待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
被身子と喧嘩した。したと言うより、してる最中じゃ。お互い自分の主張を曲げる気は無いものじゃから、この喧嘩は長く続くのじゃろう。少なくとも、今回の
それに、人殺しをするのは儂だけで良いんじゃ。共犯者になるとか、訳の分からない事を宣いおって。儂がそんな真似をさせると思ったか? まったく、ふざけおって。謝っても許してやらんからな。儂は貴様が人殺しの片棒を担ぐことを、望んでなんかいないんじゃ。
そもそもじゃな。そんな訳の分からん事を言わずに、まず人殺しを否定したらどうなんじゃ貴様。何で否定せず、むしろ肯定的な物言いをするんじゃか。分からん、まっこと分からん。これだから被身子は……!
「ぇ、えっ……と。渡我先輩、いったい何が……??」
儂は今、緑谷と被身子と共に病院が用意してくれた仮眠室に居る。えりの警護は、一時的にるみりおんが引き継いでいるから大丈夫じゃろう。あまり信用はしていないが、休まずに居ると周りがうるさい。それに、えりに心配されてしまうからの。
繰り返すが、被身子とは喧嘩中じゃ。意見が衝突して、和解の道は無いじゃろう。それでもこやつは儂と行動を共にしようとする。まぁ、顔を会わせなければ会話もしないんじゃけど。今回ばかりは、一歩も譲らん。ふんっ、被身子の阿呆。たわけ。分からず屋! 嫌いじゃ。今は嫌いじゃ!
「今、喧嘩中なので。家庭内別居なのです」
「け、喧嘩……!? えっ、それってもしかして……僕達の……?」
「いえ、円花ちゃんが分からず屋の頑固者だから喧嘩になったのです。ほんとに酷いんですよ? 面と向かって、トガに帰れとか言うんです」
「……んんっ。ええっ、と……」
は? 儂のせいにする気か貴様。喧嘩になったのは被身子のせいじゃろうが。分からず屋の頑固者は、いったいどっちじゃ。胸に手を当てて、よぅく考えてみろ。と言うか、いつまで病院に居るつもりじゃ。いい加減に帰れ。
「その、喧嘩……してるんですよね……?」
「はい、絶賛大喧嘩中なのです。冷戦状態です。いずれ離婚も視野に入るかもしれません。そうなったら法廷で争います。離婚調停はとことん長引かせるので、緑谷くんも協力してくださいね」
そもそも結婚しとらんじゃろ。何言っとるんじゃこやつ。離婚調停自体が発生しないんじゃけど? あとなぁ緑谷。儂等を睨め回すな。何を不思議がってるんじゃ貴様は。
「喧嘩中なのに、その……。そんなに近くに……?」
「喧嘩はしてますけど、それで愛が無くなるわけではないので。それに昨晩は帰ってこなかったんですよ? だから、円花ちゃん成分を補給してるのです!」
「……そ、そうなんですね……。何か、凄いなぁ……」
別に、喧嘩してるからって距離が離れるわけでも無いじゃろ。こやつは儂にせくはらしたがる悪癖があるし、血は後で吸わせてやるつもりじゃ。昨晩は儂が帰らなかったからの。もっとも、それ以上の事はさせぬが。
「緑谷くんこそ、お茶子ちゃんとはどうなんですか? 触れたいなぁとか、思わないんですか?」
「え゛っ!? な、何を言ってるんだ!?」
「何って、恋バナですよぉ。ぶっちゃけお茶子ちゃんの事、どう思ってます?」
おい。何を言っとるんじゃ貴様。恋ばな? があるずとおくに緑谷を巻き込むな。そもそも緑谷は男子じゃろ。儂が貴様と一切話そうとしないからって、緑谷に変なちょっかいを掛けるのは止さぬか。せめて大人しくしたらどうなんじゃ。そんな態度じゃいつまでも儂は許さんからな。
「ど、どどどうって!? そりゃ素敵な人だなって思うけどそれは飽くまで友人としてと言うか、そもそも今はそんな話をしてる場合じゃ……!!」
「こんな時だからこそ、するんですよぉ。エリちゃんの事で、みんなピリピリし過ぎなのです。そういうの、良くないですよ?
あの子って人の顔色を窺うタイプですから、余計不安がらせちゃうと思うんですけど……」
「……ぁ、そうか。エリちゃんの事を考えて僕の気を緩ませようと……。そうか、そうだよな、僕が変に固くなってたらエリちゃんを不安がらせちゃうよな。そんな事にも気付かないなんて……! 流石渡我先輩だ。普通科でも、色々分かってて……! いや僕が露骨だったのか? これは気を付けないと……!!」
いや、そんな腹積もりはこやつに無いぞ。今回のは、単に緑谷と恋ばなをしたいだけじゃ。それとな、こやつの発言を都合良く解釈するのは止めておけ。どうせろくな事にならん。そもそも、儂ですら分からん女じゃぞこやつは。
「そういうつもりじゃ無いんですけどねぇ……。ダブルデートは遠そうなのです。せめて文化祭には間に合わせたいんですけど……ううん……」
聞こえてるぞ阿呆。緑谷はぶつぶつと考え込んでいるから聞こえて無いようじゃけどな。と言うか貴様、そろそろ静かにしろ。るみりおんとえりの警護を交代するまでに、少しでも寝ておきたい。じゃからいい加減に離れろ。鬱陶しい。さっきから儂を抱き締めたまま緑谷と話しおって。目の前で浮気とは、良い度胸じゃな貴様。離婚調停など、秒で終わらせてくれる。ふんっ!
もう良い、ふて寝じゃふて寝。被身子など知らん!
◆
「るみりおん。えりは?」
交代時間になった。じゃから、仮眠室からえりが居る病室に戻ると……丁度るみりおんが病室の扉をすり抜けて出て来たところじゃった。便利そうじゃの、こやつの個性。使いようがある。こやつの背中越しから穿血を撃ったら、楽に当てられるのではないか?
いや、治崎は儂一人で殺す。誰の力も借りん。
「……もう寝たよ。だから起こさないように」
「起こさぬよ。朝までは儂が引き受ける。貴様と緑谷は寝ておけ」
「後は任せるよ。ところで、彼女は?」
「ほっとけ。意地でも儂から離れんそうじゃ」
被身子が付いて来ているが、放っておくことにする。えりを起こしてしまう、なんて事は無いじゃろう。そんな真似をしたら、その時は病室から叩き出すが。
あと、こやつが何をしようが知ったことではない。勝手にしたら良い。口も利いてやらん。
静かに扉を開く。病室の中は暗い。が、中の間取りはしっかり覚えている。足音も立てぬようにして、えりが眠る
えりは、寝ている。丸まって、静かに寝息を立てている。この調子じゃと、朝までは起きぬじゃろう。それまでは儂が警護を続ける。朝になったら一旦緑谷とるみりおんに任せて、儂は少し休むとする。休憩など必要ないんじゃけど、休まねばうるさいからの。何よりえりに心配されてしまう。被身子が心配する? 知らん知らん。勝手にしろ。
「……」
「……」
「……」
「……」
朝まで長いとは言っても、会話を交わすことはない。そもそも会話したくない。ただ、ひとつだけやっておく。こればっかりは許してやっても良い。いつも通りに、とは行かぬがの。そもそも寝ている子供の前ですることではない。
直ぐ真後ろにいる被身子に、指を差し出す。が、噛み付いてこない。むしろ、首筋に顔を埋める。から、少し無理矢理……被身子の口に右手の人差し指を入れる。すると、今日は首に噛み付けないと観念したのじゃろう。血が出る程、強く指を噛んで来た。痛みが走る。
「……ん……♡」
……調子の良い奴め。喧嘩中じゃと言うのに、喜びおって。今は仕方なく血を与えてるんじゃぞ。貴様が我慢出来るとは思えないから、仕方なくじゃ。それ以外は何もしてやらん。
今は、被身子よりもえりじゃ。起こすわけにはいかんからの。静かに椅子に座っておこう。今ならば、治崎をどう殺すか考えていても良いじゃろう。なるべく、殺意が表面に出ないように気を付けてはおくが。
昨晩、儂の血を吸えなかったからか。今日は少し吸い上げが激しい。溢したり音を立てたりするようならその時点でお預けじゃ。血の臭いを病室に残すわけにはいかんからの。
えりは、静かに寝たままじゃ。当面起きることは無いじゃろう。少しでも寝心地が良くなれば良いと思って左手で頭を撫でてやると、小指を掴まれた。起こしてしまったか? ……いや、寝ているの。起きている時は人に甘やかされることはあっても、甘えることは無い。じゃけど今は寝ているから、無意識で甘えることが出来るのじゃろう。可愛らしいものじゃ。同時に、痛ましくもあるんじゃけど。
「……
どこが浮気じゃ。ふざけた事を言うな。後にも先にも、貴様以外の誰かを愛するつもりはない。結婚したいと思うのは貴様だけじゃと言うのに。分からん奴め。そうやって、直ぐに誰彼構わず嫉妬するな。いい加減にしろ。
そもそも。今の儂は被身子を優先したいとは思わん。貴様など後回しじゃ。今は仲直りなどしてやらんからな。ふんっ。
おい。首に顔を埋めるな。舌で舐めるな。鼻を当てて息を吸い込むな。血なら今吸ったじゃろ。これ以上は駄目じゃからな。駄目ったら駄目じゃ。
「……むすっ。何も言わないなら噛んじゃいますよ?」
駄目じゃ。椅子から立ち上がり、被身子から離れる。この阿呆には一瞥もくれず、
「……馬鹿。今の円花ちゃんは嫌いです」
そう言って、傷付いた顔をした被身子は静かに病室を出て行く。わざわざ追い掛ける気は、しなかった。
喧嘩中ですのでトガちゃんに塩対応してますが、インターン編が終われば溺愛期に入りますので安心してください。今の円花は本当によろしくないですね……。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ