待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
眠い。授業は退屈じゃったし、無駄な時間を過ごす羽目になってしまった。くだらん議論などする前に、もっと有意義な授業をしてくれ。もっとも、有意義な授業をされたとしても今日の儂は途中から抜け出していたじゃろう。じゃって、眠いし。被身子は今頃どうしてるじゃろうか? 儂と同じだけ寝不足な筈なんじゃけど、今朝は妙に元気じゃったからの。何か、肌も艶々しとった気がするし。
まったくあやつめ。儂と抱き合ってる時だけは、体力が無尽蔵なんじゃよなぁ。まぁ、別に良いんじゃけど。
被身子の事はひとまず置いておいて。保健室に向かおう。何故か保健室までの案内役に梅雨と常闇が名乗り出たわけじゃ。なので、今はだあくしゃどうの背中に横たわって運んで貰っている。もう眠くて眠くて、歩くことすら面倒じゃ。何なら話すことすら面倒なんじゃけど、そうもいかん。
じゃってほら。さっきから梅雨が話し掛けて来ておるし。
「円花ちゃん。ルールを守らなければ、それは
「……んん。あのなぁ、つゆ……。そんな事は分かっとる……」
人殺しはいかん。それは当たり前の事じゃ。その前提が有って尚、儂の考えは変わらない。悪党は……子供を傷付ける輩は殺す。じゃけど、被身子と離れたくないからの。今は我慢しようと思っている。それに、何だかんだで殺さずに済ませてきた。儂自身、殺すと言っては居るものの、結局殺すような真似は……しない。
殺してしまえば、悪党じゃ。別に儂一人が悪党になるのは構わないんじゃけど、被身子が付いて来てしまうからの。愛しい愛しい許嫁を、悪党なんぞにしたくは無いんじゃ。
儂はこれでも最大限譲歩しとるつもりじゃ。子供達を殺させないし、悪党も殺さずに捕らえてやる。まぁ、二度と悪さが出来ぬよう次から手足を吹き飛ばしても良いかもしれんが。
「殺す、なんて選択肢を私は取りたくない。円花ちゃんにも、取って欲しくないの」
「勝手にしたら、良いじゃろ……。儂も、勝手にする。んんっ、ふわあ……っ」
あぁ、欠伸が止まらん。目蓋が重い。眠くて眠くて、音が遠い気がする。だあくしゃどうの背中は寝心地が中々良くて……。不思議な感触をしとるくせに、こやつめ……。んん……。 もしや、被身子の次ぐらいに儂を寝かし付けるのが上手いのか……? じゃとしたら、まぁ……良いか。たまには許してやろう。
「……廻道。人殺しは禁忌だ。それはお前も分かってると思う」
「……んぅ」
まるで、儂が分かってないかの言い種じゃの……。分かっとるんじゃ、そんな事は。分かった上で、殺すべきと言っておる。分からん奴等め。そもそも、同意なぞ要らん。これは儂の主義の話じゃ。貴様等に貴様等の主義があるようにの。
だいたい、儂は殺すべきじゃと思っているし、何で貴様等が殺そうとしないのかも分からん。悪党は殺しておけ。殺せないと言うのなら、儂が代わりに殺してやるから……。
あぁ、もう。面倒じゃ。面倒で鬱陶しい。儂は殺す、貴様等は殺さない。それだけの話じゃろ? なんじゃってそんなに、儂を説得しようとするんじゃ。
「……んん、とこやみぃ。つゆぅ……」
「どうした?」
「何かしら?」
「……わし、もぅひいろお科、やめりゅ……」
「……、は?」
んん……。むにゃむにゃ、すぴぃ……。
◆
んん、ふわ……あ……っ。……。
……。
……。
……。
……ん、よく寝たの。時間にして二時間じゃけども、よく寝れた。また後で眠くなるんじゃろうけど、今は綺麗さっぱり眠気が消えた。保健室の
気になって視線を下に巡らせると、被身子が儂の膝に突っ伏して寝ておるわ。こやつ、授業はどうした? ……って、あぁ。そうか、普通科は六限目が終われば放課後か……。
しかし、困った。これは動けん。動いたら被身子が起きてしまう。次の授業には出なければならんのじゃけど……。良いか、別に出なくても。そんな事より、もう一度寝て……。いや、それは勿体無い気がするのぅ。こうも被身子が無防備に寝てるんじゃ。たまには悪戯のひとつやふたつするのも悪くない。が、変な真似をして起こすのは忍びない。
「……よく寝てるのぅ。儂も寝不足なんじゃけど?」
小さな声で文句を言いつつ、被身子の頬を指で突く。柔らかい。くすぐったいのか、それともおかしな夢でも見たのか、寝てるくせに笑っておる。どんな夢を見てるんじゃろうか? 儂の夢じゃったら嬉しいが……まぁ夢は夢じゃし。夢の中でまで儂と居て欲しいなんて強欲な事は……。
……まぁ、思わんでもない。じゃって、好きじゃから。愛してるから、被身子の全ては儂のものじゃ。そもそも、こやつは儂の女じゃし。
「……むにゃ……えへへぇ……」
能天気に寝惚けおって。いつまで儂の膝を独占してるつもりじゃ? まったく、被身子ときたら。良い、許すぞ。幾らでも儂に甘えたら良い。幾らでも甘やかしてやろう。
髪を撫でてみる。撫で心地が良い。ついでに頭も撫でてやると、更に儂の膝に頬を押し当てた。寝てるくせに甘えるとは、器用な真似をする。
……ううむ。困った。被身子の寝顔から目が離せぬ。特に意味もなく見詰めてしまって、何ならもっと触れたいなんて衝動が湧き上がってくる。
……。……………。
「ん……」
試しに、してみた。上体を屈めることで、何とか唇で耳に触れることが出来た。こやつは、いつもいつも儂の耳を好き勝手にしているからの。たまには仕返しじゃ、仕返し。こんな事、被身子が寝ている時にしか出来ぬ。起きてる時にしてしまったら、絶対に始まってしまうからのぅ。
何が? とは、わざわざ考えないようにするが。考えたら考えたらで、またしたくなってしまいそうじゃし。
……あぁ、もう。被身子はただ眠っているだけなのに、愛しくて仕方ない。もっと被身子に、触れたくなる。もっと被身子を、感じたくなる。
少し前の儂は、ここまで色呆けしてなかったと思うんじゃけど?
「……まっこと、愛しい奴じゃのぅ」
まさかこんな風に、こやつを愛する羽目になるとは。嫌な気は、不思議としない。むしろ、楽しいぐらいじゃ。
被身子を愛して、被身子に愛されて。それだけあれば、もう何も要らないような気さえしてくる。それはずっと前からそうじゃった筈なのに、今は以前よりも……。むしろ、より鮮烈になったというか、何というか……。
「……愛しとるぞ。じゃから、ずっと一緒に居てくれ」
……。……気恥ずかしい。こんな事、絶対に面と向かって言えん。逃げたくなるし、仮に言ってしまったら……それはまぁ大変な事になってしまうからの。流石に今日は身が持たぬ。明日とか、明後日ぐらいなら色々されたって良いんじゃけども。
もう一度、耳に
「ん……。んっ、……ちゅっ」
……いかん。なんじゃか楽しくなってきた。程々にしておくつもりじゃったけど、これは止まれそうにない気がする。
ま、まぁ。たまには良いじゃろ、たまには。いつも儂がせくはらされてるんじゃから! こうしてせくはらしたって!
いや……、何か、悪い気がしてきたの……。
被身子、お主こんな気持ちで儂にせくはらしてるのか? しとらんじゃろ。絶対してない。じゃって儂にせくはらする被身子は、もっとこう……楽しそうじゃし。でも、あと一回。いや、もう少しだけ……。
なんて、思っていたら。
「……」
「……」
被身子の目が、開いていた。片目だけ。左目が儂をじっと見詰めている。
……こ、こやつ……っ!? いったいいつから起きて……!?
「……おはようございます? 寝込みを襲うなんて、ヨリくんはえっちなのです……♡」
「ぃ、いつから起きて……!?」
「愛しとるぞ、の辺りからです。んふふっ、私も愛してますよぉ」
「おぐっ」
勢い良く押し倒された。枕に頭を打って視界が揺れる。き、貴様……! ここは保健室じゃぞっ。幾ら周りが
……いや、実は、良い……のでは……? 保健室には他には誰も居ないようじゃし。幕で遮られているのなら中で何をしてたって良い気が……。
「円花ちゃんのえっち。でも、大好きなのですっ」
「……儂も、大好きじゃよ。いつからか、どうしようもないぐらい」
「……! えへへぇっ。もぅ、我慢出来なくなっちゃいますよぉ……♡」
何言っとるんじゃ。元々我慢などしてないじゃろ、お主は。好きなように生きて来たくせに、我慢などと……。少し人生を振り返ってみたらどうなんじゃ? 胸に手を当てて考えてみろ。被身子の阿保、たわけ。そんなお主も愛しいけどなっ。
あとなぁ、手が早過ぎるんじゃけど? 何でもう、ぶらうすの
「……あんた等! ここはラブホじゃないんだよっ。起きたならさっさと授業に戻りんさい!」
……ちっ。どうやら人が居たようじゃ。
どれ、これ以上怒られる前に退散するとするか。りかばりぃがぁるは、被身子やえりが負った火傷を綺麗に治してくれたからのぅ。恩を仇で返すような真似はしたくないんじゃ。
被身子の手を取って、さっさと保健室を後にする。七限目の授業に出る気はしないんじゃけども、戻らなかったら後々面倒じゃ。自分から嫌いな奴に叱られに行くのは、好ましくない。
この後で。儂はくらすめえと達に詰め寄られることになる。何でも、儂が
……何でじゃ?
寝落ち寸前に言ったことを、まるで覚えてないポンコツ円花です。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ