待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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調査の報告。

 

 

 

 

 

 

「廻道少女、一緒にお弁当食べよ?」

 

 新学期二日目。昼休みになると、おおるまいとが弁当箱を片手に教室へとやって来た。瞬間、くらすめえと達の視線が儂に集まった。気がする。何で注目されねばならんのか。あんなくだらない噂がまだ流行っているのか? 正直勘弁して欲しい。して欲しいが……こうも考えることが出来る。緑谷とおおるまいとの関係を隠すには、丁度良いと。くらすめえと達や世間が儂にしている誤解は、緑谷が平和の象徴になったら解くとしよう。それまで、あと何年掛かるのかは分からぬが。

 それはそれとして。おおるまいと、帰って来てたんじゃな。まだ北海道に居るものかと思ったが……。雄英に帰って来ていると言うことは、渡祇井馬市での調査は無事に終わったようじゃ。実は行ってみたいと思ってたんじゃけどな、北海道。夏でも涼しいと聞くし、海の幸が美味いとも聞いた。温泉もあるし、いつか被身子と行きたい。新婚旅行に北海道も悪くないのかもしれん。その内、相談してみよう。

 

「いや、おおるまいと。儂、昼は寮で食べるんじゃけど」

 

 寮生活が始まってからと言うもの、儂は弁当を持つことが少なくなった。校舎から徒歩数分の位置に寮が在るからの。被身子と一緒に戻って、昼食を作って貰っている。で、時間が余れば二人きりの時間を部屋か共用の居間で過ごすわけじゃ。

 じゃから、こうして昼食に誘われても頷くことが出来ぬ。まぁ今回の場合、おおるまいとを寮に連れていけば良いだけの話では有るんじゃけど……。さて、どうしたものかの。わざわざ儂を呼び出したと言うことは、呪術師としての話がしたいからじゃろう。となると、被身子を同席させるわけにはいかん。ほら、呪術の秘匿義務があるからの。これ以上呪術的な話を聞かせるのは、色々と良くない。義務もそうじゃけど、何より儂が知って欲しくないんじゃ。

 

「そ、そうなの? じゃあ一緒に寮に」

「被身子が居ても構わんか?」

「……あー……」

「……何か用件が有るなら、めえるで頼む。読みながら食べるから」

「ん、分かった。じゃあそうしようかな。ごめんね、オジサン邪魔しちゃって」

「いや、こちらこそすまなかった」

 

 食事中に携帯電話(すまほ)を操作するのはどうかと思うんじゃけど、今回の場合は仕方ないじゃろう。本来なら、口頭で済ませるべき事じゃ。それを儂の都合で変えて貰ってるんじゃから、このくらいはしなければな。あまり携帯電話(すまほ)に夢中になっていると被身子に怒られるかもしれぬから、程々にしなければならぬけど。

 そんなこんなで、おおるまいとは去って行った。ので、儂は席を立つことにする。そろそろ被身子が迎えに来る筈じゃ。多分、あともう少ししたら教室にやって来るじゃろう。午後の授業は英雄(ひいろお)基礎学じゃから、儂の巫女装束(こすちゅうむ)は今の内に壁の中から出しておくか。……そう言えば、どうやって取り出すんじゃっけ? そもそも、教師無しに取り出せるものじゃったっけ?

 

「廻道、どうかした?」

「耳郎。いや、五限はひいろお基礎学じゃから」

「あぁ、コスチューム。それ、リモコン無いと出せないよ」

「何処じゃ?」

「先生が持ってるけど。そもそも、ウチ等生徒は取り出せないんだけど」

 

 ……そう言えば、そうじゃったの。英雄装束(ひいろおこすちゅうむ)は、教師の許可が無ければ持ち出し不可じゃった。となると、仕方ない。昼食を食べたら、少し急いで教室に戻るとしよう。授業が始まる直前には、相澤先生が取り出してくれるじゃろう。

 

「廻道ー。渡我先輩来たよー!」

 

 む、被身子が来たようじゃ。では寮に戻るとしよう。今日のお昼は何じゃろうか? 暑いし、冷やし中華とかが食べたい気分かも知れぬ。素麺とか蕎麦でも良いな。とにかく、つるっと食べられるものが良い。

 何で現代の夏は、こんなにも暑いんじゃろうなぁ。意外にも平安の夏も現代の夏も、気温に大差がない。それでもあの時代よりも夏は暑く感じてしまう。……何でじゃ?

 

「円花ちゃん、迎えに来たのですっ」

 

 気温について首を傾げていると、被身子が目の前にやって来た。今日は珍しく半袖ぶらうすじゃ。今朝着ていたかあでぃがんは、腰に巻かれておる。……なぁ、被身子。暑いのは分かる。儂じゃって暑い。じゃけどその、……少し透けてないか? 何かそれ、良くないような気がするの。うむ、良くない。後で注意するとしよう。

 

「ん。では行こう。儂、冷たいのが食べたい」

「と言うと思ったので、今日のお昼は冷やし中華です! トガは出来る女なので!」

 

 ……出来る悪女の間違いでは? と、思わんでもない。口には出さぬけども。

 

「ん!」

「ふふっ。はい」

 

 手を繋いで、教室を出る。被身子の体から、柑橘系の甘い匂いがした。あと峰田、貴様は後で拳骨じゃ。何の意図が有るかは知らぬが、被身子の背中を凝視するでない。たわけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずずずっ。冷やし中華、美味い。夏は暑いからの。冷たい料理は食べ易くて良い。しかし冷たいものばかり食べていると胃に悪いから、気を付けねば。

 それから、どうしても一つ……被身子に言いたい事がある。

 

「……のぅ、被身子」

「はい?」

「透けとるんじゃけど」

「はい。透けてますね」

「……」

 

 分かってるなら気を付けて欲しい。気がする。別に儂が見る分には良いんじゃけども、他の輩に見られるのは……やじゃ。口に出したら果てしなく調子に乗る気がするから、言わないでおくけども。

 

「透けてるの、嫌ですか?」

「……まぁ……」

「なら、円花ちゃんも気を付けてください。透けてるんですけど」

「いや、儂は透けてなど……」

 

 ……。……透けとるの。うむ、透けとる。儂は別に透けてたとしても気にしないんじゃけど……。でも、そうか。被身子のが透けてると、儂は嫌じゃ。なら被身子も、儂が透けてたら嫌じゃろう。なら、気を付けるとする。しかし、この暑い中で上に着込むのはのぅ……。教室は冷房が有るから良いんじゃけど、外に出るとどうにも……。ううむ、困った。どうするべきか。

 術式で体温を下げるか? いやしかし、それはよろしくない。下手をすると悪影響にしかならん。暑さを我慢するしか無い、のか……?

 

「気を付けて欲しいのです。無防備なのも良いんですけど、せめて人前ではしっかりして欲しいと言うか……。峰田くんとか居ますし」

「……気を付ける。じゃからほら、お主も」

「ふふっ。もしかして嫌でした?」

 

 こ、こやつ。調子に乗っておる……! にたりと笑いおってっ。知っとるんじゃぞ、お主がそういう顔をする時は、大抵ろくな事にならんっ。今回だってそうじゃ! まったく、いつもいつも……!

 何だか悔しい気分になって来た。じゃから、せめてもの抗議として睨んでみる。残念ながら、効果は無いんじゃけど。むしろ事態が悪化するような気さえしてくる。

 調子に乗り始めた被身子をどうするか考え始めると、衣嚢(ぽけっと)の中の携帯電話(すまほ)が震えた。おおるまいとからじゃろう。食事中ではあるんじゃけど、目を通しておこう。場合によっては、直ぐに電話することになってしまうが。

 

「……すまん。めえるじゃ」

 

 一言断りを入れてから、内容に目を通す。どれどれ……。

 

 ……なるほど。渡祇井馬市跡地に、二つの残穢を見たと。その後北海道に滞在し呪霊退治を続けたが、市をひとつ焼き払った呪霊には遭遇せず……か。あの一つ目と接触が無かったのは、幸いじゃった。下手をするとおおるまいとが殺されておったからの。弱くなったことが世間に晒されてしまっているが、それでもまだあやつは平和の象徴じゃ。おおるまいとが死ねば、この国がどうなるかも分からん。

 にしても、この国の人々は個人に寄り掛かり過ぎではないか? ここ最近、悪党による犯罪率は増えていると聞く。おおるまいとの弱体が広まってしまったことで、身を潜めていた悪党が動き始めているんじゃろう。良くない傾向じゃ。しかしじゃからと言って、儂に何が出来る訳でもない。特に何かをするつもりも無い。

 

 ……待て。残穢が二つ? と言うことはあの一つ目、さては誰かと呪い合ったな? 呪術師は儂等三人しか居ない筈じゃから、可能性があるとするなら呪詛師か呪霊のどちらかじゃろう。

 

 何故そんな真似を……。いや。

 

 もしやあの一つ目、自らを鍛えているのか? 猛者を探して渡り歩いて、実力を付けようとしている? 何の為に?

 

 ううむ……。もしそうじゃとしたら、厄介じゃの。あやつの術式は、火じゃ。轟の炎とは比べ物にならぬ程に強い火。それが更に鍛えられたとなると、儂では対処出来ぬかもしれん。かと言って、緑谷やおおるまいとが相手に出来るような奴でもない。あの一つ目を祓えるのは、儂だけじゃろう。

 

 これは、どうにかして火の対策を講じた方が良い。今のままでは、対抗出来ぬかもしれん。

 

「……ううむ……」

「難しい顔して、どうしたんですか?」

「……いや、別に。何でもない」

 

 と言えば嘘になるが、秘匿義務が有るからの。被身子には話せぬ。それに、戦うことを考えているなど言えん。心配させてしまうし、それは儂の望むところではない。何より心配させないと約束している身じゃ。お互い心配を無くすことは出来ぬが、それでもいちいち心配させてしまうような事は言いたくない。

 

「……渡祇井馬市の事ですか?」

「ぃ、いや、(まこと)に何でもないんじゃ」

「ほんとですか?」

「……」

 

 困ったのぅ。被身子に隠し事が出来そうにない。そんな風に見詰められると、素直に白状してしまいそうになる。今更こやつに呪術的な事情を隠しても仕方ない気もするが、やはりなるべく巻き込みたくない。どうにかして話を逸らすか? 何か、被身子の意識を逸らせそうな話題を……。

 

 ……あ。ひとつあるの。聞こうと思ってた事はひとつある。しかし、それをここで口にしてしまうとそれはそれで大変な事になるような気がするのぅ。ど、どうしたものかの。

 

「まぁ、円花ちゃんが隠したいなら無理には聞きませんけど。でも、言ってくれた方がトガは安心できるのです」

「……」

 

 参った。降参じゃ降参。結局こやつに何をしたところで、儂は勝てないんじゃ。それはそれで解せぬものじゃけど。まぁそれでもいつかは勝って、鼻を明かせてやる。今日のところは、素直に別件について話すとする。

 

「……新婚旅行、何処か行きたいところはあるか?」

「……! もぅ、気が早いですよぉ。そんなに私と結婚したいんですか?」

「……駄目かの?」

「全然! 嬉しい!」

 

 良し、誤魔化せたの。さては儂の勝ちか? 勝ちじゃよな? 何か気恥ずかしいことを話す羽目になってしまった気がするが、取り敢えず話は逸らせた筈じゃし……! 逸らせたと思うことにする。頼むから逸れていてくれ。

 取り敢えず、携帯電話(すまほ)は仕舞っておこう。画面を見られたら、心配させてしまうからの。

 

「そうだっ、冬休みに旅行しましょう! クリスマスデートなのです!」

 

 いや、被身子。それは気が早いと思うんじゃけど? 冬になるまであと何ヵ月掛かると思ってるんじゃこやつは。そんな来週の予定を決めるみたいな感じで、数ヶ月先の事を提案されてもじゃな……。って、あぁ。儂も同じ穴の(むじな)か。何なら被身子より酷いかもしれん。じゃって、結婚出来るのは二年も先の話なのに。

 

「クリスマスなんて、直ぐ来ちゃうのです! 今の内から予定立てちゃいましょう!」

 

 そ、そうかの? まぁ、被身子が言うならそうなんじゃろう。そう思うことにする。

 くりすます。くりすます……か。被身子の意図は理解不能じゃけども、今の内から考えておいても良いかもしれん。ほら儂、被身子の誕生日に何の用意も出来たかったからの。同じ轍を踏まぬよう、今から考えておくか……。

 

 何をしたら喜んでくれるかのぅ。こやつの事じゃから、多分何をしても大喜びしてくれるとは思うんじゃけど。

 

 ……今度、密かにくらすめえとに相談してみるか。誕生日の時は何の役に立たなかった気がするが、それでも儂よりは良い案を出してくれるじゃろう。頼むぞ、今回こそは役立ってくれ。ただし! また儂をぽんこつ扱いしたら許さんからな!

 

 

 

 

 

 









三人称による補完は要りますか?

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