待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
暗く、赤く。なのに何もない場所で、二人がこっちを見ている。儂を恨めしげに、儂を睨み付けている。何も言おうとしないけれど、それでも何が言いたいのか理解出来てしまう。じゃって儂等は血の繋がった兄弟で、兄妹じゃから。
鼻の奥まで、血の臭いがする。こればっかりは、忘れようがない。忘れてはいけない。だから儂は、加茂頼皆は、多くの命を奪って来た。許せないからじゃ。どうしても、許すことが出来ないからじゃ。
子供の命を脅かす者を、子供の命を蔑ろにする者を。
助けたかった。守りたかった。一緒に居たかった。その後悔から逃げるように、囚われたかのように殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して。
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して。
殺して、殺して、殺して、数えるのをいつからか止めて。それでも殺し続けて。
……そうやって、多くの命を助けてきた。多くの命を、この手から溢してきた。間に合わない時もあった。この手が届いたのに、死なせてしまったこともある。救えない命も、多かった。
それでも。少しでも良くなれば良いと。少しでも、儂等のような子が増えることの無い世界になれば良いと。誰に理解されずとも、誰に寄り添われようとも、殺すことを止めなかった。
……分かってる。分かってるよ。分かってるんだ。これはあの日、お前達を守れなかった
そうでなければ、何で俺はあの時。
あの時、お前達に見送られたのか。
なぁ、加茂頼皆。もういい加減、良いだろう? こんな状況を目の当たりにして、法など守る必要が何処にある? 人殺しをしない理由など、いったい何処にある?
殺せ。あの男を。
殺せ。子供を傷付ける不届き者を。
殺せ。もう二度と、あの日を繰り返さない為に。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
『―――もう、良いよ。もう良いんだ』
ああ、そうだな。そうしよう。そうしなければ、もう駄目だ。
起きろ。夢など見ているな。
『―――ちゃん!』
誰かが、暗がりに向かおうとする俺を抱き留めた。……気がした。
……。…………。………………。
……、……あぁ。寝ていたんじゃな、儂。どのくらいこうしていた? あんな夢を見るのは、いつ以来か。今生では、一度も見ることが無かったのに。
真夏なのに、酷く体温が下がっている気がする。いつものように
さて、と。休憩は終わりじゃ。昨晩から歩き通しで、色々あって。そして今、周囲の話が長くてつい寝てしまった。
「ふわ、ぁ……っ」
欠伸をして、椅子から立ち上がる。座ったまま寝るのは、体が凝り固まって仕方ないの。伸びながら
何せ、これから儂はえりの警護をすることになる。そういう手筈にして貰った。平和の象徴の後継者などと言われたくないんじゃけど、この際だからその扱いに甘んじることにした。今は儂の扱いなど、どうでも良い。それよりも大事なのは、えりじゃ。あの子を少しでも安心させて上げたい。その為に、儂が何をするべきか。あの手の子に必要なのは、時間じゃ。長い時間と、変わることの無い……暖かな場所。それを用意しなければ。いや、用意するのでは遅い。儂が、あの子の居場所になれば良い。被身子にそうしたように、多くの子供達にそうしたように。
「おい頼皆。まだ情報共有の途中だ」
「要らん。だいたい分かったからもう良い」
病院が用意してくれた、会議室にて。儂と、その他の
一人残らず、殺す。情けはかけん。後悔する暇すら与えぬ。全員皆殺しにして、特にあの男は念入りに殺して。たったそれだけの事じゃ。それ以外の選択肢は、もう儂には無い。
―――殺す。殺してやる。絶対に、あの男をこの手で葬る。
この場で話を聞いていたって、それだけしか頭に浮かばん。何を言われようが、時間の無駄じゃ。他の連中の行動なぞ、知ったことか。
「だから、待て。せめてお前の知ってる治崎の情報を教えろ」
「て言うかよ、こんなガキまで参加させんのか? ええ、ナイトアイさんよ」
「……先の雄英体育祭。あの結果を見るに、彼女の戦力は我々プロ以上でしょう。十二分な戦力です。それに、見ておきたい。平和の象徴の後継ぎとまで噂される実力がどの程度なのか。
治崎相手に一人で立ち回り、取り逃がしたとは言え無傷でエリちゃんの保護を成功させた。彼女からの信頼もあるように思える。であれば……」
「だからこのガキを使うってか? んなもん、理由になるかよ。話もろくに聞いてねえ、協調性もねえ。こんな奴、居るだけ邪魔だろうが」
何じゃこやつ等。今回の事件をどう解決するかなんて、分かりきってることじゃろうに。治崎を殺せばそれで済む話なのに、儂の事で何を言い合っているのやら。馬鹿しかおらぬのか?
「……ロックロック、邪魔にはなりませんよ。頼皆のして来たことは……学生の範疇で済ませるには大き過ぎる。USJ襲撃事件での
「エリちゃんを一発保護したのは十分な働きだよ。けど、これ以上関わらせる必要がねえってんだ。実力が有ってもまだ子供だぞ? それに今そいつは、この件に関わらせちゃならねぇ顔してんだろうが」
喧しい。大人が雁首揃えてみっともない言い争いをするな。儂の擁護も否定も要らん。何を言われようが儂は勝手に動く。
どいつもこいつも、情けない。何を話し合う必要がある? 子供が傷つけられたんじゃぞ。六歳の子供が、酷い目に遭わされたんじゃ。ならば大人として、やるべき事を果たせ。悪党を殺すだけの話に、何をそんなに慎重になっているんじゃ。
くだらぬ。もう良い。貴様等など知らん。儂の邪魔さえしなければ、後は勝手にしていろ。
「頼皆。エリちゃんの為だ。治崎と相対したお前だからこそ分かることがある。それを教えてくれ」
「……。……手で触れた物を作り替える。その速度は、一瞬が二度程の時間。手足を潰しても直ぐに治せるだけの速度じゃ。この事から、物体や人体に対して個性が有効。厄介じゃが、頭を一撃で潰せば問題無い。
日時が決まり次第教えろ。以上」
情報は伝えた。後は儂の勝手じゃ。今は……あの男を殺す日時が決まるまで、えりの側に居よう。何をすれば心を開いてくれるじゃろうか? ただ甘やかすだけでは、難しいところじゃの。儂一人で出来ることは限られるが、それでも精一杯やろう。あの子が安心して泣けるように。安心して、笑えるように。
「……待て。エリちゃんの事で、これだけは言っておく」
部屋を出ようとすると、また声を掛けられた。どころか肩を掴まれた。目を覗き込まれる。鬱陶しい。が、聞かないわけにもいかん。
「……。……彼女の警護を、貴様に任せる。貴様は戦線の最後尾。治崎が死に物狂いでエリちゃんの奪還を考えた場合の、最後の砦と肝に命じてくれ」
「……相分かった。そうなれば、治崎は儂が殺すぞ」
肩に置かれた手を振り払い、儂は部屋を出る。近くを看護師が通ったから、案内して貰うことにする。病院内で既に儂が方向音痴じゃと広まっていることは解せぬが、案内があるのは有り難い。移動に時間を掛けずに済むからの。
◆
「えり。調子はどうじゃ?」
えりの居る病室に戻って来た。ここは、関係者以外は立ち入り禁止。当然えりへの面会は、謝絶となっている。まぁもっとも、この子を訪ねてくるような輩は儂や
「……まど、みな……さん?」
「円花じゃ。それは頼皆と混じっとるぞ」
言い得て妙ではあるんじゃけどな。儂は廻道円花で加茂頼皆じゃから。とは言え、一応訂正しておく。今後直らんようなら、それはそれで構わんのじゃけど。子供は変な呼び名を付けたがるものじゃし。えりがそうしたいなら、儂は別にそれで。
ただまぁ、後で文句の一つぐらいは言うが。えりが、大きくなった時に言わせて貰う。
取り敢えず、今は
「……まどか、さん……」
「うむ。円花じゃ」
「……おはなし、おわった……?」
「終わった。と言うか終わらせてきた。なにせ、殆どが儂に関係無い話じゃったからのぅ。がははは!」
何せ、どうでも良い話も多かったからの。大抵は右から左へ聞き流した。とは言え、覚えておくべき点は覚えてある。それだけ分かってれば、後でどうとでもなるじゃろう。ただひとつ不満があるとすれば、何で後方待機を命じられたのかよく分からぬ。本音を言えば、儂も最前線に生きたかった。あの男を今すぐにでも殺したいと言うのに。
っと、いかん。殺意は抑えておけ。子供を前に考えることじゃない。今は、この子が最優先じゃからの。後で被身子に知られたら大変そうじゃとは思うが、じゃからって考えを変えるつもりはない。
「さて、えり。良かったら儂と遊ばぬか? 蹴鞠でも小弓でも、
「……? ぅ、うん……。えっ、と……」
ううむ、いかん。少し気が流行ったか。幼子と遊ぶのは久しぶりで、つい前のめりになってしまう。まるで被身子じゃ。儂、いつの間にあやつの影響を受けたんじゃろう。あんな風になりたいとは思わぬのに、何故かあんな風に動いてしまった。お陰で、えりが困っているではないか。
……たわけ。被身子の事など、今は忘れろ。今はこの子だけじゃ。それ以外は考えない。子供は、色々と聡いものじゃからの。
……。……よし。
「すまんの。少し押し付けがましかった。遊びたくなったら言ってくれ」
「……ぅ、ん……。まどか、さん」
「ん、何じゃ?」
「……何でも、ない……」
「そうか。相分かった」
……この子は、自分の意思を伝えようとしない。黙り込んでしまう。大人に傷つけられてしまった子供は、大抵こうなってしまうものじゃ。自分が我慢すれば良いと思い込んで、塞ぎ込んで、物言わぬ人形のようになってしまう。いつか笑い方も泣き方も、怒り方すらも忘れてしまうことじゃってある。
この子を、そんな風にはさせたくない。これまで嫌な目に遭ってきたんじゃから、これからはどうか幸せになって欲しい。その為じゃったら、儂は幾らでもこの子に付き合おう。えりの側に居よう。
「……えり」
頭を、撫でてみる。怯えさせないように、出来る限り優しく、出来る限り柔らかに。傷付いたこの子が、少しでも安心出来るように。
言いたい事は、色々ある。話したくなったら話してくれ、とか。お主のしたいようにすれば良い、とか。しかしそれを今のえりに言うのは、むしろ逆効果じゃろう。そんな真似をしたら、焦らせてしまうかもしれん。それは良くないからの。飽くまで、えりが自分で前に進みたいと思うまで。それまでは、ただただ側に居るだけにしよう。
「……ぁ」
「……ん? どうした?」
「……ううん。何でも……ない」
「そうか。えりの髪は柔らかいのぅ。いつまでも撫でたいくらいじゃ」
「……そぅ、なの……?」
「うむ。凄く触り心地が良いんじゃ。白くて綺麗で、羨ましいぐらいじゃな。少し痛んでるのが勿体無いのぅ……」
まぁ儂も、死ぬ前は白かったんじゃけど。ただ、この子の白髪と、儂の
「……まどか、さんも。長くて、きれい……」
「そうかの? そう思ってくれるなら、伸ばしてる甲斐が有るってもんじゃ」
ここまで伸びると、手入れが大変じゃけどな。洗うのも一苦労じゃ。夏は暑いから短くしたいんじゃけども、それは許されぬしのぅ。結ぶしか無いか。とは言えそれは難しいのが現実なんじゃけども。
何を隠そう、儂は自分の髪を結えない。いや、正確には結えなくなったと言うか、……何と言うか……。
「……」
っと、いかん。撫で過ぎたようじゃ。えりが何か言いたそうな顔をして、儂を見ている。鬱陶しく思われる前に、手を離すとしよう。
「ぁ」
手を離すと、えりが小さく声を上げた。それから儂の手を見て、直ぐに目を伏せる。
……もしや、そう言うことじゃろうか? それならば仕方ないのぅ。もう少し、撫でるとしよう。えりが満足するまで、幾らでも。
「えり」
もう一度、撫でてみる。えりは顔を伏せたまま何も言わぬけど、嫌がってるようには見えない。じゃけど、赤い毛布……ではなく、るみりおんの
ううむ、儂も外套を羽織るべきかのぅ。こうも子供が気に入るのなら、備えておくのも良いかもしれん。……何か、負けた気分じゃの。儂の方が子供の扱いは手慣れていると言うのに。あやつめ、許さん。今に見ておれ。
なんて、頭の片隅で少し思いながら。儂はとにかく、えりの頭や髪を撫で続けた。しばらくして、緑谷達がこの病室に顔を出す、その時まで。
あ、次回はくっそ短いです。なので進捗によっては二話投稿しようかなって思います。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ