待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
被身子に謝らなければいけない。何せ昨日まで、随分と迷惑をかけた。許嫁として、あるまじき姿を見せてしまったと今では反省している。じゃから、しっかり謝ってしっかり許して貰わなければ。そう、思ってるんじゃけども……。
「……」
「……」
「……」
「……」
……声を掛けにくい。現在、昼時。被身子は寮の食堂で昼食を作っていて、儂はそんな被身子を少し離れたところから見詰めている訳じゃ。さっきから時折目が合うんじゃけども、その度につい……目を逸らしてしまう。で、被身子が儂を見なくなったら視線を戻す。そんな事を何度繰り返しているか、分からん。本音を言えば、今すぐ謝りたい。許して貰いたい。じゃけど、何かこう……言い出し難くて。怒られたり叱られたりするのは、まだ良い。もしも嫌われてしまったら、儂はもう駄目かもしれん。
大、丈夫じゃよな……? 嫌われたりしてない、よな? 嫌われていたら、どうしたら良いんじゃ……。うぅ、何でじゃ。悩んだり迷ったりしてないで、さっさと謝れば良いのに。何故か、たった一言が口から出てこない。どうにも足踏みしてしまう。
「ご飯、出来たのです。と言っても、朝ご飯を温め直しただけなんですけど」
「ぅ、うむ……」
何だかんだ食べ損ねてしまった朝食が、温め直されて儂の前に出て来た。味噌汁も卵焼きも美味そうじゃ。空腹を自覚すると、余計に腹が減ってきたような気がする。
なのに、食欲が無い。じゃって、被身子に嫌われたかもしれないと考えたら……。
いかん。何だか胸が痛くなって来た。気分が沈む。対面の席に座った被身子の顔が見れない。
「……もぅ。さっきからどうしたの? らしくない顔、してるのです」
……いや、それは。じゃって……。うぅ、どうしたものか。どうしよう。どうすれば良い?
分からん。何も分からん。誰か助けてくれ。謝りたいのに、謝れない。このままではいかんと分かっているのに、どうにも口が動かないんじゃ。
しかし、いつまでもこうしている訳には……!
深呼吸を、ひとつ。ふたつ、……みっつ。よし、そろそろ良いじゃろう。いつまでも尻込みしている場合では無い。しっかりしなければっ。
「その、被身子」
「はい」
「……昨日まで、すまなかった」
「……何がですか?」
ぐぬっ。何って、分かっとるくせに。絶対分かってて聞いとるじゃろ……!?
「ぃ、色々……」
「色々って?」
「じゃから、その」
「はい」
いかん。怒っている。被身子が怒っている。これは、とうとう駄目かもしれん。それでも、それでもじゃ。しっかり伝えておかなければ。
「……昨日まで、儂は視野が狭まっていて……お主を蔑ろにした。それを、謝りたいん……じゃけど……」
「……」
「すまなかった。許嫁失格じゃの、儂」
「……」
「……じゃから、その。き、嫌いに……なったか……?」
「……」
ぐぬぬ……。何か言って欲しい。黙り続けるのは、止めてくれ。不安は膨らむし、胸が痛い。悪いのは儂と分かっているんじゃけども、なんじゃか泣きたくなって来た……。うぅ。
「……んふふっ。しょんぼり円花ちゃんも、カァイイのです」
……。おい、貴様。人が反省して謝っているのに、何でそんな楽しそうに笑っとるんじゃ。そこまで悪女じゃったのか? いや、儂に文句を言う資格なんて無いんじゃけども。
怒られるか、叱られるか。それとも嫌われるか。儂に出来るのはそのどれかだけじゃ。出来れば嫌わないで欲しいんじゃけども、どうじゃろうか……? やはり、嫌われてしまうのか……? その可能性は、恐らく一番高いじゃろう。嫌じゃけど、文句は言えぬ。
「嫌ったりなんて、しないのです。私をずっと受け入れてくれてる円花ちゃんを、私が受け入れないなんて真似はしないの。
どんな円花ちゃんも大切で、大好きですから。一生愛してます」
「……被身子……」
「怒っても、嫌ってもないのです。でもぉ、それでも円花ちゃんが許して欲しいって言うなら……」
「……うむ……」
「誠意を見せてください。とっても簡単な事ですけど、出来ますよね?」
「……うむ。すまなかった、許して欲しい」
「そうじゃないんですよねぇ。謝罪なんて要らないのです」
なら、どうしろと? いや、儂に出来ることなら何でもするつもりじゃけど。ところで、被身子? 何でそんな、悪どい笑顔を浮かべとるんじゃ? さては、ろくでもない事を考えておるな??
「今夜はぁ。絶っっ対、寝かせないのです♡」
……。……へんたい。何でそうなるんじゃっ。
でも、それで許して貰えるのであれば。別に幾らでも好き勝手されても良いんじゃけども。じゃってほら、今の儂は被身子に逆らえんし。素直に大人しく従っておこうかの……。
◆
昼食を食べ終わり、被身子と触れ合って、それから少しした頃。被身子が授業に向かったことで誰も居ない寮の居間にて。
「ほら、エリちゃん。デクとルミリオンは明日まで居ないけど、頼皆なら此処に」
「……ぁ、まどか……さん」
えりじゃった。今日は随分と、おめかししているようじゃ。被身子が居たら放っておかなかったじゃろう。絶対そうじゃ。患者衣を着た姿と比べたら、より子供らしく可愛らしいのぅ。相澤の言葉を聞くに、どうやら儂に会いに来たらしい。つい、頬が緩む。どうもえりぐらいの子供を前にすると、良い気分になってしまう。
両手に出来ていた火傷は……今では綺麗に治っている。りかばりぃがぁるにでも診て貰ったのかもしれんの。
「おぉ、えり。どうしたんじゃ? おいで」
「おは……、にちは?」
「違う混ざった。そこはこんにちは」
「こんにちは」
「うむ、こんにちはじゃ。今日はかぁいい格好をしとるの? どうしたんじゃそれ」
「……かんごし、さんが」
なるほど。看護師に用意して貰ったと。悪くない選び方じゃ。いや、洋服の事はまったく分からんのじゃけど。それでも多分、被身子が見たら放っておかないと思う。ということは、あれじゃ。かぁいいってことじゃ。
あ、そうじゃ。被身子に見せびらかしてやろう。
写真を撮って、そう、被身子に送信。うむ、出来たの。そろそろ音声操作をしなくても良いのでは? いやでも、声で操作した方が楽かもしれぬ。どうも電化製品と言うものは、扱うのが難しい。平安時代にこんな便利なものは無かったからかのぅ……。
「今日から、雄英に住まうそうじゃな? 毎日でも遊びに行くから、安心して良いぞ」
「まいにちは、ちょっと……」
……断られてしまった。えりぐらいの子供は、遊びたい盛りじゃと思ったんじゃけどなぁ。被身子はそうじゃったし。何処へでも儂と行きたがるものじゃから、あの時はあの時で振り回されていた気がするの。まったく、仕方のない許嫁じゃ。許してやるけども。
「なら程々にしようかのぅ。今日はどうじゃ? 儂、暇なんじゃけど遊ぶか?」
「……でも」
「良いよ。先生ちょっとやる事があるから、それまでこのお姉ちゃんと遊んだら良い。
……廻道、任せるが外には出るなよ。良いか、絶対に出るなよ? 俺は言ったからな?」
何故、そこまで念を押すのか。相澤貴様、さては儂がえりを連れて迷子になると思っとるな? そんな筈なかろう。子供の前で迷子になるような大人が何処に居るんじゃ。
……ん? そう言えば六歳の頃、被身子を連れ歩いて迷子になったような……。
いや、あの時は被身子が道を覚えてたから無事に帰れたし。うむ、迷子になどなっておらん。なら、えりとじゃって大丈夫じゃろう。雄英の中を散歩するのも良いかもしれん。
「ごめんねエリちゃん。このお姉ちゃんが外に出ようとしたら、引き留めてくれ。大変な事になっちゃうから」
「う、うん……」
おい、じゃから貴様。何でそんなに念を押すんじゃ? そこまで儂に出掛けられたくないのか? ……解せぬ。解せぬぞ。嫌いじゃこやつ。そもそも儂はまだ、被身子を巻き込んだことを許して無いんじゃからな。今後許してやるつもりも一切ない。殺すのは……流石に止めておくか。また被身子を蔑ろにするつもりは無いからの。
「廻道。ちょっと」
「何じゃ? 此処で話せ」
「良いから、こっちに来い」
何なんじゃもう。単純に面倒じゃ。しかし何やら、えりを除いて話しておきたい事が有るらしい。仕方ないから、聞いてやるとするか。
……はぁ。面倒じゃのぅ。儂、これからえりと遊ぶんじゃけど? 子供の遊びを邪魔するとは、大人の風上にも置けぬ。まぁ儂からすれば、相澤とて子供みたいなものじゃけどな。まだまだ小僧じゃ小僧。ふんっ。
相澤に呼び出されたので、仕方なく居間から離れる。少し歩いて、男子寮に入る階段の前で立ち止まる。
「で? 何が言いたい?」
「エリちゃんの事だ。彼女の個性について話しておきたい」
「……話せ」
それならそうと先に言え。そしたら、黙って付いて来てやったと言うのに。さては言葉足らずか? 相澤、貴様は言葉足らずか? 仕方ない奴じゃのっ。
「エリちゃんの個性は『巻き戻し』だそうだ。生物にのみ作用する力で、文字通り巻き戻す力だ。治崎曰く、人間を簡単に無かった事に出来るらしい」
なるほど。それはまた、とんでもない個性じゃの。何がどうなって巻き戻るのかは知らんが、とんでもない力じゃと分かる。そんな個性を持っているのなら、放っておくわけにはいかん。何かの拍子に個性が暴走してしまったら、周囲にどんな被害が及ぶのか分かったものじゃない。
相澤が付きっきりにさせられるのも納得じゃの。こやつが居れば、えりの個性が暴走してしまったとしても問題無い。ひとまずは止めることが出来る。
しかし、しかしじゃなぁ。力ひとつで、子供を囲うのは如何なものか。やってる事があの糞野郎と大差無いと思うんじゃけど?
そもそも。力が強かろうが弱かろうが、有ろうが無かろうが、まずはその力も含めて愛する方が先じゃろ。大の大人が子供一人に寄って集って……。まったく、教師なんじゃから子供の扱いぐらい詳しく知っておけ。この、たわけっ。
「いざとなったら、止めれるのは俺だけだ。それを留意してくれ」
「……話は分かった。が、貴様の指示には従わんからな」
「おい」
「そんな方針をする輩達には、一切従わん。馬鹿なのか貴様等。様子見より先にすべき事があるじゃろ、まったく……」
呆れた。更に嫌いになりそうじゃ。既に大嫌いじゃと言うのに。
……確かに、相澤を含め大人達の判断は間違いじゃない。合理的、と言っても良いじゃろう。えりを監視した方が良いのは確かじゃ。巻き戻しの個性は、野放しにして良いものでは無い。
じゃけどそんな事情は、子供には関係ないんじゃ。今のえりに必要なものは、そんなものじゃない。
「何でえりを愛そうとしないんじゃ? 傷付いた子供には、それが一番必要なことじゃろう?」
こんな簡単な事も分からないのなら。どいつもこいつも
こんな阿呆は放っておいて、えりの下に戻らなければ。さて、今日は何をして遊ぼうかの? 連れ回して疲れさせるのは忍びないし、そもそも何故か外出するなと念を押されているし。となると……室内で出来る簡単な遊びが良いか。
そして、この後。相澤の側から離れた儂は、それなりに長い時間、えりと遊び呆けた。
やはり子供と遊ぶのは楽しいものじゃ。えりもそう思ってくれてたら嬉しいんじゃけども、笑うことだけは無くてのぅ。さてはて、いったいどうしたものか……。
次回、センシティブなバカップル。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ