待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「最低の気分だが、……さっきよりは幾らかマシだな」
化け物め。取り巻きの一人と自身を分解した上で、まさか合体するとはのぅ。あの四本腕はまるで両面宿儺のようじゃが、形が似ているだけじゃ。いや、あまり似てはないか。何にせよ、これからあの化け物を儂等三人でどうにかしなければならない。麗日は、被身子とえりを外に連れ出してくれた。ならば後は、治崎を殺せば良い。もっとも呪力切れの今、殺す為の手段は限られている。回転で首を捻切るしかないのぅ。
じゃが、そう簡単に上手く行くとは思えぬ。何せ四本腕じゃ。もし、あの腕の一本一本で治崎が個性を使えるなら、先程よりも遥かに殺し難い。まず、四肢……ではなく六肢を全て捻切るべきじゃろう。まずは四本有る腕を、捻切らなければ。腕さえ落とせれば、足は放っておいても良い。
「緑谷、るみりおん。死ぬなよ」
もう、子供達を構う余裕は無い。
「悪いが庇えぬ。自分の身は自分で守ってくれ」
「それは、当然だよね!」
「腕が四本……。もしかしたらどの腕でも個性が使えるかもしれない。ルミリオン、ヨリミナ、気を付けて……!」
まさか、子供と並び立って戦うことにやるとはの。これは不覚じゃ。恥じゃ恥。普段ならば、儂一人だけが前に立つというのに。どうしてこうなってしまったのか。やはり被身子を無理矢理にでも帰らせるべきじゃった。それとえりの護送に儂も加わっていれば……。
……後悔も反省も、今は後回しじゃ。この状況を乗り越えた後ですれば良い。治崎を殺す。今はそれだけを考えろ。
今ある武器は、個性だけじゃ。緑谷のような膂力は無く、るみりおんのように物体をすり抜ける事は出来ん。それでも、どうにか治崎に近付いて個性を使う。あやつの首を、捻切る為にじゃ……!
誰よりも早く、儂は駆け始める。ただ真っ直ぐに治崎へ向かって、間を詰める。すると、治崎は四本腕で床に触れた。同時に、足元の床の殆どが分解された。儂の体は宙に浮いてしまい、次の瞬間には四方八方から棘が突き出してきた。その内のひとつ、もっとも早く儂に到達した棘の側面を何とか殴り付け、その反動で無理矢理体の位置をずらす。肩や足を、棘が掠めた。耳が割られたような気もする。体が身軽でなければ、今ので死んでいたのぅ。
傷が痛む。が、この程度の手傷を気にしている場合ではない。周囲の棘を足場に、治崎へ向かって跳ぶ。その儂の横を、るみりおんと緑谷は事も無げに跳んで通り過ぎた。くそっ、呪力が無ければこの肉体はろくに動けぬ。こんな調子じゃ、治崎に触れるどころではない。我が身ひとつすら守れるか、怪しいものじゃ……!
「治崎ぃ!」
「その名で呼ぶな!!」
残った足場の上に立つ治崎に向かって、るみりおんが真正面から跳び付く。その後ろで緑谷は天井まで跳び、そして天井を蹴ることでるみりおんとは別の角度で治崎へ迫る。儂は、まだ治崎に辿り着けぬ。三人が、遠い。それでも、立ち止まるわけには行かない。儂は必ず、治崎を殺す。その為に、ここに居るんじゃからっ。
「セントルイス・スマーーッシュ!!」
るみりおんが治崎に殴り掛かると同時。緑谷はるみりおんごと治崎を蹴り跳ばそうと足を振るう。普通ならば、るみりおんにしか蹴りが当たらない。が、るみりおんは物体をすり抜けることが出来る。であれば、味方からの攻撃など通り抜けてしまえば良い。
現に今。るみりおんは背後から跳んできた緑谷をすり抜けた。いや、緑谷がるみりおんと言う壁をすり抜けたと言うべきか。ともかく、るみりおんの背後から急に飛び出してきた蹴り技に反応が遅れた治崎は腕のひとつを蹴り跳ばされた。個性と呪力強化が合わさった一撃は、やはり並みの威力ではない。
「ぐ……っ!」
「良しデク! 行けると思ったらジャンジャン俺ごとやってくれ! 合わせる!!」
「はい!」
二人は、不思議と連携が取れている。四本腕となった治崎を前にして、怯むこと無く突き進んでいく。
一撃で潰された腕の一本を、治崎はまず治しに動いた。一瞬で、蹴り折られた腕が元通りとなる。
……そうか。こやつ、手傷を負うとまず治そうとする癖があるの。であれば、付け入る隙はある。るみりおんと緑谷に翻弄されながら、それでも治崎は暴れ続ける。今度は壁に触れた。またも一瞬で壁は分解されて、次の瞬間には棘となって緑谷達を襲う。が、それをるみりおんは透り抜けることで避けた。緑谷は、迫る棘を咄嗟に踏み砕いた。今は、呪力が遅れていない。黒閃を起こしたから、調子が良いんじゃろう。
今の緑谷は、普段とは段違いに強い筈じゃ。
治崎を観察し、いずれ訪れるであろう隙を窺いながら、儂は棘を足場に少しずつ知崎へと近付いていく。体が小さい故、少しばかりの隙間があれば何とか通れる。それでも、どうしても時間が掛かってしまう。もう少し、あと少し。そしたら、一足で治崎に触れることが出来る。それまでは、息を潜めろ。緑谷とるみりおんが治崎の気を引いてくれている今、気配を消すことに専念しろ。
子供を囮にするのは気が引けるが、手段を選んでいる場合じゃないのも事実なんじゃ。くそっ。
「いい加減、消えろ!!」
四本腕が、床や壁に触れた。が、棘は儂の方に飛んでこない。緑谷とるみりおんが余程鬱陶しいようじゃ。治崎の攻撃は、その二人にだけ集中している。なら、今の内じゃ。今、行け……!!
まだそこらに残っている棘を踏み台として、儂は上へと跳ぶ。何とか崩れた床を掴み、勢いのままに登り切る。その時、治崎と目が合った。奴の腕の一本が眼前に迫った。
それを、頭を下げることでどうにか避ける。同時に、危うく掠るところじゃった腕を掴み、全力で個性を使う。
―――回れ……!!
これが通用しなければ、儂は死ぬじゃろう。もっとも、簡単に殺されてやるつもりはないが!
腕の一本を回した後。反動が来てしまう前に、儂は治崎の背中に跳び乗った。そして両手で、残る三本の腕に触れる。当然、一本一本に全力で回転を掛ける。それぞれの腕が捻れ始めて来た。が、回転の速度が遅い。治崎が呪力を纏い始めたからじゃ。これでは捻切るまで時間が掛かってしまう。呪力さえあれば、直ぐにでも殺せたんじゃがのぅ……!
「鬱陶しい……!! 退け!!」
「っっ!!」
捻れ始めた腕の一本が、その肘で儂の背中を撃った。息が詰まる。治崎の背の上は思いの外不安定で、踏ん張ることが出来ぬ。お陰で、容易く振り落とされてしまった。
体が、落下する。下に叩きつけられたとしても、せいぜい二階程度の高さじゃ。受け身は取れる。が、引き離されてしまった。
「ヨリミナ!!」
「ブラッディ!!」
まるで儂を庇うかのように、緑谷とるみりおんが治崎の前に立ち塞がった。くそ、くそくそっ。我ながら情けない! こうも子供達に守られてしまうとは……!!
どうにか受け身を取り、直ぐに立ち上がる。まだ動ける、まだ殺せる。ここで諦めてなるものか……!
「……っっ!」
なのに。なのに、視界が回った。平衡感覚が失われる。動くどころか、立っていることすらままなぬ……!
立とうとして、派手に転んで。何と情けないっ。そのうえ個性の反動に襲われて、吐き気が凄まじい。今にも吐きそうじゃ……っ!
「うっ、ぐ……!」
何とか体を動かそうとするが、思うように動けない。いかん、これはいかん……っ。じゃけど、ここで倒れている場合ではない。せめて、せめて治崎を止めなければ。でなければ、二人が危ない。被身子やえりにまで、危害が及んでしまうかもしれない。
「ぐっ、く……!」
体が、動かせぬ。視界が回り続けて、目の前を見ることすら困難じゃ。それでも、何かしなければ。今の儂に出来ることは……!
「まわ、れ……っ!」
どうせ、体は動かないんじゃ。なら、幾ら個性で無理をしたって良いじゃろう。もう一度、個性を全力で使う。対象は、手のひらに触れている空気。呪力強化が無い今、大した竜巻にはならぬじゃろう。被身子が起こしたものと、そう大差無いかも知れぬ。じゃけど、じゃけどっ。このまま寝ているなんて真似は、儂の主義に反する……!
子供達は、守る。そして治崎を殺す……!! 絶対に、絶対にじゃ……!!
風が起こる。竜巻が生じ始めた。まだじゃ、まだ回す! また反動が来て、目の前が回り過ぎて何が見えているのかも分からん。それでも、回転を緩めるような真似はしない。例えもう、動けなくなろうとも……!!
「っっ、避け、ろ……!!」
風が、吹き荒れる。限界は、とうに越えている。じゃけど、無茶をした甲斐は有った。どうにかこうにか、最後の一撃と言えるじゃろう代物を用意出来た。気がする。もう、目が使い物にならん。何も分からん。周囲の音すら、聞こえなくなって来た。
頼む。緑谷、るみりおん。巻き込まれて、くれるなよ……!!
体が、吹き飛ばされた気がする。強い衝撃が背中を貫き、体の中から嫌な音がした。更に個性の反動もあって……。
……儂の意識は暗闇に飲み込まれた。
呪力切れ円花、著しくスペックが落ちますね。過去最高に滅茶苦茶ピンチだと思われます。体が小さい&軽いの二重苦は永遠の課題かもしれません。
なので、PlusUltra・Tornadoです。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ