待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「頼皆くん。……ヨリくん♡」
……誰かこの阿呆を何とかしてくれ。頼むからどうにかしてくれ。儂にはどうしようもない。何がどうしてこうなってしまったのか、理解は出来ても納得は出来ない。解せぬ。
病院、病室にて。被身子は現在、えりに変身した姿で儂に引っ付いている。変身の為の血は、念の為の健康診断と相澤がえりに説明していた。その後、周辺への被害を考慮した
ちなみに、えりは別の病院に護送された。儂も付いて行きたかったが、被身子どころか緑谷、るみりおんにまで必死に止められた。そうこうしている内にえりの姿は見えなくなってしまっての。追い掛けようにも何処に向かったのかまるで分からぬ。聞いても誰も答えてくれぬし。そもそも誰も知らんらしいの。知ってるとしたら、ないとあいとか、どうとか。
どうも、こやつ等の思い通りに動かされているような気がする。ないとあいの予知とやらをそこまで信用しているのか? どいつもこいつも儂が死ぬと本気で信じているように見える。儂は一撃で脳を潰されなきゃ死なぬが?
そしてこれは恐らくじゃけど、脳が潰れ切る前に脳そのものを治していけば死なずに済むじゃろう。試した事は無いから分からぬが、可能性は零ではない。と、思う。死ぬかもしれんから、わざわざ試すつもりはないが。
で、それはそれとして被身子。今、儂を変な風に呼んでいなかったか? 妙な呼び名を付けるのは止めて欲しいのぅ。ぶらっでぃ、でぃでぃじいよりは良いが。
と言うかじゃな、貴様。昨日儂が言った事を本気で信じておるのか? いや、信じてくれるのはありがたい。話したところで誰も信じぬと思っていたからの。しかし、無条件で儂を信じようとするのはどうなんじゃ? まったく、仕方のない奴め。まっこと、仕方ない奴じゃ。
「変な呼び方をするな、まったく」
「良いじゃないですかぁ。私だけのヨリくんなんですから」
「……」
まぁ、それをわざわざ否定したりはしないんじゃけど。しないけれど、やはりどうかとは思う。
「……信じるのか? 到底信じられる話でも無いと思うんじゃけど」
前世の記憶がある。なんて言われても、簡単に信じる奴は少ないと儂は思う。実際に事実じゃったとしても、それを証明する証拠が無い。儂も誰かに言われても、まず疑ってしまうじゃろう。そんな輩が今後出てくるとは思えぬが。
「信じます。だってヨリくん、嘘吐けないですから」
「いや、嘘ぐらい吐けるが。呪術師は嘘吐きなんじゃぞ」
「えー? じゃあ、嘘吐いて見てください。絶対吐けないし、吐けたとしても見破りますから」
……。……良いじゃろう。嘘を吐いてやろう。騙してやる。しかし嘘を吐けと言われたら言われたらで、何か吐きにくい感じがするのぅ。そもそも、今この場で嘘を吐いても仕方ないと思うんじゃが? まっこと、訳の分からん奴じゃ。どうしてこんな悪女がこんなに愛しいのか。解せぬ。
いや、愛だの恋だのに理由なんてものはないと聞いたことがあるが……。
「……実は前世で、子供を作ったことが有るんじゃけど」
「あ、嘘ですね。絶対嘘です」
「いや、儂は六十まで生きてたんじゃぞ。子供ぐらい一人や二人……」
まぁ、嘘なんじゃけど。儂が子供を作る理由が無い。そんな暇は無かったしの。それに儂と共にあろうとした連中は、大抵が儂の前で死んだものじゃ。中には儂が殺した奴も居る。子供に手を出したからの、そりゃあ殺す。殺すしかない。
「ぶっちゃけ、ヨリくんが特定の女性と関係を持ってたとは思えないのです。だって魂に私の名前が書いてあるんですよ? きっと、前世から刻まれてたのです」
「いや、それは無いじゃろ」
無い無い。そんな事は有り得ん。貴様と出会ったのは、産まれ直してからじゃ。じゃから魂に刻まれたとしたなら、それは被身子と出会ってからじゃろうて。いい加減な事ばかり口走るな、たわけ。そういうところじゃぞ? そういうところが良くないんじゃぞっ。
あとなぁ。えりの見た目と声でいつも通りに接されると違和感が凄まじい。と言うかじゃな、貴様……儂の前でえりの血を飲みおって。どう考えても浮気なんじゃけど? 離婚か? 離婚するか??
いや、まだ結婚しとらんけどっ!
「……あはっ。もしかしてぇ、エリちゃんに妬きました?」
「は? 誰が? それは貴様じゃろ」
しかし、えりの顔で被身子の笑顔をされるのは……ううむ。そうやって笑うなら、せめて自分の顔でしてくれ。もしくは儂の顔。だいたい、儂は子供に妬いたりしない。それは貴様の方じゃろうが。
それに、儂が居ながら儂以外の誰かの血を吸うなどと……。許さん。絶対許さんからな。貴様が口にして良いのは儂の血だけの筈じゃろっ。次に同じ事をしてみろ、どうなっても知らんからな……!
「えへへぇ、そんなに嫉妬してくれるなんて。嬉しい……」
「……」
呑気に喜びおって。こやつ、これからの事を分かっているのか? 今は
儂としては是非とも来て欲しいものじゃが、実際はどうなるか分からん。分からんが、来てしまったらそれ相応に面倒な事になる筈じゃ。被身子を守りながら治崎を殺す? ……問題無いのぅ。問題は無いが……。どうもひとつ、気になる事がある。あやつの個性、もしかするともしかするかも知れぬ。であれば、尚更殺さなければならぬじゃろう。いや、生け捕りも視野に……は入れん。殺すったら殺す。絶対殺す。
って、こら被身子。個室とは言え病院の中で
「……もしもし? 緑谷くん、どうかしました?」
おい、電話するなら所定の位置でしろ。後で看護師に知られたら大変じゃぞ。
「……はい? ヒーローが捕まえに行ったんじゃないんですか? はい、はい。分かりました、じゃあ円花ちゃんと此処に居ます。大丈夫ですよぉ、円花ちゃんがしっかり守ってくれるので!」
何を話しているのかは分からぬ。が、何となく予想は出来る。緑谷が電話して来たということは、恐らくはろくでもない事じゃ。あまりに被身子が緩みきった笑顔を浮かべているから、つい吉報が入ったのかと思ってもしまう。しかし、そうで無いのじゃろう。
被身子が一方的に電話を切った。と思ったら、儂を見て少し固く笑った。
「死穢八斎會が
そうか。と言うことは、
しかし、儂からすれば好都合じゃの。
殺す。殺してやる。もう誰も、儂を止めてくれるな。あの男は、あの男だけは絶対にこの手で殺す……!
「ヨリくん、ステイなのです」
「何でじゃ。殺しに行く。止めてくれるな……!」
「ヨリくんを止めるのが私の役目なのです。本当は別に止めなくたっても良いんですけど、……止めて欲しそうだから」
あ゛?
誰が、止めて、欲しそう、じゃって?
止める事が出来たなら、諦めてやると言っただけじゃ。止めて欲しくて言ったわけじゃないんじゃ。都合良く受け止めおって。ちゃんと儂の話を聞かんか、たわけ。
「行っちゃ駄目。どの道、死穢八斎會はここに来るんです。ちょっと待つぐらい、出来ますよね?」
「出来ぬが???」
出来る筈、無かろう。あの男が此処に、病院に来ると言うのなら儂が迎えてやろう。何処から忍び込んでくるかは知らぬが、悪党なら悪党らしく裏口か何処かから来る筈じゃ。まずは裏口から見て回るとしよう、そうしよう。
じゃから被身子、いい加減に儂の膝上から退かぬか。目一杯抱き付いて、胸に顔を埋めるな。
……それにしても、不思議なものじゃ。何で十七歳が六歳の体に変身出来るのか。えりと貴様にどれだけの身長差があると?
まぁ、個性は何でも有りじゃからの。変身出来てるなら、変身出来てると言うことじゃろう。知らんけど。
取り敢えず、膝上の被身子を退かそうと手を伸ばす。が、思いっきり抱き付いておる。姿形はまるで違うのに、何で昔の被身子を思い出すんじゃろうな。幼い頃に抱き締められたのと、似たような感覚があるのぅ。
……。いかん。どうにも集中が薄れているの。殺意が消えてなくなるわけでは無いが、薄められているような気がする。まっこと、厄介な奴じゃよ貴様は。何でそうやって、直ぐ儂を落ち着かせようとするのか。
頼むから、寝かし付けるような真似はしてくれるなよ? 今は嬉しくも何とも無いんじゃ。むしろ鬱陶しいかもしれん。
膝上の被身子を、無理矢理退かす。腕力では儂の方が強いんじゃからな。えりを雑に扱ってしまったような気がするが、こやつは被身子じゃし。えりなのは外見だけじゃ。
と、その時。病院そのものが揺れた。ついでに焦げ臭い。悲鳴が聞こえて来たのは気のせいではない。どうやらもう、奴等は辿り着いたらしいのぅ。
さぁ、駆除の時間じゃ。あの時殺し損ねた命を、今度こそ殺して見せる。被身子が止めてこようが知ったことじゃない。止められるものなら、止めて見せろ。言っておくが儂は、あの男に対して何一つ手加減せぬからな!
次回、領域展開。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ