待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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彼等の軋轢。亀裂

 

 

 

 

 

 

 円花ちゃんが寝ました。私の膝に座ったまま、すやすやなのです。カァイイねぇ、カァイイねぇ。私も寝不足なので一緒になって寝たいところですが、今は円花ちゃんの代弁役として一年A組の授業に紛れ込んでいます。普段円花ちゃんがどんな授業を受けているのか気になりますし、これはちょうど良い機会だと思います。

 で、その授業内容なんですけど……。まぁその、ここ最近の円花ちゃんからしたら退屈そのものな内容ですねぇ。今更ヒーローの殺人について教えられたって、つまらないでしょう。と言うか、学校自体つまらない可能性があるのです。だって円花ちゃん、ヨリくんはもう七十後半のお婆ちゃんですし。いや、お爺ちゃん……? まぁ、お年寄りなのは間違いないのです。

 

 とにかく。円花ちゃんの精神年齢は私達よりも遥かに上で。その割りにポンコツポンコツしてますし、挑発には直ぐに乗っちゃいますし、身長について弄られると怒りますし、おやつが大好きなお子様なんですけど。でも時折、すっごいえっちな顔でトガを誘惑するから困っちゃいます。ギャップが、こう……エグくって。あんな顔見せられたら、もう襲っちゃうしかないってぐらいに。

 

 そんな、私の愛しい愛しい円花ちゃん。そしてヨリくんですが、ヒーロー科を辞めるつもりみたいです。これは、私としては納得出来ます。円花ちゃんがヒーロー科に居るのは、将来呪術師として活動する為。その為のヒーロー免許は、別にヒーロー科に居なくたって取得出来ます。まぁ勉強や試験は大変でしょうけど、筆記試験の方は私が沢山教えてあげれば良いので。今度、二年の真綿ちゃんに相談しましょう。三年のねじれちゃんに聞くのも良いかもしれません。

 トガは出来る嫁なので、実は密かにヒーロー免許取得に必要な知識を蓄えています。って言っても、ほぼ丸暗記ですけど。見たところ、だいたいは法律関係が主だったので。

 実技の方は……円花ちゃんに頑張ってもらうしかないのです。でも多分、特に訓練なんてしなくても受かれると思います。なんたって私の許嫁は、この学校で一番強いので! そこは何の心配も要らないのです! 信じてますから!

 

「これは稀だが、世の中殺すしかない(ヴィラン)も居たりする。例えば、だいたい五十年前。イギリスに(ヴィラン)名アルノルトを名乗る凶悪犯罪者が居た。彼は個性の影響で人の血を吸わねば生きて行けない体をしており、生きる為に666人、ヒーローも(ヴィラン)も一般人も見境無く吸い殺した」

 

 ……ふぅん? そんな(ヴィラン)が、世の中には居たんですか。血を沢山吸って、血に溺れて……。多分、きっと幸せだったと思います。その人はその人らしく生きて、そして死んだのかもしれません。素敵な事だと思います。私もそうあれたらって、そんな世界になったらって思います。どうにもこの世の中は、生き辛いですから。円花ちゃんが居なかったら、トガはもっと生き辛くて今頃どうなってたかは分かりません。

 それはそうと、この授業……円花ちゃんが寝てなきゃ出来ない授業ですねぇ。起きてたら、多分嫌な気持ちになってたと思うのです。すっごく怒って、相澤先生を殴っちゃってたかも。

 

 そんな気がします。分かるんです。円花ちゃんとは、ちっちゃい頃からのお付き合いですから。

 

「数多の人々を、この男は自らの欲望の為に殺した。アルノルトは決して許してはならない。……だが、別の観点から見るとまた違った見え方がしてくる。当時は、国にも依るが個性カウンセリングが軽視されてたりしてな。お前達は個性が発現した頃と、中学の時にやったと思うが、……当時は(ヴィラン)犯罪を犯した者だけに実施されてた」

 

 ……。……個性、カウンセリング。ううん、何かこう……嫌いなんですよね、あれ。だって、思ったことをそのまま回答したら異常者扱いじゃないですか。

 私の時は、先に受けた円花ちゃんが「嘘八百を並べて良い子を演じておけ。お主の事は、儂だけ知ってれば良いんじゃ」なんて真剣な顔で言ったので、その通りにしました。幼いながらに独占欲を見せてくれて嬉しかったから、嘘八百を並べました。なるべく良い子と思われるように顔色を窺いました。そしたら、結構上手く行って簡単にカウンセリングは終わりました。……思えばあれは、円花ちゃんなりに私を心配して、守ろうとしてくれてたんだと思います。

 

 まぁ、カウンセリング結果を両親が信じてくれなくて、後で何度も何度もカウンセリングを受けさせられたりしたんですけどね。でも全部、嘘八百で乗り切って見せました。そしたら後で、それはもう大変な事にもなったんですけど。あの時の円花ちゃんは、見たこと無いくらい怒ってましたねぇ。

 

 ん、ふふ……。嬉しいなぁ、嬉しいなぁ。中々素直になってくれませんでしたけど、円花ちゃんはちっちゃな頃からトガを大事に守ってくれてたのです。それは今も変わってなくて。だから……今は嫌ってるんですよね。相澤先生の事。ここ数日、ヨリくんは相澤先生をゴミを見るみたいな目付きで睨むことが多くなりました。

 

 

「んん……」

 

 

 もぅ、そんな無防備にすやすや眠っちゃって。悪戯しちゃいますよ? 相澤先生がたまに睨んでくるので、しないですけど。だから後で、たっぷりしちゃうのです。口ではどうこう言いますけど、結局体は素直なので。最終的にはぜーんぶ受け入れてくれるって知ってるの!

 それはそれとして、取り敢えず口は塞いでおくのです。だって絶対、変な寝言を漏らしちゃうので。いつもいつも、いったいどんな夢を見てるんでしょうねぇ。私が夢に出てることは、間違いないんですけど。

 

「んぐんぐ……」

 

 ううん……。何か寝言を言おうとしてますね……。手のひらがくすぐったいのです。それに、肌を唇で食まれてるみたいで……昨夜を思い出してムラムラすると言うか……。もぅ、すっかりえっちなんですから。そうさせたのは、トガですけど!

 

「廻道は、……寝てたな。渡我、この(ヴィラン)をどう思う? 普通科生徒としての意見が欲しい」

「……んー。そうですねぇ……」

 

 何と答えるのが正解か、少し思考を巡らせます。正直に幸せそう! なんて言ったら絶対変な目で見られますし、かと言って嘘八百を並べるのも違うんですよねぇ。だってその(ヴィラン)、アルノルトさんは、血が大好きな人なんですよね? 私と一緒で、私とは違う道を歩んだ人。そう考えると、……はい。とても悪く言う気にはなれません。むしろ羨ましいぐらいで。

 

まぁその人がしたことは(・・・・・・・・・・・)良くは無かったですけど(・・・・・・・・・・・)

 

 五十年前がどんな時代だったかなんて、分かりません。トガは現代を生きているので。だけど、好きな事をしていたら咎められる世界なんて……生き辛いにも程があります。今の時代も、残念ながらそうなんですけど。

 別に、今に不満があるわけではないのです。円花ちゃんはカァイイですし、私の大事な大事な、たった一人の愛しい人。円花ちゃんが居たから、そして今も居てくれるから、私は世界でいっちばん幸せ! って胸を張って言えるのです。

 円花ちゃんはこの生き辛い世界の中で、唯一私が私らしく居られる居場所。きっとアルノルトさんは、そういう居場所を見つけられなかっただけで。私との差は、きっとそのひとつだけ。それでも、好きに生きてたんでしょう。私もそう生きたいのです。円花ちゃんとなら、きっとそう生きれます。

 

 ところで、何ですけど。ほんとに円花ちゃんがすやすやしてて良かったぁ。もし起きてたらと考えると、背筋が冷たくなるのです。隠し事はしたくないですが、これは隠しておかないと駄目なやつです。だって絶対、円花ちゃんは怒っちゃうから。私の為に、怒っちゃう。そしたら、また大変な事になってしまうので。

 

「アルノルトは、時代と個性が産んだ化け物だ。言ってしまえば生きている世界が違う。とは言え当時に、正しくカウンセリングを受けて正しい環境で生きられれば……666人もの被害者は出なかっただろう」

 

 あ、これ駄目です。ほんとの本当に駄目。今気付いたんですけど、円花ちゃん……いつの間にか起きて……。

 

「……」

「ま、円花ちゃん。起きました……?」

 

 出来れば、何も分かってないと良いんですけど。うっすら開いた目が黒板に羅列された文字を見て、それから相澤先生を睨み始めました。だからこれは、多分そういうことで……。

 咄嗟に円花ちゃんを、全力で抱き締めてみます。そしたら円花ちゃんは、私の腕を優しく撫で始めました。ちょっとくすぐったいのです。

 

「……」

 

 ……あれ? 何も言いませんし、また目蓋を閉じて寝ちゃったのです。あ、いや……これは狸寝入りですね。起きてます。でも、寝てるフリを始めました。

 何もなくてホッとした反面、どうにも不安なのです。次の瞬間には何かしでかしちゃうんじゃって、思ってしまうので。

 

「文献によると彼は最期、ヒーローに殺害された。直接手に掛けたヒーローは『これからの犠牲を考えたら、もう殺すしかないと思った』と供述している。この時殺害しなければ、もっと犠牲者が出ていたのは確実だろう。だが別の手が何処かにあったかもしれない。

 ……人殺しは正しいことではない。だが時には正しくなくとも、ヒーローは命を奪うことを迫られる。いずれそんな時に直面するかもしれないと、留意しといてくれ。

 

 世の中、やはりどうしようもない奴は居るからな」

 

 ……んん。これ、やっぱりマズいのです。円花ちゃんの目がうっすら開いて、相澤先生を睨んでます。また狸寝入りをしたみたいですけど、もう寝たフリすら満足に出来ていないのです。ただ目を閉じているだけで、バッチリ起きてます。授業が終わるまで、あと……三十七分。

 何事もなく終われば良いなと思うんですけど、同時に何が起きてもおかしくないとも思います。

 

「……私は、気にしてませんから」

 

 駄目元で、そう囁いてみます。円花ちゃんの目が、私を見ました。ジッと、穴が空きそうなぐらいに見詰めて……。やがて、私の腕から抜け出して、勢い良く立ち上がったのです。その際、机が揺れて大きな音が立ちました。

 

「おい廻道」

「……」

 

 円花ちゃんは、ヨリくんは相澤先生を一瞥して……教室を出て行っちゃったのです。その際、勢い良く扉を開けて勢い良く閉めちゃったから、かなり大きな音を立てました。これは、追い掛けなきゃ駄目です。放っておけません。直ぐに行かないと……!

 

「先生、連れ戻してきます」

「いや、常闇。放っておけ。勝手に授業を抜け出す奴など知らん」

「いえ、行きます。俺は廻道の友ですから、今のは放っておけない」

 

 ……意外にも、常闇くんが私より早く動き始めました。相澤先生の抑止を振り払って、教室を出て行っちゃったのです。っと、私も急がないと。こうしては居られないですねぇ。

 円花ちゃん、本気で怒ってました。でも、それと同じぐらい……きっと悲しんでて。常闇くんに続いて、私も教室を出ます。先を出た常闇くんは廊下を見渡していますが、円花ちゃんの姿は……もうないですね。ついさっき教室を出たばかりなのに、どこに行っちゃったんでしょう?

 

「常闇くん。私も行くのです」

「心強いです。一緒に探しましょう」

「はい。変なところで迷子になっちゃう前に見付けないと、ですね」

「俺は外を。渡我先輩は校舎の中をお願いします!」

 

 

 そんなこんなで。円花ちゃん捜索大作戦の始まりなのです!

 

 

 

 

 







三人称による補完は要りますか?

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  • 良いから一人称で突っ走れ
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