待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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いんたあん。円花の秘密

 

 

 

 

 

 

「貴様、どういうつもりじゃ」

 

 人が居なくなった会議室。看護師によって寝具(べっど)が置かれた後。儂は椅子に腰掛けた被身子を思いっきり睨み付けながら、仕方なく口を開いた。幾ら英雄(ひいろお)に頼られたとは言え、この阿呆はえりに変身して囮になると言い出した。何でも、ないとあいの予知によると儂は死んでえりは連れ去られてしまうらしい。そうならぬように出来る限りの手を打った結果がこれじゃ。はっきり言って、信用出来ない。儂は死なんし、えりは連れ去られたりしない。そんな真似、儂がさせる筈なかろう?

 そもそも。あの男は、治崎はこの手で確実に殺す。次に会えば問答無用で殺す。えりを拐うような暇も、儂を殺すような暇も与えぬ。殺すったら殺す。絶対に殺してくれる。

 

 もう二度と、えりが傷付かなくて良いように。えりが怖い思いをしなくて良いように。

 

 例え、被身子を裏切ってしまうことになってもじゃ。

 

「どういうって……。だから、共犯者になろうかなって。円花ちゃんと一緒に(ヴィラン)になって、それから結婚するのです」

「訳の分からん事を言うな。危険なんじゃぞ」

 

 ふざけおって。それは、笑顔で言うことじゃない。真剣な顔をすれば良いってものでもない。貴様に危害が加わるような状況を、儂が許すと思うのか? 例え喧嘩していようが、儂は貴様を守る。そこは譲らん。貴様がどんなに儂を嫌ったって、勝手に守り通して見せる。

 

 じゃって、貴様が愛しいから。理由なんてそれだけで良い。

 

「危険なのは分かってますよぉ。でも、怖くなんか無いです。だって、円花ちゃんが守ってくれますから」

「……」

「トガも一緒に、人殺しになります。その後、二人で逃げましょう。いつまでも逃げ切れないでしょうけど、それでも行けるとこまで一緒に行くのです。

 あ、最期は心中なんかも良いですね。二人で、天国でも地獄でも行きましょう?」

「おい」

 

 じゃから、訳の分からない事を宣うな。貴様と心中するつもりはない。そんな真似はさせぬ。そんな終わり方は、好ましくない。好ましくないが……儂はどうしても治崎を殺したい。あやつは殺さなければ駄目じゃ。あんなのが生きているから、えりのような子が増えてしまう。

 どうしていつの時代も、力を持った大人は子供を蔑ろにするのか。まっこと、嫌なことを思い出す。この超常時代は、下手すれば平安の世よりも……。

 

「だって、円花ちゃんが人殺しをするなら絶対にそうなっちゃうのです。するんですよね? 人殺しを」

「……しない訳にはいかんじゃろ」

「それなら、……ひとつ聞いても良いですか?」

「何じゃ?」

「どうしてそんなに、治崎って人を殺したいんですか?」

 

 ……。どうしてって、それを話すには長くなる。それに儂は、元々話す気が無い。前世の事は、墓場まで持っていくつもりじゃ。誰が信じるんじゃ、前世の記憶があるなど。幾ら超常時代じゃとしても、流石に荒唐無稽じゃと思う。ついでに言うと、話さなくても支障は無い。今じゃって、話す必要は無いじゃろう。

 

 殺したいから、殺す。獣畜生のような考え方ではあるが、それが一番手っ取り早いんじゃ。何より、この憎しみは殺さなければ晴れることが無い。殺してやる。殺してやるぞ治崎ぃ……!

 

「……儂が何をもっとも嫌うのか。知っとるじゃろ?」

「知ってます。子供を大切にしない親とか、大人とか。あとは子供が傷付く事とかも、大っ嫌いなのです」

「そうじゃ。じゃからあの男は殺す。絶対に殺す」

「どうして、そう思うんですか?」

「憎いからじゃ」

 

 それこそ、どうしようもなく、じゃ。殺したくて殺したくて、仕方がない。後先など知らん。殺してから、考えれば良いんじゃ。今は、あの男を殺すことだけを考えていたい。どうやって殺すか、如何にして殺すか、ただそれだけを考えていたいんじゃ。

 

 ……なのに。こやつが邪魔してくる。人殺しになるのは儂だけで良いのに、共犯者になると言い続ける。

 貴様は、どうしてそこまで……。

 

「でも、私の両親は殺さなかったじゃないですか。保須にI・アイランド、神野の時だって、円花ちゃんは誰も殺さなかったのです」

「今回はそうじゃないってだけの話じゃ。もう良いじゃろ、そんな事より今は貴様の……」

「円花ちゃんの事を、そんな事で済ませないで。私にとっては何より大事なの」

「……儂からすれば、そんな事、じゃ。貴様、いい加減にしろ。儂が帰れと言ったなら帰れ。こんな事に、巻き込みたくないんじゃよ」

「ヤ! 絶対帰りませんからっ。エリちゃんに変身して、円花ちゃんの側に居ます。そうすれば、何処に居るよりも安全ですし!」

「……この、いい加減に……!」

 

 駄目じゃ。もう駄目じゃ。結局何を言い聞かせたって、こやつは絶対に儂の言うことを聞かない。じゃからもう、力尽くで追い出すしかない。とにかく今は病院から追い出して、明日決行される英雄(ひいろお)の作戦から何がなんでもこやつを外す。そして、儂はえりを守る。

 事が全て片付いたら、その時は全て謝る。許して貰えないかもしれない。じゃけど、謝る。その後で、儂はもう……こやつから離れよう。殺人犯が側に居たら、被身子に何が起こるか分からん。

 誰かに心無い言葉を浴びせられるかもしれん。もっと直接的に、何かの被害に遭ってしまうのかも。そう考えたら、儂はこやつから去らねば。一生恨まれたって、構わないから。

 

「いい加減にするのは円花ちゃんの方です! 何でそんなに、私を見てくれないんですか! 何で話してくれないの!?

 いったい何がそんなに円花ちゃんを追い詰めてるのか、教えてくれたって良いじゃないですか!!」

「……っっ」

 

 儂が、追い詰められている?

 おい、いい加減な事を言うな。当てずっぽうに話したって、何にもならん。儂は追い詰められてなどおらん。いつものように殺したい奴を殺すだけじゃ。そうして、昔のように生きて行く。こやつと共に生きることは叶わなくなってしまうが、それでも……。

 

「人殺しが本当にしたい事なら、せめて笑って言って! そんな顔で言われたって、私は納得出来ないの!」

「……」

「何で人殺しをしようとするんですか? 何でそんなに怒って、追い詰められてるの? ねぇ、円花ちゃん……!」

「……」

 

 ……じゃから。貴様は何を言ってるんじゃ。追い詰められてなど居ない。今生ではずっと避け続けて来た事を、とうとうやってしまうだけじゃ。最初から、我慢出来るとは思っていなかった。それでも何とか、人を殺さぬように努めてきた。誰かに迷惑を掛けなくなかったから。何より、貴様を困らせたくなくて。

 

 じゃから。じゃから。

 

 

 頼むから、もう帰ってくれ。

 

 

 

「……お願いだから、私には話してくださいよぉ……。他の誰に頼らなくても、いつもみたいに私を頼ってください……。

 私じゃ、駄目なんですか……?」

 

 

 ……。……、………………はぁ。

 

 

 ああ、もう。そんな顔をするな。喧嘩中とは言え、申し訳ない気分になるじゃろ。貴様が笑っていないと、どうにも調子が狂う。儂の為に笑えと言ったのに。

 

「……何で治崎を殺したいか、じゃったか? 話してやるが、どうせ信じられんぞ」

「信じます」

「おい」

「円花ちゃんの言葉を、どうして私が信じられないと思うんですか? それは心外です。トガはとっくに円花ちゃんのものなのに……!」

「それでも、信じられるとは思えんがの。儂自身、どうしてこうなったのか分からんぐらいじゃしのぅ……」

 

 そう。どうしてこうなったのかは、まるで分からない。それは永久に分からぬままなのじゃろう。

 でも、それでも良いんじゃ。儂は加茂頼皆じゃけど、廻道円花としての人生を歩んでいるつもりじゃ。過去を捨てることは、どうしても出来ないんじゃけども。

 

 ……真っ直ぐ被身子の目を見ると、見詰め返された。随分久しぶりに、顔を見たような気がする。

 あぁ、そうか。えりと出会ってあんな夢を見て、儂はどうにも視野が狭まっていたらしい。少し落ち着けば視野を広げることも出来たじゃろうに。我ながら情けない。

 

 もっとも、治崎は殺すがの。それだけは変えられない。変えてなるものか。

 

 

「……まず、初めにひとつ言っておく。信じられぬとは思うが、儂な……」

「はい」

「性自認が、男なんじゃけど」

「……それは、……はい。ぶっちゃけ、もしかしたらって思ってました。着物とか、男性物の方が好きですもんね。それに昔、自分は男の子だって言ってましたし」

 

 気付いてたのか。いやまぁ、これは別に隠しても居なかったからの。わざわざ口にしなかっただけで。しかしどうやら、口から漏れていたらしいの。そう言えば、何度か自分が男かのように話した気がするの。その度に、儂は女じゃと被身子に言われたりしたんじゃけども。

 

「まぁ肉体は女じゃと理解してるし、受け入れても居る。それでもやはり、儂は自分を男じゃと思っとる」

「はい。でもそれじゃ、人殺しの理由にはならないのです」

「……今からする話はの、儂の性自認が男の理由じゃ」

「……? はい」

 

 ……。話しにくいのぅ。じゃって、信じられそうにないしの。墓場まで持って行くつもりじゃった。幾らこやつでも、流石に信じられぬじゃろう。

 それでも、話しておくとするか。何で儂がこんなにも、あの男を殺したいのかを。

 

「その、な。儂、実は前世の記憶が有って……」

「……」

「……」

「……」

「……悪かった、忘れてくれ。儂も意味不明じゃと思っとるから、もうこの話はしない」

 

 やはり。と言うか、何と言うか。とにかく、流石の被身子も目を丸くしておる。儂の言葉を信じるとは言っているが、それでもこれは予想して居なかったんじゃろう。

 儂じゃって、逆の立場なら予想出来ぬ。予想出来るのはせいぜい、性自認の違いまでじゃ。

 

「ううん。ちゃんと聞くから、話して欲しいのです。

 ……それに、今は超常時代ですよ? 前世の記憶ぐらい有ったって、不思議じゃないです」

「……」

「まぁ、とうとう常闇くんの厨二病が移ったのかと思いましたけど。でも、本当なんですよね?」

「……うむ。証明は出来そうにないがの」

「証明なんて要らないの。それに、こんな時に変な嘘を吐くんですか?

 まぁ、円花ちゃんに嘘が吐けるとは思えませんけど」

 

 いや、別に嘘ぐらい吐けるが。儂、呪術師なんじゃけど? 呪術師は嘘吐いてなんぼって事を知らんのか。知らんかったわ。そもそも教えてないし、教えるつもりもないからの。

 まぁ、とにかく。少し気が楽になった気がする。こやつに理解されないならされないで良かったんじゃが、結局こうして受け止めようとしてくれているのなら……。もっと、早く話すべきじゃったかのぅ。

 

「儂は、平安時代に存在した呪術師の産まれ直しじゃ。まぁ儂からすれば、死んだと思ったら赤子になっていたって感覚なんじゃけど」

「……だからIT音痴で、いつまで経っても英語に馴染めないんですね。あ、もしかして迷子になるのって当時と風景が違い過ぎて、とかですか?」

「いや……、当時からよく道に迷ってはいたが」

「そっちは素なんですね……。転生しても直らない方向音痴って、いったいどうなってるんですか??」

 

 いや、どうなっとると言われてもじゃな。そもそも、基本的に全ての道は繋がってるんじゃから迷ったって問題ないわけで。まぁ行きたいところに直ぐ行けないのは、不便じゃとは思うが。

 

「……」

「ん?」

 

 何じゃ、そんなに儂の顔を見詰めおって。

 

「続き、話してください。全部教えてくれなきゃ、許してあげませんから」

 

 拗ねた顔をした被身子が、思いっきり顔を逸らした。何処に顔を向けとるんじゃ貴様。人の首は、それ以上後ろを向かないが?

 仕方ないの、全部話して……。ぜ、全部……? かつての人生を全て振り返れと? それを語り聞かせろと? いや、それは時間が幾ら有っても足りんと思うんじゃけど。

 

 と、取り敢えず……。色々と掻い摘まんで話すとするか。何であの男を殺したいのか。被身子が知りたいのはその部分じゃからの。

 

 

「……儂は、呪術界の御三家。加茂家の嫡男として産まれての」

 

 長くなりそうな話を、始めるとしよう。

 

 

 

 

 

 










カミングアウト、始まります。なお円花が転生した理由は一応決めてあります。作中で触れるかは別ですが。

次回はサブタイトルの法則が例外になります。基本は五文字、もしくは五文字+αなんですけどもこればっかりはね。どうしても七文字使いたいんで。
一話で済ませる予定なのでダイジェストになるでしょうけども。これまで出て来た情報の総まとめ回とも言います。

三人称による補完は要りますか?

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  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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