待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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いんたあん。溢れる殺意

 

 

 

 

 

 こやつは殺す。名も知らぬ男じゃが、子供に手を出したんじゃ。理由なんてものは、それだけで十分。あとで儂は法に裁かれるじゃろう。被身子や両親に、多大な迷惑を掛けてしまう。三人は許してくれるじゃろうか? いや、許されなくとも関係無い。儂はこやつを、絶対に殺す。子供を脅かし、傷付ける者は死ぬべきじゃ。全員、首を括って死んで欲しい。じゃけど誰もそんな真似はしないから、誰も殺そうとしないから、代わりに儂が殺す。何故、子を愛さぬ親はいつの時代にも居るのか。何故、子を傷付ける親は消えてなくならないのか。

 いつだって儂の機嫌を損ねるのは、儂に殺意を抱かせるのは、子供を傷付ける大人と呪霊だけじゃ。

 

 ―――……殺す。殺してやる。その息の根を、必ず止めてくれる……!!

 

「苅祓!!」

 

 一切の加減を加えず、首や手首から血刃を飛ばす。僅かでも触れれば骨ごと肉を切り刻む。そんな切れ味を持つ苅祓を、あの男の左右と正面に向けて飛ばす。線と弧を描きながら、血は突き進む。そして。

 

「っっ゛!?」

 

 苅祓は右足と左腕を切り裂いた。が、胸を狙ったものは避けられた。手足は切り落としてやるつもりじゃったが、半端に避けおって。お陰で切断し損ねたのぅ。じゃが、それでも構わん。その手傷ではもう動けないじゃろう。じゃから、後は穿血で頭を撃ち抜いてしまいじゃ。

 いや、穿血などこやつには高尚か。赤縛で首を締め砕いてやろう。そうしよう。

 男は、血を流しながら倒れ込んでいる。息が荒いのは、痛みに襲われているからじゃろう。

 

 ……くだらぬ。儂に遅れを取るような輩が、醜く生き永らえようとするな。生きていたいのなら、儂の前に姿を現すな。子供を傷付けるな。そもそも貴様、(まこと)にえりの親か? まるで似てない。髪の色も目の色も違ければ、角も生えていない。そんな輩が、あの幼子の父親?

 

 嘘も大概にしろよ、糞野郎。

 

 今度は、赤縛を首に向かって飛ばす。これで終わりじゃ。もしかすると、あの子に寂しい思いをさせてしまうかもしれぬが……それは誠心誠意謝るとする。きっとあの子は利口じゃから、いつかは分かってくれると勝手に信じよう。

 別に、許されたいとは思っていないが。一生恨まれたって、あの子が健やかに生きていれば儂はそれで良い。

 

 赤縛は……その場から跳び下がられたせいで避けられた。おい、避けるな貴様。殺し損ねたじゃろ。いい加減、生き永らえようとするのは止めろ。これ以上手間を掛けさせるな。そこまでして儂に全力で殺されたいと言うのなら、……良いじゃろう。手段を選ばず、全力で殺してやる。

 

「……勘弁してくれよ。治せるとは言っても、痛みは有るんだ」

 

 ……。いつの間にか、手足が治っている。呪力は感じられない。となると、個性で治したのか。さっきは地面を触れて、石の棘を作った。その前は儂に触れようとした。そして今、自らの傷を治した。触れた物を操る、或いは作り替える。それがこやつの個性か。

 大した個性じゃの。どうしてその力を、子を幸せにする為に使えないのか。それだけの力がありながら、何であの子を傷付けた? あんなに、夥しく包帯を巻かねばならぬ程に……。

 

「エリを何処に連れ去った?」

「答える義理がどこに有る? 保護者面はいい加減止めろ、糞野郎」

「ヒーロー面は止めろ、病人が……! お陰で、痒いんだよ!!」

 

 男が地面に触れる。と、同時に足元から棘が飛び出してきたので背後に二度跳躍する事で避ける。勢いは強く、尖端が鋭いな。そして視界が妨げられた。あの男は棘の向こう側。鬱陶しい奴め。再び苅祓を放ち石棘を根こそぎ薙ぎ払うと……。

 

「ちっ」

 

 糞野郎の姿が見えぬ。どうやら逃げたようじゃ。追うか? 何処までも追い詰めて、儂の逆鱗に触れたことを悔やませてやっても良い。あぁ、そうしてやろう。それが望みなら、何処までも何処までも追い掛け回して、殺してやる……!!

 

「っ、ちょっ、待った!! もう良い、あいつは退いた!」

「喧しい。退け」

 

 儂の目の前に、両腕を広げた……るみりおんが立ち塞がる。邪魔じゃ、そこを退け。子供に手を上げる趣味は無い。緑谷の先輩じゃろうが、儂の先輩じゃろうが、今はただ邪魔なだけなんじゃ。

 

「いいや退かないね! あんな奴を追い掛けるより、まずあの子の安全確認とデクとの合流が先だと思わないのか!?」

「……」

「ああもぅっ、何でこんな事に……! でもやっちまったものは仕方ないから、サーの指示を仰ごう! あ、サーは俺の師匠ね? さっきの奴……治崎って言うんだけど、そいつを捕らえる為に色々してるから!!」

 

 ……。……治崎。治崎か。その名は覚えておいてやろう。次に出会った時、今度こそ殺す為に。あぁ、殺したい。殺してしまいたい。何故殺してはいかんのじゃ。あの時代ならば、幾ら殺してたとしても咎められることは無かったのに。

 そして。あの男を捕らえる為に色々していると言ったな? 何とも使えん英雄(ひいろお)じゃ。もう既に、子供に被害が出ているんじゃぞ。行動が遅すぎる。あり得ん。(まこと)英雄(ひいろお)なのか?

 

 苛立ちが募る。納得出来ぬ。今すぐにでも治崎を追いたい。追って、追い詰めて、この手で殺したい。なのに、なのになのになのに!!

 

 

 ……ふぅうううっ。落ち着け、落ち着け。もうあの男は追えない。時間の無駄じゃ。あの糞野郎を殺すなら、ひとまずこやつの師とやらに会って情報を貰おう。殺しに行くのはそれからで良い。

 それに、緑谷とえりの事が気になる。今も逃げている最中じゃからの。まずは二人と合流しよう。電話でもして……いや、携帯電話(すまほ)は使い物にならないんじゃった。

 

「るみりおん。すまほは持ってるか?」

「あっ、デクに電話? 良いよ、貸してあげる!」

「助かる。……で、これ。どうやって使うんじゃ?」

「えっ」

 

 何じゃその顔は。仕方ないじゃろ、普段は音声で操作しとるんじゃから。何より今は、頭に血が上ったままで携帯電話(すまほ)を触りたいとは思えぬ。

 

 ……取り敢えず。こやつに電話して貰うことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ってこないと思ったら、迷子になった挙げ句ヤクザ者と街中で大立ち回りか。仮免を取ったとは言え、色々とやり過ぎだ」

 

 病院。廊下の長椅子(べんち)で緑谷達とえりの診察が終わるのを待っていると、大慌てで相澤がやって来た。さぞお怒りなんじゃろう。儂の面を見るなり捕縛布を飛ばしてきたぐらいじゃ。今回ばかりは引き千切ったがの。更に怒らせてしまったようじゃが、関係無い。知ったことじゃない。貴様の話を大人しく聞く程、今の儂は平静じゃないんじゃ。

 それでも、どうにかこうにか外面だけは取り繕う。なるべく無表情を保って、未だ腹の内で渦巻く殺意を抑え込む。

 

「……とは言え、良くやったよ。虐待されてた子供を保護したそうだな。今警察と、ヒーローが動いてる。後は任せて良い」

「……」

「……おい、廻道」

「……」

 

 あの男、どうやって殺してくれようか。二度と悪事が出来ぬよう、手足を切り刻むか? いや、先に両腕を切り落とす方が先か。あやつの個性は、恐らく触れたものに作用する力じゃ。儂に触れようとしたことや、地面に触れていたこと。そして己自身に触れて傷を治していたことから、個性を使う条件に触れることが含まれている筈。

 ……やはり、手を切り落とそう。細かく刻んでしまっても良い。いやそもそも、一撃で脳を撃ち抜けば手間を掛けずに済むか。領域に引き摺り込んで、四方八方から頭を貫くか? それも悪くない。悪くないが、あやつの個性は……下手をすると儂の血を壊す。或いは対外操作を乗っ取られる可能性がある。確実に殺す為には……。

 

「あ、廻道さん。診察、終わったみたい」

「……そうか」

 

 面を上げると、丁度診察室からえりが看護師に連れられる形で出て来た。なるべく、冷静に。腹の内に有るものを、頭の中で考えていることを気取られぬように、笑顔を張り付ける。子供は敏感じゃからの。怯えさせたくない。もうこの子に怖い思いをさせるのは無しじゃ。

 

 儂が、守ってやらなくては。

 

「えり。どうじゃった?」

「……えっと。……おいしゃさん、むずかしい顔……してた」

「……そうか。でも大丈夫じゃよ。その傷は綺麗に治してくれる」

 

 手足の包帯が、新しくなっている。着ている服も、今は患者衣じゃ。さっきまでの姿と比べたら、幾分は良いか。いや、手足の包帯が新しくなっていることで、余計に痛々しさが増したような気がするが。

 ……とにかく。今はえりを安心させてやろう。まだ不安そうじゃ。怖いに決まっている。あの糞野郎から逃げ出して、逃げ出して先では大人に囲まれているんじゃ。気が気じゃないじゃろう。それに、いつあの男が自分を連れ戻しに来るか。そん考えたら、恐ろしくて仕方ない筈じゃ。

 

 じゃから。

 

「……頑張ったな。よく逃げてきた。これからは、何も怖くないからな」

 

 小さな体を、優しく抱き締める。頭を撫でて、背中を擦って。少しでもこの子が安心出来るように。怯えなくて、良いように。

 

「……えりは、何も悪くない。悪くないから」

「……っ! で、でも……!」

「大丈夫。大丈夫じゃから」

 

 この子は、逃げて来た。自分に危害を加える輩の目を盗んで、それでも追い掛け回されて。どれだけ怖かったことか。どれだけ、不安じゃったことか。そんな子を保護したのなら、儂がする事は決まっている。

 

「……緑谷。よく逃げてくれた」

「ううん。僕も、助けたかったから。

 ……エリちゃん。大丈夫だよ。このお姉さんはね、すっごく強くて頼りになるんだ。それに僕達も居るから、安心して」

 

 緑谷もしゃがんで、笑顔を浮かべながらえりの頭を撫で始めた。どうやら子供の扱い方は分かっているようじゃ。後で褒めてやろう。まぁ儂からしたら、緑谷とてまだまだ子供なんじゃけど。

 

「そうそう。俺達も居るから安心だ! ほらこれ、羽織っちゃおうか!」

 

 そう言って、るみりおんは赤い外套(まんと)を外してえりを(くる)み込む。おい、室内とは言えまだまだ暑いんじゃぞ。何しとるんじゃこやつ。えりも目を丸くしとるじゃろうが。

 

「ヒーローがマントを羽織るのは、痛くて辛くて苦しんでる女の子を包んであげる為! こういう時の為に羽織ってるんだよね!」

「……ぁ、……ごめん、なさい……」

「いやいや!? そこは謝らなくて良いんだよ!? 俺がしたくてしてることだからさ!」

 

 ……。良くないの。まっこと、良くない。見てれば分かる。声を聞けば、分かる。儂の襟を掴む手からも、伝わってくる。この子は、この子の心に根付いたものは……。

 

 ……それでも。それをどうにかしよう。時間は掛かるかもしれん。それでも必ず、えりの心に巣食う物を取り除こう。

 

「大丈夫じゃよ。怖いのも痛いのも、儂がもう近付けさせぬから。

 それと。るみりおんは喧しいが、まぁそんなものじゃと諦めてくれ」

「言うこと酷いね!? 君はポンコツのくせに!」

「は? 儂はぽんこつではないが? 殴るぞ貴様……!」

 

 誰がぽんこつじゃ!誰が。こんな時にまで儂をぽんこつ扱いしおって。おい緑谷、苦笑いしてないで儂がぽんこつで無いことを言ってやれ。

 

「……取り敢えずお前達。看護師さんとお医者さんを困らせるんじゃないよ。すみません、うちの生徒達が」

「いえいえ。立派じゃありませんか。今の彼女には、必要なことです。

 それに、どうでしょうか? メンタルケアは私達でやりますが、彼女には病院とは無縁の支えが必要だ。良ければ、三人に手伝って貰いたいですね」

「……そういう事なら、幾らでもコキ使ってください。体力と根性だけは人一倍ですので」

「ははは。流石ヒーロー候補生。では諸々の手続きはこちらでしておきますから」

 

 何か医者と相澤が話し込んでいるが、どうでも良いの。そんな事より、今はこの子じゃ。他の何を置いても、今の儂はえりを優先する。

 ……被身子には、後で電話で謝ろう。しばらく会えぬじゃろうから。

 

 ……。……いや、しばらく会いたくない。会ってしまえば、止められる。何より、あの男への殺意が薄れてしまうかもしれん。

 

 あの男。治崎を殺すまでは、被身子には会わん。今の儂を、被身子にだけは見られたくないんじゃ。

 

 

 

 

 

 






胸中、殺意が渦巻く円花です。トガちゃんに会いたくないと思ってしまうぐらいにガチギレしてます。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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