待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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三年生じゃ。

 

 

 

 

 三年生じゃ。

 小学三年生ではない。中学三年生じゃ。

 儂は春休みを終えて、三年生になったのじゃ。

 

 つまり……。

 

 儂は受験勉強をしなければならん。

 

 進路は取り敢えず英雄(ひいろお)科のある学校を選ぶことにする。そうしろと母が言ったし、父は賛同しているし、被身子は……ちょっと複雑そうな顔をしつつも頷いてくれた。何でも「円花ちゃんは私のヒーローだから、皆のヒーローになるのはちょっと……うぅん……でもぉ……」との事らしい。何じゃそりゃ。嫌なら嫌と、はっきり言わんか。

 ちなみに、舎弟も英雄(ひいろお)科に入るらしい。あやつがひいろお? 片腹痛い。危うく腹を抱えて爆笑するところじゃったよ。子供の夢を笑うのは良くない事じゃから我慢したが、あの爆豪がひいろお……。いかん。思い出しただけでもちょっと笑いそうじゃ。

 ……まぁ、何だかんだでひいろおになれるじゃろあいつは。ああ見えて忠実な奴じゃからの。

 態度さえどうにかすれば、どうとでもなるじゃろ。春休み中、街を案内してやるとか言いながら家に来たぐらいじゃからな。まだ爆豪婦人の言い付けを守るつもりらしの。

 それはそれとして、奴の舎弟卒業は遠退いたがな。今日、くらすめえとになった緑谷に対する態度を改めんか。本当に呪うぞ? もう呪って良くないかあやつ。儂は呪いたいぞ。舎弟が子供じゃなければ、そうしていた。

 

 さて。近況を一人で振り返るのはもう止めた方が良いかの。いやしかし、目の前の現実から目を背けたいんじゃ。過去を振り返っても良いじゃろう?

 

 昔々のことじゃった。儂は加茂の長男に産まれ……いかん。これは思い出さない方が良い。前生ではなく、今生の事にしよう。

 昔々のことじゃった。儂は廻道の長女として産まれ……駄目じゃ。赤子だった頃は思い出したくない。

 

 駄目か? やはり駄目か? 儂、目の前の現実を受け入れなきゃいかんのか?

 

「何しとるんじゃ……被身子……」

「何って、コスプレですよぉ。今のトガは出来る女になったのです」

 

 何じゃ、こすぷれって。そんな言葉は知らん。知りたくもない。

 舎弟に引き摺られる形で始業式を済ませた儂は、舎弟に引き摺られる形で家に帰ったんじゃ。手洗いうがいを済ませて、今日のおやつは何か期待しつつ居間に向かったんじゃよ。

 

 そしたら、何が待っていたと思う? そう。何故か母のすうつを着て眼鏡をかけた被身子じゃ。

こやつ何をしておる。何勝手に母の服を着とるんじゃ。あとその眼鏡、父のじゃろ。また眼鏡を忘れて職場に向かったのか父よ。

 で、今日は有給休暇中とやらの母よ。何を呑気に茶を啜ってるのじゃ。被身子と並んでそふぁに座っている場合ではない。そこは怒っておけ。被身子を野放しにするなっ。儂が大変じゃろ!

 

「今日から円花ちゃんの受験対策をします。だから貰いました!」

「だからあげました」

「……???」

 

 何が、だから、なんじゃ??

 

「今日は面接練習をします! 円花ちゃん、その口調を直しましょう!」

「やじゃ」

 

 居間の机を叩くな、馬鹿者。あとこの口調は変わらん。直す努力など、しとうないぞ。

 

 じゃって、口調を変えると落ち着かんのじゃ。過去に試したことはあったが、一時間としない内に戻ったじゃろ? お主もそれで納得してたじゃろ? お主だって変な喋り方してるじゃろ?

 

「駄目です! 今日は円花ちゃんとコスプレしたいの!」

 

 本音はそっちじゃろ。おい、そっちじゃろ。止めろ。儂、着るなら着物が良いんじゃ。せんからな! 儂、こすぷれなんてせんからな!!

 

 

 

 

 

 

「カァイイねぇ、カァイイねぇ」

「ほんとねぇ。円花はもう少しお洒落をしなさい。男物の着物ばっかり着て、勿体無い」

「円花ちゃんカァイイのです! もっと、もっと色々着ましょう! たぁくさんあるから!!」

 

 結局、こうなった。嫌がる儂を和室に連れ込んで、二人して訳の分からん服を着せおって。

 父が居なかった事が幸いかもしれん。父まで居たら、もっと大変な事になっていたじゃろう。父も父で、変な服を買ってくることがあるからな。大体被身子に駄目出しされて、浮かない顔をしているが。

 分からん。十四年経っても女物の服の良さは何も分からん。被身子が着てる分には良い。じゃが、儂が着たって似合わんじゃろうに。

 

 と言うかじゃな。おい母。冬の賞与を儂のこすぷれ衣装に注ぎ込んだって何じゃ? 被身子の、受験合格祝いじゃと? 被身子貴様、何を母にねだった? 円花ちゃんに着せる服? そうかそうか。許さんぞ。

 

 ところで、受験対策はどうなった? おい、貴様等。

 

「これ! 次はこれ着てください!」

「あら、じゃあ髪もそれっぽくしなきゃ」

「任せます輪廻ちゃん!」

「……」

 

 何じゃその服。黒くて白くて……えぷろん? えぷろんかそれ? 分からん。おい、何じゃその白いの。頭につける? ……そうか……。

 

「その次はこれです!」

「ならお団子にしなきゃね」

「……」

 

 今度は何じゃ。何じゃその服は。ああ、分かるぞ。わんぴいすとか言うやつか? 赤くて変な刺繍が入っとるの。しかも切れ込みが入っておる。それ、服なのか? 分からん。分かりとうない……。

 

「あとこれも! これなら着ますよね!!」

 

 ああ、それなら着ても良い。白衣と緋袴じゃ。女性用って言うのが何とも言えぬところじゃが……まぁ今までの物と比べたら理解が及ぶ。儂、いい加減に疲れてきたぞ。

 

 まだやるのか? やるのか……。

 

 ……はぁ。

 

「ほら、円花。お父さんに送るから笑って笑って」

 

 母よ。この状況で笑えると思うか? じゃから、すまほとやらを構えるのを止めい。かしゃかしゃ音を立てるな。耳障りなんじゃ。

 

「ほら、円花ちゃん笑って!」

「んぃー……」

 

 仏頂面をすることに努めていると、後ろに回った被身子が儂の頬を引っ張りおった。笑えと言われても、笑えんて。

 早く終わってくれんかの……。終わらんよなぁ……。諦めるしかないよなぁ、これ……。

 

 まぁ、仕方ないと言えば仕方ないところもある。少しの間、こうして遊ばれてるとしよう。

 

 少しだけだからな? 少しだけじゃからな??

 

 尚。このこすぷれとやらはおやつの時間を過ぎても終わることなく、夜まで続いた。夕飯前には一度終わりを迎えたが、父が帰宅してまたこすぷれをする羽目になったのじゃ。

 

 なんでじゃあ……。何で皆して、儂にこすぷれさせたがるんじゃあ……っ。

 

 

 

 

 

 






これは前回の後書きで書き忘れたことですが、生理ネタをやったのは円花の領域名が決まった記念ってのが半分です。つまりやります。どっかで領域展開。どこで使うんだあんなもんって思わなくもないですが。

今回着させられたコスプレ衣装はメイド・チャイナドレス・巫女の三つです。こういうのもTS的にはやっとくべきだなと思ったので。当人ガチ萎えしてますが結局はね、最後までされるがままなんですよね。可愛いね。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

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