待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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受験生じゃ。

 

 

 

 

 

 受験勉強は大変じゃ。志望校は被身子と同じ所にしたんじゃけどな。そこの英雄(ひいろお)科、偏差値高いんじゃ。儂の学力だと……相当勉強を頑張らなければならない。特に英語。分からん。最近ひありんぐ能力を高める為とかで、被身子が英語で話し掛けてくる時がある。何言ってるかさっぱり分からんから止めて欲しい。

 

 あいきゃんのっとすぴいくいんぐいんぐりっしゅ!

 

 あと、面接練習な。やりとうない。口調を強制されるのは良い気分ではない。それと笑顔の練習な。これも好きではないのぅ。とは言え、どちらも面接を乗り越える為にはやらなければならない。

 

 現在七月の末。暑い。

 入試当日まで時間がないのぅ。

 

 ……この半年は、本当に勉強ばかりじゃ。外を出歩けば目に入る呪霊をほったらかしにするのは心痛むが、夜は出掛けられん。夜間の外出禁止はまだ続いておる。かといって昼間に祓うのは学校があるから無理じゃ。儂に出来るのは、登下校の際に道すがら、手の届く範囲に居る奴を祓うことのみ。

 舎弟は、急に大人しくなった。四月のへどろ事件以降、緑谷に対して突っ掛からなくなった。緑谷は緑谷で、あやつ体を鍛え始めておる。ちなみにじゃが今のくらすに、無個性を馬鹿にする奴はおらん。少なくとも儂の前では。

 これについては……、反省中じゃ。机を真っ二つに叩き割ってしまったからのぅ。つい前世の記憶を思い出して、頭に血が上った。術式も個性も、持ってなければ見下されるとはどう言うことじゃ。

 

「はーー……」

 

 やるべき事が多い。机に向かい合った儂は、座椅子の背もたれに体を預けて天井を見上げる。受験勉強は真に大変なのじゃ。それと並行して、儂はこの春から呪具の製作に取り組んでおる。正直専門外じゃけど、これが良い息抜きになるんじゃわ。

 呪具を作る理由は、万が一家族や被身子が呪霊に襲われても抵抗出来るようにする為じゃ。雑魚呪霊程度なら、急造の呪具で何とかなるじゃろうて。

 とは言えこの時代、刃物を持ち歩いたら警察に捕まる。じゃから身に付けやすく、それでいて持ち歩いても問題が無い物を選ぶことにした。両親のは万年筆じゃな。被身子のは……指輪にすることにした。十年前の儂が射的で取ったやつじゃ。あれに儂の呪力を込めれるだけ込めておく。

 それと、父と被身子には眼鏡もじゃな。二人は呪霊が見えぬ。詳しい製法は分からぬが、多分何とかなるじゃろうて。

 

 この夏休みは、受験対策と呪具の作成で忙しいじゃろうなぁ。希望する者は学校で夏期講習を受けれるが、勉強は被身子が教えてくれるからの。行かない事にした。外は暑いし。

 

「……そろそろ寝るか」

 

 机の上に置いた時計を見ると、もう日付が変わっておる。今は夏休みだから時間など気にしなくて良いかもしれぬが、あまり被身子を待たせると布団に引きずり込まれて襲われてしまう。この間は大変じゃった。ひたすら辱しめおって。何が「私をほったらかした罰」じゃ。ただ儂を辱しめたいだけじゃろ、それ。知っとるんじゃからな。貴様の心などお見通しじゃ、たわけ。

 

「それは儂の布団じゃ。どかんか貴様」

 

 最近、被身子は儂の布団で寝ることが多い。自分の布団に入らぬか。布団は二組敷いてあるのに、何でこやつは儂の布団に寝転ぶかのぅ。

 

「ヤです。円花ちゃん、来て」

 

 何て言いながら、こやつは布団の中から両腕を出して広げおる。拗ねた顔をしてるのは、呪具作成に取り組んでいる間、少しほったらかしにしてたからじゃな。何で相手にされないと直ぐ拗ねるんじゃ貴様は。同じ部屋で生活してるとは言え、別々の行動をしたって良いじゃろ?

 

 本当に仕方のない奴じゃな、貴様は。

 

「自分の布団に入れ。まったくお主は……」

 

 仕方ないから、儂は被身子の布団に入る。こっちの布団は枕が柔らかくて、ちょいと苦手なんじゃけどな。儂の枕は今、こやつに占領されておるから諦めるしかない。どうせ譲ってくれん。

 

「むーー……っ。構ってくれなきゃ嫌ですっ!」

「んぐっ。お主なぁ……っ」

 

 横になると同時、抱き付いて来おった。こら、人の頭を胸に抱き寄せるな。嫌ではないが、ちょいと息苦しくなるんじゃよこれ。

 

「最近の円花ちゃんは意地悪です。トガのこと、直ぐほったらかしにして……!」

「子供か貴様……」

 

 子供じゃったわ。まだまだ子供じゃったわ。

 しかし、意地悪と言われてものぅ……。儂、受験勉強で忙しいし。呪具作成の時間だって欲しい。別に被身子との時間が欲しくないとは言わんが、どうしても後回しになってしまうところはある。いい加減、何かしらの呪霊対策をしなければならん。この間、妙に巨大な呪霊が通った時は流石に肝が冷えたわ。穿血飛ばして祓ったが、あんなのがそこらに居ると考えたらのんびりしてられぬ。儂はともかく、両親や被身子が危険じゃ。あとついでに舎弟もな。

 第一、今日は直ぐに切り上げたじゃろ! 三十分も経っとらん!

 

「まだ意地悪するなら、私も意地悪するのです。えいっ」

「っっ!?」

 

 おい待てっ! 何をするつもりじゃ貴様っ。こらっ、耳を擽るな。引っ掻くな! 止めろ、そうされると弱いんじゃ! 耳は勘弁してくれ!!

 

「っ、ふ……っ、あっ」

 

 本当に、弱いんじゃってっ。ぞくぞくする。止せ、止めぬか。この後、何をするつもりじゃ貴様はっ!

 

「今晩もお仕置き、ですねぇ……。たぁっぷり、お耳を可愛がってあげます……」

「っっ」

 

 耳元で囁くなぁ……っ! ちょっ、待たんか貴様っ。やじゃっ、耳をそんな風にされるの、やじゃあっ!

 じゃって、じゃってこんな事されたら、されたら……っっ!

 

「もしかして、お仕置きされたいから放置してます?」

 

 そんな訳あるか!! 貴様調子に乗るなよ!? 何で直ぐ儂を抱こうとするんじゃ!!

 

 毎晩毎晩あの手この手で犯される儂の身になれ!!!

 

 

「円花ちゃんのえっち。して欲しいなら……おねだり、して……?」

 

 

 っっ、こやつ……っ! 嫌いじゃっ! 分かっとるくせに、分かっとるくせにぃ……っ!!

 

 

 

 

 

 

 





こうしておねだり癖まで植え付けられましたとさ。
さらっと夏休みまでスキップしてるのは夏休みでやる話がひとつあるからです。それやっちゃえば次は入試です。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

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