待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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いんたあん。消えない殺意

 

 

 

 

 

 今の儂は、被身子には会えない。だから会わない。事が済むまで、……えりに危険が及ばなくなるその時まで、あの男を殺すまで、被身子に会うことは出来ない。それが、昨日の儂の決意。で、今日の夕方。儂の決意はあっさり無かったことにされてしまった。

 

「円花ちゃん! お弁当持ってきました!!」

 

 おい、ここは病院じゃぞ。しかも、えりが匿われている病室じゃ。一部の関係者しか知らない手筈になっている場所に、何で被身子が来てるんじゃ。さては誰か教えたな? 相澤か? 緑谷か? それとも、るみりおん? 或いはその師の……さあ・ないとあい? いったい誰じゃ、こやつに儂の居場所を教えたのは。今なら殴るだけで許してやるから、大人しく名乗り出ろ。

 まったく、何でこうなるんじゃ。儂の決意を返せ。昨晩、儂は断腸の思いで被身子にめっせえじを送ったんじゃぞ。しばらく帰らぬことを記載して、携帯電話(すまほ)は電源を切って緑谷に預かって貰った。表向き、治崎を捕らえるまでは集中したいから持っていてくれと嘘を吐いてまで。

 

 なのに、何で被身子がここに居るんじゃ。しかも何やら大きな荷物を持って。

 

 昨日、えりを保護した後。死穢八斎會とか言う極道者達が、えりに危害を加えていたことが判明した。元々ないとあい……とか言う英雄(ひいろお)が極道者達を色々嗅ぎ回ったり監視していたりしたそうじゃ。いずれ治崎を取っ捕まえる為に入念に画策していたようなんじゃけど、儂等がえりを保護してしまったことで話が変わってしまったらしい。

 えりが虐待されていた(・・・・・・・)と言う事実。とある街での乱闘事件の際に切島が弾いた弾丸から、えりの血や髪なんかが検出された。つまりあの男は、子供の血肉を弾丸にして売り捌いていたと。なんでもその弾丸は、個性を壊す毒物らしい。えりの持つ個性を、何かの武器にしていた。その武器で、何をしようとしていたかはまだ分からない。分からないが、こちらには証拠が揃っている。なるべく迅速に準備を整え、近く治崎やその配下を捕らえに動くそうじゃ。

 その際、かなりの抵抗がされるであろうと予測され……英雄(ひいろお)に同行して貰うとも言っていた。当然、儂も行く。誰よりも早く治崎を見付けて、この手で殺す。情けはかけん。一撃で脳を潰してくれる。後悔させずに殺すのは惜しい気もするが、今となっては後悔する時間を与えることの方が惜しい。あの時、苅祓ではなく穿血で頭を貫くべきじゃった。そうしたら今頃、あやつは死んでいたのに。

 

「……何しとるんじゃ貴様。しばらく会えないと伝えたじゃろ。帰れ」

「だからこそ、ですよぉ。だから来たんです。あ、その子がエリちゃんですね? はじめまして、トガです。渡我被身子。良かったら、私とも仲良くして欲しいのです!」

「ぇ、……え……?」

「お見舞いという事で、果物とか持ってきたんですけど食べます? 林檎とか蜜柑とか、とにかくいっぱいありますよ!」

「……えっ、と……」

「あ、もしかして林檎ですか? じゃあ兎さんにしましょうっ。用意するんで、待っててくださいねぇ」

「ぇ、あ……、……え?」

 

 おい。そんなに捲し立てるな。然り気無く荷物を寝具(べっど)の脇に置くな。えりは内向的な子じゃ。そんな風にぐいぐい来られたら困惑してしまうし、何より怖がるじゃろ。体も心も傷付いた子供なんじゃぞ。儂がこうして病室に常駐することが許されているのは、大人よりも儂の方が警護に適任じゃと判断された部分が大きい。まぁ警護が勤まるのかと疑われもしたが、結局は許された。ないとあい、とか言う奴が根回しでもしたんじゃろ。知らんけど。

 

 今はえりの警護。そして治崎を殺すことだけを考える。

 

 じゃから、被身子。帰ってくれ。今はお主の隣に居られない。居て欲しくもない。

 

「はい、兎さんです兎さん! カァイイねぇ、一緒に食べようねぇ」

「……うさぎさん……」

「おい、被身子。いい加げ「エリちゃん。円花ちゃんが迷惑かけてませんか? 円花ちゃんって結構なポンコツなので、逆にエリちゃんを困らせてるんじゃないかなーって思うんですけど」

 

 言葉を遮られた。おい、被身子。貴様いったい何のつもりじゃ。儂は会えないと、会いたくないと伝えたのに。なのにどうしてここに。何でさっきから儂と目を合わせないで、えりばかり見ているんじゃ。何を考えてる? 事と次第によっては幾ら貴様でも……。

 

「……ううん。まどか……さんは、優しいから。昨日、わたしが寝るまで……頭、撫でてくれて。手、……ちょっと冷たいけど、デクさんみたいに凄く優しくて……」

「そうなんですか? ちょっと羨ましいのです。私もいっぱい撫でて欲しいのに」

「……ごめん、なさい」

 

 おい、被身子。貴様そこまでにしておけ。今、変にえりを追い詰めようとするな。そんな真似をするぐらいなら帰ってくれ。

 

「謝るのは円花ちゃんですから。エリちゃんはなーんにも気にしなくて良いのです!」

「……違うの。わたしが……だから……」

「……エリちゃんは、本当に何も悪くないのです。きっと円花ちゃんも、周りの人もそう言いましたよね? 色々聞いたトガも、そう思うのです」

「……」

「大丈夫。エリちゃんは何にも悪くないの。みんなが守ってくれるから、安心して。それに円花ちゃんは、ヒーローの中で一番強いのっ。誰にも負けない私のヒーローなのです!

 だから、安心して良いの。絶対みんなが、円花ちゃんが守ってくれるから」

 

 ……。こやつ、誰からどこまで聞いてるんじゃ。笑顔を振り撒いて、えりの頭を優しく撫でて。何なら、抱き締めようとしてるぐらいじゃ。心の底から心配してるのが分かる。えりを、支えようとしている。

 被身子が居てくれたら、心強いとは思う。居て欲しい。でも、それは駄目なんじゃ。

 

「はい、あーん。林檎、美味しいですよ?」

「……ぁ、あー……ん」

「ん、ふふ。エリちゃんカァイイです」

「……もぐ……」

 

 兎の形に切られた林檎をえりに食べさせながら、被身子は微笑む。そしてえりも、少しだけ頬を緩ませた。林檎が甘いのか、それとも被身子を少しでも信用してくれたのか。それは、別にどちらでも良い。僅かでも、気を抜いてくれたんじゃから。

 

 ……えりは、まだ気を抜かない。いや、抜けないのかもしれん。どこかで、助かることを諦めてしまっている節がある。逃げ出してきたのに、もう助かったのに、それでもこの子は泣かないんじゃ。人前では決して、涙を見せようとしない。昨晩じゃって、えりは枕に顔を埋めて震えていた。何かを怖がって、声を押し殺していた。じゃから、せめて眠るまで……儂は頭を撫で続けた。えりが寝静まるまで。寝静まった後でも。ずっと、ずっとじゃ。

 

「ね、エリちゃん。私、ちょっと円花ちゃんとお話したいことがあるの。少しだけ、借りて良いですか? もちろんその間は、緑谷くん……デクくんが居てくれるから」

「……うん」

「ふふっ。ありがとう。林檎、食べたかったら全部食べちゃって良いから。今度また、兎さんにしてあげるね」

「……う、ん……」

「じゃあ、円花ちゃん。ちょっと良いですか?」

 

 ……。良いじゃろう、儂も話がある。今回ばかりは、好き勝手にさせるわけにはいかんのじゃ。今回は、どうしても諦めて貰う。たまには儂の言うことを聞け、被身子の阿呆。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 被身子が先に病室を出た。ので、今は黙って付いて行く。先を歩くこやつはいったい何を考えているのか、手に果物ないふを持ったままじゃ。ちゃんと鞘に入れてあるようじゃけど、それでも刃物は刃物じゃ。途中、誰かとすれ違ったらどうするんじゃ貴様。

 なんて思いながら被身子の後ろを歩いていると、こやつは非常階段へと向かいどんどん上へと上がっていく。人目はもう無い。何処まで向かう気じゃこやつは。

 

 階段を上ること、数分。先を歩く被身子がようやく足を止めた。そして振り返って、意を決した顔で果物ないふを抜いた。色々と、物騒じゃ。

 

「……円花ちゃん。お話があるのです」

「何じゃ?」

「……何かとんでもない事、しようとしてますよね?」

「……」

 

 見透かされている。が、別に驚くようなことではない。基本的にこやつに隠し事は出来ないからの。するつもりも、基本的には無いしの。何より被身子とは付き合いが長い。儂の腹の内なんて、分かって当然じゃろう。

 

「否定しないってことは、そういう事ですよね」

「止めるな。儂は殺すぞ、あの男を殺す」

「円花ちゃんが、本気の本気で怒ってるのは分かってます。だって、私の為に怒った時と同じなのです。……あの時と同じ、怖い顔してる。

 だからこの後、もっと酷いことになっちゃうのを私は知ってるの」

 

 ……。そんなつもりは無い。腹に渦巻く殺意は、少なくとも表情に出さぬようにしているしの。つい手で顔を触ってしまったが、……うむ。別に怖い顔などしたつもりはない。ただ、笑顔以外の表情を出さぬように気を付けているだけじゃ。

 それを怖い顔などと。まったく、何を言っとるんじゃ貴様は。相変わらず訳が分からない。そういうところじゃぞ? そういうところなんじゃからな?

 

「……みんなに、お願いされたんです。円花ちゃんの様子がおかしいからどうにかして欲しいって。梅雨ちゃんにお茶子ちゃん、切島くんに緑谷くん。相澤先生は、こっそり色々教えてくれました。死穢八斎會とか、エリちゃんの事とか」

 

 どいつもこいつも、余計な事を。勝手な真似をするな。だいたい、箝口令が敷かれてるんじゃないのか? 

 極道者が何をしでかしたか。儂はそれしか覚えていないが、箝口令ぐらいは敷かれてる筈じゃ。今回の事件解決を考えたら、外部に漏らせない情報が多過ぎるんじゃ。

 

「みんな、きっと私なら円花ちゃんを止めれるって頼ってくれたんだと思います。それに私も、今の円花ちゃんは放っておけないので」

「……」

 

 あぁ、そう言うじゃろうな。放っておけるものか。逆の立場なら、儂じゃって被身子を放っておけない。それこそ、無理矢理にでも側に居ようとするじゃろう。じゃけど、こやつにそれは出来ない。儂がその気になってしまった時点で、この話は終わりになる。こやつが何をしたって、結局儂を止めることは無理じゃ。最後はお互い、実力行使になるからの。

 

 そして、黙ってこやつの言うことを聞くつもりはない。こやつに何と言われようが、どう思われようが構わん。あの男を殺すと、もう決めた。法など知らん。被身子や両親に迷惑をかけてしまうが、それでも。それでも、儂は……。

 

「でもきっと、何を言ったって円花ちゃんは殺しちゃうと思うのです。だから、狡いんですけど……まずはこうしたら良いかなって」

 

 薄ら笑いを顔に張り付けて、被身子は果物ないふを自らの首に添えた。おい、貴様何を考えている? 幾らなんでも、そんな馬鹿な真似はするな。それは、駄目じゃろう。

 

「……円花ちゃんが人殺しをするなら、先に私が自殺します。それでも人殺しをするんですか?」

「……」

 

 ……。話にならん。きっと被身子は、自らの命とあの男の命を天秤に掛けたいんじゃろう。そうすれば儂が止まってくれると。人殺しをしないと。それは安易な考えじゃ。大抵の奴ならば、考えを改めるじゃろう。じゃけど生憎、そこに儂は当て嵌まらない。

 そんなもの、少し血を飛ばして果物ないふを弾いて終わりじゃ。この距離なら、何の問題もない。被身子が反応出来ぬ程の速度で血を飛ばす。たったそれだけで、この状況は覆る。

 

「円花ちゃんの事、縛りたくはないの。

 ……でも。円花ちゃんが人を殺しちゃったら、円花ちゃんが刑務所にお勤めすることになって、そしたら結婚が遅れちゃうじゃないですか。トガの婚期を遅らせないでくださいっ!」

「……」

 

 貴様、どちらかと言えばそっちが本音じゃろ。それは分かるんじゃぞ。どうしてこうも、こやつは仕方ない奴なのか。それを嫌じゃとは思わんが、たまには振り回される儂の身になってくれ。

 それに、今回ばかりは振り回されるわけにはいかん。何を言われようが、儂は絶対に治崎を殺す。膨れ上がる憎しみを、わざわざ止めたくないんじゃ。

 

 じゃから、すまん。どうあっても、思いどおりにはさせぬよ。

 

「っ!?」

 

 血を飛ばし、果物ないふを弾き飛ばす。それから、刃に付着した血を操って儂の手元に引き寄せる。

 

「帰ってくれ。今は、会いたくない」

「……どうして、ですか?」

「……」

 

 どうしてって。じゃって、貴様が居たら……。被身子と顔を会わせていたら……。

 

 殺意が、薄れそうになる。儂はこやつが大切じゃから。大好きじゃから、何を置いても優先したくなってしまう。いつからか、それ程までに愛してしまった。じゃけど今は、それが邪魔じゃ。

 

 あぁ、分かってる。分かってるんじゃ。あの時、夢の終わり際に、儂を抱き留めたのは被身子じゃ。裏切りたくない。傷付けたくない。じゃけど、じゃけど……っ。

 

「円花ちゃんの馬鹿。どうしても、人を殺すって言うのなら……せめて私を共犯者にして欲しいのです」

「は?」

 

 は?

 

「どうせ、今の円花ちゃんは止められないのです。それも分かってました。まぁ止める気も無いんですけど。

 ……だから。私も人殺しになるの。円花ちゃんと一緒に、(ヴィラン)になっちゃいます」

 

 またこやつは……訳の分からん事を宣いおって。貴様、自分が何を言っているのか理解してるのか? その調子じゃ、ろくにしとらんじゃろ。

 

「一緒に、悪い人になっちゃいましょう。大丈夫ですよぉ。二人なら何だって、どうにでも出来ますから! 愛の逃避行をするのです!

 えへへ、ちょっと楽しそう……!」

「……戯言をほざくのも、いい加減にしろ。もう帰れ。頼むから、儂の邪魔を」

「いい加減にするのは、円花ちゃんの方です」

「……」

 

 薄ら笑いすら、被身子の顔から消え失せた。猫のような瞳が、薄い暗がりの中で儂を睨む。

 

 ……被身子が、怒っている。本気で、儂を。腹の底から、激怒している。

 

 こんな姿を見たのは、いつ以来じゃったか。いつもなら、怒る事はなく拗ねてばかりなのに。

 

「何で帰れって言うの? 何でさっきから、私を見ようとしないの? そんなの嫌。私から目を離さないで。私から、離れようとしないで。ちゃんと、私を見てくれなきゃヤなの」

「……見とるじゃろうが。何を言って」

「見てない。全然見てない! 私、そんなに邪魔ですか……?」

「ああ、そうじゃ」

 

 儂は、あの男を殺す。でなければ気が収まらん。この胸の内にある衝動を無視することは、えりを見捨てることと同義じゃ。そんな真似はしない。一度助けたのなら、絶対に見放さない。ずっとずっとそうして来た。これからもそうしていく。相手が被身子でも、ここだけは譲れない。

 

 加茂頼皆は、そういう生き方しか出来ないんじゃから。

 

 じゃから。邪魔をしないでくれ。後で幾らでも怒って良い。儂を嫌っても良い。でも今だけは、今だけは……。

 

「だったら……。だったら! 私は意地でも円花ちゃん側を離れません。それとエリちゃんのお世話は、私がするから。どうせ円花ちゃんには出来ないし、警護でも人殺しでも好きにしたら良いじゃないですかっ!」

「あ゛?」

「もう知らないです、円花ちゃんなんか。

 ……馬鹿!」

 

 貴様……。おい、貴様こそいい加減にしろよ。そんな態度を取られたら、流石に相手が被身子でも怒るぞ。良いじゃろう、そこまで言うなら喧嘩じゃ喧嘩っ。後で泣き付いて来たって、儂は許さんからな!

 

 被身子のたわけっっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 







という訳で喧嘩が始まります。今回ばっかりは円花の譲れない部分のお話なので、死穢八斎會編が終わるまでもうイチャイチャはお預けかもしれません。

円花の主張「治崎は殺す。邪魔するな(被身子好き!)」
トガちゃんの主張「結婚遅れるのは嫌です。せめて共犯者にしてください!(愛の逃避行もありですね……!)」

いや、さてはこれイチャついてるな???

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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