待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
何せ儂等は、夜になったら呪術師としての活動がある。じゃから昼間は学校、夜は呪術師の二重生活を送ることになる。一日の睡眠時間の確保が難しくなりつつあるが、そこはまぁ教師達の計らいで儂等二人は昼寝時間を与えられた。何でも日に二時間、授業を抜け出して保健室で寝てて良いとの事じゃ。儂はともかく、緑谷にはありがたいじゃろう。儂はまぁ、授業が面倒になったら抜けさせて貰おうかの。寝るかは別として。
何せ儂、一日か二日は寝なくても大丈夫じゃから。いや、今日はぐっすり昼寝するつもりじゃけども。
まぁ、学業に支障が出るような仕事の振り方はしないと七山は言っておったが、……どうなることやら。現状、呪術師は人手不足じゃ。何せ三人しか居ない。それでも一人よりかはずっと良いんじゃけどな。基本的に他県の呪霊はおおるまいとが何とかしているし。儂が静岡県から出ることになるのは、おおるまいとでは対処出来ない呪霊が湧いたらの話じゃ。
もっとも、あの筋肉阿呆の手に負えぬ呪霊などそうそう居ないじゃろうけど。やはりこの時代の呪霊は数ばかりで、大した強さを持ち合わせてはおらぬ。儂が強いと感じたのは、花御と
それと、治崎なんじゃけどな。儂等に捕まった後、護送中に
今朝にこの
「今日のヒーロー基礎学。普段とは毛並みが違うことをやるぞ」
五時限目、教室にて。教壇に立つ相澤が、そんな事を口走った。本音を言えば、どうでも良い。今の儂は、授業をまともに受ける気になれない。と言うか相澤の話を聞きたくない。何なら
「今回は、各々で討論して貰う。議題は、ヒーローがヴィランを殺害すべきか否か。実に非合理な時間になるが、今一度お前達の当たり前を考えてみてくれ」
……それは、儂に対する当て付けじゃろうか。よし決めた。授業を抜けよう。今晩は呪術師としての活動があるし、そもそも今朝まで被身子と愛し合ってそれはもう寝不足じゃからの。まさか
「せんせー。それって、討論になるんですか?」
「ケロ……。ヒーローは殺さないものでしょう? そんな分かり切った事、何で今更……」
「いや諸君! きっと何か意味があっての事だ! それをよく考えて、討論していこう!」
「……くだらん。儂は保健室で寝るから、勝手にやってろ」
くだらん授業を受けるつもりは無い。討論しようが何じゃろうが、儂は悪党は殺すべきじゃと思うからな。その考えが変わることは、これまでまこの先も無いじゃろう。むしろ儂からすれば、何故殺しが選択肢に入らないのか分からないぐらいじゃ。
相澤、さては儂への当て付けか何かか? 喧嘩なら買うぞ? 儂に勝てると思うなよ??
……とにかく、じゃ。儂は寝る。保健室で寝る。こんなくだらん授業を受けたいとは思わないんじゃ。
「待て廻道。せめてお前の意見を言っていけ」
教室を出ようとすると、相澤に呼び止められた。無視しても良いが、それをすると後で面倒な事になりそうじゃ。仕方ない、一言二言残してやろう。
「……儂は殺すべきじゃと考えておる。生かしておく理由が無いからじゃ。以上」
馬鹿らしいのぅ。こんな事を議論するより、被身子に抱き枕にされるか被身子を抱き枕にして寝たい。さっき、昼休みに沢山
……被身子め。あんな風に、儂を好き勝手しおって。別に良いけど。気持ち良かったし、嬉しかったし。何と言うか昨晩はいつもより被身子を感じられたような気がして……幸せじゃったから。
いかん。つい被身子ばかり考えてしまう。これは良くないと思う。少し落ち着け、儂。自制じゃ自制。いつもしている事じゃろうが。
「待って廻道さん。幾ら
「そうだよ廻道。幾ら悪い
……緑谷と、芦戸が食い付いてきた。面倒じゃのぅ。儂、寝たいんじゃけど。いちいち全てを説明するのは骨が折れる。だいたい、何で殺してはいかんのか。法に反するのは分かっている。殺せば悪党として扱われるのも、知っている。それでも、殺すべきじゃと儂は思うんじゃ。
と言うかじゃな。何でどいつもこいつも儂を見てるんじゃ? いや、一人見ておらん奴が居るが。
「くだらねえ。
「いや、爆豪。お前そんなだから仮免落ちたんじゃねえのか? また落ちる気か……?」
「ああ゛っ!? 冬には取るわクソ髪ィ!!」
「おう、頑張れよ!」
騒々しい。寝不足の頭には響く。少し静かにしてくれ。儂は眠いんじゃ。
「つーかよぉ。殺さなきゃならねえタイミングがいずれやって来んだろ、ヒーローやるってんなら」
「いや爆豪、そんな時でも殺さないのがヒーローなんじゃねぇのか?」
「よし諸君! 机を並べ直して二手に別れよう!
どうやら、舎弟は殺害派らしい。いや、あやつの言う「ぶっ殺す」とは悪党を叩きのめすって意味で本気で殺そうとしている訳じゃない。つまり飯田が口にしたくらすの二分割は、随分と数が偏ることになりそうじゃ。
と言うかこれ、二十対零なのでは? それでは議論にはならんじゃろう。じゃって儂、これから保健室じゃからの。
なんて思っていたら、教室の中が様変わりした。どいつもこいつも、変に素早く机やら椅子やらを並べていく。やがて、出入り口側には机と椅子が二つ置かれた。壁側には、机と椅子が十九も有る。
で、数が少ない方に腰掛けたのは……何と舎弟じゃった。まことに? お主、
「こりゃあまた随分と偏ったな……」
「そりゃ、ヒーローが殺しちゃったら駄目だってみんな思うだろ? 爆豪はあっちだけど」
「これは……議論になる……のか?」
「なぁ緑谷。オイラ思うんだけど、吊し上げじゃねーのこれ??」
「ん、んん……」
そうじゃな。峰田の言うようにこれは吊し上げじゃの。吊るされるのは舎弟一人じゃけどな。儂はこれから保健室じゃ。
という訳で、頑張れよ舎弟。なに、貴様なら或いはこの討論に勝てるじゃろう。知らんけど。
まったく、時間を無駄にした。思う存分昼寝が出来る貴重な二時間じゃというのに、何でこんな授業に付き合わなければならぬのか。
「では司会・進行は委員長である俺が! 諸君、席について静粛に!!」
「してるよ。一番うるせーのお前だかんな??」
「さぁ、廻道くんも早く席に着きたまえ!!」
「いや、じゃから儂は昼寝を……」
飯田が喧しい。こんな議論に参加するつもりは無いんじゃけども、ここで教室を出たらそれはそれで追い掛けてきそうな気配があるのぅ。
……はぁ。仕方ない。ここで寝てしまおう。周囲は喧しくなるじゃろうし、隣の舎弟は爆発的に喧しくなるじゃろうけども、此処に居るだけ居てやろう。
「さてそれでは! 双方、ヒートアップし過ぎないように、飽くまで理知的に議論していこう!」
儂にとって、最も無駄であろう時間が始まった。
「……ヒーローは、殺さない。殺させない。それが正しい姿だと思うんだ」
まず、口火を切ったのは緑谷じゃった。こやつもおおるまいとも、相澤も。誰も彼もが似たようなことを口にする。それが
それは、分かってる。人殺しはしない。当たり前の決まりじゃ。法律じゃ。……じゃけど、それに従うか従わないかは一人一人が決めることじゃ。
「そうよ。ルールに反すれば、それは
緑谷に続いて、梅雨が小さく手を上げて口を開いた。
「……待て。緑谷、蛙吹。殺害派の意見も聞くべきだ」
常闇が、儂を見詰めながらそう言った。意見を求められている気がする。儂の意見はさっき言ったんじゃけど? 改めて口にしろと? まったく、面倒な……。
儂。いい加減、寝たいんじゃけど。
「……はぁ。もう一度言うがの。儂は殺すべきじゃと考えておる。生かしておく理由が無い。少なくとも儂の中では、じゃけども」
「悪人全てを殺すべき、と?」
「言ってしまえば、そうじゃ。逆に問うが、何でお主等は殺さないんじゃ? 殺してしまえば、後で面倒な事は起きんのじゃぞ?」
例えば、最初の事件。そう、
英雄は殺さないし、殺させない。今から殺人を選択肢に入れるなと相澤は言っていた。その結果、何がどうなったのか。それを全員して忘れてるなんて事はあるまい?
「……それが、ルールだからよ。円花ちゃん」
「なら。るうるが人殺しを是とするなら、貴様等は悪党を殺すんじゃな?」
「……それは」
「梅雨。儂の考えが法に反しているのは、分かっとる。法に従うべきなのも、分かっとる。儂はその上で殺した方が良いと言っているんじゃ。
ゆぅえすじぇで黒霧を殺さなかったから、舎弟や常闇が拐われた。殺しておいたら、拐われずに済んだのかも知れぬぞ?」
なぁ、相澤。教壇の横で成り行きを見守ってるようじゃけどな。黙りしてられると思うなよ? あの時、儂を止めたのは貴様じゃ。結果、どうなったか。知らないとは言わせぬぞ。
殺しておけば、面倒にはならなかった。それはきっと、事実じゃろう。
そう考えたら、何で今日までこの男を野放しにしていたのか分からぬ。神野から帰った後で、殺すべきじゃったかもしれん。今からでも殺すか? いや、それは良くないの……。良くない。人殺しが悪い事じゃって、分かってる。被身子に迷惑を掛けられん。両親にもじゃ。
じゃから、殺意は抑え込まなきゃいけない。どれだけ殺したくて仕方なくても、我慢するしかないんじゃ。
「廻道。殺してても拐われたって可能性も有るんじゃねぇのか?」
「そうかもしれん。結果的に殺した方が良かったって事じゃからのぅ」
あぁ。その通りじゃよ、轟。殺してても拐われていた可能性は有る。儂はあの時、子供達を守るために自ら悪党の懐へ飛び込んだ。呪詛師なんぞと縛りを結んでまで、そうしたんじゃ。
この判断は、今では良くなかったと思う。結果として、舎弟や常闇が拐われてしまったわけじゃからの。
それにの。悪党連合は呪霊を従えておる。呪霊操術を持つあの背広男はおおるまいとが殺したが、ただで死んだとは言えぬ気がするからの。おおるまいと自身も、あの男の復活するのではないかと気に掛けていたし。
「儂とて、人殺しは悪い事じゃと思っとるんじゃ。それでも、殺さなければならん奴がこの世には多過ぎる。じゃったら、殺すしかないじゃろう?」
それがもっとも手っ取り早く、後に被害を出さぬ為には確実じゃと思う。それ以外の方法を儂は知らん。儂は殺し続けて来た。ただひたすらにじゃ。そうやって守ってきた。そうやって救ってきた。
「……そうかもしれへんよ。でも、殺さないでどうにかする方法を探すとか?
「そうやって貴様等ひいろおが殺さないから、悪党は増え続けるんじゃないのか?」
殺さなければ、数は減らない。一度捕まえた悪党は、いずれ罪を償って牢屋から出て来てしまう。ちゃんと更正してれば良いが、更正出来ずに同じ事を繰り返してしまう輩も居るじゃろう。中には死ぬまで刑務所で暮らすことになる奴も居るが、大抵は牢屋から出てくる筈じゃ。
更に、じゃ。今はまだ悪党ではない輩がそこら辺に幾らでもいる筈じゃ。殺さなければ、悪党の数は増えていくばかり。いずれ、数を間引かなければならない時が来るかもしれん。
……来ないかもしれんがな。そんな時代は、来ない方が良い。
「……なぁ相澤。いい加減、もう良いじゃろう?」
貴様が何でこんな授業を始めたのか。その意図は嫌でも分かる。要はこやつ、儂に人殺しをさせたくないが為に、くらすめえと達と話させることで認識を変えさせようとしてるんじゃろ。
残念じゃったな。それは時間の無駄じゃ。儂の考えは、これまでもこれからも、……きっと変わらない。変えられない。この間の事件を経て尚、そう思う。じゃけど、努力はしていくつもりじゃ。無駄かもしれんが、例え誰を前にしても人殺しはしない方向で動こうと思う。被身子と一緒に居る為に、じゃ。
「ひとつ、これだけは聞かせろ」
「何じゃ?」
もう、いい加減にして欲しいんじゃけど? いつになったら儂は寝れるんじゃ。二時間は寝て良いと言っておきながら、邪魔しおって。まったく、仕方のない奴じゃの。
「……お前、これまで何処で何をして来た?」
「
まぁ、前世の事は被身子以外に話そうとは思わない。また同じ事を説明するのは面倒じゃし、被身子のように信じて貰えるとは限らぬし。
それに、嘘は言っとらん。一般家庭に生まれたのが儂じゃし、ごく普通に生きて来たつもりじゃ。他の誰かと違うことがあるとすれば、真夜中に呪霊を祓い回ってたことぐらいで。それも儂からすれば、なんて事の無い普通じゃけども。
「ふわ、ぁ……」
んん……っ。眠気が増して来たのぅ。昨晩の疲れも有るし、夜に備えて昼寝しておかなければ。席を立ち、教室を出ようと歩き始める。すると。
「ちょっと待った廻道ちゃんっ!」
葉隠に呼び止められた。何じゃもうっ。
「迷子になっちゃうから、誰かと一緒に行こうね!?」
「ケロ。それなら私が行くわ、透ちゃん」
……。……仕方ない。そこまで道案内したいのなら、させてやろう。思えば不思議なものじゃ。何で儂の周りに居る奴は、こうも道案内をしたがるのか。前世でもこういう場面は多かったのぅ。
そんなこんなで、梅雨が道案内役として保健室まで同行することになった。
「蛙吹。俺も同行しよう」
なんか、常闇まで同行するつもりのようじゃ。ちょうど良い。だあくしゃどうに運んで貰うとするかのぅ……?
あ、そうじゃ。最後にこれは聞いておきたい。
「舎弟。お主、何で殺す派に居るんじゃ?」
「クソナードと同じ所に居たくねえだけだ」
……そ、そうか。貴様、相変わらずじゃの……。いったいいつになったら、緑谷に謝るんじゃこやつ……。
「それによお。ヒーローやってりゃ、いつか殺さなきゃなんねえ時が来るだろ。そん時に迷わずメリットがでけえ方を取れるように、今の内から気持ち固めてんだわ。クソが」
……存外、まともな理由じゃった。お主なぁ、そんな考えが出来るのに何で緑谷を前にすると駄目になるんじゃ。変な奴じゃよ、まったく。
文化祭編前に、オリ展開を少し差し込みます。このタイミングでやらないともうやるタイミングないと思ったので。
これからA組との不仲編が始まります。殺人肯定しちゃうのは、ひとつの溝ですからね……。ヒーロー志望的にはとても見逃せることではなく、かと言って円花の考えはそう簡単には変わらないので。となるともう、喧嘩するしかないんですよね。
廻道円花:オリジンを書くためにも必要なので、円花とA組を見守ってあげてください。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ