待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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蕩けていく。

 

 

 

 

 

 くらすめえとの女子(おなご)達に、それはもう叱られた後。儂も被身子も大した反省を見せることなく、部屋へと戻った。帰って来てからと言うもの、どうにも被身子が上機嫌での。いつも以上に頭の螺が飛んでしまっている気がしてならない。別に、それが嫌ではないんじゃけど。元々制御なんて出来ぬ奴じゃし、こやつに振り回されるのはいつもの事じゃし。振り回されることは、……幸せじゃから。

 

 ……。まぁ、それに。儂も今日は頭の螺が緩んでいる自覚がある。じゃってさっきから、被身子に触れていたくて仕方ない。離れたくないと言うか、くっ付いていたいと言うか。もっと側に近寄りたい。もっと被身子を感じていたい。そう思う。じゃから。

 

  部屋に戻った儂は、被身子を押し倒そうとして押し倒された。

 

 儂に覆い被さった被身子が、笑っている。嬉しそうに楽しそうに、幸せそうに。それが、嬉しくて。心が満たされて。なのに、少し物足りないんじゃ。

 

「円花ちゃん。……ヨリくん。円花ちゃん、ヨリくん……♡」

 

 不思議な感じじゃ。円花と呼ばれるのは、嬉しい。儂を呼ぶ時、被身子は笑顔を見せてくれるから。じゃけど、かつての名を呼ばれることも……不思議と嬉しい。今の儂は廻道円花。かつての儂は、加茂頼皆。どちらも、儂じゃ。過去と、今の。

 さっきの続きと言わんばかりに、被身子が儂の着ている服を、……はだけさせていく。息が荒い。被身子も、儂もじゃ。

 

 ……じゃって。さっきは邪魔されてしまったからの。でも今は、部屋の中ならば誰にも邪魔される事は無いじゃろう。そう思ったら、お互いとても我慢出来そうにない。

 

「被身子」

「はい」

「被身子」

「はぁい」

「……被身子」

「んふふっ。はいっ」

 

 名前を、呼びたくて。つい、何度も繰り返してしまう。その度に被身子は返事をしてくれて。それが嬉しくて。じゃから。

 

 被身子の首に腕を回して、もっと距離を近くする。直ぐ目の前に、被身子が居る。光を浴びた猫のような瞳も、とても他の誰かに見せたくない笑顔も、色褪せてしまったような長い髪も、何を考えているのか分からない言動も、健康的に育った体付きも、何もかもが……愛おしい。

 

 あぁ。今の儂は、まっことどうにかしている。こやつから受けた影響じゃろうか? 知らぬ内に、こんなにも毒されて。でもそれが、嬉しく思えて。

 

「今日のヨリくんは甘えんぼなのです。もぅ、襲っちゃいますよ?♡」

「そんな儂は、……嫌いか?」

「んーん。むしろもっと好きになっちゃうかも……♡」

 

 それは……。それは、望むところ、じゃけども。拒否する理由はない。拒絶したいとも思わん。こやつの好きは、愛は、きっと底無しじゃ。どこまでもどこまでも、儂を好きで居てくれるんじゃろう。その気持ちには、応えなければ。儂も、どこまでも被身子を……。

 

 ……気恥ずかしい。じゃけど、じゃけど。好きにされたいし、好きにしたい。愛して、愛されて。それをずっと続けていけたら。いつかこやつが死んでしまって、儂が独り残されたとしても……愛していたい。今はそう思う。きっとこれからも、そう思い続けるんじゃろう。

 

「ね、円花ちゃん。ヨリくん。どうして今日は、そんなに甘えんぼなの?」

「……たまには、そういう時が有っても良いじゃろ」

「教えてくれないの?」

「……内緒じゃ」

 

 言ったら、もう収まりが付きそうにないからの。もちろんこの後、被身子に抱かれるつもりじゃし、抱くつもりでもあるけれど。じゃけどその、言えば絶対大変じゃから……隠しておきたい。

 

 言えるわけ、無いじゃろ。被身子に嫌われたら、なんて想像して。そしたら、それが自分でも驚くくらいに嫌で。嫌われたって良いから人を殺そうとした儂が、今は絶対に嫌われたくないなんて思ってる。嫌わないで欲しい。愛して欲しい。その為に、何だってしても良いなんて……考えてしまって。

 

 あぁ、もう……。そうじゃ。つまりは、そうなんじゃ。今日の儂は、物凄く不安になっていて。心が落ち着かなくて。じゃから、被身子を求めてしまって。勝手に悪い想像もして、さっきから……被身子に触れていないとどうにかしてしまいそうで。

 

「……ね。教えて? 今日はぁ、どうしちゃったの?」

「ん……っ。ぁ、被身子……」

 

 耳元で囁くのは止めてくれ。背筋が震えて、心臓が跳ねる。

 

「んっ、ちゅっ……。ね、ヨリくん。どうしちゃったの?」

「ぁっ、うぅ……」

 

 耳に接吻(きす)するの、駄目じゃ。流されそうになる。隠しておきたいことを、言ってしまいそうになる。せめてもの抵抗に、首に回した腕に力を込めると……被身子の手が儂の腕を掴んだ。最初は右腕を布団の上に押し付けられて、次は左腕。直ぐ目の前にあった被身子の顔が、少し遠ざかってしまった。

 

「教えたくないなら、白状するまで好き勝手しちゃいますけど。それとも、そうされたくて言わない……とか?」

「……そんなわけ、無かろう?」

「ほんとですかぁ? 円花ちゃんってバリネコですし、滅茶苦茶にされるのが良いんですよね?」

 

 ばり、……ねこ? 猫? 張り? また変な言葉を使いおって。分かり易く言って欲しいものじゃ。そういうの、どこで知っとるんじゃお主は。

 まぁ、滅茶苦茶にされるのは……好きじゃけど。何も考えられない程に責められるのは……その。実は結構好ま……って、何を考えさせるんじゃっ。被身子の阿呆っ!

 

「んー……あっ、もしかしてぇ」

「……な、何じゃ……?」

 

 少し考える素振りになった被身子が、直ぐに何か閃いた。……さっきとは違う意味で、背筋が震えた。何かこう、冷たいものがじゃな……。

 

 

「私に冷たくしちゃって、それで嫌われちゃったかもー……なんて思ってたりします?」

 

 

 ……。

 ………。

 …………っ。

 ………………っ!

 

 み、見透かされた……っ。何でじゃっ! 何でそんな簡単に儂の考えてることを言い当てることが出来るんじゃお主はっ。おかしい、こやつに母のような個性は無い。なのに何で、こうも簡単に……! げ、解せぬ。どうなっとるんじゃ……!?

 

「あはっ。もしかして正解ですかぁ? もぅ、円花ちゃんってほんと分かり易いのです♡」

「ち、違うぞ。違う……からな……っ?」

「私に嫌われたって思って、不安になっちゃって、でも離れたくなくて……甘えてたんですよね。もぅ、カァイイんだから……♡」

 

 い、いかん。被身子が調子に乗り始めた。にたりと笑って、楽しそうにしておる。違うったら違うんじゃ、たわけっ。そんな筈、無かろうっ!?

 いつもいつもそうやっていい加減な事を言うから、儂が苦労するんじゃぞっ。

 

「だって円花ちゃん。ううん、ヨリくんは……独りになりたくないんですよね?」

 

 ……は? いや、何を言って。そんな筈は無い。独りになるのが怖いなんて、そんな筈は……。

 

「……この間ヨリくんの人生を聞いて、それで思ったんです。まぁこれ、私の解釈ですけど」

「……」

「大事な二人が殺されちゃって、それから人を殺し続けて。子供を守って助け続けて、ヨリくんの助けになりたいって人に囲まれて。……そんな人が、独りが怖くないなんて嘘ですよぉ」

 

 ……。……そんなわけ、無いじゃろ。じゃって儂、独りでも呪術師をやるつもりじゃったし。現に今生では、おおるまいとや緑谷が呪力を得るまで独りじゃった。独りでやって来たし、独りでやって行くつもりじゃった。そこに何の不安も怖さもない。

 じゃから被身子、それは流石に見当外れじゃ。まったく、いい加減な事ばかり言うのは止さぬか。

 

「だって本当に嫌なら、拒否するじゃないですか。でも結局は同行を許して、その人達が死んじゃうまで一緒に居たんですよね?」

「それは、そうじゃけど……」

「なら、きっとそうなのです。ヨリくんって、本心を言うのがへたっぴですよね。態度で示すのも良いんですけど、やっぱり口にしなきゃいけない事だってありますよ?」

「……言うようにしとるじゃろ。色々……」

「例えば?」

 

 ……被身子の馬鹿。意地悪く笑うな。言わせたいだけじゃろ、まったく。

 

「……好き、とか……ぁ、愛してる……とか」

「そうですねぇ。最近は言ってくれるようになって、嬉しい。でも、それ以外だって言って良いんですよ? 私には何でも、何だって。

 だから、ね? 思ってることも、思ったことも、ぜーんぶ教えてください。私だって、円花ちゃんの……ヨリくんの事、全部受け止めたいの」

 

 ぐぬぬ……。そう言われてしまうと、もう何も言えなくなってしまう。素直に何もかも白状してしまいたくなる。でもそれは、幾らなんでもどうなんじゃ? 良いか被身子、物事には限度ってものが有ってじゃな??

 

 ……顔が見てられん。意地悪く笑ってる被身子も大好きじゃけど、気恥ずかしさが増してきた。こんな話をしてるから、変に冷静になってしまった気がする。儂としては考える余地も無いぐらい、滅茶苦茶にして……。

 

 良い、んじゃろうか。言ってしまっても。被身子が言うように、全部口にしてしまっても。それをやったら余計に離れられなくなる気もするし、もう止まれなくなるような気が……。

 

「……離れないで、くれ」

「はい」

「ずっと、……側に居てくれ。儂が、人殺しになったとしても」

「離れません。絶対に」

「居なくならないでくれ、儂の前から」

「はい。ずっと側に居ます」

「被身子が居なかったら、儂はもう生きられないから」

 

 あぁ……。あぁ、駄目じゃ。止まらない。たった一言を皮切りに、溢れてくる。本心が止まらなくて、もう我慢出来そうになくて……。

 

「好きじゃ。愛してる。被身子無しじゃ、生きれないから。じゃから、じゃから……っ」

「うん。私も、円花ちゃん無しじゃ生きれないのです」

 

 さも当然。とでも言うように、被身子は笑う。そんな笑顔も、儂にとっては大切で。

 

「……その、被身子……」

「はい?」

「……滅茶苦茶に、して欲しいんじゃけども……」

「……んふふっ。円花ちゃんの、えっち……♡」

 

 あ、いかん。言うべきではなかった。たった今、被身子が果てしなく調子に乗った気がする。これは(まこと)に、今宵は寝かせてくれない気がするの……。

 

 でも、良いんじゃ。明日の事は気にしないで。今はただ、被身子と。じゃけど一言、訳が分からなくなってしまう前に、この一言は言っておきたい。

 

 

 

「愛してる。ずっと、ずっとじゃ」

 

 

 

 

 で、この後。儂は身も心も何もかも蕩け切ってしまうまで……被身子に抱かれた。そして、被身子もそうなるように、抱いた。

 翌日二人して寝不足になったのは、……まぁいつものお約束じゃの。

 

 

 

 

 

 








危うくR-18になるところでした。危ない危ない。

あ、ちなみにR-18な方は200話記念なやつを書いてたりします。全5話で、2話ほど書いてあります。いつ公開できるかは未定です。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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