待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「もぅ、拗ねちゃって。円花ちゃんって、時折お子様なのです」
昼、寮の食堂にて。儂は被身子に頭を撫でられつつ、蕎麦を啜っておる。ずずずっ、美味い。汁がな、良い感じなんじゃ。いつか被身子の手打ち蕎麦が食べてみたいのぅ。あと、最近気付いたんじゃけど蕎麦に少し七味を掛けて、汁につけずに啜るとこれはこれで美味い。なんじゃっけ、しんぷるいずべすと……? とか言うやつじゃな。蕎麦に七味がしんぷるなのかは知らんけど。
ちなみに、今の儂は結構機嫌が悪い。相澤も鯱頭も嫌いじゃ。何なんじゃあやつ等、儂の楽しみを邪魔しおって。あんなに楽しかったのに、もっともっと楽しくなるところじゃったのに、途中で水を差しおって……! 許さん、末代まで呪ってやろう。儂の機嫌を損ねるとどうなるか、思い知ったら良いんじゃ。ふんっ。
「それで、轟くん。円花ちゃんは何をやらかしたんですか?」
「ずず……。いや、特には。今日、特別講師としてギャングオルカ……仮免の時に敵役として出て来た人が来てるんですけど」
「はい。……もしかして、その人と揉めたり……?」
「……改めて実力を見てもらいました。ただ廻道は途中で中断になって。それからこんな調子です」
「あぁ……そういう……」
うるさい。不満は不満じゃ。あんな形で中断されて、納得など出来ぬ。それと被身子、人が物を食べてる時に頬を指で突くな。まったく貴様と来たら……。あと、別に儂はお子様では無い。ずずっ、蕎麦が美味い。轟、被身子の手料理が食べれるんじゃからもっと美味そうに食わんか。儂が拗ねてる事情を知りたいからとは言え、わざわざ被身子が誘ってくれたんじゃから。
……はぁ。午前中の授業は、それはもう最悪じゃった。鯱頭が特別講師をすると言うから楽しくなると思ったんじゃけど、現実は水を差されてお預けじゃ。解せぬ。儂の実力が見たいなら、中途半端なところで止めるな。しかもその後、儂を差し置いて舎弟や轟と手合わせしおって。黙って見てるのは、この上なくつまらなかったんじゃけど?
更に儂等の実力を再確認した後で行われたのは、救助訓練じゃった。求められたのは協調性と迅速な動き。これは轟とは上手くやれたんじゃけど、舎弟が全然使い物にならなくての……。あやつ、人の手当てとか救助にはまるで向かん。そんなじゃから、あやつは鯱頭にも相澤にも怒られていた。何故か連帯責任で、儂や轟も怒られた。何でじゃ。
「午前中は、何をしてたんですか?」
「救助訓練が主です。ギャングオルカのサイドキックにも参加して貰って、人助けについて色々教えて貰いました」
「それ、爆豪くんに出来なさそうな事なのです……」
「……まぁ、ああいう人助けもあるんだなって思ったので今度俺もやってみようかと。案外上手く行くかもしれねぇから」
いや、何言っとるんじゃこやつ。要救助者に向かって「勝手に助かれや!!」なんて叫ぶ奴を真似ようとするな。あれは絶対、真似てはいかんじゃろ。大人相手の儂でも、あそこまではしないんじゃけど? 何考えてるんじゃ轟。舎弟の真似なんて、しない方が良い。まぁ戦闘時の動きを参考にすると言うなら、止めはしないが。
「じゃあ午後も、救助訓練って感じですか?」
「それは、分からないです。ずずっ……」
正直、午後の訓練を受けたいとは思わん。午前中だけでも色々有ったのに、午後も同じような事が起きると考えたら気が滅入る。とは言え、儂だけ不参加なんて事にはならぬし……。仕方ないのぅ、また連帯責任で鯱頭やら相澤に怒られるとするか。その時は拳骨じゃな、拳骨。午前中はし損ねたから、昼休みが終わったらしておこう。あやつの態度の悪さは筋金入りじゃ。少しずつでも矯正しなければ。さもないと、いつか問題になるじゃろう。いや……もう問題になってるようなものか……?
……はぁ。あやつめ。何であんな調子を続けるんじゃか。儂やくらすめえと達に対抗心を燃やすのは構わんが、教師や目上の大人にぐらいは態度を改めんか。まったく……。
「おいチビ、半分野郎。シャチ
……おい。その態度は何じゃ。途中から声量を下げおって。貴様、被身子の前では大人しくするのか? 殊勝な心掛けじゃ。被身子を怒らせるのは止めておけ。儂もうっかり怒らせてしまったことがあるが、とてつもなく大変な目に遭った。儂じゃから許されただけであって、儂でなければ刺されててもおかしくはなかった。
「―――爆豪くん、誰に許可得て円花ちゃんに話しかけてるんですか? 接触禁止、ですよね?」
あ、これはいかん。被身子の目が据わった。これは駄目じゃ。次の瞬間には、舎弟を刺そうと動き出すかもしれん。いや、しかしじゃな被身子。連絡の為なら、接触禁止じゃろうと話し掛けるしかないじゃろ。その辺の事、留意してくれるとじゃな……?
ううむ、いかん。まっこと、いかん。儂が拗ねている場合ではない。被身子をどうにかしなければ。でなければ、食堂が血に染まってしまう。いや、舎弟の目の良さなら襲われようと対処出来るじゃろう。対処出来るじゃろうけど、まさか被身子が刃物で刺しに来るなんて想像はしてない筈じゃ。不意を突かれれば舎弟とて……刺されるかもしれん。
「ぁ、相分かった! ごちそうさまっ、被身子、ちょっとこっちに……!」
「円花ちゃん、今トガは爆豪くんと話してるの」
「……」
……。…………。………………。
「相変わらずイカれた目付きしてんな。てめえ等、似たもん同士かよ」
「は? 円花ちゃん、私刺せるよ。刺すね?」
「待て待て待て! 刺すのは止さぬかっ!」
駄目じゃ、これは駄目じゃ。しまった、失念していた。被身子は舎弟が大嫌いじゃってことを、すっかり忘れていた。何だかんだでこの二人が会話することは無かったし、儂も被身子の前では極力関わらぬようにしていた。それで平和じゃったから、二人が話したらどうなるかも考えてこなかった。被身子は当たり前のように刃物を持ち歩いているし、舎弟は被身子にすら態度が悪い。こやつ等が火花を散らせばどうなるかなんて、火を見るより明らかじゃ。
「二人は、仲悪いのか?」
「ああ゛!? 見りゃ分かんだろ! 良くねえよ!!」
「そうか。廻道と仲が良いから、てっきり渡我先輩とも……」
「てめえの目はどうなってんだ半分野郎!! チビとも仲良しじゃねえんだよ!!」
「でも中学から一緒なんだろ? 友達じゃないのか?」
「時間と友情は比例しねえんだわ!!」
……轟。火に油を注ぐような真似は、今は止めてくれ。お主が天然なのは知っているが、今だけは空気を読んで欲しいのぅ。どうするんじゃこの状況。お主に釣られて舎弟は余計な一言を言ってしまったし、それを聞いた被身子は勢い良く席を立った。制服の
……ど、どうやって?
と、取り敢えず! 取り敢えずじゃな……。そう、舎弟に拳骨じゃ! 被身子が何かする前に拳骨してしまおう! じゃってほら、態度を改めないなら拳骨って言ってあるからの!
それと、被身子をこの場から連れ出さねばっ。舎弟の前に立たせてはならぬ!
「待て待て被身子っ、舎弟には儂が言い聞かせておくから! 落ち着け!」
「落ち着くのは円花ちゃんの方です。そんなに慌てて、ちょっと爆豪くんに甘過ぎじゃないですか?」
「そ、そんな事は無い。あやつは後で拳骨しておくから、それで勘弁してやってくれ……!」
「……むぅー。またそうやって誰かに甘くして……! 優し過ぎるのはどうかと思うのです!」
いや、優しくしてるつもりは無いんじゃけども。ただ子供は守るべきものじゃろ? だいたい儂が優したり甘やかしたりするのは被身子だけで、他の連中にそこまでしてやるつもりは無いんじゃ。無いったら無い。最近、色々な奴をつい甘やかしてしまっているような気が、……しないでもないが……。
「そうやって誰彼構わず甘やかすのは駄目なのですっ。私の分が減っちゃうんです!」
何を言っとるんじゃこやつは。何でいつもいつも、意味の分からない事を口走って……。まったく、こやつと来たら。どこまでも仕方ない奴じゃ。そんな所も好ましいと思ってしまう儂も、仕方ない奴なんじゃろうけど。
……まぁ。こうも求められるのは、それはそれで婚約者冥利に尽きる。
「どうどうどう、落ち着け被身子。ほら、良い子じゃから」
「……子供扱いしてます?」
……それは、してるかしてないかで言えばしてるけれども……。じゃって、儂からしたら全然子供じゃもん。そんな不満そうに頬を膨らませても……。ううむ、かぁいい。どれ、指で突いてみるか。お、柔らかい。
「……むぅーー……」
睨まないでくれ、困るから。とは言え、取り敢えず少しは落ち着いてくれたかの……? そうであって欲しい。とにかくじゃ、この場から被身子を引き離そう。それから、出来れば今後舎弟に近付けさせないようにしなければ。でないと、またこんな事になってしまう。それは避けたい。
「ほ、ほら。部屋に行こう。な?」
「……むすーーっ。円花ちゃんの馬鹿」
よ、よし。ひとまず何とかなりそうな感じがする。これから何とかして機嫌を直さねばならぬのは、大変じゃけど。まぁ今は、食堂で殺傷事件が起きなかったことを喜ぼう。
さぁ被身子、部屋に行こう部屋に。いつも以上に甘やかしてやるから、それで機嫌良くしてくれ。な? な?
「接触禁止、守ってくださいね。でないと、あれこれしちゃうのです。次は刺します。絶対刺します」
……。舎弟よ、今後儂の側に被身子が居る時は、儂に話し掛けないでくれ。でないと今回みたいな事になる。次同じ事が起きたら、流石に庇ってやれぬからな? どうなっても儂は知らんからな?
で、この後。儂は部屋で、被身子をひたすら甘やかした。鯱頭の呼び出しは、……無視することになってしまったがの。でもでもじゃって、今は被身子優先じゃもん。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ