待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
儂はきっと、理解が出来ないのだと思った。
何故、悪党を殺しては行けないのか。法がそれを許さないから、というのは分かる。
じゃって。殺せば手っ取り早く、わざわざ捕らえる必要も無い。世に蔓延る悪党の数も、確実に減る。悪党の中にはどうせ殺されないからと高を括って、悪逆の限りを尽くす者が居るじゃろう。その手の輩が牢に叩き込まれて、反省するとは思えぬ。
誰かが殺して、誰かが恐れられなければならないのでは? 例えばおおるまいとのような、じゃけどおおるまいとには出来ないことをする、もうひとつの象徴が要るのではないか?
悪党犯罪の件数は、ここ二ヶ月近くで増えていると聞いた。原因は、おおるまいとの弱体化が世間に晒されてしまったから。あやつは依然として平和の象徴を続けているが、それでもその存在が掠れ始めているのは事実じゃ。じゃからこそ、早急に緑谷を次なる平和の象徴にしなくてはならない。なのにあの筋肉阿呆と来たら、呪霊を祓う為に日本中を駆け回っておる。こんな調子が続くのなら、いったいいつ緑谷はおおるまいとの後を継げるのか。いつまでもいつまでも、儂がおおるまいとの後継などと噂されるのは勘弁なんじゃけど?
……それはそれとして。授業を抜け出してしまった。被身子を感じながらうたた寝していたら、耳に入ってきた授業内容にどうしても苛立った。まるで、被身子の事を悪く言われているような気がしての。確かに、あるのると……? とやらはどうしようもない悪党じゃったと思う。黒板に書かれた文字を見た限り、時代と個性が産んでしまった化け物じゃったのかもしれん。個性を持ってるが故に、世間とは違う生き方をするしか無かった存在。
或いは被身子も、儂と出会わなければそうなっていたのかもしれん。悪党なんぞと被身子を重ねるつもりは無いんじゃけど、さっきは重なって見えてしまった。不愉快じゃ。腹立たしい。
まぁ確かに、悪党さながらな言動をすることは有るけれども。今日も制服の
それでも、許さんからな。後にも先にも被身子が口にして良い血は儂の血だけじゃ。他の誰かを
……で? ここは……何処じゃろうな。頭に来て授業を抜け出して、それから適当に歩いて校舎を出た。で、寮に帰りたいとも思わなかったから何となくそこらを散歩し始めたんじゃけども……。
「まぁ、良いか」
別に何処をどう歩いていようが、どうでも良い。今は何と言うか、独りで居たい。頭が冷えるまでは、誰とも顔を会わせたくないんじゃ。
……にしても、暑いのぅ。来週には九月を通り過ぎると言うのに、まだまだ日差しが強い。気温は高いままじゃし、いい加減にして欲しい。早く涼しくならんかのぅ?
……はぁ。何か、疲れてしまった。そんな時に目についたのは、日陰が多そうな森じゃ。雄英の敷地内は広過ぎる。訓練場は幾つもあるし、森林だってある。もう少し敷地を狭くしても良いのでは?
まぁ……大は小を兼ねると言うし。それに、広い方が何かと都合が良いのかもしれん。知らんけど。
取り敢えず日差しを避けたいから、森林に足を踏み入れる。何処からかそよ風が吹いているし、木陰が多いから涼しいのぅ。森の匂いは人を落ち着かせるとか言うし、どれ……少し森の中を散策するか。呪霊が出てこないとも限らんしの。帳は……降ろさなくて良いか。緑谷に駆け付けられても、今は鬱陶しいだけじゃからな。
こうして森の中を気ままに歩くのは、游雲を見付けた時以来か。
……涼しい。そこらに虫の姿が見えるのは鬱陶しいが、木陰の中は居心地が良いものじゃ。
「……はぁ。まったく、どいつもこいつも……」
ここ最近は、嫌な事ばかり続いている気がする。別に、人生何でも上手く行くものじゃない。時には誰かと意見がぶつかることもあれば、儂の都合など蔑ろにされることもある。それは分かっている。分かっているけれど、納得は別じゃ。じゃから、こうして不貞腐れて。我ながら子供じゃの。
これから、どうするべきかのぅ。周囲を拒絶して、孤立するのは簡単じゃ。何も考えなくて良いから、出来ることならそうしたい。そうしたい、が……。
相手は、子供じゃからなぁ。まだまだ夢見がちな子供で、目標の為に努力している。だからこそ綺麗事を口にして、それが正しいのだと主張するんじゃ。分かってる。分かってるんじゃ。表向きだけでも、儂が子供達に合わせるべきじゃと。肉体はともかく、精神的には老人じゃしな。普段は見守って、時には叱って。そうやって子供を大人に導くのが、大人の役割なんじゃ。
人殺しはするべきではない。してはならない。そんな事、大人が子供に真っ先に教えることじゃ。その大人が人殺しを選んでしまうのは、子供の教育によろしくない。
やはり、子供達の前では人殺しは選べぬか。選択肢からも除外した方が良い。人殺しを視野に入れるのは……儂一人の時だけにしよう。少なくともくらすめえと達が大人になるまでは……殺さないでおくか。
まったく。我ながら子供に甘過ぎる。こうやって甘やかすから、被身子は際限無く調子に乗るようになったのでは? しかしあやつの場合、叱りつけたところでじゃな……。そもそも叱りたくないしの。じゃって自由にしてる時の被身子は、それはもう良い笑顔で笑うんじゃ。その笑顔をいつまでも見ていたいと思ってしまうから、こう……つい甘やかして……。
「……もういっそ、縛りでも結ぶか?」
そうでもすれば、嫌でも殺せなくなる。緑谷かおおるまいとか、その二人のどちらかと縛りを結んでしまえば良い。そうやって無理矢理殺意を抑え込んでしまえば、少なくとも儂が人を殺すことは無くなる。筈じゃ。罰を受けてでも殺してしまう可能性は、無いとは言い切れん。
殺したいものは殺したい。この考えはとても改められそうにない。
「ああ゛っ、もうっ!!」
あれこれと考えていると、次第に苛々して来た。ので、感情のまま近くにあった木を呪力を込めて殴る。鈍い音がして、殴った木は結構太いにも関わらず折れてしまった。周囲の木々にぶつかりながら倒れていくものじゃから、結構な騒音が立ってしまった。その音に驚いたのか、近くの枝に止まっていたであろう鳥達が一斉に空へと飛んでいく。
……あぁ、虚しくなってきた。八つ当たりなんてしたところで、何が変わることは無いのになぁ。
「殺さなければ、何も守れぬじゃろうが!!」
もう一度、目についた木を殴る。虚しさが増した気がする。
「言葉で悪党が止まるなら、儂はとっくにそうしてた!!」
言葉では誰も止まらぬから。誰も分からぬから、殺すことで止めてきた。
「殺すことで、儂は守り続けて来た! 助け続けて来たんじゃ!!」
沢山の恵まれなかった子供達を、人殺しを以て助け続けた。守り続けた。そんな方法しか知らない。そんな方法でしか、儂は守れない。
……苛立ちを、文句を、怒りを、不満を。
腹の内で渦巻き始めた感情を、吐き出し続ける。癇癪を起こしている自覚はある。が、どうにも止まれない。虚しさも増し続けて、何が何だか分からなくなってくる。
……こんな姿は、とても被身子には見せられない。あぁ、もう……。何をしとるんじゃろうな、儂は。これ、後で絶対叱られるやつじゃ。もう何本の木をへし折ったのかも分からん。気が付けば周囲の木々が軒並みへし折れている。……弁償したら許して貰えんかの? これは両親にも叱られてしまうなぁ……。はぁ、しでかしてしまった。
無気力に、地面に座り込む。こうも感情が荒ぶったのはいつ以来か。被身子に振り回されてる時でも、ここまで暴れたことはなかったぞ?
情けない。自己嫌悪が凄まじい。
……はぁ。切り替えるとしよう。とにかく、じゃ。人殺しは選択肢に入れぬよう気を付けなければ。殺意は、どうにか抑え込むとする。消し去ることが出来れば簡単なんじゃけど、こればっかりはの。憎いものは憎い。また治崎のような悪党が現れたら、儂はまた殺意に囚われてしまう。そしてそれを、どうしても悪いことだとは思えぬ。
「廻道っ!」
誰かが儂を呼んだ。何事かと思い空を見上げると、そこにはだあくしゃどうの背に立った常闇が居た。気が付けばそれなりに時間が経っていたようで、もう夕暮れじゃ。しかしまぁ、あの鳥頭が空を飛んでいる姿は妙に似合っているの。貴様は便利じゃの、空が飛べて。悩み事とは無縁そうじゃ。
「……いったい、何をして……」
「八つ当たり。少々やり過ぎた」
「これが、少々……?」
なんじゃ貴様。戦慄しおって。まぁ確かに周囲の木々は軒並みへし折れているがの。
「で? わざわざここまで飛んで来て、どうしたんじゃ?」
「それは愚問だ。心配だから、追って来たまで」
「円花ァ! 元気ダセ! ナッ!?」
心配? 心配を掛けた覚えは無いんじゃけど。何かだあくしゃどうが涙目で近付いてくるから、取り敢えず頭を撫でてやるとする。不思議な感触じゃのぅ、こやつ。寝心地は存外悪くないんじゃよな。運ばれ心地も嫌いではない。
いつぞやに被身子がかぁいいは正義などと言っていたような気がするが、今になって実感出来たような気がしないでもない。だあくしゃどうは、かぁいい。儂、覚えた。
「……いったい、どうした? 五限目から、らしくない」
「誰じゃって些細なことで不機嫌になるじゃろ。もう平気じゃ。見ての通り、八つ当たりもしたしの」
それと、だあくしゃどうもかぁいいしな。存外平静を装っていられる。胸の苛立ちと虚しさは消えぬが、まぁ隠しておけるじゃろう。被身子には見破られるじゃろうけど、常闇なら平気じゃ。実は結構阿呆じゃからの、こやつ。名付けは下手じゃし、思春期特有の変な病気に罹ってるそうじゃし。時間が経てば治るらしいが、いったいいつになることやら。
まぁ、分からんでも無いが。男子ってのは、どうしても変な素振りを見せるものじゃから。儂もこやつのような時期が……無いな。うむ、思い返してみても無い。さては特効薬が必要なんじゃないか? 厨二病とやら。
「……嘘は止めてくれ」
「嘘ではない。もう平気じゃ。戻って叱られんとな。ほら、校舎まで案内してくれ」
また迷子になると、周りが喧しいからの。別に良いじゃろ、独りで出歩いたって。儂にじゃってそんな気分な時があるんじゃ。
「廻道。見くびらないでくれ」
「貴様を? まぁ実力はまだまだじゃと思っとるが、別に見くびってなど……」
「俺は、お前を見て来た。ずっとだ。だから分かる」
「何が?」
まぁ、中学からの付き合いじゃからの。儂の交遊関係の中で、被身子の次に長いのがこやつじゃ。その次が舎弟で、その次が緑谷。あとはくらすめえと達だけで。……ん? 儂、もしや友人が少ないのでは? もしや被身子の交遊関係をどうこう言えない程度に友人が少な……。い、いや、そんな筈は無いとは思う。無いよな……? 無いったら無い……!
で、じゃ。何でこやつは儂を睨むのか。何がそこまで気に食わないんじゃ常闇。
「……理由は分からない。でも、廻道が傷付いたことぐらい、……分かる」
「……」
……。……どうも、ここ最近は腹の内を見透かされているような気がしてならない。解せぬな。そこまで分かり易いのか儂は。子供にここまで見透かされるのは、呪術師として情けない気がしてならん。この辺りは改めた方が良いのぅ。ううむ……。
「だから、傷付いたなら……嫌な気持ちになったなら、少しは支えさせてくれ。俺とお前は、友だろう?」
「……」
友。そうじゃな、お主とは確かに友じゃよ。親友と言っても良い。儂自身、そう思ってるからな。じゃけど、じゃからって何でもかんでも話したいとは思えん。親友とて話せないことはある。儂は、人に被身子の事を話すつもりはない。
「……ヒーロー科を辞めようとしてること、クラスに広めてすまなかった。俺は、お前に辞めて欲しくなんかなくて、だから言ってしまった。
俺一人じゃ、廻道の考えを変えれないと思ったから」
「……情けない奴め。だいたい、何で儂に辞めて欲しくないんじゃ? 儂が辞めて、何か困るわけでもないじゃろ」
「……それは」
視線を逸らされた。と思ったら、また真っ直ぐ見詰めてきた。何じゃ? お主、何が言いたいんじゃ? そんな意を決したような面をして。
「……俺は、廻道の隣に並び立ちたい。負けたくないんだ。
だから、目標が無くなるのは……困る」
それはまた、随分と身勝手な。儂に負けたくない? なら、もっと鍛えろ。儂を気に掛けてる場合か貴様。雄英を卒業するまでの残り時間、……あと二年半程か? を、鍛練だけに費やして見せろ。十八になる頃には、今より遥かに強くなれるじゃろう。それでも儂と並び立つなんて事は出来ぬがな。常闇が幾ら成長しようが、負けてやるつもりはない。
「ヒーロー科、辞めないでくれ。俺はまだ勝ててない。それと、……人殺しはしないでくれ。廻道が人を殺すところなんて、見たくない」
「……儂はいずれ人を殺すことになる。いつまでもいつまでも、抑え込んでられないからの」
殺意は、消えない。誰に何を言われたって、絶対にじゃ。例え
「なら、俺が止める」
「は?」
「俺が、力ずくでも止める」
「綺麗事じゃよ、それは。お主に儂は止められない。……まだまだ弱いからのぅ」
「……っ、それでも……止める!」
「無理じゃ。百年早い」
常闇の実力では、どう考えても無理じゃ。将来的に可能性は……無いとは言い切らないでおくが、可能性は限り無く低い。
「儂は、悪党は殺すべきじゃと思っとる。……まぁこれからは殺害は視野に入れぬつもりじゃが、それでもこの考えは変わらぬよ。
儂は子供を傷付ける大人を許さない。絶対に、絶対に許さない。じゃから殺したい。これは、ひいろおとは相容れぬ考えじゃ」
決して、交わることは無いのじゃろう。この話は、幾らしたところで平行線じゃ。儂の考えは変わらない。くらすめえと達の考えも、変わったりはしないじゃろう。
「……まぁ、そんなにひいろお科を辞めて欲しくないなら、……辞めないでおいてやる。ひいろお科に居る以上、人殺しもしないよう努める。これでこの話は終いじゃ。ほら、さっさと寮まで案内して……」
「っ、嫌だ!!」
……。……わがままを言いおって。何が気に食わないんじゃ貴様。駄々を捏ねるなとは言わんが、今回ばかりは素直に聞き入れて欲しいものじゃ。せっかく儂が、我慢すると決めたんじゃからな。
「妥協なんてするな! そんな顔で、話を終わらせようとしないでくれ!」
「……」
「俺は、人殺しなんてしない。させない! 廻道の考えは、受け入れられない……! だけど!」
珍しい、と思う。こやつがこうも、儂に対して感情を昂らせるのは。いつも呆れた表情をして、それでも儂の面倒を見ようとする。それがこやつの筈じゃ。こうも剥き出しの感情を見せるのは……体育祭で儂と戦った時以来か。
「ここでお前に妥協なんてさせたら、俺はもう廻道の友で居られなくなる……!」
「……別に、儂が妥協したとしても友であることは変わらんよ。何をそんなに」
「分からないのか!? 廻道が大切だからだ!!」
……面と向かって、叫ばれた。感情が昂り過ぎているのか、だあくしゃどうの様子がおかしい。儂の手の内を離れ、黒く渦巻いて、常闇を取り込もうとしているように見える。まったく、仕方のない奴じゃな。少し落ち着け。辺りが暗くなり始めている。これは、……いかん気がするの。
「お前が人殺しを肯定するなら……! 人を殺しそうになったら、俺は必ずそれを止める! 殺させたりなんか、しない……!!
だから! そんな顔で、そんな事を言うな!!」
暗闇が、膨れていく。だあくしゃどうが、巨大化しているの。どうしたものかの、これ。常闇を気絶させれば元に戻るか? 暴れ出さなければ良いんじゃけども……。仕方ない。暴れ出した時の事を考えて帳を降ろしておくか。下手をすると、常闇の個性が暴走して森林を破壊した……なんて事になりかねん。まったく、世話が焼ける。感情を昂らせて個性を暴走させるなど、まだまだ鍛練が足りぬぞ貴様。
……それにしても。大きいのぅ、だあくしゃどう。そう言えば、この姿と手合わせしたことは無かったか。
「……味見。と、言ったところかの」
ひとまず、止めてやるとしよう。話は、後でまたすれば良い。
円花を見付けたのは常闇くんが先でした。トガちゃんは校舎を駆け回ってることでしょう。という訳で急遽開戦、VSダークシャドウ(暴走)
サブタイトルを『叫べ! 常闇くん!!』にするかで悩みました。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ