待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
夏休み。八月七日。今日は被身子の誕生日じゃ。じゃから儂は、今日一日は被身子に尽くさなければならん。受験勉強も呪具作成も一旦お預け。と言うか今日は忘れても良いじゃろう。
ほれ、何でもしてやるぞ。望みを言うてみい。
何て軽い気持ちで言った儂を、今すぐ殺したい。いや、何をしてでも止めたい。過去に戻れる術式はないか? そうか、無いか。ならば諦めるより他は……。
……。
嫌じゃ! 儂諦めたくない!! 今すぐこやつの魔の手から逃げ出して見せる!! 済まんな被身子、お誕生日おめでとう!! 産まれてきてくれて感謝しているぞ!!!
「あはっ。そんな格好して……誘ってるんですか?」
「誘っとらんわ!!!」
誘っておらん誘っておらん! こんな格好しろと言ったのは貴様じゃろ!! なんじゃこれ、なんじゃこの格好は!!
服に疎い儂でも分かるぞ! この格好は正気じゃない!! 狂気の沙汰じゃろこれは!!!
なあ!!! どの時代にりぼんで裸を着飾る文化があるんじゃ!!! あ、この時代か……。
おい、狂っとるのかこの時代は???
……で、聞くが被身子よ。らぶほてるってなんじゃ? この桃色の部屋は? ここに一泊するんか? 休憩三時間? 休憩したいなら家に帰るなり、茶屋に入ればよかろうて。
ところで、何でお主も、りぼんなんじゃ?
お揃いが良い? そうか……。まぁ儂一人でこんな格好をするよりは良いか。いや、ちっとも良くないが。
「んふふっ。来てみたかったんですよね、ラブホテル。入れるところ探して良かったぁ」
貴様。最近何か調べてると思ったらそれか。何故母と父はこやつに資金を与えてしもうた。いや、誕生日じゃから二人で楽しんで来いと言ったのは母と父じゃけども。
で、ここは何をする部屋なんじゃ。何じゃこの寝具の形は。座り心地は悪くないのに、何でこんな形をしているんじゃ。それと、何で照明の色まで桃色をしておるんじゃ。目に悪くないかこれ。変な眩しさがあるぞ……。
おい。腹を抱き寄せるな。後ろから密着して耳に息を吹き掛けるな。然り気無く太ももを撫でるな。
「円花ちゃん、お誕生日おめでとうございます。同じ日に産まれたなんて、運命なのです」
「……お主こそ、おめでとう。今年で十六か。時の流れは早いもんじゃのぅ」
「本当にそう思います。あと、二年ですね」
「お主はな。儂は三年じゃ」
「どうせなら同い年が良かったのです。あと一年早かったら良かったのに……」
「そればっかりはな。仕方ない事じゃろ」
生まれる日は自分じゃ得られぬ。選ぶことが出来るようになったとしても、選びたいとは思わぬな。
ただ、今ばかりは、もう一年早く産まれたかったと思う。そうしたら仮初めの夫婦などではなく、本当の夫婦になれるんじゃがなぁ。
これでも申し訳なく思っとるんじゃよ。お主は儂より早く十八になるのに、そこから更に一年も待たせることになるのは。
「……おめでとう被身子。いい加減、儂はお主無しじゃ生きて行けぬじゃろう。そう思うと、出会えて良かった」
「それは、私もです。あの日、円花ちゃんに出会えて嬉しかった。トガは……きっとあの時、救われたんです」
「大袈裟じゃよ。あれは儂の為だ。子供が笑えない世界は嫌いなんじゃよ」
そうじゃ。子が笑えぬ世界などあってはならぬ。そんな世界になれば良いと、あの頃から儂は……。
止めよう。今日は被身子の誕生日なんじゃから。こやつが笑えるように努めるべきじゃ。
「でも、色々……いっぱい。全部全部、ありがとう。
私、早く廻道家の子になりたいです。輪廻ちゃんがママなら良いのにって、おじさんがパパなら良いのにって……何回も思ってて。だから……」
「それは去年も聞いた」
「何度だって言いたいのです。何回でも、何十回でも……」
「……」
あの日の儂の選択が正しいものだったかは、今となっては分からん。あの時はそれで良いと思ってたんじゃ。でも時々、もっと他にやりようが有ったんじゃないかと考えてしまう。無駄な思考だと言うのにな。
あの夫妻は駄目じゃ。親のくせに被身子を見放しおった。関わろうとしなくなった。そうなったのは、儂の自己満足が原因じゃろうて。
……忘れるなよ。廻道円花。そして、加茂
こやつから親を引き剥がしたのは儂じゃ。子供には親が必要なのに。こやつが人と違う部分を持ち合わせているのは、きっとそのせいじゃ。
だから、その責任は最後まで取れ。呪術師として一人で死ぬな。こやつと生きて見せろ。悔いの無い死に方をしろ。
その為に、やれることは全てやっておけ。
何度でも、何度だって誓うぞ。儂は被身子と共にある。それを違えることは、許さんからな。
「大好きです。愛してます」
「……ああ、儂もじゃよ」
「言ってくれないんですか?」
「言わせてみせい。言うておくが、儂の口は固いぞ?」
「固くないですよぉ。だって円花ちゃん、弱々ですもん」
おい。誰が弱いって? いい加減にしろよ貴様。
よぅし分かった、今日と言う今日は分からせてやる。覚悟しておけよ。手加減なんて、儂は一切してやらんからな!
「っ、ま、円花ちゃん……?」
「何じゃ? ほら、儂は弱いんじゃろ? じゃったら被身子は、儂に勝てるよなぁ……?」
今日は尽くしてやると決めている。とは言え愛してるは別じゃ。それを言って欲しいと思うなら、言わせて見せよ。今日は勝てると思うなよ。そろそろ負けっぱなしは癪なんじゃ。
どうするんじゃ被身子。簡単に組敷かれてしまったなぁ。ほれほれ逆転してみせい。出来んじゃろうがな。ふふん、情けない奴め。
あれ?
視界が反転しおった。おかしいの。儂、被身子を組敷いた筈じゃが? 見下して居たんじゃが? 何で被身子が上になっとるんじゃ? 何で手を寝具に押し付けられてるんじゃ?
おい、ちょっ、待て……待たんか……っ。不敵に笑って見せたんじゃぞ! もう少し、もう少し儂の番で良いじゃろうが!!
待て、今その笑顔は止めい。期待してしまうじゃろ。止めんか、迫るな、やめ……っ!
んん……っ。
「もぅ……ドキドキしちゃいました。あんな真剣な顔で押し倒すなんて。
して良いってことですよね? 時間は、たぁっぷりありますもんね!」
「お、おい待てっ。今日は儂がするんじゃ! たまには儂に抱かせんか!!」
「んふふっ。円花ちゃんじゃ、トガを抱くなんてまだまだ無理ですよぉ。だって、今……」
「全然抵抗してなかったのです♡」
ぅ、うるさいわ。たわけ……っ。今日は儂の誕生日でもあるんだぞ!
して欲しいと思ったって、別に良いじゃろうが……っ!
円花の前世の名前は加茂頼皆です。
さて次回は入試です。あとアンケート出しておきますね。投票期間は今晩0時までとします。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ