えを乞われることも無かった。
「あ、私も。結構上手く投げれて、良い感じに動けた!」
「それは儂じゃなくて、緑谷に言え。投げられ続けたのはあやつじゃし」
麗日の成長については、儂より緑谷のお陰じゃろう。試験までの訓練で、ひたすら緑谷を投げ続けてた訳じゃし。儂が相手になる時が何度も有ったが、その時は儂の方が投げ続けたしのぅ。
ううむ。やはり人を育てると言うのは簡単ではない。特に個性については、儂は緑谷よりも劣る筈じゃからの。
「思ったんだけどさ。廻道って誰から戦い方を習ったの?」
耳郎よ、それは答え難い。素直に前世での経験とは言えぬしのぅ。かと言って、今生で誰かに何かを学んだことは……。あぁ、そうじゃ。丁度良い言い訳が有った。
「おおるまいとじゃ。ほら、職場体験の時に色々と」
よし、これなら納得してくれるじゃろ。あやつが儂の師、と言うことにしておけば何とかなるような気がする。これで納得してくれるじゃろう。……納得するよな?
「と言うことは廻道さん。体育祭以前から、実はオールマイトのご指導を受けていたと?」
「……! ってことはさぁ! やっぱ事実ってことなの!? オールマイトの後継者って噂!」
……。……そうなるのか。しまった、世間で儂がどのように扱われているのか忘れていた。この誤解は可及的速やかに解きたい。解きたいんじゃけど、馬鹿正直に緑谷の事は話せぬ。いかん、おおるまいとに指導されたなんて言うべきでは無かった……!
「ブフッ」
離れた席で舎弟が噴き出した。何笑っとるんじゃ貴様。許さん、後で拳骨じゃ拳骨。
「……儂は平和の象徴になどならぬよ。そういうのは、もっとこう……あの筋肉阿呆みたいなたわけ者がやるべきじゃ。儂は、呪術師なんじゃから」
それから、出来ればその話題は止めてくれ。話したくないし、何より被身子がどう思うかも分からん。拗ねられたらどうするんじゃ。今じゃって、なんか不満そうに儂の顔を見ているし。
まぁ、があるずとおくをされるよりは良い……か? いや、良くない。どちらも良くない。まっこと、良くない……!
「でも、円花ちゃんの実力ならひょっとして? と思わなくもないわ。円花ちゃんは強いもの」
「そうだよねぇ。クラスで一番強いのは誰か選べって言われたら、アタシ廻道に入れるもん。みんなは?」
「私は轟さん、でしょうか。個性の強さは勿論の事、判断や行動の速さ。その辺りはズバ抜けてるように思えますから」
「……人当たりとかも考えたら、爆豪くんよりは軍配が上がるよねぇ」
「そうそう。イケメンだしね!」
よし、どうやら話が逸れて来たようじゃの。良いぞ、そのまま儂の事は忘れてくれ。そして心行くまで話したら良い。儂は炊き込みご飯を堪能してるから、後は勝手にしてくれ。
「廻道ちゃんは、クラスで誰が一番強いと思う?」
「儂」
「うわ、言い切った……! そりゃ、そうかも知れないけどっ。他の人、他の人は!?」
「……なら、轟じゃの。あやつは強い」
何せ儂が手を焼かされるぐらいの実力を持っておる。腕を競い合う、と言う点ではの。殺し合いなら話は別じゃ。それならまだ儂が勝つ。ただこの優位も、いずれは無くなるかも知れぬ。いずれ轟にも、そしてくらすめえと達にも命を取捨選択をする時が来るじゃろう。
出来ればそんな時は、来て欲しくない無いものじゃ。
……ううむ。こんな心配をしてしまう辺り、こやつ等に絆されている気がする。それを悪い事とは思わんが、何か負けた気分じゃ。ぐぬぬ。
「……むー……」
あ、いかん。
……これは、ゆっくり夕食を食べている場合ではない。せっかくの炊き込みご飯なんじゃけどなぁ。たらふく食べるのは、次の機会に取っておくか。
残りの夕食を手早く掻き込んで、食事を終わりにする。けぷっ、早食いはいかんのぅ。
「ごちそうさま。ほれ被身子、部屋に行こう。今すぐ行こう」
「……んふふっ。もぅ、部屋に連れ込んで何するつもりですかぁ?」
何って、なにするに決まっとるじゃろ。余裕そうに笑っとるようじゃけど、内面余裕が無いのは分かっとるんじゃぞ。さっきから儂の首筋を露骨に見詰めてるくせに。分かるんじゃからなっ、この血狂い! さてはまったく反省しとらんな!? だいたい、そんな風に見詰めるのは止さぬかっ。色々、意識してしまうじゃろ! まったく……!
そんなこんなで。くらすめえと達を放置して被身子と部屋に戻った儂は、ある種の
まぁ、良しとしよう。じゃって気持ち良かったんじゃもん。そうさせられてしまったら、時間なんて気にしたくないものじゃろ?
最近チウチウシーン書いてないから、そろそろ本腰入れて書きたい気がしないでもないです。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ