待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

234 / 553
文化祭準備。何をすべきか

 

 

 

 

 

 文化祭に向けての準備をして行かなければならないんじゃが、儂等一年えぇ組はどんな出し物をするか未だに決まっていない。時刻は夜七時を越えて、八時になりそうじゃと言うのにまるで決まっとらん。食事も入浴も済ませた後で、全員で居間に集まり、ああではないこうではないと騒いでおる。あと三十分もしない内に、儂は一度寮を出る。帰りは朝になるじゃろうから、出来れば儂が出て行く前に決めてくれると良いんじゃけど、……そうはならなさそうじゃ。

 

 下手をすると、儂等は公開座学か。授業参観みたいなものじゃと思えば良いかの? 他の組が自分達の出し物で楽しんでいると言うのに、何故座学を受けなければならないのか。そもそも、儂は被身子と逢瀬(でえと)するんじゃけど? 邪魔する輩は例え子供でも許さぬが??

 

「円花ちゃんは、何か案を出さないんですか?」

「よく分からんから任せる」

「もぅ、そこは一緒になって考えないと駄目なのです」

「と、言われてものぅ……」

 

 居間の椅子(そふぁ)に被身子と並んで腰掛けたまま子供達を眺めていると、少し叱られてしまった。

 儂としては、子供達が自由に騒がしくしてる姿を見てるだけで良いんじゃけどなぁ。いつの時代も、子供が自由に生きている姿は良いものじゃ。何となくあの頃を思い出して、ふと懐かしさを覚える。この光景を守りたかった。こんな光景が続けば良いと、あの頃は思っていた。

 不意に、胸が痛んだ。もう過ぎ去ってしまった事を思い返して、何となく……悲しくなる。

 

 ……あの時代も、こうだったら良かったのに。いや、今は英雄(ひいろお)候補生を理由に子供を危険に踏み入らせる時代じゃけども。ただ、子供達が自らこの道を選んで飛び込んでいるから何も言わないだけじゃ。思うところが、有ったとしても。

 

「……円花ちゃん?」

「ん……。何でもない。懐かしくなっただけじゃ」

 

 被身子に顔を覗き込まれたから、顔を逸らす。ついでに頭も撫でて、少し誤魔化すとしよう。

 

「……、ぎゅーーっ!」

「んぐっ」

 

 誤魔化そうとしたら、横から思いっきり抱き締められた。胸と背中を締めるな、たわけ。物理的に苦しくなるじゃろ。抱き締めるなとは言わんから、もう少し加減を……。いや、良いか。今はこのぐらいがちょうど良い。胸の前にある被身子の腕に両手を添えると、少し気が楽になった。

 

「ヨリくん。辛い……?」

「何が?」

「そんな感じだったのです。それ、私には話して欲しいなぁ」

「……話すような事でもない。気にするな」

「むー……」

「……」

 

 あぁ、もう。分かった、分かったからそんな顔をするな。そんな不服そうに頬を膨らませて、つい何でもしてあげたくなってしまうじゃろっ。

 まったくこやつは、直ぐに儂の考えを変えさせようとする。隠しておくつもりじゃったのに、何でこうなってしまうんじゃか。

 

「……少し、昔を思い出しただけじゃよ。懐かしくて、……悲しかっただけじゃ」

 

 ……それ以上でも、以下でもない。事実として、過去と今を重ねて懐かしみ、何がどうなったかを思い出して胸が痛んだだけじゃ。

 

 この時代からすれば遠い遠い、遥か昔の儂の記憶。思い出せることは多く、思い出せないことも多い。いずれは、何もかも忘れてしまうんじゃろうか? ……まだ呆けたくはないが、体が若いから絶対に呆けないなんてことは無いらしいからの。

 確か、若年性……何とか言う脳の病気があるらしい。まぁ儂には無縁じゃ。起きてる間は、常に脳が新鮮なんじゃし。

 

 ……まぁ、とにかくじゃ。過去が懐かしくて、胸が痛んだ。それだけの話じゃ。思い出に浸ったとも言う。

 

「……、被身子」

「ん……っ!? んん……っ」

 

 何となくそんな気分になったから、接吻(きす)をしてみた。驚かれたのは解せぬが、まぁ良い。唇を奪ったまま被身子を押し倒して、覆い被さってもみる。そしたら、被身子が妖しく微笑んだ。そんな笑顔も、好ましく思う。

 子供達は話し合いに夢中じゃから、もう少ししていたって良いじゃろう。ほら、誰も儂等を見ていないし。一度唇を離すと、音が鳴った。被身子が物欲しそうに見詰めてくるから、もう一度唇を……。

 

「ちょっ、だからあかんって! 二人とも何してんっ!?」

 

 ……。重ねようとしたところで、麗日に見付かってしまった。

 

 ちっ。気づきおったか。邪魔しおって。何か勝てそうな気がしたのに、これじゃお預けじゃ。まったく、こんな機会はそうそう無いと言うのに。人の恋路を邪魔する奴は、馬にでも蹴られてしまえば良い。

 見付かってしまったから、仕方なく被身子から離れる。と言っても少しだけじゃ。椅子(そふぁ)に座り直して、被身子の手を取り引き起こす。残念ながらお預けになってしまったのぅ。続きは、また今度じゃ。

 

「麗日ー、またバカップルがバカップルしてるの?」

「……そうやね。バカップルしてた。ほんっと、二人ともいい加減にせなあかんよっ!?」

「てへっ。つい!」

「そうじゃの。つい」

「廻道くん! 愛しい伴侶と愛を確かめ合うのは良いが、君もしっかり話し合いに参加してくれ! 事態は緊迫しているんだぞ!? 渡我先輩も、先輩として秩序ある行動を!!」

「はぁーい。でも今回、トガは何もしてませんよ? 円花ちゃんがえっちなのがいけないんです」

 

 ……いや、おい。儂のせいにするな。儂にだけ責任を押し付けるな。えっちなのは被身子もじゃけど? 期待した目で儂を見てたこと、儂が気付かないとでも思ったのか? 被身子のたわけ。お主の事は、この場で誰よりも知ってるんじゃからなっ。

 

 まったく……! 仕方のない奴め……!

 

「廻道、委員長の話聞いてる?」

「聞いとるが?」

「聞いてないように見えるんやけど……」

「聞いとるが??」

 

 聞いとる聞いとる。ただ、聞きながら被身子の頭を抱いたり撫でたりしてるだけじゃ。良いじゃろ別に、これぐらいは。唇は我慢するから、どうこう言わないでくれ。

 

「……とにかく! 君も何かの案を出してくれ!」

「と、言われてものぅ……」

 

 案を出せと言われて、直ぐ出てくるなら誰も困ってないじゃろ。子供達全員を漏れなく納得させる案など、儂には無いんじゃけど。そもそも、何も考えておらんかったし。じゃって、皆が騒いでいるところを眺めてるだけで楽しいじゃもん。まぁ被身子には色々察されてしまって、問い詰められてしまったがのぅ。

 文化祭の出し物……。出し物か……。中学時代は演劇とか屋台じゃった。しかしそんなもの、他所の組も選んでそうじゃしの。似たようなものをやるのはどうなんじゃ?

 

 ううむ……。分からんのぅ。まっこと分からん。

 

「……休憩所でも提供したらどうじゃ? 校舎の中を歩き回って疲れる者も出てくるじゃろうし」

 

 儂も被身子と逢瀬(でえと)して、疲れることがあれば休憩する場所が欲しいしの。まぁ、寮で良いとも思うんじゃけどな。しかし誰もが文化祭に勤しんでいる中で寮に戻ってしまったら、それこそ誰も居ないことを良いことに被身子に襲われそうな気がする……。別に、求められて嫌とは言わんが。

 

「休憩所、なるほど……。それも悪くない!」

「いやでも、そういうのって学校側が用意するんじゃ? 俺等がやんなくても良いんじゃね?」

 

 まぁ、瀬呂が言った通りではあるの。雄英は広く、それこそ場所の確保に困ることはない。せめんとす先生とか居るし、最悪急造の休憩所ぐらい幾らでも用意出来るじゃろう。そう考えると、別に休憩所は要らんの。うむ、必要無い。すまんな、後は何も思い浮かばんわ。

 

「それもそうじゃの。儂、出るから後は任せた。緑谷、今日は来なくて良いからな」

「む、校外活動か? それなら仕方ない、気を付けてな! 文化祭が終わるまで、怪我の無いように!」

「えっ、でも廻道さん……。一人で出歩くのは……!」

「案内が付いとる。大丈夫じゃよ緑谷」

 

 ……携帯電話(すまほ)、じゃけどな。人の案内は付かん。そもそも付けるつもりがない。これから呪霊を祓いに行くのに、非術師を連れてく理由がない。おおるまいとは近々雄英に戻ってくるそうじゃけど、あやつの事じゃ。戻って来るにしても、戻りがてら英雄(ひいろお)活動をしてしまって、異様に帰りが遅くなるのは目に見えとる。あやつなぁ、呪術師になるべきではなかったのでは? いや、もう見えてしまう以上動かない訳が無いか。もうそれは仕方ないとして、せめて緑谷を連れ回せ。いい加減にしろ、筋肉阿保め。

 

「あ、送りますよぉ。せめて、校門まで!」

 

 まぁ、校門までなら良しとするか。もう少し一緒に居たいのも事実じゃし、夜の外なら接吻(きす)したって誰にも見付からんじゃろ。……いや、吠えまくる犬教師が巡回してるから、匂いで気付かれるか。

 

「……じゃあ、校門まで。……ん!」

「ふふ、はいっ」

 

 途中で抜けるのは申し訳ない気がするが、儂が居たとしても何か良い案が出るわけでも無いしの。それに、文化祭までに総監部からの依頼はひとつでも多くこなしておきたい。根津校長から頼まれてる事も有るしの。

 被身子に手を差し出して、握られた。いつものように指を絡めて、そのまま腕を抱き寄せる。こうすることが癖になってしまっているような気がするが、まぁ良いか。

 

 被身子を連れて、外に出る。あ、そうじゃ。話さねばならん事が有ったんじゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「被身子、儂が呪術師として活動してる間は、儂に変身するのは止めてくれ」

「え……っ? 何で、です……か?」

 

 外に出て、伝えなければならん事を真っ先に伝える。そしたら、被身子は硬直した。直ぐに不安そうな顔になって、儂を凝視してくる。……あぁ、そんな顔をしないでくれ。そんな顔をさせたくて言ったわけじゃ無いんじゃ。

 言葉を選ぶべきじゃったろうか。それとも、結論から話すのが良くなかったのか。ちゃんと説明しなければ。

 

「……お主が儂に変身すると、儂の呪力が半分減ってしまう。何があるかも分からんから、呪力は万全の状態で呪霊を祓いたい」

「……半分、減る……んですか?」

「半分減る。すまん、お主を縛るつもりは無いんじゃけど……こればっかりは許して欲しい」

「……んん……」

 

 ……ううむ。駄目、か? こやつにとって他者に変身することは、願望を満たすことに他ならない。好きじゃから、誰かと同じになりたい。誰かそのものになってしまいたい。そんな願望……同一願望がこやつには有る。それを否定する理由は特に無い。好きにさせてやりたいと思っておるし、こやつが望むのであれば丸一日じゃろうと変身しても構わん。

 

「……ヤ、って言ったら……怒ります……?」

「いや。儂の呪力が半減すると覚えておいてくれば、それで」

「むー……。ヤです。絶対ヤ。円花ちゃんの姿が見たくなった時に、困るのです。突発的に変身したい時だって有りますし」

「そうか。なら良い。忘れてくれ」

「……その甘やかし方は、嫌いなのです。ヨリくんの邪魔をすることになっちゃうから」

「……すまん」

 

 怒られた。どうも気に入らなかったようじゃ。そんなに睨まないでくれ。

 

「……私が変身しちゃうと、危ないんですよね?」

「儂が呪術師をやってる時は」

「……むー……。なら、仕方ないのです。すっごく嫌ですけど、そこは我慢します」

「すまん」

「ヨリくんの安全の為です。謝ることじゃないのっ」

 

 ぐえっ。じゃから、急に抱き付くのは止さぬか。最近、勢いが増してないか? 前はもう少し……。いや、前からそうじゃったような気がしないでもない。体全体で抱き付いてくるからの。もはや飛び付いていると言っても過言ではない気がする……。

 

 ……まぁ、良いんじゃけど。幾らでも受け止めるつもりじゃし。

 

「……ありがとう。お主がそう言ってくれて、助かる」

「……はい。トガは良妻ですから!」

「……」

 

 ……。いや、やはり悪妻では? もしくは恐妻……。と言うかじゃな、良妻を名乗るならもう少しこう……自重をじゃな……。いやまぁ、被身子がこうも自由奔放なのは儂のせいかも知れぬが。甘やかし過ぎたかのぅ? でもでもじゃって、子供は甘やかすものじゃし。もっともっと甘やかしていくつもりじゃし。

 

「ところでぇ……、言うこと聞く代わりに、ひとつお願いが有るんですけど」

「……何じゃ?」

 

 今度は、と言うか今回は何を言い出すつもりなのか。何かとんでもない事を言い出しそうな気がするが、ひとまず聞いておこう。……聞くだけじゃからな? 聞くだけで、頷いたりはしないんじゃからな?

 

 

「お仕事、付いて行っても良いですか?」

 

 

 だ め じ ゃ !

 

 

 

 

 

 






色呆け円花書くの楽しいれす^q^

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。