待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
くぁ……。んん、……んぅ……。眠い。昨晩は呪霊を祓って、朝方に寮に戻ったのが儂じゃ。あと緑谷も。そのあと朝食を摂って、三時間は寝た。一限目と二限目を睡眠に当てたから、三限目からは授業を受けていたわけじゃ。で、五限目になったら放課後まで寝てしまおうと思ってたんじゃけども、何やら今日は座学ではなく実技訓練でのぅ。そのせいで、寝るに寝れん。座学じゃったら机に突っ伏して寝てられたんじゃけど……。
こうなったのは、被身子がくらすめえと達を煽ったからじゃ。昼休み、何やら相澤に嘆願してるところを見た。儂と手合わせしたいとか、戦って勝ちたいとか、どうとか。別に授業の場でなくとも、手合わせしたいのならいつでも言えば良いものを。わざわざ授業中でなくても良いじゃろ。まったく。
と言うかじゃな。儂、今晩も総監部からの依頼をこなさねばならぬ。今回は雄英の外に出ることは無いんじゃけど、
……あぁ。二年しぃ組に行くのも有りじゃの。被身子を抱き枕にしたいし、何なら寝かし付けて欲しい。そしたら夜までぐっすり眠れる。起きれない可能性が有るのが、欠点じゃけども。
で、じゃ。儂を除いたくらすめえと達が、遠く離れたところで何やら話し合っている。聞き耳を立てると……儂の事について話しているような、そうでないような。まぁ好きにしたら良い。今回の訓練は、儂との手合わせ。実戦形式でやるそうじゃ。細かな決まりは聞き逃した。じゃって眠かったし、相澤の言葉はどうでも良いんじゃ。もう二度と聞いてやらん。聞かんと決めた。ふんっ。せいぜい儂の扱いに手を焼いておれ。除籍したいなら、すれば良い。普通科でも英雄免許を取れると知った今、
「……そろそろ始めるぞ。ルールは理解したな? どちらかを贔屓するつもりは無いが……それでも見せ付けてやれ」
るうる? 何じゃったっけ? 最初からなに一つ聞いておらん。まぁ、やりながら子供達に聞くとするか。
この実戦形式の手合わせは、正直に言うと気が乗らん。そもそも意味が分からん。要は儂に
「廻道さん!!」
何が何だか分からぬ内に、手合わせが始まった。緑谷が呪力を纏いながら、個性を使いながら儂に向かって駆けてくる。距離はまだ遠い。あやつの持つ力を考えれば有って無いようなものじゃけど、それでも数秒は掛かる。数秒あれば、十分じゃ。
「……百斂」
両手を、叩き合わせる。相手が誰であろうと、距離があるのなら儂はここから始める。穿血は相手の実力を測るのに丁度良いからのぅ。対処出来るのなら見込み有り。対処出来なければ見込み無しじゃ。儂が本気で穿血を撃つ時は、そういう意図で撃っておる。そう言えば、緑谷に向けて穿血を撃ったことは無かったかの。このまま緑谷に向けて放っても良いんじゃけど、正直に言うとこやつは大した脅威ではない。この一対二十の手合わせの中では、対処するのは最後の方で良い。
じゃから。最初に儂が狙うのは二人じゃ。一人は轟。とことん相性が悪いからの。そしてもう一人は、……八百万じゃ。
「穿け、……ふわぁ……」
いかん。欠伸が出る。意識が散漫のまま穿血を放ってしまった。子供を殺すつもりは無いから、威力も速度も普段よりは抑えてある。何せ、指の隙間から血が漏れる程度の圧縮率じゃからの。速度も威力も大したことない。が、子供達にはこれで十分じゃろう。狙いは多少逸れてしまっているが、それでも八百万に当たる軌道で飛んで行く。が。
「八百万、危ねえっっ!!」
穿血の軌道に、切島が耳障りな音を立てながら割って入った。顔面の前で交差した両腕、どころか全身を硬化させた姿で穿血を受ける。何じゃあれ。あやつ、硬化した時あんな姿じゃったか?
加減しているとは言え、穿血は防がれてしまった。ので、重ね合わせた両手を右へ振るう。初撃は割りと簡単に防がれてしまったが、じゃからって轟や八百万だけに拘るつもりはない。まだ放出中の穿血の軌道を変える。が。
「あっぶな!?」
「当たらないよ☆」
「案外大したことねえな!?」
誰も彼もが、穿血を避けて見せた。まぁこのくらいはの、避けて当たり前じゃ。誰一人穿血が当たらなかった事に少々感心した。全員、動きは悪くない。後で褒めてやっても良い。と、思っていたら爆発音が響いた。舎弟が宙を飛びながら儂に近付いて来ているのぅ。
「クソチビィ!!」
「ばっ、ちょ……! バクゴー先行し過ぎ!!」
「てめえ等が遅すぎんだよ!!」
もう一度百斂をする余裕は……有るな。圧縮が終わる頃には緑谷や舎弟が目の前に来てそうじゃけど。ところで、姿を眩ました者がおるの。八百万と葉隠の姿が見えん。そこらの岩陰に隠れたか?
と言うか、各々が散り散りになりながら儂に向かっているの。ひとまず、儂の前に居る二人を軽く吹き飛ばすとするか。
「穿け―――」
「させない!!」
距離を潰した緑谷が、儂の両手を蹴り飛ばした。穿血の対処としては悪くない。が、その後どうなるかを想像出来てないように思える。穿血に対処される場合どうするか。それを赤血操術者が考えない訳が無かろう。
「死ぃいねやぁあああ!!!」
姿勢が崩された所に、舎弟が突っ込んで来た。から、後ろに跳ぶ。緑谷により穿血は事前に防がれた。が、百斂自体は済んでいる。じゃからその分の血液は、手を構えた位置にそのまま残しておいた。
「爆ぜろ」
圧縮した血液を、遠隔にて解き放つ。血液は全方位に向かって炸裂。それは、緑谷と舎弟に直撃した。
「い゛っ!?」
「効くかぁ!!」
まぁ、咄嗟に防御はされたんじゃけどな。手傷を負わせることは叶わなかった。と言うかそもそも、傷付けるような威力にならん程度の百斂しかしておらん。これはつまらん手合わせじゃが、じゃからって子供に怪我をさせるつもりはないからのぅ。
つまり、じゃ。血液を爆ぜさせたのは攻撃の為じゃない。儂の血液を、二人に付着させる為じゃ。あのなぁ、貴様等。儂の血は防ぐことより避けることにしろ。血液を付着させられたらどうなるのか、体育祭で経験しとるじゃろ?
緑谷と舎弟。二人に付着した血液を操作して、二人の肉体を激突させる為に引っ張る。
「ばっ、避けろクソデク!!」
「か、かっちゃんこそっ!?」
鈍い音がした。まぁ体が勢い良くぶつかったんじゃから、当然じゃ。その瞬間、赤縛で二人の体を纏めて縛り上げる。舎弟が抜け出そうとしないように、両手は儂の血で固めておく。緑谷に力ずくで赤縛を破られぬよう、特に緑谷は厳重に縛っておく。手足どころか、指先すらろくに動かせぬように。
こうして、二人の体は地面に転がった。当面動けぬじゃろうが、念には念を入れておくか。倒れた二人の顎を蹴り跳ばしておく。加減しているから気絶……はしとらんが、これでしばらく動けぬじゃろう。
さて。後、十八人か。
「こっちだ、頼皆!!」
右から飯田の声がした。と思ったら正面から瀬呂の個性やら峰田の個性、芦戸の個性に青山の個性が儂を狙って跳んできた。ので、峰田の個性だけは血で弾き後は呪力で受ける。うむ、大した威力ではない。単純な威力なら、舎弟を越える奴は居ないようじゃ。その舎弟は地面に転がっておるから、脅威はひとつ消えたと見て良い。まぁ、気絶しとらんから後で動いてくるとは思うが。
ところで、葉隠は何処に行った? 麗日の姿も見えん。となると、何処かに隠れているんじゃろう。面倒じゃ、姿を炙り出すとするか。なんて、考えていると。
右から風切り音がした。のでその場でしゃがみ体を下げる。直前まで儂の体があった位置を、飯田の足が通り抜けた。
「レシプロ……、バースト!!」
そのままの姿勢で居ると、飯田の速度が上がった。ここでいきなりそれを使うのか。まぁ、少しでも儂を倒す可能性を上げるのならそうなるか。速度と勢いが乗った回し蹴りを、試しに片腕で受けてみる。衝撃は、そこそこじゃの。呪力が無ければ吹き飛ばされていたじゃろうが、飯田の蹴りぐらいなら呪力さえあれば問題なく防げる。と思ったら。何かが儂の顔目掛けて飛んできた。それを首を傾けることで避けつつ、飛んできた方向を見る。どうやら儂に物を投げ付けた輩は、上鳴らしい。儂を指差して、……何じゃ? 何をする気じゃ?
仕方ない。受けてやるとするか。得体の知れない攻撃を受けるのは悪手じゃが、それよりも好奇心が勝る。何をするんじゃろうな、上鳴。
「ふっ!」
二度、三度と飯田の蹴りが続く。避けたり防いだりしていると、視界の隅で何か光った。と思ったら。
「ぐえっ」
全身が、軽く痺れた。呪力をしっかり纏っていなければ動けなくなっていたかもしれん。これは、上鳴の個性じゃの。近距離でしか当てれぬものじゃと思っていたが、いつの間にか遠距離にも対応しておる。阿呆にもなっとらんようじゃし、この遠距離攻撃は中々に厄介じゃ。何せ光ったと思ったら体が痺れるからのぅ。
しかし、どうやってここまで電撃を? あぁ、さっき投げ付けて来た何かが作用してるのか。詳しい事は、知らんけども。今は知りたいとも思わん。
「えっ、当たってんのに動けんの!? 呪力ずりーー!!」
「馬鹿、手を止めるな! 援護続けろ!」
「分かって、っけどよぉ!!」
また、瀬呂の個性が飛んでくる。峰田の個性も。どちらも素直に受けると動けなくなってしまうからのぅ。血を飛ばし、薄い壁を作る。同時にその場から真上に跳ぶと、飯田が付いて来た。空中から戦場を俯瞰すると……。ううむ、やはり何人か姿が見えぬの。葉隠が見付けにくいのは仕方ないとして、他の連中は何処で何をしてるんじゃ? 今姿が確認出来るのは、瀬呂と峰田と芦戸。上鳴に切島、砂藤。後は飯田。さっき動けなくした緑谷と舎弟。おい、九人しか姿が見えぬが? 後の十一人は何処に消えた?
ぬおっ。鳥が飛んできた。前が見えん。これは……口田の個性か。状況確認の為とは言え、宙に躍り出たのは良くないか。いやしかし、このくらいの隙は見せてやらねばな。手加減は大事じゃ。なるべく怪我人を出さずに立ち回るつもりじゃし。
「う、ぉおおっ!!」
飯田の蹴りが再び迫る。ので、その蹴りに足裏を合わせる。ちょうど足場が欲しいところでの、追い掛けて来てくれて助かった。
「よっと」
「何ぃ!?」
蹴りを足場とし、もう一度跳ぶ。鳥が付いて来て鬱陶しい。全部殺すか? いや、口田に悪い気がするから止めておこう。視界が遮られるだけじゃし、まぁ大丈夫じゃろ。周囲はろくに見えぬが、取り敢えず着地をじゃな……。
「捕ったぁあ!!!」
腕が掴まれた。同時に体から落下感が消えた。麗日じゃ。どうやら鳥に隠れて儂に近付いたらしいの。それ以前は何処に隠れてたんじゃ貴様? ……まぁ良い。好きにしてみろ。このまま空中で儂を捕らえられるならそれで良し。捕らえられぬなら、仕方なし。くらすめえと達は、まだまだ未熟じゃからの。
あ、そうじゃ。
「麗日、るうるって何じゃ?」
「へ?」
「いや、聞いてなかった」
「えぇ……っ? つ、捕まえるか、気絶させるかやけど。あと、時間制げ」
「そうか。ありがとう」
儂の腕を掴む麗日の手を手繰り寄せ、僅かな距離すら潰す。無重力の中で体を動かすのは大変じゃの。殴っても効果はなさそうじゃし、となると殴るより締める方が早そうじゃ。体重は失ってしまったが、まぁ大丈夫じゃろ。
手繰り寄せた麗日に抱き付き、背中に腕を回す。被身子以外の誰かの胸に顔を埋めても何も嬉しくないんじゃが、こうしないと有効そうな手が打てんからの。
「あ、痛いから覚悟するんじゃぞ?」
「え?」
思いっきり、麗日の体を抱き締める。狙いは肋骨、あと背骨。ついでに胸骨もか。へし折るつもりは無い。が、多少は痛め付けるとしよう。
「ぁっ!? い゛っだだだだだぁあっっ!!?」
みしみしと音が鳴っている。気がする。大丈夫じゃ麗日。骨は締め折らないでおいてやる。ただ、折れぬ程度に締め続けるがの。ほれほれ、どうするんじゃ? このまま続けてても儂は構わんぞ?
「う、ウラビティっ!?」
下の方から緑谷の声が聞こえた。どうやら、回復してきたようじゃ。となると、もう暫くしたら赤縛を破って動き始めるじゃろう。いや、決まり的にはもう動いてこないのか? 一度捕らえたわけじゃし。
「〜〜〜っっ! こん、のぉお!!」
麗日が、儂の腕を振り払おうと足掻く。が、まぁ無理じゃ。じゃって儂、麗日の脇の下に腕を入れておるし。こうも密着したら、打撃も無理じゃ。そもそも、お互い無重力なんじゃから打撃は意味が無い。
「あだっ、あだだぁっ!?」
もう少し強く締めるか? いや、これ以上力を込めると骨を折ってしまうかもしれん。それは良くない。怪我をさせるにしても、軽いものにじゃな……。ううむ、諦める気配が無いのぅ。まぁ、良いか。宙に浮いて、こうして密着してる間は他の連中は何も出来ぬじゃろう。麗日を巻き込むような攻撃は、してこない筈じゃ。
……問題があるとすれば。これが長引くと寝そうになってしまうことか。被身子程ではないが、こう……抱き心地がの。良かったの緑谷、麗日と付き合うことが出来ればこの抱き枕を独占し放題じゃぞ? 峰田はさぞ血涙を流すことじゃろう。
いや待て、これ……浮気になるのか? いかん、被身子に浮気したと謝っておかねば。あとで大変な事になるなこれは。どうか許して欲しい。訓練の中で、仕方なく起きた事じゃから。
んん、眠い。動いていたのに、眠くなってきてしまった。じゃからって腕の力を緩めてやるつもりはないけど。
「くぁあ……」
あぁ、欠伸が出る。儂は眠いんじゃ。
「こ、こうなったら……!?」
お、何じゃ? 儂を抱き締めてどうするつもりじゃ? ……あぁ、同じ事をするつもりか。いやしかし、麗日よ。その程度の締め付けじゃむしろ心地良いぐらいなんじゃが。儂を寝かし付ける作戦か? いや、それは諦めた方が良い。儂を寝かし付けたいなら、被身子を連れて来ることじゃ。ううむ、被身子が恋しいのぅ。麗日は違うんじゃ麗日は。
なんて思っていたら、何かに引っ張られる感覚がした。あぁ、瀬呂の個性かか。麗日を引っ張っておる。このままじゃと下の連中に寄って集られるの。無重力状態で相手にするのは……まぁ、丁度良い手加減かもしれんの。
せっかくじゃ。今の状態を有効活用しよう。地面に降ろされて掴まれると面倒じゃから、襟に血を付けて上へ向かって引っ張る。同時に麗日の周囲を苅祓で覆う。すると引っ張られる感覚がなくなった。瀬呂の個性を切れたようじゃの。
これで、儂等は再び上へ向かって飛んだ。締め合いは継続中じゃ。
「力が足りとらんぞ麗日。もう少し鍛えろもう少し」
「き、鍛えとるつもりやけど!? いだだっ!!」
「だいたい、どいつもこいつも体が足りとらん。もっと筋力をじゃなあ……」
「いだっ、いだぁっ!?」
さて、これからどうするかのぅ。いつまでも麗日を締めてるつもりは無い。が、高く浮いてるわけじゃから他にやれることは。って、お? 足を何かに掴まれた。見てみると、梅雨の舌が巻き付いておる。何処におったんじゃ貴様。さっきからずっと姿が見えんかったが。って、……んん?
梅雨の体に、変な色が付いておるの。何じゃそれ、絵の具でも体に塗ったか? いや、徐々に体の色が変わっていく。蛙ってそんな生き物じゃったっけ?
「頼皆。ウラビティを離してちょうだい」
舌を伸ばしてるのに、器用に喋るのぅ。さて、どうするか。次の瞬間には舌に引っ張られるじゃろう。かといって、舌を切り落とすような真似はじゃな……。残念じゃ。もう少し浮いていたかったんじゃが、そうも言ってられんようじゃの。
麗日ごと、体を引っ張られる。それなりの速度じゃ。このまま引き寄せられてしまうと、無重力のままでは梅雨に捕まってしまうじゃろう。ううむ、どうしたものか……。
「フロッピー! そのまま離さないでね!?」
「えぇ、ピンキー!」
「しゃあ! 任せろぉおお!!」
切島、砂藤、芦戸がそこらの岩を踏み台に跳んで来た。これは、麗日ごと儂を捕らえるつもりか? いや、それは油断じゃぞ。儂の術式を知っとるなら、こんな真似はしないでおけ。
跳び掛かって来た三人に向けて、勘で赤縛を飛ばし続ける。姿はよく見えぬからの。苅祓を使っても良いんじゃが、梅雨の舌を傷付けてしまうかもしれん。
「うぉおっ!?」
「シュガーマン!? やっべ……!?」
「ちょっ、何やってんの二人とも!?」
鈍い音がした。どうやら二人程、撃ち落とされたらしい。あ、もう少し腕に力を込めておくか。もう少しだけじゃもう少しだけ。麗日、頑張って耐えろ。
「よし、確保ぉおおおお!!」
ぐえっ。芦戸に勢い良く抱き締められた。こうなってしまうと、無重力状態では逃げられんか。術式を下手に使うと、怪我をさせてしまうじゃろう。仕方ない。こっちでやるか。危険は伴うが……、まぁ使えば直ぐに逃げるじゃろ。
麗日から片腕を離し、呪力強化した個性を使う。すると、儂等の直ぐ側に即座に竜巻が起きた。うむ、いい加減個性の扱いにも慣れて来たような気がするの。治崎との戦いで、扱い方の要点を覚えることが出来たような気がする。練習も大事じゃが、やはり実戦での経験は何よりも勝るものじゃの。
「おい、あれはやっべぇ!!」
「くっ、ここで竜巻とは……! 逃げるんだピンキー、フロッピー、ウラビティ!!」
「に、逃げるって言ったって……!?」
逃げれんじゃろうな。宙に居るわけじゃし。まぁ危ないから、芦戸もしっかり抱いておく。すると流石に梅雨が動いた。儂を舌で掴んだまま、この場から全力で離れ出す。が、竜巻の勢いが強くての。吸い込まれてつつあるせいか、ろくに離れることが出来ん。どころか、とうとう岩にしがみついてしまった。何とか踏ん張っているようじゃけど、それも時間の問題じゃ。
このままじゃと、儂等四人は竜巻に巻き込まれるのぅ。さて、どうするんじゃ? 最悪儂が、竜巻を逆回転させて打ち消すつもりじゃが。多分出来るじゃろう。やったことは無いが。
「っっ、廻道!!」
「円花ァ!」
お、常闇。だあくしゃどうも。何処に隠れてたんじゃ貴様等。まぁ良い。飛び出して来たのはまぁ良いんじゃけど、どうするつもりじゃ? 常闇では竜巻はどうこう出来ぬじゃろ。
「蛙吹、掴まれ!! 離すなよダークシャドウ!!」
「アイヨッ!!」
だあくしゃどうが、梅雨を掴んだ。そのまま引っ張っているようじゃが、まだ竜巻の方が強い。結局このままじゃと、巻き込まれる人数が増えるだけじゃの。個性を使ったのは間違いじゃったかもしれん。直ぐに逃げ出すと思ったんじゃけどな。どうにも諦めが悪い。
「―――穿天氷壁」
ぬおっ。冷たい! 儂等と竜巻の間に大きな氷壁が出来たわ。轟か。壁を作って竜巻を遮るとは、やるのぅ。やはり強い個性じゃ。とは言え、姿を見せたなら丁度良い。轟に向かって血を飛ばしておく。ついでに、儂に密着してる二人と梅雨の舌に血を付けて操作する。それぞれが、儂の体から離れるようにじゃ。
「うわっ!?」
「ケロッ!?」
「ちょっ、ちょお!!」
三人は儂の体から離れた。まだ無重力状態のままじゃから、儂は浮いたままじゃ。近くにある氷壁を蹴って、飛ぶ。あぁ、なるほどのぅ。八百万で岩によく似た布を作って、隠れておったのか。何の為に? まぁ、何か策があっての事じゃと思うが……轟や常闇が飛び出してしまったからの。どうやら台無しになったようじゃ。
さて。仕切り直しじゃの? これからどうするんじゃ貴様等。見ての通り、儂は宙に浮いている。遠距離に対応出来る個性はそれなりにあるが、まぁどれも脅威にはならん。気を付けるのは轟だけじゃ。氷と炎は、相性が悪いからの。
両手を叩き合わせる。まぁ体重も無く踏ん張ることも出来ぬ今、穿血を撃てば儂は反動で後ろに吹き飛ぶじゃろう。じゃからこれは、儂が穿血を撃つと思い込ませる為のものじゃ。
「それはさせねえって!」
「モギモギくっ付けよぉ!」
「撃ち落としちゃうよ☆」
また瀬呂が個性を飛ばしてきた。峰田も、個性を投げてくる。青山も光線を飛ばして来た。上鳴も、何か円盤のような物を投げて来た。それぞれ違う方向から飛んでくる。呪力で防いでも良いが、痺れるのは面倒じゃ。
もう一度
浮かされていると、やれる事が少ないんじゃ。しかし、こうして無重力を体感出来るのは中々に楽しい。これで空を散歩出来たら、もっと楽しそうじゃ。
「みんな! 行くよ!!」
麗日が号令を出した。次の瞬間、儂の体は落下を始めた。どうやら無重力の時間はもう終わりらしいの。残念じゃ。もう少しこの、宙に浮いてる感じを楽しみたかったんじゃけども。
さて、どうしたものかの。下では、くらすめえと達が待ち構えている。何なら、着地を邪魔しようと既に攻撃しようとしている者も居る。
八百万が何かを作り上げ、地面に何か……網目がある幕のようなものを敷いた。峰田が儂が着地しそうな場所に、もぎもぎ……じゃったか? を、投げた。瀬呂の個性が飛んでくる。梅雨の舌も。あと、耳郎の耳たぶから出て来た音もじゃな。取り敢えず儂に向かって飛んで来た物を、赤縛で迎撃する。もっとも、耳郎の音は儂に届いてしまったが。ううむ、うるさい。呪力で耳を守っていなかったら、鼓膜ぐらいは破けてたかもしれんの。
そんなこんなで、地面に着地する。何か柔らかいような物を踏んだの。このまま囲まれるのは面倒じゃから直ぐに動こうと思ったんじゃが。……何じゃこれ、足が動かん。何故か地面にくっ付いておる。足裏に付いてるのは……糊、か?
「特製のトリモチですわ! これで……!」
鳥餅? 取り餅? 何じゃったっけ? まぁ、良いか。特に気にしている場合ではない。
くらすめえと達が、儂に向かって駆けている。前に出て来たのは、尾白や切島。砂藤もおるの。どうやら赤縛の掛かりが悪かったらしい。もしくは赤縛から逃れたかのどちらかじゃ。
取り敢えず。このまま黙って立ってるつもりはない。足は動かぬのは草履が固定されてるからじゃ。脱げば動ける。が、そうさせたくないんじゃろう。男子三人が、もう目の前に跳び掛かって来ている。仕方ない。まずはこちらを対処するか。
「尾空旋舞!」
真上から、尾白の尻尾が振ってくる。
「安無嶺過武瑠!!」
右から、硬化した切島が突っ込んでくる。
「シュガーラッシュ!!」
左から、砂藤が拳を突き出した。
「……赤縛」
儂は、三方向に赤縛を飛ばした。が、ひとつは拳に打ち払われた。ひとつは尾に打ち砕かれた。残るひとつは当たりはしたんじゃけど、切島じゃからの。強引に踏み込んで来おったわ。これは受けてやるとしよう。
切島の拳は右腕で、砂藤の打撃は左腕で。尾白の尻尾は、仕方ないから額で受けた。腕は二本しかないからのぅ。ぐえっ。
少し、視界が揺れた。呪力で体は無傷でも、衝撃は多少なりとも受けることになってしまうからの。脳震盪になってないなら、問題ない。別になっても動けるがな。
それにしても、ううむ……。やはり筋力が足りてないようじゃの。儂に勝ちたいならもっと鍛えんか。まったく、男子が情けない。
まず右に居る切島に拳を撃ち込む。鈍い音がした。相変わらず硬いのぅ。体育祭の時よりは、遥かに硬くなったか? 良きかな良きかな。ただ、もっと鍛えろ。まだまだ硬くなれるのではないか?
「ぐぁっ!?」
「うおぉっ!?」
尾白の尻尾を掴み、砂藤に叩き付けてみる。こんな程度で悲鳴を上げるな、情けない奴め。それと砂藤。尾白を受け止めるのは良いが、足には気を付けろ。左足がくっ付いているぞ。まったく……まだまだじゃのぅ。
「逃がさねぇええっっ!!」
草履を脱いで跳ぼうとすると、切島にしがみつかれた。だけではなく、氷壁に体を押し付けられた。中々悪くない選択じゃの。儂は軽いから、力ずくで持ち上げられてしまうとどうにもな。それに、こうも力ずくで押さえ付けられると動きにくい。手段を選ばねばどうとでも出来るが、下手をすると傷付けてしまうからのぅ。切島なら大丈夫じゃと思いたいが、念には念を入れて苅祓を使うのは止めておくか。となると、力ずくで対抗するか。
赫鱗躍動を、載へと引き上げる。呪力は程々に、しかし体育祭の頃よりは強めに。そして。
「ふんっ」
「がっ!?」
切島の後頭部に肘を落とす。が、腕が緩まぬ。根性有るんじゃよなぁ、こやつ。手加減していたとは言え、儂と真正面から殴り合えるわけじゃし。どれ、もう一度肘を落とすか。今度は首じゃ。
「ほれ、もう一回」
「ぐっ……!」
「まだまだ」
「ぎっ!?」
「そんなものか?」
「ま、だまだぁっ!!」
「そうでなくては」
「ぐぎぃっ!」
四度、徐々に呪力出力を上げながら首や後頭部に肘を落とす。その度に鈍い音がするし、肘が痛む。硬いのぅ、こやつ。いつか全力で殴ってみたいものじゃ。よし、もう一度肘を落として……。って、おい。力が抜けとるぞ。徐々に体が沈んでおる。何じゃつまらん。……もう、限界か?
「出直して来い。いつでも相手してやる」
「がはっ!」
もう一度肘を落とすと、切島が倒れた。ので、こやつの背中を踏み台にしよう。この辺りの地面は、八百万のせいでくっ付くからの。
で、あとは何人じゃ? ううむ、まだ結構おるのぅ……。いい加減面倒じゃが、どうもこやつ等は儂に勝ちたいらしいの。
ところで、葉隠の姿は? その辺に手袋が浮いていないから、まだ何処かに隠れているようじゃ。緑谷と舎弟はそろそろ動いてくる頃じゃと思うんじゃが、まだ遠くに転がっているようじゃ。結構厳重に縛っておいたからの。何やら苦戦しているらしい。
「いやほんと、とんでもないなぁ……!」
「ここまでで無傷って、マジ……?」
「それでも、やるしかないわ。頼皆が手加減してくれてる内に、どうにか……!」
「ここまで手加減ってマジかよぉ!? もう勝てないんじゃねーの!?」
……はぁ。阿呆共め。動きを止めるな。もっと続々と掛かって来たらどうなんじゃ? そうやってのんびりしているとじゃな、儂に備える時間を与えることになるんじゃけど??
両手を叩き合わせる。狙いは……誰でも良いな。もう一度手加減した穿血をじゃな、今度は……芦戸に飛ばすとするか。
「穿血」
「っ!?」
「ピンキー!」
穿血を放つ。が、やはり警戒されておったわ。今度は八百万が盾を創り、それを使って芦戸を守って見せた。よく反応出来たの。本気には遠すぎるとは言え、それでもそれなりの速さは有るんじゃけど。
まぁ、良い。一度赫鱗躍動を解いて、反転術式を回す。使った血液を補充する為じゃ。回復せずともまだまだ余力は有ったが、長丁場になりそうじゃからの。
「で? 次は誰じゃ?」
「……俺達だ。廻道」
常闇と障子、そして飯田と轟が一歩前に出た。赫鱗躍動は余計かもしれぬの。呪力強化と、大きく手加減した術式だけで十分じゃろう。しかしまぁ、二十人で掛かってきてこの程度か。どうも儂は、こやつ等に期待し過ぎていたのかもしれん。あれこれと教えたような気がするんじゃけどなぁ。
「……はぁ」
あ、いかん。溜め息が出た。こやつ等は真剣なのに、失礼な事をしてしまったの。出来れば怒らないで欲しいが、儂が逆の立場じゃったら頭に来る行いじゃ。
「―――」
あぁ。案の定じゃ。しでかしてしまった。どうもな、気が乗らないんじゃよ。すまんとは思っているんじゃけど、この気持ちは
……んん、いかん。眠気まで……。欠伸は、欠伸はいかんじゃろ。我慢じゃ、がま……。
「……ふわ、ぁ……」
「―――」
……出てしまったわ。すまんとは思っているが、出てしまった。これは、いかんのぅ。申し訳ないことをしてしまった。謝ろう。いや、謝ったところでもっと怒られるような気がするが……。
「……いや、すまん。寝不足じゃからの。真剣にやっては居るから、許してくれ」
「―――っっ」
睨まれた。特に、常闇に。
「っ、ダークシャドウ!!」
「アイヨッ!!」
余程頭に来たようじゃ。声に、大きな怒気が含まれている。怒るな、とは言わん。呪術師の目線から見れば未熟そのものじゃが、儂個人としてはそうでもない。怒りや哀しみ、怨みや嘆き。そう言った負の感情とは、時に人を大きく成長させる切っ掛けになる。人を一段押し上げるのは、必ずしも前向きな感情だけではないんじゃ。
あやつが憎い、こやつを許さない。そんな気持ちじゃって、成長を後押ししてくれるものなんじゃよ。
だあくしゃどうが、勢い良く迫ってくる。普段より、数段は速いか。感情のままに個性を操っている? いや、感情が呪力出力ならぬ個性出力を後押ししてるのか。
「円花ァア!!」
黒い拳が振るわれる。それを左腕で受けると、思ったより力が強い。悪くないの。相手が儂で無ければ、これで十分悪党を倒せる。この出力をずっと維持出来るのであれば、常闇はもっともっと成長出来る。もし、だあくしゃどうを暴走させること無く操れるようになるなら。昨日のあの姿を自由自在に扱えて、しかも更に出力を高められるのならば。
……あぁ。それは楽しみじゃ。想像すると、つい頬が緩む。
くらすめえと達は、冷静な目で見るとまだまだ弱い。しかし、弱いと言うことは伸び代があると言う事じゃ。もっともっと強くなれる。そう考えると……。
―――けひっ。
あぁ、少し楽しくなって来た。とは言え、この意味の無い手合わせはまだまだつまらん。そもそも、じゃ。何でこんな事をしなければならんのか。いや、被身子が煽ったのが原因じゃけども。
と言うかじゃな。何故あやつはあんな真似をしたのか。裏で何か考えているのか? いやでも、被身子じゃしなぁ。存外何も考えていないなんて事も……。ううむ、問い質すような真似はしたくないんじゃが……。
っと。いかん。少し集中するとしよう。今のだあくしゃどうは、そこそこ強い。幾ら呪力強化で対処出来る範疇とは言っても、露骨に手を抜いたままでは後でどんな文句を言われるか分からんからの。実力を合わせてやるとしよう。
だあくしゃどうの爪が、不規則に振り回される。右に左に、縦に下に。拳が飛んできたり、手刀が振るわれたり。それらを防ぎ、躱し、時に打ち払う。が、それでもだあくしゃどうは儂の前から姿を動かさない。いつまでも切島を足場にしてきるわけにもいかぬし、頃合いを見て立ち位置を変えるとしよう。
それに、他の連中も機を窺っているかるらの。だあくしゃどうが倒されるようなことが有れば、即座に儂に向かって個性を使ってくるじゃろう。今、常闇の援護をしないのは邪魔になるからじゃ。特に青山や轟、上鳴なんかはだあくしゃどうの力を弱めてしまう。八百万は何かを創ろうとしているし、あまり放置するのは良くないのぅ。
突き出された拳を首を傾けることで避け、お返しとしてだあくしゃどうの面を殴る。が、怯むこと無く爪が振るわれる。それを掴んで止め、次に来た拳も手首の辺りを掴んで止める。両手を掴まれてしまっただあくしゃどうは、何を考えたのか頭を突き出してきた。ので、儂も頭突きしよう。額がぶつかり合って、鈍い音が響く。が。
「……こんなものか?」
出力が落ち始めているのぅ。まだまだじゃの、常闇。そろそろだあくしゃどうを打ち倒せそうじゃが、そうすると他の連中が一斉に襲い掛かって来そうじゃからの……。っと、何やら左側から気配を感じる。葉隠じゃろう。左側に一度視線を向け、直ぐに戻す。すると。
「たぁあああーーーっ!!」
いや、おい。分かってて気付いていない振りをしたのに、何でそこで声を出してしまうのか。仕方ない。姿を見せてもらうとするか。
左に向かって、大量の血液を幕のようにして飛ばす。
「うひゃあっ!?」
儂の血は、全て葉隠に掛かった。真っ赤な人影が出来たので、そこに向かって赤縛を飛ばす。葉隠相手にはこんな程度で十分じゃろ。ただ透明なだけじゃからの。
もう終わりにしておくか。常闇、強くなって出直して来い。
「赤縛」
だあくしゃどうを縛り、その背に跳び乗る。そして、背の上を駆ける。常闇の体と繋がっているんじゃ。つまり、道の代わりになる。
全速力では無く、なるべく普通に駆けながらまだ残っているくらすめえと達を確認しておく。また姿が見えぬ奴がおるの。今度は何処に隠れたんじゃか。
「そこだ!!」
上鳴が個性を使おうとしている。から、だあくしゃどうの背を強く蹴って、上に飛ぶ。直前まで儂が居た場所を、電撃が通り抜けた。うむ、どうやら放電の向きを選べるようになっているらしい。前と比べたら、成長しているように思える。貴様も出直して来い。儂に勝とうと思ったら、まだまだ弱いんじゃ。
「げっ!」
「上鳴!!」
上鳴の前に、障子が立ち塞がった。体が大きいのぅ。それが羨ましい。腕が沢山有るのは不便そうじゃけども、まぁ便利の方が勝りそうな感じもするの。宙に居る儂に向かって、拳が繰り出された。多腕により起こる、人の動きを超えた連打。空中じゃから避けるのは叶わぬ。しかし受ければ、吹き飛ばされて地面にくっ付くかもしれん。
……仕方ない。赫鱗躍動で動体視力を引き上げ、拳の一つ一つがどのように放たれるのかを見切る。そしてその中で、都合の良い拳を足裏で受けて踏み台にし、もう一度跳ぶ。くらすめえと達の頭上を通り過ぎると、即座に青山と梅雨が仕掛けてきた。光線は左腕で受ける。舌は、右拳で打ち払う。着地と同時、今度は氷が迫る。から、右へ大きく跳んだ。轟め、やはり面倒な個性じゃの……!
「ここだぁあ!!」
いや、峰田。何が? 何やら物凄い勢いで儂に向かって跳んで来ているが、直線的過ぎぬか?
その場でしゃがみ、跳ねた峰田を避ける。すれ違い様、赤縛で縛り上げておいた。これでまた一人、減ったの。
「っ、頼皆!」
芦戸が地面を溶かしながら近付いてくる。機動力は悪くなさそうじゃ。まだまだ遅いが、個性を考えれば良くやっている。……と思う。
間が詰まると、直線的に拳が振るわれた。が、それを受けるのは止めておこう。いつぞやに教えたように、打撃と酸を同時に扱っている。紙一重で避けようにも、酸が掛かる。うむ、ちゃんと教えた通りに鍛えているようじゃの。関心関心。じゃが、まだまだじゃぞ。
大きく後ろに向かって跳ぶことで、拳も酸も避ける。すると芦戸は、儂がそうするように両手を叩き合わせた。と思ったら腕を大きく振った。すると、酸が勢い良く飛んできたわ。首から血を飛ばし、ぶつける。空中で儂の血が溶けた。が、勢いが足りん。酸が儂に届くことはなかった。
直後、また光線が飛んでくる。それを首を傾けて避けると、頬を掠めた。と思ったら炎が飛んできて、大きく避けるしかない。
あっついのぅ! 轟め……!
いい加減にして欲しい。まだ気温が高い九月に、何で余計な熱を感じなくてはならぬのか。そこは氷結で涼しくしてくれた方が、儂としては好ましいんじゃけど!?
まぁ。さっき大規模な氷結をしておったからの。体温調節も兼ねて、炎を使っているんじゃろう。轟に弱点があるとすれば、力の扱い方と体温調節が必要な点か。突くとしたら、後者じゃの。体温調節の為に攻撃を切り替えると言うことは、ある程度どちらかを使った後に、ある程度どちらかを使うと言うこと。つまり、轟の体温状態の変化を見逃さなければ次に何をして来るかが分かると言うこと。ただ、近くで殴り合ってるならまだしも遠目から見るだけでは体温など分からん。
となると近接に持ち込みたいところじゃが、ううむ……近接は近接で面倒なんじゃよな。轟の場合。しかしこの相性の悪さは、どうにか克服しておきたい。一つ目を祓う為に、それが必要じゃ。
ああ、もう。あれこれ考えるのが面倒じゃ。何で二十人を纏めて相手にしなければならないのか!
誰じゃこんな滅茶苦茶な手合わせを容認した阿呆は! ……相澤じゃったわ。いい加減にしろよあの教師。訓練で手合わせする機会があったら、半分ぐらいは殺してやるからな……! 目玉二つ潰されても文句は言えぬと思え……!!
なんて思いながら狙いを絞らせぬ為に動き回っていると、また芦戸が近付いて来た。真正面から来た以上、何かしてくる筈じゃ。また酸を伴う打撃を繰り出してくるようなら、一息に縛り上げてやろう。別に酸が当たったとしても、特に問題は無い。呪力防御と
距離が詰まった。が、次の瞬間に芦戸は身を屈めた。その直後、瀬呂の個性と光線が飛んできた。両方を片腕で受けると、下から芦戸が拳を振り上げる。それを右手で受け止めると、障子が跳んで来た。真上にも何か降ってきているような気がするの。麗日じゃろう。咄嗟に動こうにも、瀬呂に腕を取られておるからの。ぐるぐる巻き付いた、
仕方ない。少し本気を……。
「全員、そこまでだ! 止め!」
出そうとしたところで、相澤から号令が掛かった。
……は?
「相澤先生! 何で!?」
「今良いところだったんだけど!?」
「誰もルール違反は犯していませんが!?」
「時間切れだ。ルールを忘れたか?」
は?
「廻道の勝利条件は、全員捕縛するか気絶させるか。それと時間切れまで捕縛されない。時間は十五分。忘れたか?」
いや、そもそも儂は聞いとらん。なんじゃ、十五分間逃げ回れば良かったのか。いちいちくらすめえと達を相手にして、何か損をした気分じゃのぅ。まぁ、多少の楽しみは出来たが……。
「じゃあ二回目! 二回目やりましょう!」
「そうですわ! 私もとっておきのオペレーションを用意してましたのに……!」
「不服。今一度、廻道への挑戦を……」
「……駄目だ。廻道、お前もう今日は帰って寝ろ。自己管理も出来ん奴に、これ以上の訓練は受けさせん」
「えーーっ!? ちょっ、相澤先生!!」
……まぁ、どうでも良いか。子供達は不満なようじゃけど、儂と違って教師の言うことは聞いておけ。儂自身は相澤の指示を聞いてやるつもりは無かったんじゃが、寝れるならそれに越したことはない。寮に戻って、寝てしまおう。轟のせいで余計に暑くなってしまったから、冷房をしっかり効かせてじゃな……。いや、その前に食堂で
「くぁ……。じゃあ儂は、寮に戻って寝る。夜まで寝るから、誰も邪魔しないでくれるかの」
……はぁ。無駄な時間を過ごしてしまった気がする。こんな事になるんじゃったら、午後の授業に出るべきではなかったの。いやしかし、相澤が気に食わんからと言って欠席を繰り返すのはじゃな……。あぁ、そうじゃそうじゃ。子供達に、幾つか言っておくとするか。
「取り敢えず、儂の勝ちじゃ。また挑んで来い。気が済むまで幾らでも付き合ってやるからの。
……それと、溜め息と欠伸はすまんかった。悪いとは思ったんじゃけど、貴様等が思ったより弱くて退屈じゃったから……」
「……!!」
「理想を貫くにも、それを儂に強いるにも、貴様等はまだまだ弱い。まぁ安心しろ、ひいろお科は辞めぬし人殺しもしない。それで良いじゃろう?」
「おい待て廻道。一人で出歩くな。……誰か一人、付いて行ってやれ」
「喧しい。貴様は嫌いなんじゃ、二度と話し掛けるな」
さて、と。寮に戻るとしようかの。着替えるのは面倒じゃから、このまま戻ってしまえば良いか。夜になったら
……うむ。我ながら良い事を思い付いた。夜になったら、被身子と一緒に出掛けよう。まぁ、出掛け先が前の寮で有ることだけが残念なんじゃけども。
くぁ、……あ……っ。んんむ、眠い。夜に活動していると、どうしても睡眠不足になってしまうの。別に一日や二日ぐらいなら寝なくても大丈夫じゃった筈なんじゃけど、……何か眠いのぅ。教師の計らいで昼寝時間は与えられているが、それでも足りぬ。
こうなったら総監部に、勤務時間の改善を求めてみるか。それで駄目なら、もう授業を休むしかないのぅ。別に良いか、英雄基礎学とかそれに類する授業を欠席してしまえば。よし、明日からそうしよう。そうすると決めた。
「……で。誰が連れてってくれるんじゃ?」
「今回は、俺が連れていこう! さぁ廻道くん、俺に付いて来てくれ!」
……飯田か。眠いから静かな奴が良いんじゃけど、好きにさせてやろう。出来れば常闇か、障子辺りが好ましかったんじゃけど……。まぁ、それは次の機会にしておこうかの。
ルール説明を聞かないのは円花の悪癖です。しょっちゅうやってますね。多分聞いてられないんだと思います。
文字数が滅茶苦茶膨らんでしまいました。二十人動かすとなるとね……。それに円花が本気出しちゃうと死屍累々になりかねないので、今回は盛大に舐めプして貰いました。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ